表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第一話 バイオヴォーグ誕生  作者: SecondFiddle
2/3

第二部 ストレステスト


 その夜午前2時。

 ベッドに横たわっていた神室は眠れないでいた。何度も寝返りを打ったが一向に眠気がやってこない。寝付けない神室はベッドから起き上がった。

「死にかけたあたしを、こんなにまで良くしてくれるあの二人には感謝しなきゃならないのに、この感じは一体何だろう? 実験が多いから? ここは航空軍の軍飛行場だから? このまま国防院の秘密兵器とやらになってしまうのかしら」

 神室はそう呟きながら両手で頭にゆっくりと手を当て髪をかき上げた。

 自分に置かれた環境は特異なものとして認識している。

 飛行機が墜落して山中に激突したことまでは記憶にあるが、それから先は全く覚えていない。気がついたときはベッドで唸っていた。そして現在、基地の中という異質な世界に、籠の中の鳥のように棲んでいる。

 普段は楽天的な神室だが、事故のことを考えると急にふさぎ込んでしまう。事故は彼女のトラウマなのだ。

 何かがおかしい……そう思った瞬間、神室の両肩に激しい痛みが襲った。

 瞬間的に両肩を握りしめた。強大な力が両肩を襲う。両肩には特殊合金で作られたいわば肩パッドが仕込まれており、両肩が破壊されることはない。しかし……。

「ううッ!!」

 ベッド上で悶える神室。

 寄せては返し寄せては返し、さらにそれは激しい波のように繰り返される。

 拒絶反応……その言葉が神室の頭に反響する。

 あまりの激痛に神室はベッドから転げ落ちた。

「痛い……痛い……薬……痛み止めの薬……苦しい……! 誰か……誰か助けて……」

 脂汗が神室の顔に滲む。焦点が合わない。この様なときに飲むように言われているバイオ不活性剤は彼女のバックの中だ。

 天井のスピーカーから男性の声がした。

「どうしました、神室さん」

「ああ……ジュピター……朝倉……朝倉先生を呼んで!」

 そう言うと神室の意識が遠のいていった。


 明くる日の午前七時。

 医務室のベッドの中に痛々しい姿で眠っている神室と朝倉、西村がいた。朝倉は座っていたが、西村は立ったまま腕組みをしている。

「夜中に激痛が走って気を失った、と言う訳ですか」

「ジュピターが知らせてくれた。痛み止めを打ったが、通常の倍使わなければならなかった」

「接合部がうまく機能していないようですね」

「無理はない。人工のものと生身のものとが融合し合うことはまだ先の話だ。しかし困った問題が起きた」

「どうされました朝倉博士」

 西村は朝倉を見つめた。朝倉は両手を広げ首を横に振った。

「和田総括部長からバイオヴォーグの進捗率を訊いてきた。マズいことに我がバイオヴォーグが一番進捗率が悪いらしい。海上軍が開発している地上国防型Gドロイドは実戦配備も近いと言われた。さらに陸上軍が開発している飛行服もプロトタイプだが完成間近という」

「ハッパをかけられたというわけですね……一つ質問ですが、たまに噂で聞くGドロイドってなんです?」

「私も詳細は聞いていない。しかし伝わってくる話では、私たちがB計画と称されているようにG計画W計画と言う計画があることだ。これは、軍人に変わる何かを作成していると聞いている。しかし何しろお互いが秘密裏に実験しているわけだから秘密が公になるとよろしくないだろう」

「何故、航空防衛専門の航空軍が地上でもないのにバイオヴォーグの研究で、地上でもないのに海上軍がGドロイドなんでしょうね。さらにW計画というのは?」

「皆目分からん、分かっているのは少数の軍関係者と本田国防院大臣だけと伝わっているだけだ。それと各所属の最高責任者、ここでいう勝呂指令だろう、そして第六区の全権を掌握している和田総括」

「和田総括はその他の極秘計画を知っているのでしょうか」

「分からんね、ただ言えることはバイオヴォーグ計画の進捗率が悪いということだ」

「僕たちの計画が一番進捗率が悪い……ですか」

「そうだ」

 そう言いながら朝倉は首を振った。

「我々の計画には時間が必要だ。だが悠長なことは言っていられない事態になってきているのもまた事実だ。何時キタ国が侵入してくるか……さらに謎のテロリスト達が日本にも来ていると言うことだし、政府や国家安全保障委員会、ひいては国防院としては気が気ではないだろう。危機は迫っていることは確かだ。むしろ時間の問題だろう」

「戦争になるんですか、先生」

 不安そうな西村の声に「戦争か……」朝倉は両手で膝を叩いた。

「このB計画を含め、全ての計画は有事のためのものだが、私は戦闘員を育てるよりも……」

「育てるよりも?」

 朝倉は一瞬沈黙した。

 西村は朝倉の次の言葉を待った。

 朝倉は決心したように言い放った。

「人を育てたいのだ」

 その時天井から男の声がした。

「朝倉博士、和田総括がお呼びです。和田総括は執務室におります」

「分かった分かった、今行くと伝えてくれ、ジュピター」

 二人は、とうとう来たか……と言うようにお互い顔を見合わせた。そしてベッドに横たわっている神室を見つめると、静かに病室を出て行った。

 残るは昏々と眠りに落ちている神室だけになった。


「国家予算をなんと思っているんだ」

 部長室では和田がふんぞり返るように座っている。朝倉と西村は立ったままだ。

 巨体を揺すらせ、机を叩きながら和田が怒鳴っていた。

 そう。あのしらとり事件の現場にいて、神室を強引に連れ去ったあの和田だ。

「お前達の計画に乗っていたら、いつまで経っても終わらんぞ。分かっているのかッ!」

「B計画は、時間が必要です」

朝倉の言葉に和田は激怒した。

「お前ら、口答えするのか。いいか、国家存亡に危機と言っても良いくらい事態は切迫しているんだぞ。この少子高齢化時代に誰が好きこのんで軍に入隊すると思ってるんだ。そうでなくてもテロリストやキタ国の不穏な動きがあるのは分かってんだろう? 今は何が何でも軍の増強を図らねばならんときだ。それを今回は女だと? 仕事に男も女もないが、G計画は実戦配備も近いという」

 西村が質問した。

「そのG計画ってなんです? 和田総括」

 和田は二人を睨みつけた。

 和田が言う国家存亡の危機は、まさに日本が直面している問題だった。少子化問題も深刻化し、軍人のなり手がなかった。そこで政府はそれに替わる計画を立てた。

 人間を使わない人型強化兵器Gドロイド、少ない戦闘員の補助としての戦闘強化服の開発、そして失った手足を補完するバイオヴォーグ……。全ては有事のため、ひいては戦争のためだった。もちろん国際世論としての日本の軍備化は好ましくない状況だが、海を隔てた隣国「キタ国」では不穏な動きがあるのもまた事実だった。

 二人の目に書類の束をどさっと置いた。

「みてみろ」

 二人は書類の束を手に取った。そこにはB計画の他、W計画と現在進行している国家最高機密の書類だった。

「極秘事項だが特別に話してやる。G計画とはな、Gドロイドと呼ばれている人型強化兵器だ。お前達がサイボーグの発展型バイオヴォーグを目指しているように、いわばGドロイドはアンドロイドの発展型だ。攻撃用、迎撃用、索敵用と三タイプあり、それらが自らの判断でお互い連携をとりながら一緒に機能する人型強化兵器だ。もう数十体が出来上がっている。さらに従来のアンドロイドと違うところは、単独で作戦を考え行動する事が出来る能力を持つ。アンドロイド以上の働きをするGドロイドの頭文字をとって、G計画と称している。重ねて言うが、Gドロイドの開発者は……朝倉、お前の同期、横溝だ」

 横溝と聞いた朝倉は一瞬目眩を覚えた。二人は同じ国立大学院で人工生体工学を学び、朝倉は生身としての人工生体の道を歩み、横溝は機械化の人工工学に進んだ。

「そうかあの時」

 朝倉は回想した。

「人間のあるべき姿と軍事開発……お互い正反対の論文を上梓して争ったものだった。その彼が私と同じく軍に雇い入れられたと言うことか」

 朝倉の思いを余所に和田は言う。

「お前らの確執は俺の知るところでは無い。その他にW計画があり、これは有人飛行を備えた新しい戦闘服だ。これもプロトタイプがあり、日々実験をしている」

 突然天井のスピーカーから男の声が響いた。

「和田総括、それ以上お話ししますと、漏洩罪になります」

 その声に和田の頬がぴくりと動いた。

「……そうだ、そうだったな、ジュピター。この件はこれで終わりだ。しかしそれに引き替えこのざまはなんだ。ともすると我々B計画の予算が削られることにもなりかねん。そうでなくても予算全体が削られる方向にあるからな。予算を削られたら、研究開発も思うようにならんだろう。そうなっても良いのか? そうじゃないだろう? 軍上層部にお前達のバイオヴォーグ第二号の試験をして至急報告書をまとめねばならん」


 四時間以上のやりとりの後、げっそりとして二人が執務室から出てきた。

 ジュピターから神室は元気になって自室に戻ったという報告でいくらか心持ちがよくなったが、和田の言葉が重くのし掛かっていた。

「G計画にW計画……。創造もしていなかった極秘計画があちこちでおこなわれているんですねえ。その中でも私たちの進行が良くないときた。……七恵が聞いたらがっかりするだろうな。どうします博士」

 帰りの道すがら、西村は朝倉に尋ねた。

「どうもこうもない……バイオヴォーグ一号の法源浩一郎があんなことにならなければ順調だった、……と言っても仕方ない。一から作り始めなければならんな。そうなると、神室七恵を何とかしなければならない。……しかし今日は疲れた」

「そうですよねえ、ボクも草臥れました」

「お互い部屋に戻って今後の対策を練ろうじゃないか、じゃあ、私は右だ」

 突き当たりの通路はで二人は左右に分かれた。

 朝倉と別れた西村は自室の前に来た。左右の手を壁にあるセンサーに押しつけると、認証が下りて部屋の扉が左右に静かに開いた。

 部屋はやや広めの1LDK。二脚の椅子とテーブル、そして巨大テレビが置かれている中央リビングの右が風呂場とトイレだ。左側は自炊できるミニキッチンとなっている。左右は違っても独身者にとってはどの部屋も同じ作りだ。

 机に両手を置いた西村がまんじりともせず言った。

「ジュピター」

「ご用件はなんでしょう西村さん」

「風呂湧かしてくれないか」

「了解、十分で湧きます」


 ジュピターは極秘任務を請け負う碓氷基地の第六区を総合的に司るスーパーコンピュータ。その能力は追跡カメラ、赤外線、紫外線、熱源探査、超音波など駆使して、六区にいる全職員二百数十名の動きを瞬時にして把握する。さらに職員の多義にわたる要望を全て理解し、期待に応えるべく動く。当初は誰もが支配されている感覚に憤り反発したが、慣れることにより秘書であり良きパートナーになった。

 まさに技研内部の中枢と言えるべき存在だ。


 ジュピターの言うように十分で風呂が炊きあがった。裸になった西村が浴槽に飛び込むと、それはちょうど良い湯加減だった。


 明くる日。

 第六実験室でうなだれた面持ちの神室と朝倉、西村が和田を迎えるべく立っていた。

 朝倉は忍びなさそうに言った。

「七恵には気の毒だが、和田総括部長の命令なので仕方が無い。どの程度出来ているかお披露目をしなければならなくなった。もっと完全な形で送り出したかったが、時間が無いのだ、七恵」

 うなだれていた神室は、すぐさま顔を上げ微笑んだ。

「大丈夫です。すっかり良くなりましたから、必ず期待に応えるように努力しますわ」

「君は……楽天的な要素を兼ね備えているようだね」

「同じ人生なら笑って過ごしたいッて言うことですわ、朝倉先生」

「和田総括がお見えです」

 ジュピターの声と同時にドアがノックされた。

「来たか……」

 朝倉が言う方向に神室は目を向けた。

 ドアの向こう側から、左頬に深く歪んだ傷がある、背が高く壁のような横幅のある巨漢が迫ってきた。

 初めて和田の前に神室は立った。聞かされてはいたが、初めて会ってみると、やはり壁だった。

 和田は眼を細め、神室を見下ろした。「これが第二号か。第一号が失敗していなかったら、計画は順調だったろうな朝倉先生」

 一号……二号……? あたしの前に誰か、いたのね……そう思った神室は突然言った。

「第一号とか二号とか、そう言う言い方止めにしてくれません? あたしには立派な名前がありますのよ」

 和田は見つめると左頬をあげ笑った。

 神室には「笑う」と言うより、大きな蛇が蝦蟇を一呑みにしようとするおぞましい姿に似ている、と思った。

 西村が言う。「七恵、言葉を慎め」

「いやいや、西村、それには及ばないが、たいした女だな。これくらい反発力がある方が、鍛えがいがあるというものだ。それにお前を選んだのはこの俺だ。俺の目に狂いはなかったな。……さて、朝倉博士から聞いているが、実際に会うのは初めてだな。俺はこのB計画の最高責任者、和田だ。そしてこの第六区総合責任者でもある」

 そう言って握手をするように右手を差しだそうとした和田だったが、手を握りつぶされると思ったか、急に手を引っ込めた。

 それを見た朝倉が言った。

「彼女の手には圧力センサーが埋め込まれている。何百回となく試験し改良も施した。そしてそれ相当の訓練も受けてきた。状態の判断は間違えることはない。実証済みだ」

 見透かされたのか、和田は一つ咳払いをしてから、神室を見つめた。

「両目はぶれ補正回路内蔵最大四百倍の高倍率スコープつきだ。特に右目には極小暗視装置が組み込まれている。そうだ、現在陸上軍が躍起となって開発しているノクトビジョンの改良型だ」

 和田は訝しげに神室の瞳をのぞき込んだ。どう見ても普通の目をしている。

「陸上軍が開発しているノクトビジョンか。それをこの目に仕込んでいるというのか」

「陸上軍では直径十センチが限界と言われているが、この西村君が三ミリまで極小化した」

「三ミリだと?」

 和田はますます神室の目をのぞき込んだ。

 ふ……と蝦蟇に似た和田の視線に神室は目をそらした。

「腕の力はどうなんだ?」

 和田は朝倉に質問した。

「七恵、あそこのバーバルを持ち上げてみたまえ」

 朝倉の言葉に部屋の中央においてあるバーベルに近づくと、重量挙げの選手のようにバーベルを持ち上げた。しかし選手と違い、いともあっさりと両手で頭上に持ち上げた。

「八百キロはある」

 和田は持ち上げている神室を見つめた。微動だにしないが、僅かに上体の震えを認めた。かなり耐えている、と和田は直感した。

「一トン以上持ち上げられるように要請したはずだが」

「それについては」朝倉が言う。「背筋と腹筋の強化が必要だが、まだ時間が必要だ」

 和田がまた左頬を上げた。

「そうだろうと思ったよ。しかし俺は別の方法で手を打った」

「別の方法?」

 朝倉はいぶかしんだ。

「彼女に似合う戦闘服を制作している最中だ」

「どういう意味ですの?」

 バーベルを降ろした神室は怪訝そうに言った。

「お前にしか着れない特別の戦闘服だ。近日中に公開予定だ。楽しみに待ってろ。それより脚力を見てみたいもんだな」

「お安いご用よ」

 朝倉が何か言いかける前に神室はハイロードに飛び乗った。その軽やかなフットワークは和田を驚嘆させた。

「西村君」

「はい朝倉先生」

「ハイロードランナーの電源を入れてもらいたい。ああ……そうそう、最初のスピードは時速十キロに設定して給え」

「了解」

 朝倉の言葉に西村は時速をセットして電源を入れた。

「ああ」

 いきなり足下が動き出したので、予期していたとはいえ神室はちょっと吃驚した。しかし次の瞬間には時速十キロで走り始めた。

「良し良いぞ、次は二十キロに上げてくれ」

 朝倉の命令に西村は計器板を操作し徐々にスピードを上げていった。

「時速四十キロ……六十キロ……」

 計器を読み上げる西村の傍らで神室はスピードに合わせて走っていた。そして……。

「時速八十キロです」

 もはやそれは走ると言うより、跳躍するような足の運びだった。

「本当か?」

 和田は西村の肩越しに計器板を見つめた。そしてその計測されている速度に和田は目を丸くした。

「十分経過……」

 西村は冷静に読み上げていたが、二井見の「走る恐怖」という言葉が頭から離れない。 一抹の不安が過ぎった。もし高速に耐えられないと感じたとき神室は走るのをやめてしまうのではないか? 

 それは朝倉も感じていた。ちょうどよいところで止めさせないと……。しかし和田総括が見ている以上神室を止めどころが難しい……。

 飛び跳ねるように走っている神室の額にうっすらと汗が滲む。

「もうそろそろいいだろう?」

 朝倉は見透かされないように冷ややかに言った。

「そうですね」

 西村も同調した。

「いや、もっと続けろ」

 二人の心を知ってか知らずか、和田は冷徹にいう。

「もう二十分は走っているぞ」

 そう言いながら朝倉は計測時計を見た。

 ハイロード上で神室は飛ぶように、跳ねるように、舞うように、走っている。

「もっとスピードを上げろ」

 いきなり和田が命令した。

 西村は朝倉の顔を見た。あげてやれ……朝倉はそんな表情をした。

 一か八か……西村はスピードをゆっくりとあげにかかった。モーターがさらに唸った。それに伴い神室の走りが上がった。

「八十五」

「もっとだ」

 和田が冷静に命令するスピードが上がり神室の足下のゴムベルトが悲鳴を上げた。

「九十」

「もっとあげろッ! 百キロにしろ」

 西村は和田の鬼気迫る言葉に気が気ではなかった。

 恐怖心……いきなり二井見の言葉が浮かんだ。それは西村であり朝倉であり、神室だった。

 しかし……

「もっとあげてっ!」

 突然悲鳴を上げるかのように神室が叫んだ。

「総括の望みを叶えてあげてっ。あたしは大丈夫」

「お嬢さんもそう言っているぜ」

 和田は冷酷だった。

 しかし神室の言葉とは裏腹に彼女は汗だくになっている。

「バイオヴォーグでも汗をかくのか」

 神室を凝視している和田が言った。

「両手両足以外は生身の体だからな。汗は出るさ」

 和田の言葉に朝倉が冷静を装うように反論する。

「だいぶ疲労困憊のように見えるぜ、朝倉先生。これ以上実験を続けられるか?」

「総括、一体どういう意味だ?」

 和田は冷酷に言い放った。

「報告では百二十出る、となっている。報告は嘘か? ここでそれを実証できないなら、B計画は中止だ。イヤこの計画自体無意味になる。膨大な国家予算が水の泡になる。……朝倉、それでも良いか?」

 確かにこのハイロードマシンは最高時速百二十キロまで出せる仕組みになっている。

 これ以上あげて失敗したら……神室の悲痛な叫びに朝倉と西村の心が痛んだ。もうこれ以上は無理だ……朝倉と西村は観念した。

「時速百キロにあげます」

 覚悟をきめた西村は目をつぶってスイッチを回した。

「ああっ」

 神室の声がこだました。神室が経験したことがない未知のスピードは、如何にバイオヴォーグと言えどもその速さには耐えられなかった。

 徐々に神室は後退してゆく……。

 両腕を猛烈に振り、足腰の回転をあげても、飛び跳ねるように走っても、ハイロードの速度にはかなわなかった。

 反対に和田は冷徹にハイロードマシンの神室を見つめている。

 しかし……。

 突然ハイロードがバシッと言う音とともにモーター部分から火花が散った。

 同時に白煙が舞い上がった。

 そしてハイロードマシンのベルトが徐々に遅くなっていくと……最後には止まってしまった。

「なんてことだ」

 和田が喚いた。

「止まっちまったぞ、朝倉」

 和田は朝倉を睨みつけた。

 止まったハイロード上では神室が体をくの字に曲げ全身で息をしている。

 和田は必死に呼吸を整えようとしている神室に和田は皮肉めいた笑みを浮かべた。

「残念だな。壊れてしまったらどうしようもない。修理でき次第、再度見せてもらおう。いや、滑走路を借り切っての方がよいかもしれん。二千メートルを何秒で走るか、楽しみだな、勝呂基地司令には話をつけておくからな、待っていろ、お嬢さん。どちらにしろ、たいしたもんだな、今度の二号……いや神室。不完全だが能力は見せてもらった。だが、これで終わりではない。明日からは新兵として軍人教育、格闘技、武器の取り扱いなど訓練をおこなう」

 それだけ言うと和田は踵を返し実験室から出て行った。

「七恵、どうだい、初めて会った和田総括の印象は?」

 西村の問いかけに未だ息が落ち着かない神室は顔をしかめる。

「巨大なガマガエル」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ