【6】男爵令嬢、コンビニ店員になる
「…えー。じゃあどうしましょうか」
俺の言葉にペロとフィオナさんが顔を見合わせる。
一方ハーマンさんは泣きそうになっている。
(まあでも、この子が国の中枢となる人達を魅了した結果、フィオナさんは国外追放になったんだからな)
たまたまこのマンションがあったから良かったものの、若い女の子を一人でこんな所に置き去りにするのは酷すぎる。
──フィオナさんが死んでいた可能性だってあったのだから。
(…さすがにフィオナさんもいるのに、いつもの調子で、『金持ってます?住人になります?』とは、ふてぶてしい俺でも言えないな…)
「──まあ、お主がそれだけの事をしてしまったんじゃから仕方ないじゃろう。帰って罪を償うのがいいんではないかの?」
ちゃっかり呪物とはいえハーマンさんのネックレスを盗んだペロが、いけしゃあしゃあとそんな事を言い出した。
(どの口が言うよ、どの口が!!)
俺が内心ペロにツッコんでいると、フィオナさんが口を開いた。
「…貴女、どうしてこんな事をしましたの?
だって、魔道具を使って人の心を手に入れたって仕方ないですわよね? そもそも、こんなに高額の呪物のネックレス。
──一体どこで手に入れたんですの?」
その目はいつもの朗らかなフィオナさんと違って真剣そのものだった。
すると、ハーマンさんが溜息を吐いた。
「…父が、このネックレスをどこかの高位貴族から貰った際に、私のことを引き取ったのよ。
──私、男爵の父の婚外子なの。まあだからこの役割の為だけに引き取られたコマってわけ。…別に王子の事なんて好きじゃなかったわよ。
私だって、そこまでバカじゃないもの。」
その言葉に思わず固まってしまう。
(思ったより、重い話だったー!! 急に昼ドラみたいな話になってるんだが。)
俺は聞かなきゃ良かったと頭を抱えてしまう。
「…そう。ちなみに、ネックレスは肌身離さず持っていたのですか?」
フィオナさんはそれに対して冷静だ。さすが、元公爵令嬢である。
「…ちゃんと持ってたわよっ! でも、飲み物に薬を盛られて。いつの間にか偽物と入れ替えられていたのよ…。
私、引き取られた時にあのネックレスと血の契約を結ばされてたし。すぐに偽物だってわかったわ。
最初は、本物が、どこかの貴族のタウンハウスにあるって分かったんだけど…。警備もあるし手が出せなくて。困ってたら、こっちにネックレスが移動したから取り戻しにきたのよ。
…まさか換金されているとは思わなかったけどね。」
すると、フィオナさんが思案顔をする。
「──ペロ様。ネックレスがあったのはどこの家ですか?」
「…王都にある、カンデラ侯爵家じゃ。たまたま邪悪な気を感じたから丁度良いって思ったんじゃが。」
ペロの言葉にハーマンさんが目を見開いた。
「…やっぱり! カンデラ家の令嬢がリオネル殿下の新しい婚約者候補になったのよっ!」
その言葉に全員が黙り込んだ。
「…えーっとつまり。黒幕はカンデラ家の可能性が高そう、ですね?」
俺がそう言うと、フィオナさんが頷いた後、溜息を吐いた。
「…じゃあどっちしろ、ハーマンさんは利用されるだけ利用されて、責任だけを押し付けられた可能性が高いのですね。」
この顔はマンションで受け入れるべきか帰すべきか、迷っている顔だろう。
(──まあ、国に帰ったらカンデラ家に全部罪を押し付けられて、殺される可能性が高そうだな。)
暫くすると、フィオナさんが溜息を吐いた。
「…仕方ないですわ、カワグチ様。このマンションでハーマンさんを受け入れて差し上げて。」
そう言われて俺は目を見開く。
「…いいんですか?」
「しょうがないですわ。大人に利用されていたってわかったのに、むざむざ殺されるのがわかっている場所に帰すのも寝覚めが悪いですし。」
その言葉に、ハーマンさんの目に涙が溜まっていく。
「…いいの? 私、あなたの事…っ。」
「──まだ許したわけではないですわ。」
そう言って、フィオナさんはプイッと顔を背けた。
「…ありがとう。絶対この恩は返すわ。」
ハーマンさんは泣きながら呟いた。
「──えーと、感動してるところ悪いんですが。
じゃあそうと決まれば、ハーマンさん。契約して下さい。えーっと。お金って持ってます?」
俺の言葉に彼女の顔が引き攣った。
「…えっ、ないんだけど」
「えー…。そうですか。どうしようかな…」
すると、ペロがドヤ顔で言った。
「仕方がない。ワシが家賃くらいは出してやろう」
(…いや、元々その金、ネックレスの金だけどな!!)
俺は思わず心の中でツッコむ。
「──ありがとうっ、ワンちゃん」
だが、ハーマンさんは素直に御礼を言った。どうやら反省しているみたいだ。
ペロが丁度、世話代をいくらかくれるとお金の入った紙袋を持ってきていたので、その中からハーマンさんの家賃をもらった。
すると、タブレット画面が再び現れた。
『リリ・ハーマンを住民登録しますか?
※生体認証可能および、防犯保護対象となります』
俺がYESを選択すると、ハーマンさんの身体が青く輝く。
「誰がワンちゃんじゃっ。その代わり、生活費は自分で稼ぐのじゃぞ!」
ペロがそう言った瞬間。
俺の目の前に再びタブレット画面が現れた。
『管理人権限:コンビニを有人仕様に変更、及び従業員を雇用しますか?
郵便の発送や受け取り、ギフトの発注、おでんや出来立てメニュー、タバコの注文が出来るようになります。給料は売上から天引きされます。無人になった際は元の仕様に戻ります。』
その画面を見て、俺は固まる。
「…なんかこのコンビニで働けるみたいですけど。
やります?」
その言葉にハーマンさんが戸惑った顔をする。
「…フィオナ様がいいって言ってくれるならやりたいけど…」
すると、フィオナさんが頷いたので俺はYESを押す。
──その瞬間。コンビニの中が強く光り輝き、周囲が真っ白になる。
「──なんだ?!」
すると、なんとコンビニが無人レジではなく普通のレジになっていた。
──そして。
「…何?! この服!!」
なんと、ハーマンさんがコンビニの制服を着ていた。
すると、コンビニの天井からヒラヒラと紙が落ちてきた。
(…なんだこれ?)
俺が拾い上げると、それはハーマンさんのシフト表だった。
「…明日から週5で朝11時から夜10時か。…結構キツイな。」
だが、本人はホッとした顔をしていた。
「──私、週に二日も休めるんだ。…なら十分だよ。」
こうして、三人目の住人がマンションに住み着くことになった。
「──でもこうなると、フィオナさんの故郷の隣国は、カンデラ侯爵家の思惑通りになってしまった…ということですね…」
俺の言葉に、フィオナさんが複雑そうな顔をする。
「そうなりますわね…」
「──このままでいいのかの?」
ペロがそう言うと、コンビニの中が水を打ったように静まり返る。
「…でも、もう私は国を追い出されてしまいましたし。今更どうにもならないですわっ!
さあてっと。私は部屋に戻って、気になっていた『どらま』の続きでも見る事にしますっ!」
そう言ってフィオナさんは行ってしまった。
取り残されたペロとハーマンさんと俺は、顔を見合わせる。
「…とりあえずハーマンさんをお部屋に案内しますね」
俺の言葉に彼女が頷いた。
彼女の希望やフィオナさんを考慮した結果、ハーマンさんの部屋は2階になった。ちなみにこの部屋も1LDKだ。
「ここが、ハーマンさんの部屋です」
すると、彼女が目を見張った。
「…こんないい部屋初めて。
こんなにすごい魔道具も初めてだし。あーあ。王子を誘惑しても、結局家には絶縁されたし。こんな事ならさっさとここに逃げてくればよかった。
結局私、フィオナ様に申し訳ない事しただけで終わっちゃったな。…こんなにいい人だって知らなかったから、今更だけど罪悪感が凄いんだけど。」
そう言うと、溜息を吐いた。
「…まあ、確かにそうですけど、もうやってしまったことに関してはどうにもなりませんから…。とりあえずハーマンさんも大変だったんですから今日はゆっくり休んでください。
明日から仕事なんですし。」
そう言うと彼女は頷いた。
「そうね。そうするわ。」
ちなみにドラゴンは餌だけやって、外で飼うことになった。さすがにマンションの中では買えないからな。
こうして、夜は更けていった。




