【2】追放された公爵令嬢、パンツから宝石を取り出す。
「ふぁー、…よく寝た」
スマホを見ると、もう昼近くになっていた。
昨日結局寝たのが深夜1時過ぎだったので、疲れも溜まっていたらしい。
窓を見ると、だだっ広い草原が広がっている。
空を見たら、なんかよくわからんモンスターっぽいのが飛んでいた。
鳥がでっかくなって、少し恐竜っぽくなったやつだ。
──だが、俺にはマンションから出る予定がないので関係ない。
「そういえば知り合い誰もいないし、見栄も張る必要ないな。髪もセットしなくていいし髭も剃らなくていい…!! 最高!」
そんな事を呟きながら俺は昨日買ったオニギリとヨーグルトをモソモソ食べた。
スマホは何故か今まで通り見ることが出来る。
LINEで知り合いから『同窓会あるけど来ない?』と連絡がきていた。
だが、『今海外にいるから無理』と返しておいた。
異世界でもスマホが使えたので、会社には『体調不良で退職します』とだけ送っておいた。
あとは人事と久間口が勝手に揉めていて、俺のところには一切連絡が来なくなった。
──よし。これで本当に『自由』だ。
「はー! なんか甘いもん食べたーい。コンビニ行ってこようっと」
一階に降りて、コンビニに入ると、何故か商品の賞味期限が新しくなりきちんと補充されていた。
「晩飯も買っとこ。何にしようかな。というか、セルフレジなのに、唐揚げちゃんが売ってるのが笑えるな」
俺は結局、プリンとビールと唐揚げちゃんと、肉まんを買った。
部屋に帰ったら久しぶりにゲームでもしようかな…とコンビニを出た時だった。
──ボロボロのドレスを着た金髪の女の子が呆然とマンションの前で佇んでいた。
ちょっとキツい顔だが結構な美人だ。
「…な、なんですの?! この建物は!! もしかして伝説の神の塔ですの?!」
突然そんな事を叫び出した。
俺はジロジロと女の子を見ると、ニヤリと笑う。
(うん。ドレスは所々切れてたりボロボロだけど、仕草や言葉遣いといい…。この子、多分金持ってるな)
俺は営業をかけることにした。
「こんにちは。綺麗なお姉さん! もしかして入居希望者ですか?」
そう言ってニコニコと笑う。すると、彼女は俺を見て目を見開いた後、泣き出した。
「ひ、人だわ!! わ、私、助かったの?!」
その言葉に俺はキョトンとする。
「――え、えーと? とりあえず、話しましょうか。お腹は減ってます? 一緒にご飯食べませんか?」
そう言ってコンビニの、イートインエリアに座らせる。
「…こんな素敵な所、初めて来ましたわ。色んな食べ物やお菓子、それに日用品までありますのね」
女の子は目を丸くして驚いている。
とりあえず『助かった』と言っている時点で遭難した可能性が高い。
つまり家にすぐに家に帰る予定がなければ、契約してもらえる可能性が高そうである。
俺は必要経費と割り切って、この女の子に好きなものを奢ることにした。
「どれがいいですか? 僕の方で全部出しますので」
「ま、まあ!! なんて紳士なの! では、このパスタとサンドイッチと、プリンとマカロンとケーキと紅茶とフルーツジュースを頂いていいかしら?!」
(…この人、結構遠慮ないな。そしてすごい食うな…)
そんな事を思いながらも、素直に購入する。
「はい、どうぞ。ところで恐らくお姉さん、結構身分の高い方ですよね? どうしてこんなところに1人でいるんですか?」
すると、彼女はグビグビとジュースを飲みながら頷く。物凄く喉が渇いていたらしい。
「実は! 私隣国の公爵令嬢でしたの!! 名前は、フィオナ・フォンティーヌと申しますわ!
これでも第二王子のリオネル殿下の婚約者だったんですのよ?! …ところがリオネル殿下が、同級生の男爵令嬢に夢中になってしまいまして!!
その上、私が彼女を虐めたと濡れ衣を着せられた上、婚約破棄されてしまったのです!
気づけば『国外追放』と言われて、国を追い出されてしまったという次第でございますわ!」
言いながら、ガツガツケーキを食べている。
(…それってラノベによくいる『追放系悪役令嬢』じゃないか? まあその割にはなんだか逞しいけれど…)
「…あ、そうなんですね。で、追放されて気づけばここにいた、と」
「そうなんですわ! お願いしますっ! どうかここに一晩でもいいから泊めて頂けないでしょうか!!
私、行く宛がないのですわ!!」
そう言われて俺は笑顔のまま思考する。
(…うーん、実家はお金持ちっぽいから保証人になってもらうおうかな)
「…フィオナさん、現在公爵家とのご関係は?」
「微妙ですわ、追放されましたもの!」
(あー、じゃあ踏み倒されるかもしれないな…)
「えーっと。ちなみにお金は持ってます? お金を払ってこの建物に住む契約をしてくれたら、一晩とは言わず、ずっと住んでいられるのですが」
その言葉に彼女の表情はパアアアッと明るくなる。
「ありますわっ! 待ってくださいまし!!」
そう言って徐にドレスのスカート部分に手を入れてガサゴソし出した。
「え? 何やってるんですか?」
「これですわっ! これ!! パンツの中に隠しておいたのですわ!!
公爵令嬢としては本来、こんな方法取りたくなかったのですけれど…命には代えられませんもの!
正直、必死だったのですわ。追放なんて、夢にも思っていなかったですし。」
言いながら、彼女は宝石を10個ほど並べた。
思わず黙ってしまった俺に彼女は笑顔で言った。
「大丈夫!臭くないですわよ?!」
「…あ、はい。それはいいんですけど。 ちょっと待ってて下さい。どれくらいの価値があるかわからないので、見てきます」
俺はATMに行って、『物品現金化』を押す。
すると、紙幣の挿入口が歪んで宝石が飲み込まれていった。
『一億二千万円、現金にしますか?』
と出てきたので慌ててキャンセルする。
(…一億二千万?! すげぇ…。しかし、流石にそんなに現金に変えたら防犯上良くないからな)
俺は宝石を取り出すと、商談に入った。
「…全然足りる金額でした。というか、これだけあればフィオナさん、暫く贅沢しなければ遊んで暮らせますよ?
──とりあえず二年間契約しませんか。
ざっくり合計二百六万円分…えー、宝石が十個ありますけど、そのうち一個の四分の一ほどの御代を頂くことになります。
けど、一階で買い物も出来ますし、快適ですよ。何より、住むとこ、ないんですよね?」
ちなみに敷金礼金、二年間の管理費込みでこの値段だ。
すると、彼女は笑顔で頷く。
「まあ!それだけでいいの?ありがたいわ! 住む所も食べ物もなくて困っていたんだもの! もちろん契約させて頂くわ!!」
(よっしゃああああ!!!! これで固定収入確保。あとは増やすだけだな。)
「ちなみにフィオナさん、いくらくらい現金に変えますか?」
俺の言葉に彼女が思案する。
「そうねぇ、とりあえず、宝石1個分くらい?」
「わかりました。じゃあ、宝石一個分を現金に変えて、入居料差し引いた金額をお渡しします。
換金に必要な機械の手数料だけ頂きますね」
すると、彼女は満面の笑みで頷く。
「ええ、お願いするわ!」
ちなみに宝石一個分が千二百万なので、入居料、ATMの手数料を差し引いて、およそ九百九十万円分の金貨を彼女に渡しておいた。
どうやら金貨一枚が一万円らしい。
「大金だし危ないので。これに入れておいた方がいいですよ」
俺がコンビニで売っていたリラックジラポーチの付録付き雑誌と、紙袋を買って渡してあげた。
すると、彼女は笑顔で受け取り、ポーチに入るだけ現金を突っ込み、残りは紙袋の中だ。
「この紙袋、ちゃんと家の見えないところに隠しておいてくださいね」
「わかりましたわ!!」
──その瞬間、マンションを建てる前に出てきたタブレット画面が現れた。
『フィオナ・フォンティーヌを住民登録しますか?
※生体認証可能および、防犯保護対象となります』
こんな事が書かれていたので、YESを選択する。
すると一瞬、フィオナさんが青い光で包まれて、元に戻った。
「…な、なんですの?」
「あー…。どうやら無事マンションの『住人』として登録されたようです」
──こうしてフィオナさんは最初の入居者になってマンションに住む事になった。
(やったー!自分の家賃光熱費はかからないし、管理費入れて月八万入ってくるから二年間はダラダラできるな。
──初日から幸先いいぞ)
俺は一人で嬉しそうにパスタを頬張るフィオナさんの隣でほくそ笑む。
そして食後にコンビニでの買い物の仕方をフィオナさんに教えた後、部屋を案内することになった。




