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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
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14 本当の信頼 V

雪が吹き荒れる廃闘技場。コロシアムとも呼ばれていたこのフィールド内で戦士が戦い血を流すことで客が湧く、なんとも生々しいこの場所は、ライトとサクラが大切なモノを失った、もう踏み入りたくない地獄だ。


ザラキの最期の言葉にして願い。それを果たすため、ライトは戦う。ザラキ達の命を奪った、愚かな狐共を、今、地のどん底まで突き落とすのだ。


身体から赤い煙を噴き上げて、氷狐・フォルスを猛獣の如く睨みつけるライト。彼から感じられるのは殺気と憎悪、フォルスに対する蔑みの心理。


その背後には、ライトを全力でバックアップするサクラ。剣銃(ソードガン)の銃口をライトに向けたたまま、フォルスだけを見つめる。


一度風が強くなる。積もった雪が巻き上げれ、闘技場が白く荒れる。


グオォォォォォアァァァァァ!!!


フィールドにフォルスの雄叫びが反響する。2頭のフォルスが同時にライトを仕留めようと腕を高く挙げる。


だが、ライトは避けない。恐怖で硬直しているのではない。極めて冷静、心に乱れなど一切無い。


2頭の強烈な裂拳がライトを完璧に討ちとるべく、ライトに向けて……


と、思われた。だがそうはならず。2頭のフォルスの腕は、再び高く挙げられていた。どちらの腕からも、硝煙が上がっている。


ライトの両頬のスレスレを掠め、フォルスの腕を弾き上げたのは、サクラが撃った破裂弾だ。着弾と同時に破裂を起こすこの弾が、ライトを討つはずだった裂拳を退ける。


そして予期せぬ事態に、腕が挙がったフォルス2頭は完全な隙を見せてしまう。体勢を整えたいフォルスだが、もう遅い。


気が付けば、残りの全スタミナと『火事場』スキルで十何倍にも攻撃力を跳ね上げられた金剛刀を握るライトの餌食となっていた。


2頭の破片が、雪降る闘技場の冷たい空を舞う。そして、ライトとサクラの右腕の水晶から、『QUEST CLEAR』のウィンドウが出現し、クリアーのサウンドが流れる。


「ザラキ…」


ライトが空の雪雲を見上げながら、戦死を遂げた戦友(ライバル)の名を呼び、誓う。


「お前の願い…叶えたよ。これからもずっと、叶え続ける」


サクラがライトの所へ来る。悲しそうな顔のサクラに、ライトは励ましの笑みを見せた。サクラはライトに寄り添い、肩に顔を乗せる。


「終わったんだね…」


「……ああ」


氷狐が開いた大宴会。その会は沢山のモノを奪い、失わせた、最悪の宴。廃れた闘技場で行われた災厄は、2名の狩人の勝利で、冷たく幕を閉じた。



1本の剣銃(ソードガン)。エルトラム裏町の住宅街にある小さなアパートの一室の扉の前に供えられたそれは、振り、撃つ主人がいなくなり、重力に逆らわずに地面に横たわっている。


「私をね…パーティーに誘ってくれたの、ザラキ君なんだ」


ピンク色の騎士装のサクラが、黄色いパーカーのライトに語りかける。


サクラがパーティーに入隊したのは、この世界に来て15日目くらいの頃だった。ずっと1人で狩りをしていたサクラは、勧誘を受けた時はすごく嬉しくて、喜んで入隊を決めた。


極めて高い狙撃技術を持つサクラだが、ソロで銃のみは厳しいと判断して、剣と銃が合わさった剣銃(ソードガン)主武器(メインウエポン)を選んだ。パーティーに入ったら銃のみに乗り換えようと思っていたのだが、


「俺に撃つコツとか教えてくれないか?」


と、教えを乞いてきたザラキに合わせるために、剣銃(ソードガン)をずっと使ってきた。


サクラは仕方なくではなく、感謝の気持ちを込めてザラキに銃を教えた。ひとりぼっちだったサクラの仲間に先陣切ってなってくれた、ザラキへの、感謝を込めて。


「俺も…サクラに感謝してるよ」


ライトがサクラの背中に手を回し、反対側の肩に手を乗せる。


「パーティーに誘ってくれた時、嬉しかった。ザラキはなんか俺に冷たかったけど、やっぱり良い奴だったな」


ライトが言い終えると、しばらく沈黙が訪れる。サクラがザラキの部屋の扉の前から離れだす。


「でも……」


アパートを出て、雪の積もる住宅街を歩く途中、サクラが重く口を開いた。


「もう…解散だよね…」


「え…?」


ライトは立ち止まる。それに気づいたサクラも、ゆっくりだった歩みを止める。


「ごめんね…ライト君の事…私が誘ったのに、解散なんて…でも…」


涙声になるサクラ。頬を伝い落ちた雫は、白い雪の路に吸い込まれる。


ライトは、泣きじゃくるサクラを、そっと優しく抱きしめる。こんなに寒い中だというのに、サクラの身体は暖かい。ライトはそう感じた。


「ライト君…?」


突然抱かれたサクラは泣き顔で戸惑いながら、ライトの顔を見上げる。


「サクラ…俺は、パーティー解散は嫌だ」


サクラを抱きしめたまま、ライトは言う。周りからの視線を集めているが、全く気にならなかった。


「俺、お前と組んでたいんだ。サクラといれば、俺の人間不信も克服できる気がする」


そうだ。世界は酷い奴ばかりではないんだ。仲間を信じて、思ってくれる人間も、たくさんいるんだ。サクラのような、心の大きい人が……。


「ライト君…」


サクラの声が震える。そして、サクラの両手がライトの背中に回り、今度はサクラがライトを抱きしめる。


「それに…約束したんだ。サクラを守り続けるって。サクラが、無事に現実世界に帰れる日まで…」


サクラの両眼から、再び涙が滝のように流れ落ちる。落ちた涙が黄色のパーカーに落ち、涙の染みを作る。


「サクラ…俺はお前を、無事に現実世界に帰す。約束だ。その時まで、俺と組んでいてくれないか?」


まるでプロポーズのシチュエーション。だが至って大真面目だ。サクラは、ライトから一歩だけ離れて、ライトの両肩に両手を置く。


あの時、ライト君は私の狙撃を信じてくれた。ライト君は、本気で人と向き合おうとしてるんだ。



私は…ライト君の力になりたい



サクラはライトの顔をじっと見つめる。漆黒に少し茶色がかった眼球が、ライトの真剣さを語っている。


勿論、答えは…に決まってる。それ以外は、ありえない。


サクラは、少し顔を赤に染めて、ライトと眼を合わせ、ニッコリと、女神をも嫉妬させる笑みを浮かべる。


「はい。よろしくねライト君!」


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