【アニマート】優しい保健の先生 2
[場所:保健室]
さて、先生いるかね。俺は保健室のドアをノックした。
[フェルシア]:「はーい、どうぞー」
[吹雪]:「失礼します」
ガラガラ。
[フェルシア]:「――あ、吹雪くんじゃない」
イスに座っていた背の高い先生がこちらに歩み寄ってきた。
[吹雪]:「フェルシア先生、いつも姉が世話になってます」
この人が、さっきマユ姉がフェルと呼んでいた先生だ。
本名はフェルシア・アスタルテ。保健の先生であり、実技の先生でもある。保健の先生だけあって、フェルシア先生は回復系の魔法が長けていて、生徒の傷をしっかりと治してくれる。まあ、怪我してなくても来る生徒も多数いるようだが。マユ姉とはすごく仲がいいようで、よく構ってくれているようだ。
[フェルシア]:「どうしたの? 体調が優れないのかな?」
[吹雪]:「いえ、全然。元気ならとてもありますよ」
[フェルシア]:「あら、どれくらい?」
[吹雪]:「そうですね。マユ姉をぶん投げられるくらいですかね」
[フェルシア]:「吹雪くんなら元気なくても投げれるでしょう? マユは軽いもの、私と違って」
[吹雪]:「そんなことないですよ。先生は全然太ってないじゃないですか」
先生で太っているなど言ったら、世の女性全てを敵に回すことになるぞ。
[吹雪]:「それに、先生は身長ありますし。マユ姉より体重があるのはどうしたって当たり前のことですよ」
俺より大きかったりするしな、フェルシア先生は。
[吹雪]:「気にする必要などこれっぽっちもありませんよ」
[フェルシア]:「うふふ、そこまで言ってもらえると、少し自信が沸いてくるわね」
[吹雪]:「いや、本当のことですよ」
[フェルシア]:「ありがとね、あ、お茶でも出すわ。座って」
[吹雪]:「いいんですか?」
[フェルシア]:「時間、まだあるでしょ? 少し付き合ってよ、暇だから」
イスに座ってと手招きされる。
[吹雪]:「じゃあ、失礼します」
俺は言われるままに座った。
[フェルシア]:「えっと、あ、これかな?」
急須にお湯を注ぎいれながら、何やらポケットを探っている。そこから出てきたのは――。
[フェルシア]:「はい、どうぞ」
[吹雪]:「先生、いいんですかね?」
先生はお茶とチョコレートをお皿に乗せて持ってきた。
放課後ならいいんだろうが、まだ学園の中だからして、お菓子を食べるのはよろしくないと思うんだが。
[吹雪]:「食べてたんですか?」
[フェルシア]:「うふふ、つい、おいしくってね」
舌を出しながらそう言った。
[フェルシア]:「共犯ってことにさせてもらうわ。いいでしょう?」
[吹雪]:「もしバレたら先生の名前出していいんですよね?」
[フェルシア]:「バレないわよ、大丈夫」
[吹雪]:「じゃあ、いただきます」
先生の好意に甘えることにしよう。
[吹雪]:「あ、そうだ」
甘える前に、言われたことは消化しておかなければ。
[フェルシア]:「なに?」
[吹雪]:「はい、これを姉が先生に渡してくれって」
封筒を先生に手渡した。
[吹雪]:「何かは聞いてませんが」
[フェルシア]:「ああ、多分あれよ、あれ」
[吹雪]:「あれって言いますと?」
[フェルシア]:「んーっと、宿題の問題とか、授業中に聞かれそうな質問とかに関する答えとか」
[吹雪]:「え、じゃあ先生がその答えを考えてるんですか?」
[フェルシア]:「ううん、違うわよ。マユが自分で出した答えを、私がチェックしてるのよ。これはちょっと理解に難しいとか、この答えはおかしいって感じで」
[吹雪]:「なるほど」
[フェルシア]:「見えないところでマユは努力してるのよ、びっくり?」
[吹雪]:「まあ、少し。でも、先生にまで協力してもらっていいのかな」
[フェルシア]:「いいに決まってるわよ。教師間は助け合いが必須なんだから。それに、私は毎日授業があるわけじゃないし、手伝わない理由はないわ」
[吹雪]:「優しいですね、先生は」
[フェルシア]:「あら、吹雪くんには負けるわよ」
[吹雪]:「はい? 俺ですか?」
[フェルシア]:「そうよ、いつもマユから聞いてるわよ。吹雪くんの活躍っぷりは」
[吹雪]:「言わなくていいのに」
[フェルシア]:「毎日家事をやってくれてるらしいじゃない。ワタシが教師を続けられてるのは吹雪くんがいるからって言ってたわ。笑顔でね」
[吹雪]:「マユ姉は、家事できませんからね。俺がやるしかないんです」
[フェルシア]:「まあ、そうでしょうね。あの子、見た目からしてできなそうだし」
悪い意味で期待に答えてしまってるからな。
[吹雪]:「好きで進んでやってるわけじゃあないんですよ」
[フェルシア]:「まあ、そうよね。家事は女の仕事みたいなものだもんね」
[吹雪]:「少しでいいから覚えてほしいものですよ。皿洗いとかでいいから」
[フェルシア]:「あ、それもできないんだ」
[吹雪]:「はい、必ず一枚は割っちゃいますから」
[フェルシア]:「……筋金入りなのね」
[吹雪]:「そうなんですよ」
[フェルシア]:「まあ、マユらしいといえばマユらしい、か」
[吹雪]:「それくらいできないでどうするの、って思うんですけどね」
[フェルシア]:「甘えてるのかもしれないわよ、吹雪くんに」
[吹雪]:「……甘えきってると思うんですけどね」
[フェルシア]:「まあまあ、その分、暮らすためのお金を稼いでるわけだし」
[吹雪]:「そうなんですよね」
そこが一番のポイントだ。何だかんだ言っても、マユ姉が給料をもらってくれてるから、こうして二人で生活が可能なんであって。稼ぎがなければ、俺一人では家計を賄っていくことは不可能だ。
[フェルシア]:「せめて学園卒業まではやって上げないと、ね」
[吹雪]:「そうですね、やるつもりではいますけど」
[フェルシア]:「うん、エライ。それでこそ吹雪くんね」
[吹雪]:「いや、そんなことは」
俺はお茶を一口啜った。
[フェルシア]:「あ、そういえば聞いたよ。マジックコロシアム出るんだってね」
[吹雪]:「マユ姉からですか?」
[フェルシア]:「ええ、というより、結構噂になってるみたいよ」
あの二人の仕業なんだろうか?
[フェルシア]:「優勝候補の一角だとかなんとか」
[吹雪]:「そんなこと言ってたんですか?」
[フェルシア]:「ううん、私が今考えた」
[吹雪]:「先生」
[フェルシア]:「うふふ、でも、嘘じゃないわよ。私は優勝する可能性はかなり高いと思ってるわ」
[吹雪]:「そうなんですか?」
[フェルシア]:「ええ、吹雪くんの部活の副顧問ですからね、こう見えても」
指で自分を差しながら。
[吹雪]:「補正かけてるんじゃないですか?」
[フェルシア]:「かかってもかかってなくても好勝負が期待できるわね」
[吹雪]:「そうですか?」
[フェルシア]:「だって、何だかんだ言っても、吹雪くん、上位進出狙ってるでしょう?」
[吹雪]:「ま、まあ」
やるからには、全力で望まなければもったいないからな。俺で通用するのかがよく分からないが。
[フェルシア]:「応援してるわ、がんばって」
[吹雪]:「はい、先生は明日は救護班に回るんですか?」
[フェルシア]:「おそらくね。無傷で終わる試合は多分ないと思うからね」
そりゃそうか、コロシアムだからな。
[フェルシア]:「あらかじめ自然治癒の魔法を出場者にかけておくってのもありかもしれないけど、そこまでタフじゃないからな、私は」
[吹雪]:「先生がいるからこそ、こういう大会も開催できるんだと思いますよ」
[フェルシア]:「ふふ、本当に吹雪くんはいい子ね。マユに譲ってもらおうかしら?」
[吹雪]:「いやいや、先生はもっといい男ゲットできますよ」
[フェルシア]:「……結構本気なのに、残念」
冗談、だよな、うん。
[吹雪]:「先生も頑張ってください、明日」
[フェルシア]:「ええ」
ちょうど、授業5分前のベルが鳴った。
[吹雪]:「おっと、そろそろ行かなきゃ」
[フェルシア]:「もう少し話したかったわね」
[吹雪]:「また今度ってことで、ごちそうさまでした」
[フェルシア]:「ええ、また来てね?」
[吹雪]:「はい、失礼します」
俺は頭を下げて保健室を後にした。応援してもらったし、やれるだけのことはやらないとな。




