12 本当の信頼 III
「サクラ!!!!!」
金剛刀を青く輝かせたライトは、絶対絶命のサクラの所へ全力で駆け出した。 そして、サクラを鋭い爪で持ち上げようとする氷狐・フォルスに斬りかかる。
「うおおおおおおおおおっ!!!!!!!」
ライトはスタミナをさらに300消費し、青い輝きの効力を持続させる。そして、サクラを持ち上げようとしたフォルスの首を斬る。首を斬り飛ばされたフォルスは光の塵と化し、空気中に舞う。
「ライト君…ありがと」
「ああ、大丈夫か?」
「うん」
どうやら大丈夫のようだ。HPが半減していたサクラだが、今回復アイテムを使用し、ほぼ満開まで回復している。
消滅したフォルスと共にサクラを襲っていたフォルスは、ライトの気迫に押されたのか、ライトとサクラから距離を置いている。
ライトとサクラは戦闘体勢を整える。
その時、状況はまた最悪の状況へと変わる。
「な…」
「うそ…?」
空から降りてくる2つの影。それは先ほども見たフォルスの登場シーン。
そう、また2頭、フォルスがこの闘技場のフィールドにやって来た。5人で挑めば攻略不可能ではないが、トモ・ヨスケ・ザラキが裏切った今、もはやこのクエストの攻略は困難だ。
ライトとサクラ、再び絶体絶命の危機。その光景を気配を消して高みの見物をしていたヨスケは、
(また2頭追加か…。せめて1頭は殺してから死んでくれれば最高なんだけどな)
という思考を巡らせ、ライト達の戦闘を見物する。
だが、その背後に、何かが着地した音と雪埃。ヨスケは絶望で顔を歪める。
「な…6頭目…馬鹿な!」
ヨスケが思わず出した声に気付いたフォルスは、ヨスケに思い切り噛み付く。
「ぐあああああああ」
ヨスケの叫びは途切れる。なぜなら、首を噛み切られ、頭が地面に落下したからだ。
「ヨスケ君!!!」
遠くからサクラの声がする。だがそれも直ぐに聴こえなくなる。ヨスケのHPは0になり、ヨスケの身体は光に包まれ、そして大破した鉱石の破片のように散り散りになり、大気中に消えた。
「ヨスケェェェェェェェェ!!!!」
隠密を解除したトモは、双剣にありったけのスタミナの力を纏わせて、ヨスケの仇に斬りかかる。
「待て!!!」
ライトがトモに忠告を入れる。だが、激昂状態のトモは聞く耳を持たない。トモはフォルスに数えきれないほどの斬撃を与える。
「よくもよくもよくもぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
鬼人と化したトモの剣は勢いを衰えさせることなく、フォルスのHPが0になり、消滅するまで、トモは無双していた。
「ハァ…ハァ…」
仇を執ったトモは安堵の息を吐く。だが……
「え…」
トモの意識はここで途絶える。また現れた7頭目のフォルスの捕喰によって、全身を食い千切られ、そのまま光の塵となって消えた。
「トモ…」
隠密スキルで気配を消しているザラキが悲しい声を漏らす。
ザラキは今回の裏切り作戦に反対だった。これまで自分達を信じ、共に戦った仲間を裏切るなんて。だが、トモとヨスケは現実世界でも仲が良いダチだった。そのダチに半強制的にこの作戦に参加させられたのだ。
キイィン!
ダダダダダ…
ライトの太刀と、フォルスの鋭爪が交錯する金属音と、サクラの剣銃の銃声が闘技場に響く。
ライト・サクラ対フォルス4頭。
どう見たってライト達が劣勢だ。彼らがリタイアするのも時間の問題だ。
だが、裏切り作戦をザラキにやらせたトモとヨスケはもういない。今ここでライト達に加勢さても、文句を言うものはいない。
「うああああああああっ!!」
「きゃぁあっ!!!!」
ライトとサクラの悲鳴を聴いたザラキは彼らの方を見る。すると、フォルス1頭は討伐したようだが、残った3頭のフォルスに囲まれている。
HPは2人とも10%を切り、瀕死の状態。今の状態で攻撃を受ければ、どちらも命はない。
2頭のフォルスが噛みつきの構えをとる。囲まれているライトとサクラに逃げ場はない。
ライトとサクラは死を覚悟する。全てを受け入れて眼をつむる。
そして、フォルスの牙が身体に突き刺さる…
と、思われた刹那、ライトとサクラは、フォルスではない誰かに突き飛ばされ、フォルスの円陣から抜け出した。
「うおっ!」
「あうっ!!」
体勢を立て直した2人はフォルスの円陣を見やる。そして、驚愕し目を見開く。
「な、なんで…」
「うそ…」
フォルスに囲まれ、2頭に噛まれているのは、今まで隠れていたザラキだった。
フォルスの間から見える彼は、小さく何かを言い、満面の笑みを浮かべていた…。