<EP_009>道は開かれた
数日後、スパルタに戻ったペイトは、その夜に兵舎を抜け出しヴォルスの家へと向かった。
ヴォルスの家では熱烈なリーザの歓迎を受けた。
ヴォルスに殺した敵兵から切り取った耳を見せると、ヴォルスは深く頷いた。
「よくやった。正式にお前をリーザの花婿候補と認めてやろう」
「ありがとうございます」
ヴォルスの言葉にペイトはテーブルに両手をついて深く頭を下げた。
「さて、結婚式の日取りなんだが……」
「ヴォルクルスおじさん。それなんですが、2週間ほど時間を下さい。リーザとの結婚は万全の身体で臨みたいんです」
ペイトはそう答えた。
前回の状態では数日では体調が戻らず、リーザとの結婚式で失敗するかもしれないと思ったからだ。
「わかった。次の満月の日でどうだ?」
「わかりました」
「では、場所は後で伝える」
そんな話をした後、ペイトが部屋を出ると入口の前にリーザがいた。
「ペイト……私たち、やっと……やっと……」
涙ぐむリーザをペイトはそっと抱きしめる。
「ああ、遅くなったね」
ペイトに抱きしめられ、リーザは感極まってペイトを抱きしめた。
ペキッ!メキメキメキッ!
リーザの熱い抱擁にペイトの肋骨と背骨に不穏な音が走るのをペイトは聞いたが、ペイトは泣いているリーザへそっと口づけをした。
リーザがそれを受けると、ペイトの唇から耳の裏までがリーザの唇に吸い込まれるような感覚に陥る。
そんな熱烈なキスを交わし、痛む脇腹を抱え、腫れた唇には満面の笑みを浮かべながらペイトは兵舎へと戻っていった。
翌日、痛む身体を引きずって食堂に入ると、唇を腫らしたペイトを見てテリウスが声をかけてくる。
「おい、ペイト。その顔はなんだ?すっげぇ腫れてるぞ」
「え?ええ、昨日の夜に食べた果実に当たっちゃいましてね……アハハ」
ペイトが笑って誤魔化すとテリウスが真面目な顔で答えてくる。
「ペイト、夜中に食べるのは止めておけ。毒に当たる可能性が高いからな」
「はい。そうします」
ペイトの言葉にテリウスは肩を叩いてくる。
その衝撃が痛めた肋骨に響いて、ペイトは短いうめき声を上げた。
その日からペイトは訓練には参加しながらも、体調を整えることに注力した。
なにせ相手は「難攻不落のリーザ要塞」である。
ペイト相手に手を抜いてくれるかもしれないが、油断はできないのだ。
新月を過ぎる頃には痛めた脇腹も大分よくなっていった。
その頃になると兵舎内には「リーザ要塞に挑む勇者がいるらしい」という噂がそこかしこで聞こえ始めた。その勇者が新兵らしいという声も聞かれ、兵舎内ではさらに噂が飛び交っていた。
半月を過ぎる頃、兵舎内にいたヴォルスがペイトとすれ違う瞬間に、手に小さなパピルスを渡してきた。
そこには、結婚式当日にリーザがいる家までの道が書かれていた。
ペイトはその地図をしっかりと見て暗記するとパピルスを飲み込んだ。
結婚式前夜、ペイトはテリウスに誘われ、いつもの小さな小屋で絆を深めあっていた。
絆が注入され、テリウスの腕に包まれているとテリウスが囁いてくる。
「なぁ、ペイト……リーザに挑む勇者がお前だって話があるけど本当なのか?」
「え?いや……その……」
ペイトの反応にテリウスが目を丸くする。
「おい、止めとけ。今のお前じゃ殺されるだけだぞ」
テリウスの言葉にペイトはしっかりとした目で受け止め、ハッキリと答えた。
「大丈夫です、テリウス先輩。ボクは生きて帰ってきますよ。心配しないで下さい」
そう言い切るペイトの目は澄み切っており、揺るぎない意志を示していた。
決戦の日はもうすぐであった。




