<EP_005>脱出経路を探せ!
(テリウス先輩と絆を確かめ合うのも久々だな)
テリウスの背中を見ながらペイトはそんなことを思ってしまう。
当時の古代ギリシャでは男色は禁忌ではなかった。
それ以上に、兵士間での絆を深め、お互いを守り合う意識を高めるということで積極的に奨励されていたということもある。
それは学舎にいる学生も例に漏れることはない。
年配兵士が新米兵士に教育を行うことは当たり前だったのだ。
「さ、ここだぜ」
テリウスは小さな倉庫を前に振り向き、ペイトを手招きした。
「ペイト、あいかわらず良かったぜ」
「先輩も以前と変わらない様子でした」
テリウスが見つけたという小さな倉庫で絆を確かめ合い、夜風に火照った身体を冷やしながらテリウスの腕の中でペイトは紅潮した顔で荒くなった吐息を整えながら答えていた。
「じゃ、ちょっと流してきますね」
「ああ、俺は部屋に戻るよ」
下半身から垂れてくる絆の証を流すためペイトはテリウスと別れて泉へと向かう。
泉の周りには同じように絆を流す者や単純に空腹を満たすために水を飲みに来た者など、数人が集まっていた。
泉から水を掬うと下半身についた絆を洗い流していき、ついでにうがいをする。
同じようなことをしている者同士、目が合うこともあるがすぐに逸らした。
月明かりの中、よく見ると、朝、訓練場で歌っていた男だった。
「おう、ここにいたのか」
暗闇から声がかけられると、年配の兵士が顔を覗かせる。
男が身体をすくませると、兵士は歩いてきて男の肩を抱く。
「後がつかえてんだから、とっとと来いよ」
そう言って男は兵士にされるがままに連れていかれようとする。
ペイトが見ていると、兵士が振り返った。
「なんだ?お前も混ぜて欲しいのか?」
月明かりに兵士の顔がニヤリと歪む。
ペイトは慌てて首を振ると、そそくさとその場を後にした。
ペイトは寝所には戻らず、そのまま兵舎の探索を始めた。
リーザに会いにいくためには脱出ルートを知らなければならないからだ。
兵舎内を出歩いていても罰は課されない。
しかし、ペイトは慎重にゆっくりと歩いていく。
兵舎内のそこかしこから、押し殺したような嬌声とくぐもった会話が聞こえていた。
木々の揺れる音、森から聞こえる獣の咆哮がそれらを打ち消すように夜の兵舎を渡っていった。
歩哨の位置や壁の高さ、壁に飛び移れそうな木の位置などを丁寧に調べていく。
すると、突然ガサガサっと音がした。
ペイトが慌てて顔を向けるとガイウスが茂みから顔を覗かせた。
ガイウスと目が合うと、ガイウスは口元に手を当てる。
ペイトも目を隠して後ろを向いた。
「ありがとよ」
ガイウスは小さく呟くと木を登り始め、壁の上に乗り移ると壁の向こうに消えていった。
(隊長、ご無事で)
ペイトは心の中でそう呟くとガイウスが通ったであろう木を登って壁の向こうを見る。
壁の向こうにはスパルタの街が広がっており、僅かにある街灯りからリーザの家の方向を見定め、戻るルート用の木を見つけると、そそくさと木から降り、そのまま寝所へと向かった。
寝所に向かう途中、暗闇の中でまぐわう人影を何組か見たが、そっと通り過ぎることで何事もなく寝所へ戻ることができた。
寝所では既にテリウスは寝ており、ペイトも自分のベッドへ潜り込んで横になった。
スパルタの兵士の朝は早い。
単純に寒いので目が覚めてしまうのだ。
ペイトはそっと寝所を抜け出すと、昨日見つけたガイウスの使った道を辿って壁の外へと降りる。
そのまま、森の中へと分け入っていった。
朝露に濡れた森を歩き、腐りかけの倒木を見つけると、近くの石を使って割ってみる。
予想通り、中には丸々と太った甲虫の幼虫がいた。
本来ならば数日置いて腸内を綺麗にしたいのだが、そんな余裕は無い。
そのまま口の中に放り込んで咀嚼する。
ミルクのような体液と腐った土の味が口の中に広がった。
「うん、美味い。この時期の幼虫は美味い」
そんなことをつぶやきながら、もう一匹ぐらいいないかと探してみたが、残念ながら見つけることはできなかった。
そのまま引き返すと、今度は目星をつけておいた木に登り兵舎へと戻っていった。
(この道はなかなか使えるかもしれない)
そんなことを考えながら、ペイトは朝食を食べるために食堂へと戻っていった。




