【5】魅了終了のお知らせ。
「な、なんか、どんどん近づいてきてないか?」
何故かマンションに近づいてくるドラゴンに、俺の背中に冷や汗が伝う。
「本当じゃのう。」
一方、ペロはなんだか余裕である。
すると、先程まで元気に走っていたフィオナさんが、コンビニの前に立ち止まって青白い顔をしている。
(…フィオナさん?)
すると、ドラゴンは『ズドンッ!!』と音を立てて着地する。背中からは黒髪タレ目の、パッと見可愛い系の女性がいそいそと降りてきた。
ローブの中身は、フワッフワのちょっぴりおバカそうなピンクのドレスである。
彼女はニッコリとした笑みを浮かべながらフィオナさんに近付いていく。
「──お久しぶりですっ。フィオナ様!…随分とお元気そうで、私、すっごい安心しちゃいましたー」
そう言って、きゅるんっとまるでアイドルのような仕草で片手を上げた。
(あ、なんだ。友達?)
そんな事を思って様子を見ていると、いきなり彼女の顔がギンッとコワモテのおっさんのように変わった。
(…へ?)
「──やっぱりあんただったんだ!私のネックレスを盗んだのはっ!!返してよ!」
そう言ってすごい剣幕でフィオナさんに詰め寄っていく。
「──ハーマンさん…。申し訳ありませんが知りませんわ!! 私、あなたのネックレスなんて…!!」
言いながら何かに気づいたように、ハッとした顔でコンビニのペロの方を向いた。
「──ん?」
(…この子誰だ? っていうか、ネックレスってもしや…)
俺がペロの方を向くと『クーン』と言いながら、尻尾をパタパタ振っている。
(…コイツかーーーーーー!!!)
「いいから私に早く返してよっ! ──そうじゃないと…」
詰め寄るハーマンさんと呼ばれた女の子に、ジリジリと追い詰められるフィオナさん。
自動ドアが開き、二人がコンビニの中に入ってきた。
「──っきゃ!!」
フィオナさん躓いて尻餅をついてしまった。女の子がすぐそこにあったガムの箱をフィオナさんに投げつけようと持った。
(やべ。止めなきゃ)
その時、タブレット画面が再び出てきた。
『管理人権限:器物損壊者を発見。
防犯レベル1作動。──実行しますか?』
俺が慌ててYESを選択すると、ペロの時同じように警告音が聞こえてきた。
ビー!! ビー!! ビー!!
「なっ、何?!」
対して女の子は、けたたましい音に驚いて顔を上げた。
『──お客様は商品を損壊いたしました。早急に弁償をお願いいたします。』
床から銃口が顔を出し、ビリビリと女の子に電気攻撃を開始し、彼女が悲鳴を上げる。
「キャアアアア!!!!」
その様子を尻餅をつきながら、フィオナさんが呆然と見ていた。
そして、女の子が痺れてガクガクしている間に、床から出てきた縄が彼女を拘束する。
「──っかはっ、こ、こんなことして、タダで済むと…。」
動けなくなった女の子が涙目でフィオナさんを睨みつけた。 俺は慌てて食べかけていたサンドイッチを飲み込んで、彼女の前にしゃがみ込む。
「すんません。多分そのネックレス盗んだの、フィオナさんじゃないです。──うちのペロです。」
俺がそう言うと、ペロは元気に『ワン!!』と吠えた。
(…こいつ!!都合悪くなった時だけ犬のフリすんなよ!!)
「──へっ?! そうなの!? じゃあ飼い主の貴方が今すぐ返してよ!!」
目を血走らせて叫ぶ彼女に、俺は困惑した顔で告げる。
「…いやー。無理っすね。もう換金しちゃいましたから。───ちなみにえーっと、一万で金貨一枚だから…。そうそう! あのネックレス、金貨千八百枚になりました!」
その言葉に彼女の顔が引き攣っていく。
「…へ?!」
「──ペロ。とりあえず残ってるお金だけでも返そうか。」
俺がそう言うとペロが開き直ったのか、首を振った。
「──嫌じゃっ。だって、あのネックレス『魅了の呪具』付きじゃもんっ!! 匂いでわかるわい。ああいうのはろくなことに使われん。
流石にワシも、真っ当なモノは勝手に持ってこんわい!!」
(いや、でも盗みは駄目だろ…。)
そんな事を思いながら俺は女の子の方を振り返る。
「…えーっと、うちのペロがこんな事をいってますが。…ちなみにあのネックレスって、貴女はどんな事に利用されていたんでしょう? 魅了の呪具ってことは、どなたかに使われていたんでしょうか?」
その言葉に、フィオナさんが目を見開いた。
「…まさか…。」
すると、女の子は目を伏せて動かなくなった後、口元に両手を当てて舌を出した。
「…わかんなーいっ!」
──その瞬間、俺は悟った。
(…あ。この人、絶対何かヤバいことやってるわ。)
◇◇
「…いやぁ、この唐揚げちゃんのチーズ味、美味しいなっ!」
「本当ですわねっ!! あ、この新作のカツサンドも美味しいですわよっ!」
俺達はとりあえず昼になったので、ご飯を食べることにした。
「ワシは、このちゃんぽん麺というのが気に入った!食べたことのない旨みにエキゾチックな味がする…!!」
「──ごくり。」
女の子が生唾を飲み込んだので俺は声をかける。
──ちなみに薄々気がついていたが、この子がフィオナさんの婚約者の第二王子が夢中になってしまったという例の男爵令嬢だそうだ。
「…もう殆ど何やってたかバレてるんだから、さっさと話しちゃいましょうよー。」
「そうじゃ、そうじゃ。──どうせ王子をはじめ、周囲の者のことを魅了のネックレスで洗脳しておったんじゃろう。さっさと話せば、メシをやると言うとろうが。」
ペロが煽るように、女の子の前でずるずるとちゃんぽん麺を啜る。
「うっ、い、嫌よ!!絶対話さないから!!」
強情な女の子に、俺ははぁーっと溜息を吐く。
「よし、じゃあ食後に新作のシフォンケーキとプリン!! それにわらび餅も買おうかな!」
「まあ、美味しそうですわ! 私はシュークリームと杏仁豆腐と…、クレープも頂きますわ!!」
そう言って俺達はスイーツを追加で購入して、和気藹々と食べる。
「…そ、それは何?!」
女の子が涙目で尋ねてくる。
「──甘いデザートです。あー美味しい。」
俺が答えると彼女がぷるぷる震え出した。
「──わかったから!! 言うわよ!!
…っ、私が王子とその側近達を魅了してフィオナ様を国外追放しましたっ!!」
俺はそれをこっそりスマホのICレコーダーで録音した。
「はい、いいですよ。今回は特別サービスで俺が奢ってあげますね?」
そう言って俺がニコニコと笑う。
女の子は俺達をキッと睨め付けながらもカゴの中に目一杯食べものや飲み物を入れた。
(…この世界の女の子って、みんなめっちゃ食うな。)
そんな事を思いつつ会計を済ませる。
「はい、どーぞ」
レジ袋に入れて食べ物を渡す。すると、イートインスペースに座るなり、女の子がガツガツとパスタとサンドイッチとケーキとシュークリームを食べ出した。
「──何これっ! リオネル様と食べた王都一のレストランの料理よりよっぽど美味しいわっ! 羨ましいっ!」
驚いた顔をしつつ、どんどん吸い込むように食べ物を口に入れていく。
すると、ペロが神妙な顔でつぶやく。
「──羨ましいも何も、そもそもフィオナが追放となった原因を作ったのは、お主であろうに。」
「…今、国内はどうなっているんですの?」
流石に心配になったのか、フィオナさんが眉尻を下げた。
すると、女の子がごほっとジュースを吹き出した。
「…あ、貴女は知らなくて良いわ。」
(…なんだ今の間は。この子、今更だけど顔は可愛いけどあんまり品はないな。)
「──えーと、ハーマンさん、でしたっけ? 貴女はとりあえず食べ終わったら、国に帰って下さいね。あそこでドラゴンも待ってますし。」
ちなみに、この子が意地を張ってる間に、ドラゴンにはミネラルウォーターとサラダチキンを10個ほどあげてきた。
──腹を空かせてたら気の毒だからな。
俺の言葉にハーマンさんがぷるぷると震え出す。
「む、無理よっ!!」
俺は目を丸くする。
「…は?」
「──無理よ!! だってみんな正気に戻っちゃったんだもの!! だから、慌ててネックレスを取り戻しにきたのに!!」
その言葉にペロとフィオナさん、そして俺の三人は固まってしまった。




