【35】アルカディアの領主
「あれ? なんか俺が作った石畳、えぐれてね?」
──次の日。
前回と同じように美味しい朝食で感動した後のことだった。
他国の貴族はこれからのショッピングモールでの買い物の仕方や、国内での広め方など説明があるらしく、一旦リオネルさんと別行動になったのだが──。
「カワグチ様ー。私ももう貴族じゃないので両親と別行動になりました。一回一緒に帰りませんか?」
フィオナさんにそう言われて散歩がてら、フィオナさん、ペロ、俺でホテルの周りを歩いていると、石畳がなんだかすごい傷ついていたのだ。
すると、何故かペロが「クーン」と言いながらパタパタ尻尾を振り出した。
(…ん? 何でコイツ、いきなり犬のふりし出したんだ? ま、いいや。とりあえず直さなきゃ)
そう思ったらタブレット画面が出てきた。
どうやらスキルに搭載されたAIが俺の思考を読み取ってくれたらしい。
『生成した公共物を修復しますか?
MPを2消費します』
と表示された。
YESを選択すると、石畳が修復されていく。どうやら修繕だけだとMPも大した消費されないらしい。
「あ、直った直った。良かったー。タロウを移動させた時傷ついちゃったかな…」
そんな事を言いながら家に荷物を置くためにエレベーターに乗る。すると、エレベーターのボタンを見てフィオナさんが訝しげな顔をした。
「──あら? 地下行きのボタンなんて、今までありましたっけ?」
その言葉に俺はビクッと肩を振るわせる。
「…さ、さあ。あったんじゃないっすかねぇ」
俺がテキトーに誤魔化そうとするとフィオナさんがずいっと迫ってきた。
「──なかったですわよねぇ…。カワグチ様?」
口元は上がっているが、目が笑っていない。
「あー、これはワシが防犯の為にカワグチに昨日作るように言ったんじゃ! 急遽作る事になっての!」
(…あー、ペロのやつ!! また勝手に余計なこと言っちゃって…)
俺は『なんで私も呼んでくださらないんですか!』と怒られるのを覚悟してちらっとフィオナさんの方を見る。
すると、彼女は今回は怒らず目を丸くした。
「…そう。防犯の…。それなら仕方ないですわね」
──なんかよくわからんが勝手に納得してくれた。
良かった良かったと思っていたら、ペロがこんな事を言い出した。
「荷物を置いたらせっかくだから、フィオナも地下に一緒に行ってみるかの?」
「まあ、是非!」
こうして荷物を置いたら三人で地下のラウンジに行くことになってしまった。
◇◇
「まあ、素晴らしいですわ! 飲み物を飲んでくつろげるだけでなく、シャワー室やトイレまでありますのね」
フィオナさんがラウンジを見渡して、目をキラキラさせている。
「ええ。そうみたいです。あ、僕ジンジャエール飲みますけど。フィオナさんも何か飲みます? ペロも何か飲むか?」
「まあ!じゃあコーヒーを下さいな」
「ワシはトマトジュースじゃ!」
フィオナさんはナーミャにいた時は紅茶しか飲んだことがないようだが、この街に来て、コーヒーにハマったようだ。
「ほい、どうぞ」
「まあ、ありがとうございます!」
三人(一人は神獣だが)で飲み物を飲んでいると、フィオナさんがポツリと呟いた。
「…実は昨日、この国にどこかの不届者が侵入した痕跡があったそうですわ。
今日の朝、皇宮からセイン様に連絡が来たみたいで、気をつけてくださいと注意喚起がありましたの」
その言葉に俺は思わず目を見開く。
「へ? 侵入したとか、そんなのわかるんですか?」
「はい。ラングスチアもナーミャもそうですが、生まれた時に個人の魔力を国で登録するんですわ。
だから、基本的には国外から誰か侵入したらすぐにわかるんですの。…カワグチ様は異世界人で魔力が異質なので、検知されなかったのでしょうけど…。
まあ、今までだったらこの地はただの荒地なので、私やハーマンさんが来ても、単なる迷い人として処理されていたようですが…。流石にこの周辺国の王族が集まっているタイミングで侵入した、となると…」
(そうだったんだ…。魔力の登録…。まあ戸籍登録みたいなもんなのかな?)
すると、ペロが何か神妙な顔をしている。
「…どうした? ペロ。何か変なものでも食ったような顔してるけど」
「…実は心配かけたくなくて、黙っとったんじゃが、ワシ、多分その侵入者っぽい人物、昨日の夜見たんじゃわい」
その言葉に俺とフィオナさんが息を呑む。
「本当ですか?! どんな人でしたの?」
「うーん…黒い服を着ておったな。変わったエキゾチックな格好だったわい。暗闇に紛れようと思ったんじゃろうけど、カワグチの作ったホテルは街灯という照明に囲まれておったから、丸見えじゃったけど。
あやつら、ホテルの壁を登っておったぞ?」
(え?! すげぇじゃん! ちょっと見たかった…)
すると、フィオナさんは何やら考え込む。
「…狙ったのは誰でしょうね。誘拐しようとしたのか、暗殺しようとしたのか…。今回呼ばれていたのは、周辺の五カ国でしたが、その中の国か、それとも別の国か…」
「こええ、五カ国のうちの、どこかの国の貴族、または王族が狙われたってことっすか?」
俺の言葉にフィオナさんが心配そうな顔をする。
「…まあ、その可能性もありますし、あるいは、こちらの話が盗聴されていて、カワグチ様を狙った可能性も少なくないですわよね…」
「へ?! 俺?!」
思わず絶句する俺にペロが溜息を吐く。
「…だから昨日逃げるところを作っとくように言ったんじゃ」
(…そうだったのか。ペロのやつ、ポンコツかと思ってたけど、色々考えてくれてたんだな)
「とりあえずそういう訳なので、カワグチ様は気をつけた方がいいと思いますわ。
それに、もう少しで、ショッピングモールが本格的にオープンしますでしょ?
その日を狙ってくる可能性だって高いですし」
「わかりました…」
とりあえず、しばらく移動する時は地下を使おうと俺は心に誓った。俺の横で、フィオナさんは何やら考え始めた。
「──それにしても、黒のエキゾチックな衣装…ですか。もう少し情報があれば良かったのですけれど。
念の為にセイン様に報告しておきます」
◇◇
(やべえ! 俺を狙ってたかもだって?! いよいよ怖いんですけど!)
俺は部屋に帰ってからタブレットを出してAIに話しかけていた。
「ねえ、もしこの街が攻撃されたりしたら、俺の能力で反撃したりすることって出来る?」
すると、タブレットにこんな事が表示された。
『出来ますよ。建物の外部セキュリティを向上させれば良い話です。
──本日のMPを全て使って、このアルカディアの建物のセキュリティを全て向上させますか?』
その言葉に俺はYESを選択する。
──すると建物の外が真っ白に輝き始めた。
パアアアアッ
窓の外を見ると、建物全体が光り輝き、やがてその光は唸りを上げて天空に消えていった。
「…おお、なんかよく知らんが光ったが…。え、本当に大丈夫なんかな…これで」
俺がボソッと呟くと、タブレット画面には
『おそらく大丈夫です』と表示された。
(本当かー? 恐らく…とか超不安なんだけど。ま、何もしないよりは安心か)
「…終わったかの?」
ペロにそう言われて俺は頷く。
「うん、とりあえず終わったっぽい」
「それじゃあ、行くかの」
そう言われて、俺は頷いて礼服に着替えた。
──そう。今日の夕方から俺は、セインさんと『これからこの街を誰が治めることになるのか』いよいよ話し合うことになっている。
地下を通り、役場のエレベーターを上がって、セインさんに指定された会議室に入っていく。
そこには、グレインさんにグレイスさん。それに、ラングスチアの皇帝陛下が鎮座していた。
(え?! 時間より15分早く来たのに全員集合してるんだが!!)
「──すみません! 遅くなってしまいまして」
俺が焦って謝罪すると、セインさんが首を振る。
「ううん。時間通りだよ。早いくらいだ。相談されてた件について、先にどうすべきか僕達の意見を話していたんだ」
そう言って彼がニッコリと笑う。
「あ…そうだったんですね」
俺は思わず胸を撫で下ろす。
「それでね? この街、アルカディアの領主だけど──。やっぱり君にやってもらいたいと思うんだ」
その言葉に俺はそのまま直立不動になってしまった。




