【23】守らなければならない男〜グレイス・ベネット視点
◇◇グレイス・ベネット視点
「ベネット。悪いが、我がラングスチア帝国の辺境の土地に暫く行ってくれないか?
──同盟国であるナーミャ王国、それにヤック連合国と、ティファニア共和国に接するこの土地だ。」
皇太子であるセイン様にこう言われた時、私は絶望した。隣には騎士団長であるグレイン・ボールドウィン様が頷いている。
(──何故、次の宰相候補と言われていた私が、こんな何もない辺境の地に飛ばされなければならないんだ…。)
家柄も侯爵家で、代々祖先が国の要職を任されてきた私にとって、その打診は寝耳に水だった。
「──な、何故ですか…?特に私は左遷されるような事をした覚えなどないのですが…。」
思わず声を振るわせる私に慌ててセイン様が付け加える。
「違う!! 違うから!! 本当に左遷とかじゃないよ?
──僕はこの土地が下手したら王都を上回る商業都市になると確信している」
そう言われて私は訝しげに眉を顰める。
「──こんな赤茶けた山以外何もない辺境の都市が、ですか?」
するとセイン様は何度も頷いた。
「そうそう!実はその土地にさ。異世界から転移者が現れたんだ。」
その言葉に私は目を見開く。
「…『転移者』って。勇者となる異世界人ですか?」
「んー…。どうだろ?今までの転移者は確かに『勇者』になってきたけど、今回の異世界人は違う気がする。」
セイン様の言葉に私は考え込む。
「…なぜ皇宮で保護しないんですか?
歴代の『転移者』は皇太子殿下の庇護下に入ってきましたよね?」
「うん。本来ならね。──でも今回の異世界人の能力が結構特殊でさ。
どうやら異世界の建物を魔法で出す能力らしいんだよ。で、もう現地に建物も建てちゃってて住んでる人もいたんだ。
──それに何より王都にはもうこの通り建物がひしめきあっているだろう?
彼の建てるたてものはどれも巨大でね?
だったら本人も気に入ってるみたいだし今の辺境を開発してもらった方が良いかなと思ったんだ」
(巨大な建物…だと?)
「それってどれくらいですか?」
「そうだなぁ。──この城くらい?
下手をすればもっと大きいかもしれない。」
そう言われて私は思わず目を見開く。
「この城より、大きい…ですって?!」
「ああ。しかも、一瞬で建ててしまうんだよ。見た時は目を疑ったね。
それでさ。彼が僕の目の前で『異世界の商業施設』を建ててくれたんだ。
──あれは凄かった!!この世界にはまだない未知なる魔道具、見たこともない美味い食べ物に文化。
正直、僕は目を疑いたくなったね。
ただ、取り仕切る人間がいなくてさ。
──君にはその商業施設と最近災害のあった三つの村から引っ越してくる村人達を他の文官数人と取りまとめて欲しいと思っている。」
セイン様の言葉に私はゴクリと生唾を飲む。
(それが本当だったら確かに国を揺るがす一大プロジェクトだ。…だが、本当にそんな事はありえるのか?)
「頼むよ。グレイス・ベネット。これを成功させれば君はきっと大出世だ。
宰相や他の部署は今その商業施設──『ペロモール』」の会員を集めるために猫の手も借りたいくらい忙しいんだよ。国内だけじゃなく、友好国からも集めているからね。
だから現地にはぜひ君に行って欲しいと思っている。」
「…わかりました。ですが、条件があります。
私が現地に行ってもし納得しなければ皇都勤務に戻していただけますか?」
溜息を吐いた僕にセイン様にはニヤリと笑う。
「ああ。勿論だよ。
──きっと『彼』は君の度肝を抜くだろう。」
そう言われて渋々この土地に来たのだが──。
(…なんだ、あれは。)
──騎士団長のグレイン様の兵団に護衛されながら、村人たちと馬で近づくにつれて見えてくる巨大な四角い建物と商業施設。
私は驚愕に目を見開いた。
『あれ』を作ったという転移者、カワグチという男は黒髪で、商人のようなどこかうさんくさい笑みを浮かべる人物だった。
だが意外にも、警戒心の強いボールドウィン騎士団長が心を開いて話している様子で、人柄は悪い人ではないらしい。
「──カワグチ様。私がこちらにきた文官を取りまとめているグレイスと申します。
住人達の食事の用意や名簿のチェックは僕達の方でしますね。
ただ、お部屋への案内だけは手伝って頂いても宜しいですか?」
すると、彼はどうやら村人の名前や家族構成をしっかり確認して、それに合わせた住居を用意してくれていたらしい。
(ふむ…。どうやら仕事はきっちりとやる人物らしいな。)
私はカワグチという男にだんだん好感を持ち始めた。
しかも、墓と離れたくないからと非難を渋る村人達をドラゴンに迎えに行ってくれたのだ。
仕事も出来て、人情も厚い。
胡散臭いが確かにグレイン・ボールドウィン騎士団長が気にいるのも納得だった。
──彼の帰りを待ちながら、初めて食べる異世界の食事の美味さに驚愕しつつ、そろそろ今後の生活について説明しようと村人達を集めたその時だった。
「おーい!!」
──なんとどんなに説得しても村を動こうとしなかったら三人の村人達が彼と一緒にドラゴンになってきたのだ。
(…一体何を言って彼は説得したんだ?)
安心半分、ハラハラする気持ち半分で様子を見ていると、彼が突然こんな事を言い出した。
「皆さん。実は僕のスキルで家屋を動かせる事がわかりまして。
今日はマンションに泊まって頂くとして、明日から元の家に住みたい方はいますか?」
「っな!!」
思わず声が出た。
そして、カワグチ様はショッピングモールの近くまで歩いて行った。
(…そんな事、本当に可能なのか?一体彼は何をする気なんだ…。)
村人達に今後の生活について説明していたら、誰かが叫んだ。
「何だ?!アレ!!」
──振り向くと、地面が光り輝いたと思った瞬間。
ゴオオオオオオオオオ!!!
土が盛り上がったと思ったら彼が次々とラミア村にあった家屋を当たり前のようにその土地に出していく。
──全部出したあと、今度は見たこともない美しい柵や木、噴水など一瞬のうちに出していく。
そして、彼が天に手をかかげるとキラキラと光が舞い落ちてきた。
──それはまるで神が舞い降りたかのような幻想的な風景だった。
「…信じられない。」
私の口からは自然とそんな言葉が出た。
帰ってきた彼を問い詰めると、彼はなんとこう言ったのだ。
「あーなんか、出来ちゃいました。」
と。
(──まずい、この異世界人は、色んな意味で『危険』だ。)
私はすぐに察知した。
数日後。村人達が無事引っ越していきホッとしつつも、農家だった村人達の処遇について私は頭を悩ませていた。
彼に『解決した』と言われて半信半疑だったのだが。
──建物が浮いた。私は言葉を失ってしまった。
今までこんな光景を見たことは一度もない。
この国のトップの帝国魔導師でも不可能な奇跡を、あの男──カワグチ様は当たり前かのようにヘラヘラ笑いながらやってのける。
「…畑が空に浮いている。」
ラミア村から来たミラノという村人が呆然とする横で私は冷や汗を流していた。
(もしこの力が他国に知られれば──)
この土地も、ショッピングモールもスカイファームタワーも。そしてカワグチ様自身も必ず狙われる。
拉致の可能性はともかく、カワグチ様一人を取り合って下手したら『戦争』が起きる可能性もある。
私は確信した。
カワグチ様は、ラングスチア帝国が命をかけても守らなければならない存在である。
私はその日、セイン様に魔道具で連絡をした。
『──どうしたの?グレイス・ベネット。現地で何か面白い事でもあったかい?』
そう言ってセイン様が密やかにほくそ笑むのを感じた。
「セイン様に報告があります。
カワグチ様の力は確かに素晴らしいです。
けれど、素晴らしすぎて──危険です。
彼に護衛をつけなくてもいいのですか?
このままでは、下手したら彼という人間の奪い合いになります。」
すみません、他の連載と混乱して【40】になってしまってたので23に直しました…




