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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
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16 音速の破壊者 II

いつもと違うエルトラム中心街・上級者向けクエストカウンター前。散らばる瓶や食いカスを他所に、男女2人組を包囲する『雑草たち(ウィーズ)』。その数約30人。


群がる(ごみ)でも見るかのような男女、いや、兄妹の双眸は、嘲笑する顔の中で白銀(しろがね)の如く輝く。


「覚悟はできてんだろーな?さんざん俺らを(けな)した罪は重いぞ」


「へぇ…それで?」


兄妹の兄が眼を瞑って鼻で笑う。妹に至っては、もう雑草たち(ウィーズ)に興味などなく、右手の水晶から出現するウィンドウから、何やら確認している。


「上等じゃねぇか……テメェラ殺してやる!!!」


雑草たち(ウィーズ)の1人がウィンドウ開き、鬼の形相でそれを叩く。すると、兄妹の水晶からウィンドウが現れ、『FLAY』…乱闘を意味する語とゲームの申し込み画面が表示される。


乱闘ゲームの勝利条件。それは、相手ハンター全員のHPを半分削ること。それができれば勝利となる。


この兄妹の場合、勝利条件は雑草たち(ウィーズ)30人のHPを半分削ることとなる。たった2人ではかなり困難な条件だが……。


「いいよ。受けてやろう。いいよね、ユヅル」


「無論だよ、お兄ちゃん」


2人はあっさりと『ACCEPT』、受諾ボタンをタップする。刹那、兄妹と雑草たち(ウィーズ)の身体は蒼白い光に包まれ、乱闘フィールドへと転送されていった。


「大丈夫かな…あの兄妹……」


雑草たち(ウィーズ)を避けていた女性ハンターの1人が、乱闘フィールドが映されるモニターを凝視しながら、兄妹(かれら)の身を案ずるように両手を合わせた。



絶対的な王『オシリス』の降臨によって滅ぼされたかつてのエルトラム中心街。現実世界のパリのように美しく綺麗な外観の街並みは廃墟と化し、メイン広場の中心にあるオブジェの噴水からは、水の一滴すら湧いてこない。


この廃墟が乱闘フィールド、黒ずくめと白ずくめの兄妹と雑草が交えるサバイバルが行われる場所。そこに、2人並んだ兄妹と、雑草たち(ウィーズ)の群れが虚空から現れた。それと共に、何処からか告げられた開始の合図(ゴング)が街の瓦礫に反射して鳴り響く。


「行くぜェ!!!」


『ウアアアアアアッ!!!!』


雑草たち(ウィーズ)の怒号が反響、左手に盾、右手に剣を構えた黒ずくめの兄と、矢を装填した弓を手に狙いを定める白ずくめの妹の鼓膜を揺らす。


「…ンン!!」


兄は盾で四太刀、剣で二太刀受け止める。激しい衝突音が生まれ、火花を撒き散らす。兄は盾と剣に力を込め、雑草たち(ウィーズ)の攻撃を押し返す。隙ができた雑草たち(ウィーズ)を、兄が剣で捌き、妹が弓で射る。


「な……バカな…速すぎる!!」


そう、驚くべき速さで。踏み出される脚の速さが、剣を振る速さが、弓の狙いを定める速さが、射られる弓の速度が、全てにおいてが速すぎるのだ。


瓦礫となった街に吹く風を裂き、貫き、雑草たち(ウィーズ)の身体も、風と同じ運命を共にする。


「ウアアアアアアッ!!」


雑草たち(ウィーズ)が次々と敗北しフィールドから消えていく。速すぎて太刀筋を捉えられない者、速すぎて弓の筋道が確認できない者が、哀れな声を荒げながら脱落する。


ざまぁみろ、と、兄妹はほくそ笑む。数で勝てると思っていた雑草たち(ウィーズ)の貧弱さに反吐が出る。威勢良く息巻いていた雑草たち(ウィーズ)は、今や兄妹から逃げまとう始末。なんとも見苦しい姿としか言いようがない。


「くそぉぉぉぉぉ……」


瞬く間に雑草たち(ウィーズ)の生き残りは1人。鉄のガラクタのような剣を、膝をブルブル震わせながら構えた男のみとなった。


「くっ…うおおおおおお!!!!」


雑草たち(ウィーズ)は黒ずくめの兄に飛びかかり、剣を鞘から抜く。だが、


キンッ………


横から放たれた白ずくめの妹による弓矢に手を命中され、雑草たち(ウィーズ)は剣を離す。そして、黒ずくめの兄が、雑草たち(ウィーズ)の間抜けな顔を見ながら懐に飛び込む。



だから勝てないって言っただろう?



そんな愚弄が聴こえた気がした。



エルトラム中心街廃墟から、雑草たち(ウィーズ)は全滅した。30人の雑草たち(ウィーズ)は、たった2人の兄妹にまったく太刀打ちできず、歯が立たず、実力差を明確にされ、完全なる敗北を喫した。兄妹は一撃も喰らわずにHP満タン、まさに完全勝利だ。


黒ずくめの兄と、白ずくめの妹の水晶から、『YOU WIN』というテロップと、雑草たち(ウィーズ)が所有していたアイテムが表示される。同時に、クエストカウンター前に転送された雑草たち(ウィーズ)の水晶からは、『YOU LOSE』と表示されていることだろう。


乱闘の勝者は、敗者の持つアイテムの中から好きなアイテムを貰う事ができる。勿論一括で総取りも可能だが、レア度の低いアイテムを貰ったところで、アイテムBOXの圧迫にしかならないため、総取りするハンターは少ない。


兄妹はテキトーにレア度が高めのアイテムを貰い、アイテム受け取りのウィンドウを閉口。すると、バトル所要時間が表示された。


『バトル所要時間:14.180秒』



「まさか…彼らは……」


所変わってクエストカウンター前。壁に設けられた70インチは越える超巨大モニターに映される2人の男女。


1人は黒ずくめの装備に盾ありの片手剣。


1人は白ずくめの装備に弓。


あの圧倒的な、敵を薙ぎ倒す強さ。


そして、徐々にスピードを上昇させる戦闘スタイル。


この場にいるハンター達には心当たりがある。


今話題沸騰中の『舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』よりも前に、このエルトラムで名を知られるようになったが、『舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』の見た目の派手さや、踊るような戦闘スタイルのせいか、忘れられかけていた兄妹のペアがいた。


その兄妹は、黒ずくめと白ずくめの片手剣と弓使い。とにかく速い剣捌きと弓の狙撃。瞬き不可の高速、いや、瞬間の速度なら音速をも超えたようなスピードを持ち、人間の限界速度を破っていくことからついた二つ名。それは、



音速の破壊者(ソニック・ブレイカー)




「くそくそくそくそくそっ!!!」


ビール瓶が割れる破裂音が耳に響く。あの兄妹にあっさりと敗北した雑草たち(ウィーズ)が騒ぎ始める。


暴飲暴食に走る者、周囲の装飾を破壊しようする者、何故か雑草たち(ウィーズ)同士で殴り合う者。不器用な雑草たち(ウィーズ)のぶつけようのない怒りや羞恥が、デタラメにこの空間に発散されていく。


そこに(くだん)の兄妹が帰還する。雑草たち(ウィーズ)の怒りの矛先が一斉に定まる。


雑草たち(ウィーズ)は何事もなかったかのように立ち去ろうとする兄妹を取り囲み、往生際の悪い負け犬と化す。


「おいおい…まさかこのまま逃げる気かよオメェラ?」


「僕達の勝ちだ。アイテムも貰ったし、あと用はない」


「そーゆーこと」


「そこを退け」と見事にハモる兄妹。だが雑草たち(ウィーズ)は一歩も退く様子はなく、相変わらず2人を包囲したままだ。


そこに、クエストからあるパーティーが帰還してきた。


帰ってきたのは2人組のペア。黄色のロングコートに氷色の太刀の少年と、ピンクのセミロングコートのスナイパーライフルを持つ茶髪の少女。


そう、『舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』だ。


暫し沈黙が流れ、視線はド派手な2人組に集まる。視線を浴びる理由が解らない『舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』の2人は揃って首を傾げる。



舞う銃剣(ダンス・ベイオネット)』と『音速の破壊者(ソニック・ブレイカー)』。


なんだか妙な状況の中での出会いとなった……



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