【9】王子、謝罪を望む〜フォンティーヌ公爵視点
◇◇フォンティーヌ公爵視点
「カワグチ殿、フィオナを保護してくれて本当に感謝している。いつでもこの国に来る時は公爵家にタロウを降ろして下さい」
フィオナのマンションに泊まった次の日。私はドラゴンで送ってくれたカワグチ殿に御礼を伝える。
「えー、本当ですか?! 凄く助かりますー。
軍人しかドラゴンを持っていないと知らなくて。この前知らなくて広場に停めてたんですけど。見つかったら結構まずかったですもんね」
そう言って彼は飄々と笑った。
──彼は不思議な男だ。
あんなに高い建物を建てる技術は聞いた事もない。
そして、あの高度の魔道具は公爵の私ですら見たことはなかった。
(──彼は恐らく、この世界にはない何かとてつもない『力』を持っている。それに、隣にいる『ペロ』という神獣もかなりの力を持っている。
正直言って敵に回すと恐ろしい。だが、だからこそフィオナを安心して預けられる)
「ああ。他にも、何か困った事があれば遠慮なく連絡をして欲しい」
その言葉に彼は頷く。
「ちなみにこの世界って連絡手段は何があるんですか?」
(ああ。やっぱり。…この口ぶりだと彼は異なる世界から来たのか)
「そうですな。魔道具同士で連絡を取りますが…。良かったら貴方はフィオナの恩人ですから。差し上げましょうか?」
私の言葉に彼はパッと表情を輝かせる。
「──いいんすか?! うわー、めっちゃ助かりますー」
そう言って彼は笑った。
私は使用人に命じて彼に魔道具を一つ渡すように伝えると、自分の持っているものを見せて使い方を教える。ちなみに形はロケットペンダントのような形である。
「この突起を押して、相手の魔力を探るのです」
その言葉に彼は困惑した顔をした。
「…魔力を、探る?」
「ちょっといいですかな?」
そう言って彼の手を握ると彼の魔力はとてつもない莫大だった。その上、不思議なエネルギーで満ちていた。
(…なんだこれは?!)
私は驚愕で目を見開く。
「あ、なんか独特の色のついたあったかい力を感じます。これが公爵様の魔力ですか」
一方彼は面白そうに笑った。
「…その通りです。では私の魔力を登録しておきましょう。
登録した魔力と同様のものを魔道具が探してくれるので、そうすると連絡が取り合えるのです。私も今カワグチ殿の魔力を登録しました」
「了解です。うわー、なんだか、嬉しいです。
でもこれ、フィオナさんとかも持ってるんじゃ…」
「ええ。持っていました。追放の際に、奪われてしまいましたがね。まあ、新しいものを昨日こっそり渡しておきましたが」
私の言葉に、彼は納得したように笑った。
「なるほど。じゃあ、いつでも連絡取れますね!」
「ええ。カワグチ殿のおかげです」
私がお礼を言うと、隣のペロ殿も『良かったのう』と言いながらパタパタと尻尾を振った。
彼は魔道具を受け取ると、お辞儀をした。
「それじゃ、また何かあったら来ますんで。公爵様も何かあったら連絡くださいね」
私は彼を見送りながら、ギュッと拳を握りしめる。
「──カワグチ殿。どうか、フィオナを宜しくお願いします」
すると、彼はヘラヘラと笑った。
「ああ、大丈夫ですよ。あのマンション、すごいんで。危ない目に遭うことなんてないと思います」
そう言い残して彼は帰っていった。
◇◇
「公爵!!三日前、貴殿はフィオナに会いにいっていたと聞いた。
──彼女は生きているのだな? お願いだ。こんな事を言える身ではないが、どうか謝罪だけでもさせて貰えないだろうか」
──カワグチ殿が帰った三日後。
執務をしていたら娘の元婚約者だったリオネル殿下が尋ねてきた。
どうやら、『魅了のネックレス』の効果が切れた副作用で寝込んでいたらしい。
そして、回復後医師の許可が出て、すぐに我が公爵家に来たようだ。
さすがに王家の使いを無碍には出来なかったらしい。その上、なんと私がフィオナに会いにいっていたと話してしまった使用人がいたらしい。
(──気持ちはわかるが、殿下経由で話が漏れてカンデラ家に知られたら…。
フィオナに何をされるかわからない。漏らした使用人を厳重に処罰せねば)
「──ええ。そうですよ。
ですが、フィオナは貴方に突然婚約破棄をされ、身一つで、何もない平野にドラゴンから放り出されたのですよ?
魅了をされていたとはいえ、そんな事をした貴方に娘がどこにいるか教える親がいると思いますか?」
その言葉にリオネル殿下が黙り込む。
その手は震えていた。
「っだが!! もし生きているのだとしたら償いがしたいっ!! 私のために今まで彼女が尽くしてきてくれたのは間違いないのだがら!!」
私は溜息を吐くとリオネル殿下を見据える。
「──それより、リオネル殿下はこのままカンデラ家の令嬢と結婚するのですか? 監禁されてると噂の前領主の娘のサラ様。
そして、今社交界で幅を利かせている今の領主の娘であるナタリー様。一体『どちら』の令嬢と?」
その言葉に彼は目を見開く。
「──それは、まだなんとも言えない。そもそもカンデラ家はまだあくまでも候補で──」
私はそんな彼から目を逸らさずに淡々と述べる。
「──一番にカンデラ家を婚約者候補にと、推してきたのは誰ですか?
彼らに縁がある者ではないですか?
あなたを洗脳した魅了のネックレスをハーマン男爵家に渡したのはカンデラ家の者だったらしいですが。」
「なん、だと。」
私はもう一度溜息を吐いて、リオネル殿下に告げる。
「一週間以内にカンデラ家の悪事と秘密を王族の力を駆使して暴いてください。もし出来たら、フィオナの居場所をお伝えしましょう」
「──わかった」
──こうして遂に王家の方で大規模な調査が行われてカンデラ家の秘密が明らかになった。
リオネル殿下が私の元に来た二日後には抜き打ちで屋敷の中が調べられたらしい。
(ふん。あの王子、フィオナに謝罪したいという気持ちには偽りはなかったようだな。──どちらにしても、複雑な気分だが)
…そして、なんとも恐ろしい事実が判明した。
十七年前に亡くなったカンデラ侯爵夫妻の馬車に細工したのは、なんと現在侯爵家を引き継いでいる弟夫婦だったのだ。
さらに恐ろしい事に、なんとサラ様は令嬢ではなく『令息』だった。まだ『彼』が一歳だったのをいいことに、王宮の戸籍担当の職員を買収して書類をすり替えていたらしい。
──前カンデラ家夫妻の実子が男性だった場合、転がってきたはずの爵位がまた嫡男であるサラ様に戻ってしまう──恐らく、それを考慮してのことだろう。
つまり現在の侯爵夫妻は、前夫妻が生きている頃からカンデラ家を乗っ取る気で行動していたのだ。
そして、実の娘を王子と結婚させて多額の援助をすれば、万が一この事実が明るみになっても揉み消せる──そう考えていたらしい。
そして、呪具を大量に闇商人から購入し、ハーマン家や下級貴族を脅して王子に近づけさせた。
あとは、本来の婚約者であるフィオナを追い落とした。あとは、自分達の娘を素知らぬ顔で王太子妃という地位に立たせようとした。
その最中に、ようやく彼らの悪事が暴かれた…ということになる。
(ふん。その悪知恵を少しでも領民のために使えばよかったものを)
サラ様は貧相な小屋に栄養失調状態で閉じ込められていたそうだ。今は王立病院で治療を受けているらしい。
彼の失われた17年間は戻ってこないが、せめて幸せになって欲しいと願うばかりである。
彼の名前も、近々本来の名前である『サール』に変更される予定だ。
「──ということで、フォンティーヌ公爵。約束は守ったぞ。フィオナの居場所を教えて貰えるだろうか」
その言葉に私は溜息を吐く。
「──こんなに早く解決出来るならもっと早くして欲しかったものですけどね。カンデラ家の令息も気の毒ですね。」
「それは…、すまぬ。王族に直接被害が出るまでなかなか直接調査まで踏み切る事が出来なかったのだ。
カンデラ家は色んな家を買収し、守られていたからな」
私は大きく息を吸い込むと、リオネル殿下に告げた。
「フィオナは──娘は未知の魔術を使う男性に、保護されています。そして今住んでいるのは、神が建てたと思えるほどの技術を持った凄い建物でした。
──リオネル様。一国の王子とは言えど、どうかあの方の機嫌を損ねぬように。どうかお願いします」
その言葉にリオネル殿下は驚いたように固まってしまった。




