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ブレイヴ・ワールド  作者: 四篠 春斗
氷の都篇
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10 本当の信頼 I

雪が淑やかに降る冬の地の夜。外を歩く人々は、積もる雪に自らの足跡を刻みながら歩いていく。屋内の灯りが外に漏れ、純白の雪を少し違う色へと変えていく。


そんなもの静かな夜、ある部屋からバカ騒ぎが聴こえる。なにか良い事でもあったのだろうか、いや、あったのだろう。


「かんぱ〜い!!」


5人の少年少女の乾杯が響く。ここはヨスケの自宅。なぜか無駄に広いヨスケのリビングを借り、ライトのパーティー入隊&勝利を祝う、これこそパーティーが行われている。


「いやぁ〜あの時はクリアーした気がしなかったな」


トモが骨付きチキンにかぶりつきながら笑う。


「やめてよその話、思い出しただけでゾクゾクする」


サクラが肩を震わせながら、トモに文句を言いつける。部屋中は笑いに包まれた。


ライトは、やっとまた人を信じる事ができるかなと、思い始めた。このパーティーだって、ライトのために催されたものだ。こんな人間不信のライトを、素直に受け入れてくれたのだ。まあ…この事はまだ話してないのだが…。


「ねえザラキ、ライト君と2ショットでもどう?」


「お、おい!なんで俺があいつと…」


なんだか愛らしかった。自分もちゃんと友達を作って、何か部活動に所属していれば、こんな行事に参加していたのだろうと思うと、やっぱり損した気分になる。


「ライト君、楽しい?」


サクラがピョンピョン跳ねながらライトに問いかける。ライトは、嘘偽りのない本心からの笑みを浮かべ、


「うん、楽しいよ。ありがとな、俺のためにパーティー開いてくれて」


丁重に礼を言う。サクラは嬉しそうに、少し頬を赤らめて、


「ううん、仲間なんだもん。当たり前だよ。楽しんでくれてて良かった。企画したかいがあったよ」


そんな2人の所にヨスケが来て、


「サクラ、調子良い事言ってるけど、部屋提供したのも料理したのも、全部俺だぞ」


なんて、言ってみている。サクラは少しムッとして、


「いいじゃん、企画したの私なんだし」


と、真剣に張り合おうとしている。その姿が、どうも可愛らしい。


ライトは、このパーティーのこんな姿をずっと見ていたいな、なーんて思ってみたりした。


この静かな夜の騒々しいパーティーは、日付が変わる頃まで、ずっと続いていた。



静夜のバカ騒ぎの翌朝、ライトは、今装備中の 『デディロン』の防具を強化するために武具屋に向かう。


防具は、攻撃から身を守るのが主な役割で、防御力が高い程魅力的に感じるかもしれないが、この世界の防具は少し違う。


『スキル』…指定の発動条件を満たせば発動するその防具特有の能力、これをいかに上手く使うかが、この世界の攻略に関わってくる。


だが、この世界にある防具全てにスキルが付属するわけではない。レア度の低い、つまり簡単に作れる防具にはスキルは大抵付属されない。また、防具作成時にはスキルの付属はないが、強化していくとスキルが使えるようになる、こんな防具も存在する。


ライトの防具『デディロン装備』は、次に強化すると、あるスキルが発動するようになるため、ライトは早いところ強化してしまいたいと思っていた。強化に必要な素材『仮面の欠片』も、昨日のネテオキング戦で入手し、遂に装備を強化できるようになった。


「でも使えるようになるスキル、上手く使うの難しいって聞くな…ま、慣れだな慣れ」


独り言を言いながら武具屋に向かうライトは、左方向からくる見覚えのある、いや、覚えてるし目立つピンク色の装備の茶髪の少女、サクラを見かける。


「あ!」


サクラもすぐにライトに気付き、大きく右手を振りながら走ってくる。


「おはよう!」


「お、おう。おはよう」


昨日、いや、深夜はあんなに騒いでこっちは寝不足だというのに、なんでこの娘はこんなに元気なんだ…と、疑問を抱くライト。


「ライト君、どこ行くの?」


「ん…ちょっとこの装備の強化するために武具屋にな」


ライトは身に纏っている黄色の防具『デディロン装備』を手でつまみながら言う。


「へぇ〜装備強化に行くんだ。私も行っていい?」


「別にいいけど、楽しいか?人が装備強化してるの見てんの」


「いいじゃない。ね?」


ライトはサクラと共に武具屋に行く事になった。


「なあ…ひとつ聞いていいか?」


ライトが口を開く。


「なに?」


「サクラさ、開始1ヶ月も経たない内にこんなレベルまで上がったみたいだけど、なんでそんなに急ぐんだ?」


サクラは、それと逆の質問をライトにしたい、というような顔でライトを見つめ、


「だって、早く『向こう』に帰りたいじゃない」


と答える。すると今度はサクラが、


「ライト君は、『向こう』には帰りたくないの?」


「お、俺?お、俺は…」


サクラがクイっと首を傾げる。ライトは、「話すしかないか」と、ハァーと息を吐く。


ライトは、自分が人間不信である事、そしてその原因となった過去を、サクラに話した。また、自分は『向こう』帰りたいとは思っていない事も。


「そうだったんだ…だからライト君は、のんびりやってるように見えてたんだね」


サクラがテンションを下げて言う。「いや、お前はペース速すぎだから」と心の中で思っていたライトは、それを胸の内に留める。


「だから…今も心のどこかでパーティーのみんなを疑っている自分がいるんじゃないかって思うと、俺自身が参っちまってな。だから今までパーティー参加は避けて来たんだ」


「そう…」


サクラは悲しそうに言う。普通なら、ここでパーティーからの除外があったっておかしくはない。


「でも、私はライト君を信じてるし、みんなの事も信じてる。それに他のみんなだって裏切ったりしないよ。だから大丈夫」


サクラが励ましの言葉をかけてくれる。


「そ、そうかな…」


「うん!きっとそうだよ!」


サクラがニッコリと笑う。ライトも自然に笑みがこぼれた。


だが、そこからしばらく沈黙が流れる。ただ隣を歩くだけ。お互い、この状況が耐え難くなってくる。


「あのさ…」


「ねえ…ちょっと…」


ライトとサクラが同時に話しかける。そして、「あ」と声を漏らすと、歩くのをやめてお互いの顔を見つめ合う。少し頬を赤らめて。


「な、なんだ?サクラ。お前から話していいぞ」


「ラ、ライト君こそ、なんて言おうとしたの?話してよ」


「サクラが先でいいよ」「いや、ライト君から話して」、こんな感じのやり取りがあと5回ずつくらい続き、


「ライト君ってさ…剣、上手だよね。どうしてあんなに上手なの?」


ライトは、驚いた表情を浮かべて、


「奇遇だな、俺もサクラはなんで銃の扱いがあんなに上手いのか聞こうと思ってたんだ」


「え、そうなの?」


ライトは頷き、サクラの質問に回答する。


「父さんが剣の稽古場の師範代でな。俺も教わってたんだ」


「うわぁ…本当に私達って似てるのかな…私も父が銃の稽古場の師範代で、教わってたから」


ライトもサクラの家系に驚いた。銃の稽古場の師範代というのは聞いた事がないが……。


「そうだな、確かに似てるな」


ライトはふと思った。サクラとならいいタッグを組めるのではないかと。


「私は、父から叩き込まれたこの銃の技術(スキル)でこの世界を攻略して、現実に帰りたい。そして改めて父にお礼を言いたい」


世界の境界線(ワールド・ボーダー)】を跨いでこの世界に来た者は皆が望む帰還。それは皆、現実世界に大切なモノがあるからそう思うのだろう。


両親も友人も居場所も無いライトが帰還を望まない理由の1つはこれなのかもしれない。


「私はライト君の事も、他のメンバーの事も信じてるし、このパーティー力あるし、案外早めに攻略できるんじゃないかなって思うんだ」


ライトはサクラの話を黙って聞いていた。サクラは騙されやすい人間だ。おそらく、何度も騙されてきただろう。それでもバカ正直に人を信じて、裏切られて、騙されて、また信じて……。


強いな…サクラは。


それに比べて俺は…


たった数回裏切られただけで世界を見限り、否定した。そして、この世界に居場所はないと、いつも自分がいる場所は、家を除けば全てが敵地。そう決めつけていた。


「あ、武具屋に着いたよ」


サクラがライトの肩に手を乗せる。


「え?あ、おう」


ライトは、アイテムBOXから『デディロン』の防具と『仮面の欠片』を取り出すと、武具屋のおじさんに差し出した。


「強化、お願いします」


「おうよ」


おじさんが工房に入って行く。それから数分後、あまり見た目は変わらない黄色の防具が返ってきた。


「ねぇ!どんなスキル使えるようになったの?」


サクラが興味深々な顔で聞いてくる。ライトは、装備をまたBOXに戻すと、


「明日は上級昇格に必要なキークエストの最後、行くんだろ?」


「え?うん」


「なら、その時までお楽しみ♪」


「ええええええ〜〜〜っ!!!」


エルトラム裏町に、サクラの子供のような声が響き、なぜか山彦が復唱する音まで聴こえた。


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