【33】カワグチが欲しい。〜マキシム・トライデン視点
◇◇マキシム・トライデン視点
「…なんだこの街は」
私の名前はマキシム・トライデン。トライデン王国の王太子である。
今日は隣国のラングスチア王国に招待され、新しく出来たという国境の街にやってきた。
セイン皇太子によるとこの地は本日、『アルカディア』と名付けたということだ。
──初めて見た時に言葉を失った。
天空に浮き上がるいくつもの畑。見たこともない素材で作られた『マンション』という神の塔のごとき建築物。
まるで、住宅地の為に盛り上がったかのような日当たりの良すぎる美しい家々に子供の遊び場。
そして、このショッピングモール──。
(異世界から来た異能力者だと…?)
見たこともないダイヤモンドのように美しい透明な建物。この建物がなんとただの『役場』だという。
──ラングスチアの皇太子からその中で紹介されたのは『カワグチ』という名の異世界人だった。
黒い髪に黒い瞳。エキゾチックな顔立ちをしたその男は、白い『ペロ』という名前の神獣を連れて、どこか異質な空気を放っていた。
掴みどころのない何を望んでいるかイマイチ読み取れない、そんな目である。
──そして、この価値ある建物の全てをなんと『カワグチ』が一人で建てたのだという。
私は生唾を飲み込んだ。
(──あの男が欲しい)
だが、楯突くにはラングスチア帝国はあまりにも強大だ。
私は正攻法ではなく、先ずは駄目で元々だと腹を括ってから彼を我が国に来たくなるようにそれとなく聞き出すように部下に命じることにした。
ショッピングモールで見たこともない新鮮で美味そうな食べ物を目一杯購入した後、アイテムボックスに入れた。
すると、部下から『カワグチ』がフードコートなる場所で『タコヤキ』という不思議な食べ物を購入して食べているという情報が入った。
「これは探りを入れるチャンスだ。いいか。私の目の前で、カワグチが何を与えれば我が国に来たくなるか探れ」
私が魔道具で指示をすると、部下の貴族がそそくさとカワグチに近づいていく。
一方私は不自然じゃない距離まで近づき、『ドーナッツ』という見たこともない美味そうな穴の空いた菓子を購入し、視界に入る場所で食すことにした。
(…むうっ! なんだこの優しい甘みはっ!! カリッとした表面の中のふんわりした生地が噛み締めるごとに幸せな気分になる。
オマケにこの表面に付いているチョコレートというソースが美味すぎる。
揚げてあるので少し重たいがこの苦いコーヒーというものと一緒に食べるといくらでも食えそうだっ)
そんな事を思いながら、ドーナッツ片手に部下とカワグチを観察する。
「カワグチ様。この度は我が国をプレオープンに招待して下さり誠にありがとうございます」
すると、タコヤキという食べ物を食べながら彼はこう言った。
(…なんだかあの食べ物も美味そうだな。あとで買ってみよう)
「あー、全然いいんすよ! というか、プレオープンに招待する人を選んだの、僕じゃなくてセイン様なので」
そう言って神獣と一緒にヘラヘラしながらタコ焼きを食っている。
「それはそうと、カワグチ様。異世界から来て間もないとのことですが、何かお困りの事などございませんか?」
部下がグイグイとカワグチに迫っていく。
「そうっすねー。今の所特にないっすねー」
ところが彼はそう言ったのだ。部下は固まったあと、こう言った。
「またまたー。というか、ここまでの功績を残しているのにまだ何の爵位も貰ってないって聞きましたよ?」
その言葉に、カワグチはこう答えた。
「あー、くれるとしてもいらないっすねー。俺、仕事したくないんで。ほら、爵位とか持っちゃうと領民の生活に責任持たなきゃならないですかー。そういうのはちょっと…」
(…何だこの男は。これだけの事をやっておきながら、地位などいらないとでもいうのか…?!)
私は目を見開く。
「いやいやー、でも欲しいものくらいありますよね?! あ、そうだ、恋人はいらっしゃいますか?」
それでも部下が諦めずにカワグチに迫っていく。
(頑張れっ! もっといけ!)
そう思いながら俺はドーナッツを飲み込む。
「あー、今は彼女、いないっすね。というか、異世界から来たばっかりですし」
その言葉に私は心の中でガッツポーズを取る。
(よーしよしよしよし!! よくやった! 部下よ)
「良かったら僕、可愛い子、紹介しましょうか?!」
部下がキラキラした目でカワグチを見る。
「えー…でも。遠いっすよね? 遠距離とか嫌なんすけど」
その言葉にシーンとその場が静まり返る。
「…我が国に引っ越してきたらいいじゃないですかっ」
「えー、嫌です。面倒くさいですもん。それにセイン様が村人受け入れたら税金免除してくれるって言ってくれましたし。なんだかんだでここ、気に入ってるんで」
すると、隣の神獣も頷いている。
「そうじゃな。そこまでせんでも、女くらいセインに言ったら紹介してくれるんじゃないかの?」
「だよなー。あ、そろそろ行きまーす。楽しんで行って下さいね」
そう言って彼は行ってしまった。
(ぐぬぬぬぬぬ…なかなかうまくいかぬな)
私はそう思い、溜息を吐いてしまった。
◇◇
──夜。私はカワグチの建てたという、素晴らしい宿屋(ホテル…という名前らしい)に他の貴族と共に宿泊した。
(なんだ! この素晴らしい魔道具や寝心地の良いベッドは!!)
中でもスパというものは素晴らしかった。
私はますますカワグチという男が欲しくなってしまった。
(──だが、とりあえず、ラングスチアは怖い。
勝手に連れ去ったら間違いなく報復されるに決まっている。特にセイン皇太子はあのニコニコした顔の下で絶対に何か恐ろしい事を考えている。
もしトライデンがカワグチを手に入れるとしたら、自分で来てもらわねばならない)
風呂上がりにアイスという美味い棒状の冷たい食べ物を食べ終えた後、悩みすぎて頭を抱えてしまった。
「とりあえず散歩でも行くか」
「そうですね。マキシム様」
そんな事を話しながら、部下とゲームというものをしにショッピングモールへと向かう。
──少し夜風に当たりたかったので、敢えて外を通った時だった。
黒装束を着た何者かが、三人ほどホテルに忍び込もうと建物に魔道具を使って飛びつき登っていったのだ。
「「っな!」」
(まさか、カワグチを誘拐する気か?! 一体どこの国だ?!)
私達が思わず目を見開いた時だった。
「──何をやっておるのじゃ?」
そう言ってベランダからあの神獣──ペロ殿がベランダによじ登りなんとホテルの壁を走り出した。
その顔は昼間見た可愛らしい顔とは違い歯を剥き出しにして怒っている顔だった。
そして、身体に雷のような光を纏わせながら、黒装束の者達を次々と蹴落としていく。
「くっ」
黒装束の男達は魔法を使って飛び降りると一目散に逃げていく。
「逃さんわっ! この街の平和を脅かす者には鉄槌を下してやるわい──」
──次の瞬間。
真っ白い光がゴオッと神獣から発せられ、石畳を抉っていく。
「──っ!!」
結局黒装束の男達は命からがらと言った感じで逃げていった。
私と部下はポカーン口を開けたまま、固まってしまった。
「──とりあえず、ゲームしに行くか」
「そうですね…」
(…こんな事をするなんて一体どこの国だ? ラングスチアに公然と楯突くとは、よっぽど自信があるのか馬鹿なのか。何れにせよ、ひとまず成り行きを見守った方が良さそうだな)
私はそんな事を思いながらショッピングモールへと足を運んだ。
「さっきの黒装束の者達はどこの国の者だろうか。」
「さあ…。少なくともナーミャとトライデンではないことは確かですね」
(…まさか、招待されていない国が、私達周辺諸国の王族がこの地に集まっているの見て、偵察をしていたのか?)
私達は胸騒ぎを覚えてしまった。




