【79】帰ってきました
「それじゃ、お世話になりました」
次の日の朝。
俺は公爵家の皆さんに頭を下げると、ペロと一緒にタロウに飛び乗った。
タロウはホテルでいつものサラダチキンよりいいご飯を食べさせてもらったらしく、終始ご機嫌だった。
「カワグチ殿。次のマーシャル領には既に行くことを連絡してある。気をつけて行ってきてほしい」
「はい。ありがとうございます。それではいってきますね」
公爵の言葉に俺は頷くと、空の上に飛び立った。
「はー、ペロ、今回の旅は結構疲れるな。終わったらフィオナさんも一緒に三人で映画でも見に行こうぜ」
「そうじゃのう。フィオナもまっておるからのう」
空の旅は30分くらいだった。
流石にタロウに乗ると早い。
指定された場所で、何人かが手を振っているのが見えた。
その中に、一人茶髪に茶色い目で、明らかに身なりのいい人がいる。その人が恐らくマーシャル伯爵だろう。
なんだか優しそうな雰囲気の人でホッとする。
俺達が降り立つと、偉く歓迎されてしまった。
「アルカディア伯爵っ! ようこそマーシャル領にお越しくださいました。いやー、フォンティーヌ領の件、聞きました! 大変でしたな」
「ええ、まあ……。こちらではまだ問題は起こっていないですか?」
俺が尋ねると、マーシャル伯爵が勢いよく頷いた。
「はい、今のところ特に問題は起こっていないですね。まあ、先端の駅がフォンティーヌなので、こちらでは作業がそもそも始まっていないですからね」
「そうですか。実はフォンティーヌ領の宿屋の監視の魔道具にも映っていたのですが、恐らく作業員が洗脳された可能性が高くて。
今後、もし外部と打ち合わせが入ったら、僕が建てる監視の魔道具がある建物以外ではお話しないようにして欲しいんです。その……何が起きたかすぐ把握できないと何かあった時に大変なので。作業員にマーシャル伯爵からも注意して頂けますか?」
彼は驚いた顔をした後、何度も頷いた。
「洗脳ですか……。急遽アルカディア伯爵が建物を建てることになったのはその為、なんですね。分かりました。必ず対応します」
「一応、ナーミャの魔導塔で洗脳を無効化するためのネックレスも作ったんです。各駅の領主にお送りするというお話になっていますので。作業期間中は、マーシャル伯爵も誰か人に会う時は、必ずネックレスを身につけてくださいね」
打ち合わせが終わると、マーシャル伯爵に案内されて、駅を建設する区画を教えてもらった。
「この印がついたところが駅の建設予定地ですね」
「了解です。じゃあ早速監視の魔道具付のお店、それに事務所を建ててしまいましょう」
俺は深呼吸すると、頭の中でスキルを発動した。
最近はタブレットを覗き込まれるのが嫌で、すっかり脳内サイレントモードで発動させるようになってしまった。
『コンビニエンスストアと役場を生成しますか?』
俺は頷いて両手を掲げた。すると、地中から「ゴゴゴゴゴゴ!!」と音を立ててコンビニと役場が出現した。
マーシャル伯爵や護衛の人たちは驚いて腰を抜かしている。
「な、なんですか!? このスキルは!」
「これが僕のスキルです。僕、元々異世界人なので。お店の中に入ってください。ご案内します」
俺の言葉にマーシャル伯爵はなんとか平静を保ちながら頷いた。
「異世界の食糧や雑貨、それに飲み物などがここで買えるようになっています。ここに商品の入ったカゴを置くと、値段が出ますので、ここにお金を入れてください」
いくつか食べ物をカゴに入れた伯爵は、ワクワクした顔でお金を入れた。
「おおおお!」
彼はお金を入れただけだというのに歓声を上げる。なんだか嬉しそうだ。
「他の人にもやり方を是非教えてあげてくださいね。では、次は事務所の方を見てまわりましょうか」
俺はカフェテリア(ドリンクバーがあるので使い方を教えてあげた)や事務室や休憩所などを一通り案内した。ちなみに案内する度にマーシャル伯爵はキラキラと目を輝かせていた。
ちなみに事務所には汗をかくことを想定して、シャワースペースも設けられている。ここもフォンティーヌ領のものもそうだが、昼寝ができる仮眠室まであるのだ。
「いやあ、この建物は最高ですね」
「ええ、ですから来客があった際はこの建物内で全て完結するようにしてくださいね」
一通り説明を終えた後、俺はマーシャル伯爵に尋ねる。
「以上です。気になる点はありますか?」
「いえ。今のところは。あ、それと、工事が始まる前に娘たちを連れてきてカフェテリアでジュースを飲ませてもいいですか?」
ワクワクした顔で言われて俺は苦笑してしまう。
「ええ……。それは自由ですが。工事が始まったら私物化はしないでくださいね」
「はい! もちろんです」
俺は念の為マーシャル伯爵と連絡先を交換する。
軽く昼ごはんをコンビニで済ませると、タロウに飛び乗る。そして、次の駅を作るという領地に移動した。
次の駅の領主も似たような感じで俺達を歓迎してくれた。
どの領主も感じが良く、ホッとしてしまう。
そして、コンビニと事務所を作ると、みんな驚きつつも大喜びしてくれた。
まあ、店の利益が自分達の領地に入ってくるようになるから当然といえば当然だが。
俺は、移動を繰り返しながら四日かけて各駅の隣にコンビニと事務所を作っていった。
宿泊はその日の最後に作業をした領主の屋敷に泊まらせてもらった。
邸で食事を頂いたが、地域によって名物料理が少しずつ異なって面白い。
ペロは羊を香草で味付けした骨つき肉が気に入ったみたいだ。
こうして俺達は各駅での作業を無事終えることができた。そして、ようやくフィオナさんの待つアルカディアに戻ってくることが出来た。
◇◇
「ナツキ様! おかえりなさいませ!」
家に帰るとフィオナさんが出迎えてくれた。
やっぱり我が家が一番である。
「ただいま。特に変わったことはなかった?」
俺が尋ねると、フィオナさんが何か思い出して手を叩いた。
「そうだわ! セイン様から小包が送られてきましたの! これをナツキ様にって」
フィオナさんの手にはペロの力が入ったスキル無効化のネックレスが握られていた。
「おお、これ! うちの領にも届いたんだ。この感じだと王族や他の駅の領主にももう送られたんかな」
「そうだと思いますわ。あとは、ナーミャだけではなく、ラングスチアの各駅にも事務所とコンビニを作らなければいけないですわね」
そう言われて俺は固まってしまう。
そうだったーー! 駅はナーミャだけじゃなくてラングスチアにもいっぱい出来る予定だった。
くそ、ゆっくりできると思ったのに……。またコンビニを作りに行かなきゃいけないのか。
「そ……そうっすね」
「まあ、帰ってきたばかりですもの。セイン様にスケジュールを確認してからでいいのではなくて」
俺達が帰ってきたお祝いをしようということになり、三人でショッピングモールの回転寿司に行った。
「はー。やっぱりナーミャにも美味しいものはいっぱいあったけど、日本食は美味いな」
「ええ。食べ慣れたらヤミツキになりますわよね。私もナツキ様が不在中も、何度かこのお店に来ましたわ」
言いながらフィオナさんはもう慣れた手つきで寿司を食っていた。
「わしはこの店のポテトが一番好きじゃ」
ちなみにペロは、寿司屋に来てもポテトフライばかり食べている。
「せっかくだから帰りに映画でも見ましょうよ」
俺が誘うとフィオナさんは気遣わしげに首を傾けた。
「あら……。私は嬉しいですが、疲れてはいませんの?」
「大丈夫じゃ! 帰ったら映画を見たいとナツキと話しておったのじゃ!」
こうして俺達は久しぶりに家族水入らずで映画を見ることになった。
なぜかフィオナさんがチョイスしたのは因習村系のジャパニーズホラーだった。
「きゃああああああ! 村人達の乱心ですわあああああ!」
鍬を持って襲ってくる村人達に大興奮するフィオナさん。そんな彼女に吹きそうになりながら、帰ってきたんだなと実感する俺だった。




