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第5話   変容




まだ日没の前だが、森の夜は他の場所に比べ、やって来るのが早い。


今、理由の無い戦いを続けているふたりのそばにも既にやって来ていた―――。




アルテナの右手で、少しずつ膨らみを増す鱗剥がし(ベルーデ)


ブラントは、その見たこと無い魔法が気になり、じりじりと間合いを詰めてゆく。


歩くスピードを徐々に上げ、アルテナが走り出した。


自分の剣技の間合いに入ったアルテナに対し、一気に間合いを詰めるブラント。


「やぁぁぁぁぁあっ!!」アルテナも、


「はあぁぁぁぁぁっ!!」ブラントも、


一直線に、互いに捉え、技を()り出す。




―――その時だった!!


アルテナに向けられていた、ブラントの剣先は、鈍い金属音と共に激しく地面に突き刺さり、ブラントへと振りかぶっていたアルテナの右手は、天へと弾かれ、その軌道を変えていた。


何が起こったのかを理解できていないふたり。


放たれたアルテナのベルーデが天高く上がっていき、強烈な閃光が走る。


その光が、ふたりの間に立つ人影を映しだした―――。




「どうにか、‥‥と、言ったところか?」


目の前に一瞬だけ見えた、その見覚えのある顔に混乱するふたり。


「せ、先‥‥生?!くっ‥‥‥」

「おババ?!!」


そこにいたのは、ロリエッタだった。


驚くふたりをよそに、ロリエッタは杖を天にかざし、アルテナとブラントも包むドーム型の土壁を一瞬で作り上げ、それを更に包む魔法障壁を二重、三重と張った。


空からドンという大きな音と共に強い衝撃が土壁から伝わる。


ロリエッタが張ったドーム型の壁を中心に、周りにあった大木が、まるで風に吹かれる草のように放射線状に揺れ動いた。


胸を掴み、ふらりとなったアルテナは、まるで崩れるように、その場で手をつくことなく倒れ込んだが、ロリエッタがそれを抱きとめた。


何が起きたのか分からないブラントは、地面に刺さった剣を握ったまま、呆然としながら上を見ている。


しばらくして、ロリエッタが張った土壁と魔法障壁は徐々にに消え、辺りはさっきまでいた場所とは思えないほどに変わっていた。


三人が立っている場所を中心に数十メートルは地表があらわになって、さっきまで暗かった辺りが逆に夕陽が差し込むくらい明るくなっている。


「心構えが必要だと言っておいたのに、このバカ弟子が!心を失いよって……。感情に流され、らしくない粗雑な術式で組むとは、‥‥今のお前に、上級魔法のベルーデが完全に扱えるわけが無かろう」


ロリエッタは、気を失ったアルテナを仰向けに寝かせると静かにそう言った。


「おい!!おババ、何なんだ!こいつは?!」


そう言いつつ、ブラントは、地面に刺さった剣を抜き、土を払ってから鞘に納めロリエッタの方へと近づいた。


「―――、無茶苦茶な戦い方をしやがって!相手を倒す為だったかもしれないけど、こんな魔法を近距離で使うなんて絶対まともじゃないぞ!」


ブラントは、辺りの変わりように、アルテナの放った魔法の威力の凄さを感じていた。


戦いのすぐ後だったからか興奮気味で、どうやら口が軽くなっているようだ。


「この距離で、こんな魔法を放てば自分だってタダじゃ済まないはず。まったく、命を軽く考えやがって!」


ブラントのその言葉にロリエッタは、ツカツカ近づくとそのまま、ブラントの頬を平手で打った。


パシッ!


と、大きな音がし呆気に取られたブラントは、打たれた左の頬を押さえた。


「お前が、この子の何を知っている?」

「‥‥‥」


普段見せない、凄みのあるロリエッタの顔つきに、ブラントは、言葉を返せなかった。


「この、大バカ者め!お前には、言いたいことが山とあるが、先ずはアルテナ―――、その子を背負ってついてこい!」

「えっ?!ちょっ、待ってくれ、おババ!!」


「はん?」

「多分オレ……。肋骨が折れてる」


「折れた骨など気合でなんとかしろ!!」

「そんな~、無茶言うなよ!それに目を覚ましたらどうすれば―――」


「安心せい。魔力切れで気を失っておるから、最低でも半日は目を覚まさん」


ロリエッタは、フンと鼻であしらうと、家のある方へとさっさと歩きはじめる。


「ちょっ、おババ!!」


ブラントは、地面に寝かされたままのアルテナを横目でみると肩を落とし大きくうなだれた―――。




家に着いたロリエッタ達は、早速アルテナをベッドに寝かせ、ロリエッタはブラントの治癒をしながら、今回の顛末を聞くことに。


まぁ、当然の話ではあるが、その後、ブラントに対しロリエッタの長い説教が明け方近くまで続いたのは、言うまでもない。


朝になって陽が差し込んでも、アルテナは、目を覚まさなかった。


アルテナが目を覚ましたのは、ロリエッタが食材をとりに森から戻って来る、ほんの少し前だった―――。




時折、眉をひそめうなされたり、穏やかな寝顔で静かになったり、を繰り返すアルテナ。


そんなアルテナの様子をブラントは、ベッドの足元に置かれた椅子に座り、うとうとしながら見ていた。


窓から入ってきた風にアルテナの前髪が揺らされ、アルテナは目を覚ましたようだ。


「ん?気がついたか?」


まだ、ゆめうつつのアルテナだったが、ブラントの声で一気に目が覚めた。


「!!、誰?!」


見知らぬ人影に、アルテナは、掛けられていた布をサッと手繰(たぐ)り寄せる。


「何だ?何も憶えてないのか?」

「憶えて?……!!私!!」


「安心しろ。オレに敵意はない。ほら、見ての通り丸腰だ」


ブラントは、立ち上がり、脇に備えてあった飲み物をコップに注ぐと、渡す為にアルテナへ近づいた。


「お前が目覚めたら、これを飲ますようにお前の先生、‥‥おババに頼まれていた」


ブラントは、コップをアルテナに差し出したが、アルテナは、抱えた布を掴んだままベッドの上で少し身を引いた。


「‥‥‥」


ジッとブラントを見つめ黙ったまま、いっこうに受け取らないアルテナに、待ちあぐねたブラントは、差し出したコップを引込め軽くため息をついた。


「毒なんざ入ってない!信じられないならオレが毒見してやる」


何を言ってもジッとこっちを見るだけで無反応なアルテナに、ブラントは手にしていた飲み物を一気に飲んだ。


すると―――、


「うっ!!!!!」


ブラントは、急いで窓に駆け寄り半身を乗り出すと盛大(せいだい)に―――、


吐いた!


「何だ?!このクッソまずい飲み物は!!」


そう言って、手の甲で口を拭きつつアルテナを見ると、まるでそうなると分かっていたみたいにフンと鼻で笑った。


「‥‥‥警戒していたんじゃなく、これが何か知ってて、単に飲みたくなかっただけかよ〜!?」


愚痴をこぼすようにブツブツ言いながら、気分が悪くなったブラントは、フラフラと元いた椅子の方へと戻った。


「ねぇ、そのコップでいいから注いで持ってきて」


ブラントにそう言ったアルテナは、ブラントに気づかれないように、けっして綺麗と言えない一枚の布を枕の下にそっと隠した。


「うぇ!これを飲むのか?本当に?」

「えぇ、飲むのと飲まないとでは、段違いだから飲むわ」


ブラントが飲み物を注いで渡す際、「これって、何の飲み物なんだ?」という問いに、

アルテナは、「魔力の流れを整え回復してくれる飲み物」だと答えた。


すると、アルテナは、渡されたコップを前に深呼吸をすると一気に飲み干したが、やはり激マズだったのだろう。


死んだ魚のような目になり静かに顔を枕へうずめると、そのまま(しばら)く動かなかった。


そんなアルテナの様子を見ていたブラントは、呆れた表情で彼女に話しかけた。


「あんな不味い飲み物、よく飲めたな」

「飲まないと、魔力が全回復するまで三日以上はかかるの。その間、魔法の鍛錬ができない……。それは、困る!」


「鍛錬?そんなの普通、一日、二日休んだところで大して、変わんないだろ?」

「あんたの言う普通は知らないけど、私は違う。感覚を取り戻すのにまた、多くの時間がかかる」


「そう、なんだ。よくわかんないけど、確かにそれは困るな」

「‥‥‥」


ぎこちないふたりの会話を(さえぎ)るように、バタンと扉の閉まる音がした。


しばらくして、ふたりのいる部屋の扉が開くとロリエッタが二匹のバニラットを手に顔をのぞかせた。


「おっ!もう、気が付いておったか?意外と早かったの」


少し気まずい雰囲気が漂っていただけに、ロリエッタが来てくれたことで、ふたり共どうやらホッとした様子。


「あれは、飲んだか?」

「うん」


アルテナの返事に、ロリエッタは、獲って来たバニラットをブラントに渡し、キッチンへと持っていくように指示した。


キッチンへと来たブラントが、バニラットを調理台に置いた時だった、さっき居た部屋から突然、アルテナの悲痛な叫び声が聞こえてきた。


何があったのかと慌ててブラントが駆け付ける。


すると―――、


そこには、杖をアルテナに構えたロリエッタと、ベッドで丸くなったまま、まったく動かないアルテナの姿があった。



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