【11】税金のお知らせ
「なるほどー。じゃあカンデラ家の領主夫妻は、全領主の子供が令息だったら後継の座を取られちゃうから戸籍担当の職員を買収して、『女の子』にしていたと」
「…とんでもないですわね」
そう言って俺達は溜息を吐いた。
「それで、王子の婚約者の候補がいなくなってしまった…というわけじゃな」
ペロがブンブン尻尾を振りながらチーズを食べている。
「──もちろん君にこんな事を言うのはムシがいい話だとは思っている。
だが、『フィオナには本当は何も咎がなかった』と新聞などを通して民衆にも発表している。今では君は民衆から悲劇のヒロイン扱いされている。
どうか、国に戻ってきてくれないだろうか?」
その言葉にフィオナさんが目を伏せる。
(え、ええええええー!!! フィオナさん、せっかく入居してくれたのにもう出ていくの?! そんなぁああああ!!)
俺が月八万の収入がなくなるのを恐れて、内心絶望していると、フィオナさんがこう言った。
「──申し訳ございません。私、今の生活が気に入っているんですの。
きっとリオネル様を愛して力になって下さる令嬢は他におりますわ。」
(うおおおおおおおお!! フィオナさん! ありがとおおおお)
俺は心の中で月八万円を防衛したことに打ち震えた。
「──っだ、だが!! …では、君がその気になるまでせめて、せめてここに通うのは許して貰えるだろうか…」
その言葉にフィオナさんは困惑顔になる。
「…それは構いませんけど」
「…わかった。ではまた来る!!」
そう言ってドラゴンに乗ろうとしたので慌てて止める。
「──リオネルさん! 駄目ですよ、飲酒運転しちゃ。さっきワイン飲んでましたよね?
アルコールが抜けるまでここでゆっくりしてって下さい。あ、俺の部屋、遊びにきます?」
一人でコンビニで時間を潰させるのも可哀想だったのでそう提案する。すると、リオネルさんが困惑した顔で頷く。
「…ああ。わかった」
せっかく人が遊びに来るので、俺はポテトチップスとコーラを買って自分の部屋に案内する。
「な、なんだこの部屋は?!」
俺の部屋の家電や快適な家具、そしてふわふわのソファを見たリオネル殿下は心底驚いたようだ。
「あー、なかなかいい部屋ですよね? それより、良かったらアルコール抜けるまでポテチ食いながらゲームでもしましょうよ。はい、コーラ」
俺達はポテチを開けて、コーラを飲み始めた。そして、今日さ新作のRPGゲームをやり始めた。
ペロもゲームを楽しむ俺たちの横でソファに横になりながら嬉しそうにポテチを頬張っていた。
──六時間後。
俺達はコンビニでお昼ご飯も買って、まだ一緒にゲームをプレイしていた。
リオネルさんが来たのは10時だったが、もう時間は午後三時くらいになっていた。
「よっしゃああああ!!! ボスを倒したぞっ!!」
そう言ってリオネルさんはガッツポーズを取った。ちなみに彼はお昼に食べたカップ麺のカレー味にハマったようだ。
「あ、これは中ボスなんで。まだまだクリアするまでに時間かかりますよ」
その言葉に彼は固まる。
「なん、だと」
「この後予定ってあります? 十五時なんで、おやつ食べてからまた続きやりましょ。」
どうやらリオネルさんは一日予定を空けてたらしい。
なので二人で一階に降りて、コンビニで好きなおやつを買った。
「…ありがとうございましたー!」
挨拶するハーマンさんにリオネルさんはポツリと言った。
「君が僕を洗脳した事には腹が立ったが。──君も必死だったんだな。君が大人に利用されていた、ということはもう国内の者なら誰でも知っている。 同情の声も多いんだ。 だから、帰ってきてもそこまで重い罪に問われる事はないだろう。 ──その、頑張れよ」
その言葉にハーマンさんは少し驚いた顔をした後、泣くのを堪えるかのように唇をギュッと噛んだ。
「…ありがとうございます、申し訳ありませんでした」
俺はそれを微笑ましい目で見ながら声をかける。
「よし、じゃあ部屋に戻ってゲームしますか。」
俺の言葉にリオネルさんは頷く。
「っああ!!」
──さらに二時間後。
「すっかり日も暮れちゃいましたね。リオネルさん、よかったら泊まっていったらどうですか? あ、一応おうちに連絡はして下さいね。」
その言葉に彼は頷き、魔道具で連絡をはじめた。
「わかった。──すまん、宰相殿か? リオネルだ。今日はフィオナが保護されたという建物の持ち主の御好意で泊まっていくことにした。
ああ。大丈夫だ。明日帰るから」
そう言って彼は魔道具を切った。
「大丈夫ですか?」
「ああ!! ここに泊まれることになった! お礼にカワグチ殿とペロ殿に夕飯をご馳走しよう」
彼の言葉にペロはブンブン尻尾を振った。
「いいのかの?!やったー」
結局、俺達は夕飯までゲームを続けてからご飯を買いに行った。
「どれでも好きなものを、買うと良い」
「え、いいんですか?! じゃあせっかくなんで飲んじゃいましょうよ」
俺達は日本酒やハイボール、ビールをリオネルさんマネーで大量に買った。さらにチーズやいかやき、おでんや冷凍のえだまめ、フライドポテトや唐揚げなどをカゴに入れる。
「よし、じゃあ頑張って今日でクリアしちゃいますか!」
「ああっ!!」
こうして俺達は再び酒を飲みながらゲームをした。そして遂に二十時くらいにラスボスを倒した。
「やったーーーーー!!!!」
そう言って手を取り合って喜んだ後、酒を飲みながら色んな話をした。
「へえー。じゃあリオネル様は、あと八年くらいしたら王様っすか。半端ないですねー」
俺はテキトーに答えつつも、王子の仕事について教えてもらった。彼の話はなかなか面白かった。
「そうなんだよな。はぁ。せめて側で支えてくれる優秀で可愛い女の子がいればいいんだが」
「うーん、実際フィオナさんはどうだったんすか?好きだったんすか?」
その言葉に彼が口籠る。
「んー、そうだなぁ。凄い頑張ってくれてたし、性格がいいっていうのは分かっているのだが。恋愛…と言っていいものかどうかはわからないなぁ」
「えー、駄目じゃないっすか!そういうの、女の子絶対わかりますってー」
そんな事を言いながらダラダラと酒を飲む。
「まあ、あれじゃな。其方はもっと、違ういい出会いがあるんじゃないかのう」
ペロの言葉にリオネルさんは頷く。
「そうだな。まあ、でもフィオナに謝れたのは良かったな」
そんなリオネルさんとペロを尻目に俺は押入れにあった布団を敷いた。
「さてと。そろそろ寝ますかー。あ、リオネル様先にお風呂入っちゃっていいっすよ。服、洗濯機に入れちゃって下さい。明日までに乾くようにするんで。寝る時、俺の服貸しますね」
「そうか?悪いな」
こうしてなんとなく仲良くなった俺達だった。ちなみにベッドはリオネルさんに譲ってあげて俺は布団で寝た。
──次の日。
「じゃあ帰るな」
そう言って、リオネルさんは寂しそうに笑った。
(そっか、せっかくこんなとこまで来たのにフィオナさんには結局フラれちゃったんだよな。この人)
なんだかちょっと可哀想になったので紙袋いっぱいにカップ麺をプレゼントしてあげた。
こうして俺は月八万の家賃を無事に守り切ることに成功した。
◇◇
「今日も平和だなー」
一週間後。俺はそう言いながらペロとマンションの周りの草抜きをしていた。
すると、遠くの方にドラゴンに乗ったリオネルさんがこちらに向かってくるのが見えた。
(…まさかフィオナさんにまた結婚してくれって言いに来たのか?)
そう思って目を見開いていると、ドラゴンから降りるなり、リオネルさんは俺の肩を掴んだ。
「カワグチ殿!!」
「…はい。」
俺が戸惑いながら答えると、彼はくわっと目を見開いた。
「今日は昨日まで馬車馬のように働き、予定を明日の朝まで全部空けてきた!!今日も一緒にゲームをしよう!!あと、カップ麺のストックがもう少しで切れそうなんだ!」
(…この人、ただただゲームやりたいのと、カップ麺買いに来ただけかーい!…ま、いいか。)
「おー、いいっすよ。」
こうして今日も一日リオネルさんとゲームをすることになった俺だった。
◇◇
「隣国のドラゴンが我が国の所持する領地に頻繁に出入りするの見過ごすことは出来ない」
数日後。まったり過ごしていたはずの俺の前には黒髪のいかついイケメンが仁王立ちしていた。
困惑する俺に彼は淡々と告げる。
この人はこの国の騎士団長らしい。そして、後ろにはたくさんの騎士達がズラリと並んでいる。
「──悪いが税金を払え。さもなければこの建物を没収する。」
──どうしてこんなことになったかと言うと、話は一時間程前に遡る。




