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第98話 怨念のティターンズ神

アマト、ルダル、ルノア、そしてエメルダが、森の中央広場へ入ってきた魔獣の元へ辿り着いていた。


その魔獣は、不思議と攻撃も破壊行為もせずに、ただ立ち尽くしている。


「やっぱり、これまでの魔獣(やつら)と威圧感が違いすぎない?」


ルノアが、魔獣を見上げながら呟いた。


「確かに……妙な不気味さがあるな」


エメルダもルノアの言葉に同意した。


「気を抜くなよ。二人とも。これまでのようには行かない感じだ」


ルダルが、二人に声をかけた。


アマトは、ただ魔獣を見上げている。


巨大な体躯。


だが筋肉の盛り上がりよりも目を引くのは、その“目”だった。


赤く濁っているはずの瞳が、妙に澄んでいる。


「……こいつ、見てるぞ」


アマトが低く呟いた。


「オレたちを?」


ルノアが眉をひそめる。


「俺たちを、じゃない……」


アマトが魔獣の眼を睨めつける。


「俺を見てる」


その瞬間だった。


ゴォォォォ……


地面が震えた。


魔獣の喉の奥から、低く、重い音が響く。


それは咆哮というより――言葉になり損ねた怨念だった。


「……に……く……い……」


空気が凍る。


「「「「!?」」」」


魔獣の発声に四人が驚く。


「こいつ……今、喋った!?」


ルノアが目を見開いた。


再び、魔獣の声が漏れる。


「ゼウス……憎い……」


アマトの表情も変わった。


「ゼウスだと!?」


魔獣の瞳が、ぎらりと光る。


そして――


「異端……異端の者……許さぬ……」


その視線が、真っ直ぐアマトへ突き刺さった。


ドンッ!


魔獣が一歩踏み出しただけで、衝撃が走る。


グオォォォーーー?


魔獣は咆哮をあげると、右手を高く掲げ、次の瞬間には、その手をアマトに振り下ろしていた。


ドカーン!


魔獣の鋭い爪がアマトのいた場所の地面一帯を吹き飛ばした。


しかし、アマトはその前に上空へ飛び上がってた。


「こいつ、明らかに俺を狙ってるな」


思わず呟くアマト。


『それに……ゼウスって言ってたよな。前の世界の神話に出てくる神の名前だぞ』


自分の精神世界で呟くアマト。


『あぁ、古の全能の神、ゼウスだ』


アマトの精神空間で大の字に囚われているゼルヴァスが答えた。


『そして、こいつはティターンズだ』


『ティターンズ?』


アマトが反射的に問い直す。


『太古からオリンポス神に敵対していた神々だ。今は、異空間のタルタロスに生息しているはずだが……』


ゼルヴァスが話している間にも、魔獣の爪が、アマトに向かって振り下ろされ続けていた。


それをアマトは、ギリギリで交わしている。


『今までの奴らもタルタロスから来ていると言っていたよな。何か違うのか?』


『今までは、ティターンズ神の細胞から分離した複製体がタルタロスとの回廊を通ってきた、いわば出涸らしだ。だが、こいつは違う。神そのものだ。もっとも、回廊を通ってくる段階でかなり力は削ぎ落とされているはずだがな。それでも油断するな。今までの出涸らしとは次元が違う』


ゼルヴァスが、アマトの眼を介して映し出されるモニターに映る魔獣を凝視しながら言った。


『神か……俺の知っている神は碌なやつじゃないからな』


そうアマトが呟くと、ゼルヴァスの横に座っていたティアマトが頬を膨らませて言った。


『アマトちゃん!今、聞きづてならないこと言わなかった?』


『ふっ。お前のこととは言って……』


アマトが、一瞬気を抜いた時だった。




ボコォォォーン!




衝撃が森を揺らした。


「「アマト様ぁーーー!」」


ルノアとエメルダが絶叫する。




その様子を離れた場所でルーインの治療にあたっていたミィナが静かに見つめていた。


「アマト様……」


彼女の片手に力が入る。




魔獣は、アマトが叩きつけられた穴の前まで歩んでいた。


「クソ!」


ルダルが魔獣を睨む。


「お前たち!あいつはアマト様を狙っている!私たちであいつをアマト様から引き離すぞ!」


「でも、アマト様が!」


泣きそうな顔でルノアが叫ぶ。


「大丈夫だ。アマト様はこんな事でやられるわけねぇ」


エメルダが歯を食いしばり、絞り出すように言った。


「あぁ、その通りだ。だから私たちは今できることをやる」


そう言うと、ルダルは魔獣の背後の空中へ飛んだ。


ルノアは、不安そうに地面の穴を一瞥するも、ルダルと同じように空中へ舞い上がり、魔獣の左前方の位置につけた。


そして、エメルダもまた魔獣の右前方へと飛んだ。


三人は、三方から魔獣を囲むように空中で止まっている。


そんな行動に、魔獣は何の反応も示さず、アマトが沈んでいる穴を見つめ続けていた。


「俺たちは眼中にないってことか……バカにしやがって」


エメルダの声に力が入る。


「お前たち!気を引き締めろ!」


ルダルが叫ぶと、グラントにもらったアイテムの爪を出現させ、空中で構えた。


ルノアとエメルダもそれぞれのアイテムを出して攻撃の態勢をとる。


「行くぞ!」


ルダルの鋭い号令とともに、三人が弾かれたように宙を舞った。


グラントから授かったアイテムが、それぞれの魔力に呼応して輝きを放つ。


ルダルは漆黒の爪で魔獣の首筋を、ルノアは青光りする槍で左脇を、そしてエメルダは赤い光を放つ紋様の棍棒で右肩を攻撃した。


ドカッ、バキィィン!


重い衝撃音が森に響き渡る。


しかし、魔獣の肌にはかすり傷一つ付いていなかった。


それどころか、叩き込んだ感触すら手に伝わってこない。


(……手応えがなさすぎる)


ルダルは攻撃を続けながら、冷徹に観察を続けていた。


肉体に弾かれているのではない。


まるで、攻撃が命中する直前で「何か」に吸い込まれ、霧散しているような感覚。


「ルノア、エメルダ! 一旦引け!」


ルダルが二人に合図を送り、一箇所に集結させる。


「どうしたの!? 攻撃が全然……!」


「あぁ、分かっている。俺が試しにスキルを放つ」


二人が頷き、ルダルの背後に回る。


ルダルは


狼破ろうは


放たれた狼のごとき青光りの閃光が、一直線に魔獣の背中に穿った――かの様に見えた。


だが、着弾した瞬間、光は火花のように魔獣の体表を滑り、波紋を描きながら全体へと拡散していったのだ。


「……なるほど。身体の周りに、高密度の魔素による防壁を纏っているのか」


ルダルが苦々しく呟いた。


「じゃあ……オレたちの攻撃、届いてすらいなかったっていうこと?」


ルノアの顔から血の気が引く。


「クソッ! どうすればいいんだよ、そんなの!」


エメルダが苛立ちをぶつけるように叫ぶが、ルダルは視線を逸らさない。


「逆を言えば、その魔素の防壁さえ破壊できれば、物理的な攻撃が通る可能性があるということだ。だが……」


ルダルの言葉が途切れた。


これまで石像のように動かなかった魔獣が、ゆっくりと、首を三人のほうへ巡らせたのだ。


「ウ……ル……サ……イ……ハエ……ドモ……」


地響きのような、悍ましい声。


魔獣は鬱陶しそうに右手を高く振りかざした。


「風……フウ……ハ


短く吐き捨てられた言葉とともに、その手が振り抜かれる。


瞬間、不可視の衝撃波が真空の刃となって大気を断ち切った。


「「「!? 」」」


三人は咄嗟に武器を構え、魔力の盾を展開する。


しかし――


「がはっ……!?」


「きゃああっ!」


魔力の盾ごと吹き飛ばされた三人の体は、そのまま地面にたたきつけられた。


圧倒的な格の違い。


「スキルまで使えるなんて……」

「まじ……で、やべぇな……」


ルノアとエメルダは、朦朧とする意識の中でそれぞれ呟いた。


弱音を吐く二人をよそに、ルダルは魔獣を睨み一人沈黙していた。


そんなルダルの様子を見た魔獣が、不思議と言わんばかりに首をかしげる。


そして――


ドスン、


という地響きと共に、魔獣が彼の方へ歩み始めた。


一歩ごとに死が色濃く、確実に近づく。


だが、その巨躯がルダルを飲み込もうとするほどに、その瞳には鋭い確信が宿り、口角はどこまでも深く、吊り上がっていった――。

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