2-2 帰れるまでの間なにするか俺は決めたんだ!
ここの世界のドワーフは美食家で人族の味付けの料理が口に合わない設定です。
「まさかお主が昔教えた裏口から合図のノックを使って入ってくるとはな…何か訳ありなのじゃろ?」
年の功と言わんばかりに新見の状況を察するとゴリオンは手際よく奥の机を片づけ、椅子を二つ出し、棚から小瓶のワインと煮干しを取り出した。
椅子に腰かけた二人。
そして新見が「それがさ、おっさん。聞いてくれよ…」とワインを片手にゆっくりと語り始めた。
魔王討伐の後に何があったのか。
なぜ今、再び王都に戻ってきたのか。
そして、これから何をしようとしているのか。
魔道具のランプの炎が二人の影を映しながら夜はさらに更けていった。
「ふむ…まさか帰り道がその“めんてなんす”とかいう理由で塞がれておるとはな。それに、凱旋したら今度は政の駒にされる…か。」
ゴリオンはワインをちびりと飲み、深々と息を吐いた。
「そうなんだよ!だからさ、帰れるまでの間なにするか俺は決めたんだ!ラーメンを作って売りたいんだ!」
力説する新見の声が、部屋中に響く。
「……らーめん?」
ゴリオンは眉をひそめ、煮干しをぽりぽりと噛み砕いた。
「お前さんのことじゃ。どうせ、わしら凡百の職人には思いつかんような代物なんじゃろう?」
その口ぶりには、どこか楽しげな響きがあった。
まるで「また面白いものを見せてくれ」と言わんばかりだ。
というのも
ゴリオンが新見に一目置くようになったのは、あの出来事があってからだ。
------------------------
まだ新見がこの世界に来て間もない頃。
当時調理担当のドワーフ達が丁度全員病でしばらく安静が必要になってしまった。
だが鍛冶一筋の職人たちだけでは料理はできず、舌が肥えてるドワーフにとって屋台などの食事はまずすぎて炭を食べてるのと同義だと言わんばかりに毛嫌いしてる。
そんな時に新見が武器を新調しようと工房を訪れると腹の音がが常に響く工房。それを見かねてありあわせの材料で料理を振舞ったところドワーフ達に大好評。
(もともと一人暮らしで簡単に作れる野菜ときのこの炒め物とか焼き魚に塩あんかけをかけたのを振舞っただけなんですけどね…)
「いやー、王都の飯がまずくて餓死するとこじゃったわい。」
人族の味付けに不満を持つ者同士、種族を超えて妙に気が合った二人はその後、武器づくりのアドバイスやら相談とかに乗る仲に、そのさなか現代知識を披露する新見が異なる世界からきた転生者であることをゴリオンが見抜いたり、身バレついでに新見は勇者であることや魔王を退治したら元の世界に帰れるかもしれないなどと気が付けば転生した新見にとってゴリオンは一番に気を許せる友人となっていた。
------------------------
「ラーメンってのはな、スープの中に麺を入れて食べる料理なんだ」
新見は身振り手振りを交えながら説明を始めた。
「スープの味、麺の形や太さ、茹で具合、そして上に乗せる具材、その組み合わせでいくらでも表情を変えられる料理で例えば濃い味のスープに太麺を合わせたり、あっさりしたスープに細麺を入れたりしてて俺の世界じゃわりと普通の料理なんだけど奥が深くて…」
ゴリオンは腕を組み、ふむふむと聞いていたが、途中で首を傾げた。
「…つまり、スープに入ったパスタのようなもんか?」
「まぁ、簡単に言えばそんな感じだな。けどラーメンは地方ごとに味も作り方も違ってな塩、味噌、醤油スープに豚骨、魚介だしを入れたりとか…そのバリエーションはまさに無限大なんだ!」
「むう…なんだか頭がこんがらがってきたわい。じゃが…なんだか、腹が鳴る話じゃのぅ。」
ゴリオンは照れ隠しのように笑い、机の上の煮干しをつまんだ。
その煮干しを見た新見は、ふと口元をゆるめた。
「その煮干しだってそうだ。こいつもいい出汁が出るんだよな。」
「こいつがか?」とゴリオンは手に持った煮干しを凝視する。
「そう。スープの材料の一つだ。…よし、百聞は一見に如かずだな。」
新見は立ち上がり、にやりと自信ありげな笑みを浮かべた。
「明日、俺がその煮干しを使って“ラーメン”ってやつを食わせてやるよ。」
「ほう……面白い。なら明日の一杯、楽しみにしとるわい!」
ゴリオンは豪快に笑い、胸をドンと叩いた。
「もしワシの舌をうならせることができたなら、その“ラーメン”に使う器具全部、ワシの工房が受け持っちゃる。なーに、金はいらん。お主には恩義もあるしのう!」
「恩義?」
新見は心当たりがなさ過ぎて腕を組みながら首を傾げた。
ゴリオンはワインをぐいと飲み干し、にやりと笑うと奥の部屋から毛布を手渡す。
「もうこんな夜更けじゃ。今日はここに泊まっていけ。今隣の仮眠スペースは今誰もおらんし、好きな部屋を使うといい。」
「え?いいのか?助かるよ。」
毛布を受け取った新見は、隣の仮眠スペースに入り、がらんとした場所に腰を下ろした。
毛布を広げてみると、どう見てもドワーフサイズ。人間の子ども用より少し大きい程度しかない。
「あ、そういえばそうじゃん…」と苦笑しつつ、毛布を腹にだけかけ、鞄を枕代わりにして横になる。
「…案外、悪くないな。」
そう呟くと同時に、すぐに眠りへと落ちていった。
次回からとうとうラーメン製作に取り掛かります!
そこから屋台までの下準備が長くなる気がしますが…




