2-4 作ってほしいもののリスト
実際には煮干しベースのスープにするときにはわたぬき(内臓部分を手で取る)作業が必要らしいのですがしない店もあるらしいので割愛します!
ズゾゾゾ……。
豪快に麺をすすり上げる音が工房の中に響いた。
「んっ! こりゃあ、うまい!!」
ゴリオンの目が見開かれた。
「だろ?」といわんばかりに新見はにっと笑いながら喜ぶ。
「最初の口当たりは煮干しのスープ特有の魚の香りとほのかな苦み、そこから肉系…コカトリスじゃな!浮いてる油がネギの風味を帯びていてスープ全体の臭みを無くしあっさりとさせておる。
煮干し特有の微妙な苦みが逆にこのスープにさらなる深みを出しておって塩味も丸くさせて実に相性がいい…!」
何故か食レポを始めたゴリオン。
「なるほど。これはパスタのようにソースで絡めるのではなくスープと絡めることを前提とされている麵…今までにない独特の歯ごたえの中には小麦の香り…これも煮干しの風味と相まってさらにうまい!
パスタではこうはいかん。この組み合わせはあえて表現するなら…」
「おっさん、感動していろんな言葉で表現してくれるのはありがたいんだけど麵が伸びるぜ。」
おっといけないというような表情になるとゴリオンは食べてる途中のラーメンを空にする。
勢いよくスープを飲み干すと、空になった椀をドンと作業台に置いた。
「いやぁ、驚いた! 完敗じゃ!」
膝を叩いて笑うその声に、入口で見ていたドワーフたちが一斉にざわめく。
「おい、俺も食わせろ!」
「おれも!」「ずるいぞ親方!」
その光景を見て、新見は苦笑を浮かべた。
いきなり忙しくなる厨房。
新見の手際を見ていた調理担当のドワーフにも手伝ってもらい何とか人数分のラーメンを提供する。
新見が次々にお椀を差し出すと、工房の空気は一気に活気づいた。
湯気の中で、ドワーフたちが口々に感嘆の声を上げる。
「うおぉ、うまいっ!」「なんだこの香りは!」「親方がうなるわけだ!」
調理場にはいつのまにか称賛の声で一杯になる。
全員が食べ終わり、ようやくひと段落したところでゴリオンが声をかける。
「さて、約束じゃからな。」
ゴリオンは腰の革袋から紙と羽ペン、それに小さなインク壺を取り出して新見に手渡した。
「お前さんのラーメン作りに必要なものをここに書いとくれ。あと、若いのに聞いたが”醤油”がほしいんじゃろ?」
「あ、あぁ。市場にもいったんだけど全然売ってなくて…」
「そりゃ当然じゃ。醤油は貴族や王族御用達の調味料なのじゃが…」
え?そうなの?問わんばかりに驚いた表情をする新見。
「ちょうど伝手がある。しばらく切らしたままじゃからそろそろ取りに行かんといかんし…それに…頃合いじゃからな。」
最期の意味深な言い方にさらに困惑する新見。
「頃合い?」と新見が訊くが
「こっちの話じゃ。そういえば店舗とかはどうするんじゃ?店舗を構えるってんならワシらが保証人になってもお前さんなら問題ないぞ?」と気前よく言うゴリオン。
「ありがたい申し出なんだけど、せっかくだから移動式店舗…屋台を引いてみたいなぁ。魔王討伐RTAでほとんど戦場みたいなところしか行ったことないし。どうせならいままで行ったことのない場所も行ってみたいんだ。」と語る新見。
「ほっほっほ、あーるてぃーえー?っというのはよくわからんがいろんなところに行きたいか!そりゃいい!この広い世界を回っているうちに20年なんてあっという間じゃろうて。
そんなら、作ってほしいもののリストが出来たらワシのところへ持ってこい。うちの若いもんにも作らせたるわい。」
そう言うと、ゴリオンは大きく伸びをして肩を鳴らした。
「まだまだ仕事が残っとるから、ワシは先に戻るぞい。」
手を振りながら作業場へ戻っていくゴリオンの背中を見送る新見。
他の作業員の邪魔にならないよう厨房の作業台に紙を広げ、羽ペンを走らせた。
まな板。
包丁。
麵きり包丁。
長めの麺棒。
麵打ち用の大きいまな板。
寸胴鍋。
レードル。
・・・
と、思いつくままに次々と書き連ねていく。
製麺機。
茹で麺機。
テボ(麺茹で用のざる)。
(特にこの三つはこの世界に無い地球の技術。さすがのゴリオンでも時間がかかりそうな代物だ。)
そう思った新見はペン先を軽く置き、紙を見つめて息をつく。
「とりあえず、こんなもんか。」
ちょうどリストを書き終えたところで、入り口から聞き慣れた声が響いた。
「どうだい?調子は?」
顔を上げると、そこには休憩がてらこちらを覗いていたゴリオンがいた。
「お、おっさん。ちょうどできたところだ。」
新見はリストを差し出すとゴリオンは器具の名前がびっしり並ぶ紙を受け取り、じっくりと目を通した。
「まな板、包丁、鍋……なるほど、基本的に厨房で使うものがほとんどじゃな。一部は作らずとも買う方が質のいいのが安く手に入るぞ。」といい近くの金物屋の地図と買えるもののほかに何かをリスト上に書き込んでいく。
「屋台にするといっとったがもうすでに誰かに設計とか頼んでおるのか?」とゴリオンが新見に問う。
「それなんだがおっさん。王都についてすぐここに来たから設計とかの依頼はまだなんだ…」と新見が言うと
「なるほどな、せっかちなお前さんのことじゃからそう来ると思っとったわい。よしわかった!
屋台の設計もワシらの工房が請け負おうじゃないの。早速若いのに追加で話をつけてくるからその間に地図に描いてある金物屋で買い物でもしといてくれ。
わしの名前を出せば少しは融通してくれるじゃろうて。」とリストを返したゴリオンはそそくさと工房へ戻っていった。
リストには小さな地図が書いてあったので新見は早速向かうとここもドワーフが経営していていかにも女将と言わんばかりの貫禄のある女性ドワーフが店番をしていた。
「あのー、すみません。おっs…ゴリオンの親方からの紹介できたんですけど…」と新見が話しかけると
「おや?めずらしいねぇヒューマンのお客さんなんて。何が要るんだい?」と言われ新見はリストを渡しながら「このリストにマーキングしてあるものが欲しいんだけど…」と女将の勢いにちょっと気圧されながら話す。
「へぇ~、あの頑固おやじの紹介ってのは本当のようだねぇ。ほらここにあの親父の一文とサインがドワーフ語で書かれているんだけと手癖が特徴的でねぇ…」リストを見ながら指さす女将ドワーフ
「あの~姉さん、信用してもらってありがたいんだけど早速商品を見たいんだけど。」と女将の話を遮ると「やだねぇ、もう姉さんなんて呼ばれる年じゃないわよ。そりゃあたしも昔は…」と昔話をしつつ新見の背を笑いながらスパンスパンと叩く。
叩く力が思いのほか強くてたまらず悶絶する新見。
「っていけないいけない、うっかり話し込んじゃうところだったわぁ。お兄さんドワーフの扱いがうまいねぇ。あの頑固おやじの紹介だったりあたしのことを姉さん呼びするなんて、あんた、よく”ドワーフたらし”って言われない?」と上機嫌でリストの商品を確認しながら店の奥へ向かう女将に「ハハハ…」と苦笑いしながら(やっぱりどの世界でも”オバハン”という生物は苦手だ…)と少しげんなりする新見。
しばらくすると奥から女将がいろんな調理器具を持ってきてカウンターが一杯になる。そして、それぞれ商品を見ながら真剣な表情でそろばんで見積もりをする女将。
見積もりを終えて「合計12万3,000ゴルド。だけどあそこの親方の紹介ってことで10万ゴルドでいいわよ。」
「え‟?そんな悪いよ。しかも結構いいものばっかじゃないですか…」あまりの潔さに思わず謙虚になる新見。「あー、気にしないで、あの頑固おやじ滅多に人を紹介してくれないんだし、調理器具ばっか買うってことはドワーフ達の舌をうならせたってことでしょ。ヒューマンがそうさせるなんてあたしの長いドワーフ人生でも初めて聞いたんだもの。」と商品のリストを見ていろいろ察してくる女将。
「で?何を出したんだい?」なんだかおっかない目つきで新見に詰め寄ると。
「ラ、ラーメンです…」とはぐらかすと絶対面倒になると思った新見は即座に白状した。
「へー、聞いたことない料理だね。ま、近いうちに店を出すんだろ?ぜひとも顔を出させておくれよ。」
と挨拶もほどほどに会計を済ませる新見。
幸いにも勇者時代からギルドで賞金稼ぎしてるのに加え、あまり出費しなかった(下戸なのと飯がまずすぎて使うところがあまりない)お陰で10万ゴルドも即金で払うことができた。
(安くしてもらったとはいえ全財産の10%近くも持っていかれた…初期費用かさむとは思っていたけどここまでとはなぁ…これに屋台の設計やら作成の費用もかかるとなると…)
だんだんと寒くなりうる懐に足取りもなんだか重くなった気がした新見であった。
(1円=1ゴルドという計算です…カワセノケイサンメンドクサイ…)
10万ゴルドは庶民換算でだいたい3か月食うに困らないぐらいの価値なので超高級な調理器具を購入したことになります。(プロ御用達の包丁とか鍋を使ってる感じです。)
次回から屋台の設計やら器具の設計です!
(ちなみに彼のの所持金はだいたい100万ゴルドで今回で残りだいたい90万ちょいです)




