【8】公爵家、マンションに泊まる。
「はい、ここでーす」
広場に預けていたドラゴンに乗って、皆でマンションまでやって来た。
ちなみに、よくよく話を聞くと、どうやら国の偉い人や軍人くらいしかドラゴンには乗れないらしい。
俺が見かけた人達は軍人だったそうだ。
ハーマンさんが乗ってきたこのドラゴンも、本来なら国の資産らしい。
(…王子の恋人だったからパクってきたのかな?草。)
俺はなんとなくこのドラゴンに愛着が湧いてきたので『タロウ』という名前を付けた。
「こ、これは…!!」
「集合住宅というより神の塔ではないですか…!」
そう言って公爵家の三人が目を丸くしている。
「…そうでしょうか? あ、お昼ってまだですよね?買って行きましょー」
俺が皆を引き連れてコンビニに入ると三人が固まってしまった。
「──いらっしゃいませー!」
(あ、ハーマンさん、働きはじめてる)
俺は彼女がちゃんと働いてるのを見て、少しだけ微笑ましい気持ちになった。
「頑張ってんね。順調?」
俺が声をかけると笑顔で頷いた。
「ええ。マニュアルもあったし、その通りにやってるわ。おでんっていうのも作ってみたし、揚げ物もつくってみたわよ!」
「おーいいね! じゃあ、あとでおでん買ってみるわ。頑張れよ。」
俺はそう言って、公爵達を案内する。
皆最初は戸惑ってはいたものの、やがて目を輝かせて、食べものを買い物かごに詰め込み出した。
「こ、これはなんですの?!」
公爵婦人はアイスを持って目を丸くしている。
「これは『アイスクリーム』というお菓子ですよ。ただ、暖かいところに置いておくと溶けるので食後に買った方がいいと思います。」
結局公爵はハンバーガーとラーメンとおにぎり、それにタコとアボカドのサラダ、そしてシフォンケーキを買い、公爵夫人はサンドイッチとパスタ、そしてシュークリーム、ノエルさんは出来たてカツ丼と豚汁、サラダとコーラを買った。
(──重そうなものばっかり買ったな!)
ちなみに俺は肉まんとおでん、ペロには親子丼と菓子パンを買った。
そして、公爵家の皆さんが買い物している間に、タロウにはサラダチキンとミネラルウォーターをあげた。
「じゃあ行きましょうか」
俺は皆さんを七階に連れて行く。
「み、見たことのないような丈夫な素材を使っているな」
「なんですか? これは。」
公爵家の皆さんの言葉に俺は笑顔で答える。
「あー、コンクリートっていう素材ですね。それより、ここがフィオナさんのいま住んでるお家です」
ピンポーン
「はーい」
俺がインターホンを鳴らすと、ガチャリとフィオナさんがドアを開けた。
「フィオナッ!」
「姉様っ」
公爵家の皆さんが、感極まった声でずいっと前に出る。
「えっえっ、えええええええー!!!! お父様っ!お母様?! それにノエルまで…!!」
フィオナさんは驚いて目を丸くした。
◇◇
「──つまり、私の事を心配してくださっていたんですね」
そう言って、フィオナさんは少しはにかんだ。
「っ、当たり前じゃないっ!!」
公爵婦人が慌てたように言う。
「いえ。追放が決まった時も、特に何事もなく淡々と受け止めていらっしゃるように見えたので。てっきり実はそこまで愛されていなかったのかと思ってしまいまして…。私、すごくショックだったんですよ?」
フィオナさんがそう言って目を伏せる。
「──すまん。実は王家の者が屋敷の中に紛れ込んでおってな。下手な事を言う訳にはいかなかったのだ。
紛れているとわかったのが、お前の追放が決まってからでな。
その代わり、『せめて』と思ってとても分かりやすいところに、宝石を置いておいたのだが。」
公爵はそう言って泣きそうな顔をし、ノエルさんも頷いた。
「そうですっ! それにドラゴン使いにお金をこっそり渡して、建物がある場所の近くで降ろすようにしてもらったんですよ?」
(あー、納得。それで俺のマンションの近くに降ろされたのね。)
「…そうだったのですね。てっきり見捨てられたと思っていたのですが…凄く嬉しいです…」
そう言ってフィオナさんは嬉しそうに笑った。
「はいはい! 感動の再会はそこまでにして早くご飯食べた方がいいですよ。冷めちゃいますから。──それじゃ、僕は行きますね」
俺の言葉に公爵家の皆さんは頷いた。
俺が部屋を出て行こうとすると、フィオナさんに呼び止められた。
「これ、我が家に行って下さったお礼です」
そう言って約束通り金貨を二十枚くれた。
(やったー)
「ありがとうございます!」
こうして俺はお金を貰ってホクホク顔で自分の部屋に戻った。
◇◇
(あー、仕事をした後のビールは美味いなぁ)
俺はペロをもふもふしながらおでんを食べてビールを飲んで、ゲームをしていた。
ピンポーン!
少し遠出して疲れたのでウトウトしていると、インターホンが鳴った。
「はーい」
俺が出て行くと、フィオナさんと御家族が遠慮がちに立っていた。
「あれ? フィオナさん、家族との再会は楽しめましたか?」
「はい、それはもちろん。ただその…帰りに乗るものがないのでどうしようかと思ってましたの。カワグチ様のドラゴンで三人とも来たと言ってますし」
その言葉に俺は固まる。
(そ、そうだったーー!!! しまった。酒飲んじゃったから送っていけないぞ?)
「えーっと。皆さん明日は帰らなきゃいけない予定なのはありますか?」
「いえ。朝帰ることができれば特に問題ないですが。」
(うーん、フィオナさんの部屋に流石に家族全員泊まるのは無理だよな。どうしよっかな。)
そんな事を考えていた時だった。
目の前にタブレットが現れてこんな事が書かれていた。
『六階をゲストルームに改装しますか?
※MPを50消費します。』
(なんだ?ゲストルームって。もしかしてホテルみたいに泊まれる部屋ってことか?)
俺はYESを選択すると、少しだけ皆さんにフィオナさんの部屋で待っててくれるように伝える。そして、恐る恐る六階に降りてみた。
──すると、部屋の数がワンフロア四部屋が二部屋に減っている代わりに広めのファミリー向けの部屋ができていた。さらに、なんとカフェスペースのようなものが出来ていた。
ドリンクバーやコーヒーメーカー、そして紅茶なども用意されている。
「おお、なんだかお洒落になっているのう…」
そう言ってペロが尻尾を振っている。
また、管理人室以外通常1LDKだが、2LDKの部屋に変化したようだ。
(…これなら入居者の家族を泊められるな! えーっと。一泊金貨一枚くらいは貰っとくか)
俺は内心ホッとすると、七階のフィオナさんの部屋のインターホンを鳴らす。
「…実は、六階に入居者のご家族が有料で泊まれるようになってるんです。良かったら泊まって行きます?
──一人金貨一枚かかってしまいますが宜しいでしょうか?」
俺の言葉に三人が目を輝かせる。
「凄いっ! フィオナの部屋を見て物凄く快適で感動していたのよ。あの魔道具があれば、一人でも快適に過ごせるわね! ぜひ泊まってみたいわ!!」
「うむ。一階の店の料理もとても美味いしな。」
公爵夫妻の言葉にノエルさんも頷く。
「是非領内の研究者を集めて、似たような魔道具を開発したいものです!」
そう言って瞳をキラキラさせている。
「良かったらカフェスペースも使ってくださいね。飲み物は好きなものを飲み放題です。」
「…なんと!! 珍しい飲み物ばかりではないかっ! これはなんだ?」
そう言ってドリンクバーのジンジャエールについて聞かれたので全員にカップに注いであげた。
「すごい! スパークリングワインのようにシュワシュワしているのね」
フィオナさんが感嘆の声を上げる。
「ええ。このドリンクの中には生姜も入っているんです」
「へえ、それは身体に良さそうですね」
俺の言葉にノエルさんが感嘆の声を上げた。
「…ここがこんなにいい所なら何度でも来たくなってしまうわね。フィオナにも会えるし。」
そう言って公爵婦人が笑った。
(一番最初に会った時、両親との関係は『微妙ですわ!』なんて言ってたけど。
──よかったな。フィオナさん。)
俺は心の中で一人呟いた。




