<EP_002>女神の双肩
「よ〜し、今日の午前の訓練はここまでだ。今日は午後から女性陣のヒュアキンティア祭の訓練があるからな。少し休むとしよう」
ガイウスの言葉に全身を砂まみれにしたペイトは地面に座り込んだ。
入隊初日ということもあり、ペイトの実力を知ろうと隊員たちに次々と組み手を申し込まれてしまう。
パンクラチオンにはそれなりに自信のあったペイトだったが、相手は百戦錬磨の戦士であるため、簡単に地面へと転がされてしまった。
「どうした、それじゃ、お前も花嫁に絞め落とされるぞ」
そんな声を掛けられながら、ペイトは懸命に先輩兵士へと立ち向かっていっては転がされ続けた。
「はぁ……はぁ……」
荒い息をつきながら、ペイトが近くの泉で砂を落としているとテリウスが近づいてきた。
「大変だったな」
そう言いながらテリウスも砂を落とすのを手伝ってくれる。
「そうですね。さすがに先輩たちには勝てませんね」
「まぁ、そのうち慣れるさ。でも広背筋や上腕三頭筋はもっと鍛えていかないとな」
そういってテリウスの手が背中を滑っていく。
ペイトはゾクゾクとした。
「先輩、午後にヒュアキンティア祭の訓練って言ってましたよね」
ペイトは目を輝かせてテリウスに聞いてしまう。
「ああ。入隊初日がパレードの日とはな。なかなかついてるな」
ヒュアキンティア祭とはカルネイア祭と並ぶスパルタにおける重要な神事である。
毎年、夏のヒュアキントスの月始めに3日間行われる祭りで、2日目には街のいたるところで若者たちがキタラ(弦楽器)やアウロス(二股の木管楽器)を演奏し、アミュクライの街ではパレードが行われ、女性たちによるアポロンの栄光を讃えるのだ。
それ以外でも様々な場所で合唱や舞踊が演じられ祭りを盛り上げていく。
女たちによる舞踊や合唱は全裸で行われ、それを見て男たちは未来の花嫁を見定めたりするのが習わしであった。
その重要な舞踊の訓練は、定期的に行われ、男性兵士の癒やしともなっていた。
男たちもまた、ヒュアキンティア祭で行う演奏などの訓練にもなっていた。
「さぁ、行こうぜ」
砂を落とし終わると、テリウスに連れられペイトは訓練場へと戻っていった。
訓練場に戻ると周辺の観覧所には既に多くの兵士が詰めかけており、女たちの訓練を待ちわびていた。
訓練場の外には、午前中の訓練前に歌わされていた男が観覧所に背を向け、朝と同じように歌を歌っていた。
「ペイト、ちょっと来い」
訓練場に入るとガイウスが声をかけてくる。
ガイウスの後をついていくと、「今日、入ったばかりの新米なんだ。せっかくだから、前で見させてやってくれ」とガイウスが声をかけ、最前列とはいかないが、ペイトはかなり前のほうで女たちの訓練を見ることができた。
演奏が鳴り響き音楽隊を先頭に女たちが訓練場に入ってきた。
まずは戦で夫を亡くした未亡人の一団が入ってくる。
スパルタでは未亡人にも亡くした夫の財産権が認められているため、兵士たちの中にも意中の未亡人をみつけようと目を皿のように見る者もいた。
未亡人たちの舞がおわると、その後は処女の未婚女性たちの番である。
兵士たちの間に緊張が走るのがペイトにもわかった。
「来るぞ……」
誰かが発した言葉の後に音楽隊が高らかに演奏を始める。
すると、訓練場には女性とは思えない巨躯が入ってくる。
遠目にもわかる鍛え抜かれた僧帽筋と三角筋、既に乳房とも言えないほどに鍛え抜かれた大胸筋が目に入り、腹筋が8つに分かれているのがハッキリと見えた。
その姿は彫刻のように美しく、太陽の元で輝いていた。
「よっ!待ってました!リーザちゃん、キレてるよ!ナイスバルク!」
「腹筋8LDK!」
「両肩にオリュンポス山が見えるよぉ!」
リーザが入場してくると兵士たちからは様々な声が上がった。
そのままリーザは舞踊を見せていく。
全身の筋肉から血管が浮き上がり、周囲の兵士からはため息のような感嘆の声があがる。
(リーザ……綺麗だ……ここに出てくるってことは、キミはボクを待ってくれていたんだよね……)
リーザの肉体美に圧倒されながら、その美しさにペイトは見とれてしまった。




