1-3 どういうことだよ!神様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
時は戻って、魔王城。
「いやー、やっとこさ地球に帰れるぜ。まさかこっちの世界のメシが基本は食材に塩か素材そのままの味しかないし、高いところはぎりぎり食えるけど懐具合的に常に利用するわけにはいかないし…けどもうそんな生活とはおさらばだ!元の世界に帰ったらまずはいつものラーメン屋でラーメン食うのもいいなぁ……こっちじゃラーメンないし。…なんか出所前の受刑者みたいなセリフだな…」
と独り愚痴る孝。
玉座の後ろへ回りながら、彼はぽつりとつぶやく。
「ド●クエの1とか3だと、この下にダンジョンへの階段があるんだよなぁ」
玉座の裏の床を見回すが、何もない。
「まぁ、ですよねぇ~」
肩をすくめつつ、次元ゲートらしき壁のインターフェースに手を伸ばす。
「いざ、地球へ!」
…何も起こらない。
「え?…あれ?なんかどっかに説明書とかない?」
辺りを見渡しても、特に案内や本棚のようなものはない。
「もしかして日本語とか別言語じゃないとダメとか?」
英語、エルフ語(っぽい何か)など、思いつく限りの言葉で試してみるが反応はなし。
「うあ~、どうなってんだよコレ!」
と台パンならぬ壁パンを一発。
すると、壁面に文字が浮かび上がる。
“メンテナンス中
ただいま次元ゲートのメンテナンスを行っております。
ご不便をおかけしますが、復旧までしばらくお待ちください。
推定メンテナンス期間:20:221:13:04:56”
右端の数字が、秒単位でカウントダウンしている。
孝は呆然とつぶやいた。
「なんだこれ…メンテナンス中?しかもこれ……分、時、日、年……20年!?」
天を仰ぎ、魂の底から叫ぶ。
「どういうことだよ!神様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
孝のむなしい叫びが、誰もいない魔王城にこだまするのだった。
再びインターフェースをのぞき込む孝。
よく見ると、隅の方に『お問い合わせフォーム』と書かれた黄色い丸いボタンを発見する。
「ちくしょう……こうなったらモンスターじゃないけど、”勇者クレーム(?)”でも入れなきゃ気が収まらん!」
と、勢いよくそのボタンを押し込んだ。
prrrr prrrr……
『お電話ありがとうございます。こちら、次元ゲートお問い合わせフォームでございます。本日はどのようなご用件でしょうか?』
丁寧な男性の声が響く。
「えーっと……次元ゲートの件なんですけど、20年のメンテってどういうことっすか!?
使用頻度低いからって、長めにメンテしてもバレないと思ってんすか!? そこんとこどうなんすか!?」
孝、もはや完全にクレーム入れるチンピラのテンションである。
『ぷくっ……くくく……』
突然、受話口の向こうで笑い声が漏れる。
「……あれ? なんか笑われてない?」と眉をひそめた瞬間…
『いやー、ごめんごめん。まさか本当に魔王倒しちゃうとは思わなくてさ。びっくりしたよ!』
その声に孝はピタリと固まる。
ゆるすぎる声、どこかで聞いたテンション。
「……この声、このゆるさ……もしかして転生の時の神様!?」
「ちょっと、何してんすか!? サポート窓口でバイトでもしてんすか!?」
驚きすぎて、さっきまでのクレームの勢いを完全に忘れる孝。
「え? だってこれも僕の仕事だもの」
と、相変わらずゆるゆるした声で神が答える。
「……まあ、かかってきたのは今回が初めてだけどね」
「初めて!? てか、仕事の範囲広すぎません!?」
「うーん、そうでもないよ?」と神はのんきに続ける。
「そもそも次元ゲートを使うのは神レベルの存在ぐらいでさ。
人間が使うケースはだいたい門番が止めちゃうし、一般利用なんてまず想定してないんだよね。
でも“ホットライン”は義務で設置しなきゃいけなくてさ、ほら、万が一ってあるでしょ? 現に今がそうだし」
「……その“万が一”に当てはまったのが俺と……」と孝は脱力する。
「そうそう。だからこの窓口、一本だけ。
まあ、どうせ誰もかけてこないと思ってたけどね」
神は軽い口調で言い放つ。
「いや〜、一度でいいからやってみたかったんだよね、こういう対応…じゃなくて!」と神が自分で自分のボケにツッコミを入れ、
「メンテナンスの件で連絡してきたんだよね? ごめんごめん、本題本題」と急に話を切り替える。
「あ、切り替え早っ!?」と戸惑いを隠せない孝であった。
神は先ほどまでの軽口が嘘のように、急に真面目な声色へと変わった。
「正直に言うとね……今回のメンテナンスは、僕たちの完全な想定外だったんだ」
「想定外?」と孝が眉をひそめる。
「うん。どうやら、今君がいる世界のとある国が、君を召喚した国の真似をして“勇者召喚”の儀式をやろうとしたらしくてね。
要は、次元の壁に無理矢理穴を開けたんだ。しかも……それが本当に開いちゃった」
「おいおい、マジかよ…」
神は苦笑しながら続ける。
「でもね、開けたはいいけど、召喚を終えたらその穴を閉じる過程があるんだけどその閉じ方を知らなかったみたいでさ。その結果…」
一拍置いて、さらりと言った。
「国も召喚した勇者もまるごと全部、次元の狭間に“無かったこと”になっちゃったんだ」
「…は?」
孝の顔がとある猫ミームの顔になる。
「いや、ちょっと待って。勇者召喚しようとした国?次元に穴?ここ数年でそんなアホな話、聞いたこともないんですけど?」
「だろうね。」と神は軽く頷いた。
「だって“無かったこと”になったんだから。
“無かったこと”ってことは存在そのものも、記憶も、記録も全部消える。
誰の世界にも残らない。だから君が知らないのは当然なんだよ」
「やっぱこの神、サラッと恐ろしいこと言うよな……」と孝は頭を抱えた。
「ちなみに、召喚された異世界人は今他の神々が魂の修復作業と肉体の再構築を最優先で行ってるから安心してね。修復が完了したらこの世界に向かわせるから近いうちに君と会えるかもしれないね。」
「そうか、いきなり召喚されて消滅なんてかわいそうだもんな…」と新見は安どする
(まぁ、召喚した国の人については残念だけど手遅れなんだけどね…)と神はさらっと恐ろしいことを心に思う。
神は一つ咳払いをして、話を続けた。
「それでね、開いた穴を塞ごうとしたんだけど……思った以上に影響が広がっててさ。
消滅しかけてる異世界人の修復の他にも数多の神々にも声をかけて、今“次元安定化緊急プロジェクト”を進めてるところなんだ。
かなりの神々が参加してくれてありがたかったんだけど、それでも完全復旧まで二十二年はかかる」
「二十二年……?」(プロジェクト名絶妙にダセェ…)
「そう、インターフェースに残り時間が表示されてるでしょ?結構な大規模な修復だから今からだと申し訳ないけどほぼ21年位?元の地球には帰れないのが現状なんだ…」
「そんなぁ…(´・ω・`)」孝は明らかに落ち込むが落ち込んでても仕方ないのでこれからのことを考え出す。
すると、
「お詫びというわけじゃないんだけど…」神が少し声を落として言った。
「君、このまま勇者として凱旋してちやほやされることを期待してるだろうけど、やめておいた方がいいよ」
「へ?」
心を読まれ思わず間の抜けた声を出しながらびくっとする孝。
神はつづけた
「次元の彼方に消えた国然り、この世界の人間たちはね、どうやら“勇者”の称号をまるで神の使いかの如く崇めるようなんだけどその実は、魔王や魔族を撃退する名目で王族が政治や戦争の道具にしか考えてないんだ。
だから君がそのまま帰ったら政略結婚やらハニートラップやらで残りの人生全部、自由のない国の“操り人形”として生きることになるよ。」
「マジかよ……」
孝は頭をかく。ラノベの最終章の最後のような“英雄の凱旋エンド”は、どうやら現実的ではないらしい。
神は続ける。
「本当はこれ、ルール違反なんだけどね。
“運命の神”が、君のさっきの叫びを聞いて本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになっちゃって。
主神もたまたま見てて”叫びを聞いたらわかるわぁ。あんなに頑張ってたのに報われないのはかわいそうじゃん”って、特別にこの“忠告”を許可してくれたんだ。」
「いやいや、良くねーよ!せっかく魔王倒したのに地球帰れないわ、凱旋もできないわで踏んだり蹴ったりだよ!」と孝はツッコむ。
神は苦笑しながらも、どこか名残惜しそうに言葉を続ける。
「ハハハッ、君と話してると退屈しなくて楽しいんだけどね…そろそろ僕も、次元の修復作業に本腰を入れないといけないから、
しばらくは話せなくなる。ちなみにボタンも削除しておくから、次会えるときは多分メンテが終わった後になると思うからその間は辛いだろうが何とか頑張ってほしい。補填については今すぐだと用意ができないから君がまたここのゲートを通るときに伝えさせてもらうよ。」
「おいおい、そんなログアウトみたいなノリで切るなよ!」と叫ぶ孝の声を最後に、
通信はぷつりと切れ、それと同時に『お問い合わせフォーム』のボタンも消えてった。
静寂が戻る。
一気に気が抜けた孝は、その場にへたり込み、深いため息をつく。
そして、腹の虫が、絶妙なタイミングで鳴いた。
「…ラーメン、食いたかったなぁ…」
魔王城の冷たい空気の中に、孝のつぶやきが虚しく響いた。
プロローグはここまでです。少々駆け足気味だったのでボリューム大丈夫でしょうか?良ければ感想など書いていただけるとありがたいです!




