【13】王太子殿下、村人100人を押し付けてくる。
「カワグチ殿。久しいな」
──五日後。
俺がペロとフィオナさんとイートインスペースでシュークリームを食いながら寛いでいると、グレインさんがコンコンッと窓ガラスを叩いた。
「グレインさん!!」
俺は目を見開くと慌ててシュークリームを飲み込む。
「誰ですの?」
訝しげに言うフィオナさんに俺は答える。
「この国の騎士団長らしいです。僕、異世界人なんで、この国の皇太子様の庇護下に入ることになりそうで!!」
その言葉にレジのハーマンさんとフィオナさんが目を見開いた。
「…は? カワグチさんって異世界人だったの?!」
「どおりでこの店も、何か違うと思いましたわ!」
そんな二人を尻目に俺は慌てて外に出る。
「じゃあ僕、ちょっと話してきますねーー!!」
◇◇
「──僕はセイン・ラングスチア。このラングスチア帝国の皇太子だ。宜しくね?」
目の前には神秘的な銀髪に青い目のハーフ顔イケメン。まさか来ていると思わなかった皇太子の登場に固まる俺。
(え、えええええ? 本人がわざわざ来たの?)
「…は、はじめまして。僕はカワグチナツキと申します。宜しくお願いします。こ、こんな格好ですみません」
俺はよれよれのスウェット上下だったことを後悔した。
「ははっ。いいんだよ。それより、僕の部下達が大変世話になったようで。な? グレイン。あの酒もありがとう。飲んだことがない味だったけどとても美味しかったよ」
するとグレインさんが口角を上げる。
「ええ。急な来訪に関わらず、カワグチ殿はこの人数の昼食を用意してくださったのです」
和やかに話しはじめた二人に俺は声をかける。
「あ、あの、こんな所ではなんですから良かったらコンビニでお話しますか?」
すると、セインさんが目を輝かさせた。
「おお、例のグレインが絶賛していた異世界のお店かな? 是非、入ってみたいね。
──じゃあ、グレインと僕とカワグチ殿の三人でお話ししようか」
そう言ってセインさんは上機嫌で俺についてきた。
「こちらです」
俺の言葉にサインさんは好奇心いっぱいな顔で店内を見回す。
「へえ、見たことないモノが沢山だ。これは面白いね」
イートインに座っていたフィオナさんは驚いた顔をしてセインさんを見つめている。ペロも尻尾をぶんぶん振っている。レジのハーマンさんも興味津々だ。
「こ、これは!! こんな格好で申し訳ありません!! 私、隣国ナーミャ王国の元公爵令嬢のフィオナです」
(あ、ていうか隣国、ナーミャ王国って名前だったんた。今更知って草)
「ワシもいるぞ!!ワシは神獣のペロじゃ!」
お辞儀をするフィオナさんにセインさんは目を細める。
「…んー? 君は…。ああ!!ナーミャで追放されたっっていうリオネル王子の元婚約者殿か!
ナーミャは王族魅了事件で大変だったらしいもんね。我が国の新聞にも載っていたな。
君とはこの前国際交流パーティーで会ったのかな。一瞬わからなかったよ!なんで君、ここにいるの?」
「はい、追放されてドラゴンで近くに降ろされた所をカワグチ様に保護していただいたのですわ」
その言葉にセインさんは目を細める。
「…そうだったんだ。良かったね」
「はい」
そんな二人を見ながら俺は二人に荷物を置いてもらい、コンビニを案内する。
「お二人とも良かったらお好きなものを選んでこの籠に入れてください。ご馳走しますよ」
「へえ! ありがとう。どれにしようかな」
楽しそうに商品を物色するグレインさんとセインさんを尻目に、俺は紙コップと二リットルのペットボトルを十本購入して袋ごとペロに渡した。
「ペロ。これ、騎士団の人達に渡してきて」
「わかったのじゃ!」
そう言ってペロは袋を咥えて駆けていった。
「決まりました?」
「うん、僕はこれにするよ」
そう言ってセインさんはアイスクリームとシフォンケーキとお茶をカゴに入れた。どうやら甘いものが好きらしい。
グレインさんはナッツとサラダチキンと紅茶をカゴに入れた。
俺が会計を済ませると、三人でイートインスペースに座った。端の方ではフィオナさんが興味津々でチラチラと見てくる。
「さてと。君の処遇をお話しするね」
そう言って、セインさんはニコニコと微笑んだ。
「は、はい!! あの、どうなりそうですか?」
俺の言葉にグレインさんとセインさんは頷き合う。
「結論としては、今すぐ税金を徴収、ということはなさそうだ。十年間は保証してあげよう。」
その言葉に思わず俺は目を見開く。
「…十年? それは随分と好待遇…ですね?」
(こういう時って、絶対なんか裏がある時が多いんだよな。)
俺は嫌な予感がしてゴクリと生唾を飲み込む。
「うん。──ただし、お願いしたいことがあるんだ。ねえ、そこの…フィオナ殿。ここから馬で三日程の我が国の村で。最近、何があったか知ってるかい?」
フィオナさんを見てニッコリとセインさんが笑った。すると、彼女はハッとした顔をした。
「ラミア村の土砂崩れ…ですか?」
その言葉にセインさんが笑みを浮かべたまま頷いた。
「そう! 流石は元王子の婚約者だね。その通り。ラミアは我が国でも有名な鉱山があってね。採掘作業が進んでいるんだが。──残念ながら採掘が進むにつれて、近隣の村では災害が多く発生するようになって困ってたんだ」
(──まさか)
「まさか、その人達を引き取ってくれって事ですか?」
俺の言葉にセインさんは嬉しそうに頷いた。
「そう!! さすが! 頭の回転が速くて助かるよ。そう。三つくらい近隣に村があるからさ。村民達を君のところで引き取ってくれないかな?
流石に災害が今後も起こりそうな場所に国民を住まわせるのもまずいだろ?」
「…そうですか。いや、僕も、入居者が増えるのはありがたいんですが…。その人達って、家賃払えますかね? 一月金貨八枚程度なんですが」
すると、グレインさんが頷いた。
「国の方で五年間は補助金を出そう。入居料の八割を我が国が払う。──それまでに村民達が自分で支払いが出来るように就労できる場所を作ることは出来るか?」
その言葉に俺は思案する。
(うーん。うちのコンビニも今人手不足だしな。
テナントも確か郵便局とかレストランとかいっぱいあったよな? ──元々の職能とか持ってる人がいないわけじゃないと思うし。大丈夫じゃね?)
「はい、出来ると思います。このコンビニもまだ従業員が一人だけですし。
ところで、村人を引き取るとしたら、何人くらい来そうな感じですか?」
「そうだな。とりあえず、土砂崩れのあったラミア村から順番に受け入れて行って欲しい。
まずは百人程度だ。それから順次近隣の村から人を受け入れてもらう。最終的には三年ぐらいで八百人くらいは受け入れて貰うことになるかな」
その言葉に俺は目を丸くする。
(八百人も来るの?! …まあ、しょうがないか。マンションは一瞬で建てられるし、な。今のマンションはワンフロア四部屋だけど、七階だけ俺の部屋が広いから三部屋。六階はゲストフロアで一階コンビニ。だから確か全部で十九部屋で、あと十六部屋空いてるんだっけ)
「うーん、わかりました。まあいいっすよ。最初の百人っていつ来る予定ですか?」
「──十日後だ」
そう言われて俺は溜息を吐く。
「まあ、頑張ります。その百人の家族構成の情報って出来るだけ速く貰えますか? あと、この国の法律とか財政のこと、僕まだよくわかってないのでそこら辺も下さい」
「ああ。わかった。明日着くように書類を送ろう。それと、その他にお願いがある」
セインさんの言葉に俺は眉を寄せる。
(まだあるのかーい!)
「──なんですか?」
「出来ればカワグチ殿がスキルを使う所、つまりマンションを建てる所を見せて欲しいのだが」
ワクワクした顔でセインさんが言ってきた。
「そう言えばワシらも見たことないのう! 見てみたいのじゃ!!」
ペロも尻尾をパタパタと振り出した。
(ええー、めんどくせぇ。
…ま。でもどうせ十日後村人百人くるんだもんね。じゃあ建てるか。もうそろそろコンビニだけなのも飽きてきてたし)
「わかりました。じゃあ建てましょうか。どっこいしょ」
こうして俺はみんなの前で自分のスキルを披露することになってしまった。




