【ディレットーソ】3 ~生徒会室の場合~ ◎挿絵あり
[場所:生徒会室]
[吹雪]:「…………」
[聖奈美]:「…………」
[吹雪]:「…………」
[ダルク]:「はい、聖奈美。五年前までの水質調査の結果」
[聖奈美]:「ええ、ありがとう」
[吹雪]:「杠、ホッチキスの針がなくなっちまったんだけど」
[聖奈美]:「なら、入り口のところの棚、上から二番目にあるはずだから勝手に取って。もしなかったら黒い紐か何かで縛ってまとめてちょうだい」
[吹雪]:「ああ、上から二番目っていったか?」
[聖奈美]:「ええ、そうよ」
[ダルク]:「あ、いいよ吹雪。私が取ってくるよ」
[聖奈美]:「ダルク、行かなくていいわ。それくらい大久保にもできるでしょう」
[吹雪]:「ああ、ダルクはダルクの作業してくれていいぞ」
[ダルク]:「そ、そう?」
[吹雪]:「ああ、えっと、二番目……」
――このような構図になったのは、今から一時間くらい前に遡る。
[吹雪]:「さてと、用もないし、部活もないし、どうしよう。帰ろうかな」
[翔]:「ふーぶきちゃん、あーそびーま――」
[吹雪]:「よし、帰ろう」
[翔]:「まだ言い終わってないのに!」
[吹雪]:「ああ、翔か」
[翔]:「知ってただろうよ、オレが来てたことに……」
[吹雪]:「悪い、近頃耳が遠くてな」
[翔]:「うう、ホントに最近冷たいな吹雪は。名前どおりになってきちゃってるぜ」
[吹雪]:「そんなこといいから、用件は何なんだ? 端的に言ってくれ」
[翔]:「ああ、この後暇なら、ちょっと街まで行って――」
[吹雪]:「ああ、ちょっと難しいな、それは」
[翔]:「まだ言い終わってないのに! パート2!」
[吹雪]:「元気だな、お前は」
[翔]:「何でだよ? 暇だって言ってたじゃん。どうしようって自問してたじゃん」
[吹雪]:「確かに何も用事はない。が、お前に付き合えるほど俺は暇じゃあないんだ」
[翔]:「何だよそれは! お前は例外みたいな、そんなにぞんざいに扱わなくてもいいじゃん!」
[吹雪]:「だって、疲れるんだよ、お前といると」
[翔]:「ぐっはぁ! そ、そんなストレートに」
[吹雪]:「行事の特訓も始まった今、お前に付き合ってたら体力が保たない。よって、お前に付き合っている暇はないんだ」
[翔]:「オレって、そんなに邪魔者なのか?」
[吹雪]:「まあ、場合による、そこまで気にするな」
[翔]:「気になるよ! 場合によるなんて言われたら!」
[吹雪]:「ま、とにかく。今日は大人しく帰ったらどうだ? 罰は当たらないだろう」
[翔]:「うう、吹雪の、バカ……」
男にそんな言葉言われても、あまりぐっとはこないな。さて、翔の追撃を払いのけたわけだけど、本当に何しようかな。ちょうどその時だった。
[聖奈美]:「大久保、大久保はいる?」
ドアのところで俺の名前を呼ぶ声。そこにいたのは杠だった。とりあえず俺はあいつのところに向かった。
[聖奈美]:「いるのなら返事くらいしなさい、失礼でしょう」
[吹雪]:「悪い。で? 何だよ、お前が俺のところにくるなんて珍しいな」
[聖奈美]:「もちろん、用があるから来たのよ。それ以外何もないわ」
[吹雪]:「…………」
[聖奈美]:「な、何よ?」
[吹雪]:「いや、当然のことを言ってるのは分かるんだが、何かちょっと悲しい気持ちが」
[聖奈美]:「あなた、それ以外のことを考えてたっていうの?」
[吹雪]:「そういうわけじゃあないんだが、よく分かんないな。いいや、忘れてくれ」
[聖奈美]:「変な男ね、まあいいわ。こんな話をしにきたわけじゃないのよ。あなた、この後時間あるかしら?」
[吹雪]:「時間? ああ、特に予定らしいものは入ってないが」
[聖奈美]:「なら――少しあたしに付き合いなさい」
[吹雪]:「え?」
[聖奈美]:「そ、そういう意味じゃないわよ! 生徒会よ、生徒会」
[吹雪]:「ああ、そういうことか」
一瞬ドキっとしてしまった。
[聖奈美]:「単純に考えて分かるでしょう?」
[吹雪]:「翔あたりなら絶対に勘違いするだろうな」
[聖奈美]:「あ、あれは別物よ。あれを普通の人と一緒にしちゃいけないわ」
[吹雪]:「なかなか言うじゃないか」
[聖奈美]:「自業自得よ、彼が勝手にまいた種なんだから」
[吹雪]:「そうだな」
全てはあいつのせいに違いない。
[吹雪]:「で、何で俺が生徒会に? 俺より詳しい人はたくさんいるはずだが」
[聖奈美]:「本当なら、生徒会の仕事は生徒会に頼むわよ。前回も手伝ってもらったばかりだし……ただ今日も人手が足りないのよ。もともと少人数の活動だから、人手が足りないのはいつものことなんだけど、このままじゃあ軌道に乗りきれないのよね。だから、あなたに援護を要請したいの。手伝ってもらいたいのは綴じ込み作業だから、以前やったことがあるあなたなら無難にこなせると思って。それが一番の理由よ」
[吹雪]:「なるほど」
[聖奈美]:「やってもらえないかしら?」
[吹雪]:「やってもいいが、それ以外には何も手伝えないぞ? 生徒会のことは全く分からないから」
[聖奈美]:「心配いらないわ。生徒会の仕事はあたしがこなすから。大久保は綴じ込みに専念してくれれば」
[吹雪]:「そうか、だったらいいぞ。手伝おう」
[翔]:「なーぜーだー」
[吹雪]:「うおっ!?」
[聖奈美]:「きゃあっ!?」
[吹雪]:「お、お前、帰ったんじゃなかったのかよ」
[翔]:「別にいいじゃないか、帰るも帰らないもオレの勝手だ。それより、どうしてなの? どうしてオレの誘いは断るのに、杠の誘いはそんなあっさりと了承するの?」
[吹雪]:「そりゃあ、決まってるだろ」
[翔]:「何だよ」
[吹雪]:「お前にかまってたら疲労がたまるからだよ」
[翔]:「チクショーーーー! 吹雪のおバカー! えーーん!」
翔はすごいスピードで教室を去っていった。
[聖奈美]:「いいの? あんなこと言って」
[吹雪]:「心配ない、あいつは明日になったら今日のこと忘れてる」
[聖奈美]:「そ、それはそれでいいのかしら……」
[吹雪]:「ま、あいつのことはどうでもいいじゃないか」
[聖奈美]:「そ、そうね。じゃあ行きましょう」
俺たちは生徒会室へと向かった。
……………………。
というわけだ。今もせっせと作業をしている最中だ。
[吹雪]:「よっと……」
[ダルク]:「よいっしょ」
[聖奈美]:「二人とも、後どれくらいかかりそう?」
[ダルク]:「うーんと、残ってるのが20部くらいだから、15分くらいかな?」
[聖奈美]:「15分、分かったわ。終わったらまた知らせてちょうだい。違うのを用意するから」
[吹雪]:「分かった」
[聖奈美]:「次はこれをしなくちゃ」
杠はすぐに違う用紙に慣れた手つきで文章を書いていく。淀みなくスピーディに仕事をこなしていく姿は、確かに生徒会長の趣があった。
[ダルク]:「どうしたの? じっと見て」
[吹雪]:「いや、何でもない」
[ダルク]:「そう? ひょっとして疲れた?」
[吹雪]:「そんなんじゃないさ、問題ない」
[ダルク]:「無理はしなくていいからね」
[吹雪]:「おう、サンキュー」
会話しながらも手は動かす。大分体に染み着いてきたな、この作業。
[吹雪]:「あれ? そういえば今日は祐喜はどうしたんだ? 姿が見えないけど」
[聖奈美]:「祐喜なら、他のメンバーと部室の検査に行ってるわ」
[祐喜]:「部室の検査?」
[聖奈美]:「そう、定期的に行ってるものよ。あなたたちのところにも、生徒会が来たことあるでしょう?」
[吹雪]:「そう言われれば、確かに……」
[聖奈美]:「あたしたちは生徒を信じてる。でも、絶対に何もしてないって保障はない。だから、あたしたちが直々に出向いて、そういう悪いことをしてないか、変なものがあったりしないかをチェックしてるわけ」
[吹雪]:「なるほどな」
[聖奈美]:「まあ、当たり前のことだけどね」
[吹雪]:「で、問題は起きてないのか? 今のところ」
[聖奈美]:「不審物とかは出てないけど、お菓子とかが出てくる時があるわね。特にサッカー部とかバスケ部とかね」
[吹雪]:「そうか」
[吹雪]:「過去に何回あったんだ?」
[聖奈美]:「あたしたちが引き継いでから、二回ほどあるわね」
[吹雪]:「引き継いだのはいつだ?」
[聖奈美]:「9月からよ」
[吹雪]:「……頻度高くないか?」
[聖奈美]:「よっぽど食べたいんでしょう? お腹が減ってるからなんだろうけど、それなら家に帰って夕ご飯食べないと」
[吹雪]:「まあ、そうだな」
[聖奈美]:「だから、サッカー部とバスケ部は厳しめに見てもらうようにしてるわ。同じ問題を起こしかねないからね」
[吹雪]:「やっぱりあるんだよな? ペナルティとか」
[聖奈美]:「もちろん、二回までは注意だけだけど、三回やらかしたらもう容赦せずに罰するつもりよ」
[吹雪]:「その罰とは?」
[聖奈美]:「至ってシンプルよ。部費をさっ引いてやるわ」
確かにシンプルだ。だが威力はこの上ないな。
[聖奈美]:「サッカー部やバスケ部は部費を他の部よりも多くもらっているから成り立っているわけでもある。もし、その一部を減らされたりしたら……もう言わなくても分かるわよね」
[吹雪]:「あ、ああ」
[聖奈美]:「まあ、絶対にもうしませんって意欲が見えれば返してやらないこともないけどね。懲りないようならそのまま生徒会が預かっておく。あなたたちの部活も、そんなことにならないように注意することね」
[吹雪]:「肝に銘じておく」
[聖奈美]:「賢明ね」
そう返し、杠はまた机に向かっていく。俺も、仕事に集中するか。
……………………。
…………。
……。
[聖奈美]:「よし、今日はここまでにしましょう」
[吹雪]:「ふう」
[ダルク]:「終わったー」
肩の力をふっと抜く。
[ダルク]:「お疲れ、吹雪」
[吹雪]:「お疲れ、ダルク」
同じ仕事を担当していた者どうし、互いに労をねぎらう。
[聖奈美]:「うん、大分綺麗にまとまったわね」
俺たちの脇にはここ数時間で綴じ込んだ資料の山。
[聖奈美]:「まあ、上出来じゃないかしら」
[吹雪]:「そりゃどうも」
[聖奈美]:「少し見ていたけど、随分手つきが滑らかだったわね。何かその手の仕事でもしていたの?」
[吹雪]:「いや、そんな仕事はしてないが。あれだと思う、俺の所属部での活動」
[聖奈美]:「ん、魔法研究部、だったかしら?」
[吹雪]:「そう。主に作品制作を活動としてるからそれがいい感じにこっちでも活かせたのかもしれない」
[聖奈美]:「ふーん。まあ、綴じ込みは誰でもできる簡単な作業でもあるんだけど」
[吹雪]:「それを言わないでくれよ……」
[聖奈美]:「だからこそ、差がつきやすくもある。もっと早くできるように頑張りなさい」
[吹雪]:「手厳しいな……」
というか、次もやらなければいけないのか? 俺は。
[聖奈美]:「さあ、下校時刻も近いわ。あたしたちも校舎を出ましょう」
――そんな放課後の出来事だった。




