第91話 三つの装置
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
イセラグ版、三枚のお札です。
(……下からの攻撃、だと?)
セイラスタンは足を止めた。
光の矢で貫通した脚からは血が噴き出している。
周囲を見回すも、仕掛けの痕跡も第三者の気配もない。
「……妙だな」
低く呟くと、傷ついた脚にヒールをかける。
肉が塞がる感触を確かめながら、再び前を見る。
(やはり小僧が放ったのか?)
剣を握る力が、わずかに強まった。
「油断は禁物か……」
そう言って、セイラスタンは再び地を蹴った。
今度は様子を見ながら追い詰めていくセイラスタンだったが、それでもジルクとの距離はどんどん縮まっていく。
(さすがに立ち直りが早いな……)
ジルクは、冷静に考えながら走っていた。
(でも、追いつく速度が前より遅い。一発目としては上出来だ)
ジルクがポケットから残りの二つの高起魔力装置を取り出す。
(あと、二発か……)
そう言って、手の中にある高起魔力装置の一つを人差し指と親指で掴み上げる。
(さっきは地面に落としたから気づかれなかった。でも次は、威力を上げるには目の前に投げるしかない……)
つばを飲み込むジルク。
(確実に、バレる)
セイラスタンも、ジルクとの距離を縮めつつ、思考を巡らしていた。
「時間稼ぎが目的なら、私が接近した瞬間に次が来る。仕掛けがアイテムなら、発動の“間”がある。先ほど程度の攻撃、恐れるほどではないか。ならば……」
一拍置いて、低く言い放つ。
「正面から叩き潰すまでだ」
そして、セイラスタンのスピードが上がっていく。
ジルクは、その変化に気づいた。
(来るなら来い!次は最大限の出力を放ってみせる!)
迫りくるセイラスタン。
迎え撃つ覚悟のジルク。
追う者と追われる者――その一瞬の読み合いが、火花を散らしていた。
そして、その時が来た。
「小僧、これで終わりだ!」
セイラスタンがジルクとの距離を詰め、剣を振りかざす。
すると――
ビュッ!
ジルクが後ろを振り返らず、二つ目の高起魔力装置をセイラスタンの前に投げ込む。
反射的に、剣を振るうセイラスタン。
しかしその時だった――
ゴォォォーーーッ!
「なに!?」
セイラスタンが遥か後方へ吹き飛ばされていた。
ジルクが放った二発目。
それは、高起魔力装置によって瞬間的に増幅された指向性の豪風だったのだ。
飛ばされた先でセイラスタンは、剣を地面に突き刺し、これ以上飛ばされないように踏みとどまっていた。
「バルナックの装置だったか……やるな。小僧。そうでなければ面白くない」
ほくそ笑むセイラスタンは、徐々に豪風が収まってくると、再びジルクを目がけて走り出した。
そのころ、エルシアの森とドルムの里の中央付近では――
「族長は、いったい何を考えている……!」
外を歩くルーインは、苛立ちを隠そうともせず、一人、声を上げていた。
やがて、魔素供給装置のある広場が視界に入る。
そこで、珍しい光景を目にした。
――バルナックと、ドルマが話している。
あの二人が、揃って何を……?
そう思った瞬間、ルーインは無意識のうちに足を向けていた。
「とにかく、グラントは年老いた」
バルナックが苛立ちを隠さず、ドルマに言い放つ。
「今のうちの後継を育てておけ!ジルクなんか、悪くない」
「あぁ、わかったよ」
ドルマは腕を組み、首を傾げる。
「だが、あんたがそんなことをわざわざ言いに来るとはな……」
「う、うるさい。深い意味はない!」
バルナックがごまかすように言い放つと、ドルマに背中を向けて立ち去ろうとした。
そこへ――
「バルナック、グラントが持ってきた魔石は本当に人工のものか?」
ルーインが歩きながら声をかけてきた。
「まったく……今日は、グラントの話ばかり出るな!」
バルナックがうんざりした顔で吐き捨てた。
「あぁ、そうだ。あれはグラントが作ったやつで間違いない。もっとも……」
少し顔を伏して言いよどむバルナックだったが、
「昔のグラント作なら私でも見破れなかったはずだ……」
と、頭を上げて力なく言った。
その表情には、老いた者が見せる、どこか寂しげであきらめに似た色が浮かんでいた。
ドドドドッ!
セイラスタンがものすごいスピードでジルクに迫って来た。
「はやいっ!もうあんなに近づいてきている!」
さすがに焦るジルクが思わず声を上げた。
(あともう少しだ。あの角まで逃げきれれば……)
歯を食いしばるジルクの少し先が曲がり角になっている。
(あと一つ……なんとかなる!)
ジルクは、高起魔力装置を強く握りしめた。
その時だった――
「小僧ぉぉっ!もう終わりだ!それとも――まだ何か隠しているつもりか?」
「くそっ!追いつかれるぞ」
そう吐き捨てながら、ジルクは前方に顔を向け、状況を確認していた。
すると、角の少し手前に太い蔓が目に留まった。
(一か八かだ……)
そう言って笑みを浮かべるジルクが大声で叫んだ。
「あぁ、もう一つ持っている!これであんたを鎮めてみせる!」
(小僧め……本当か、それとも罠か?考えられるのは三パターン。装置が底を尽きている場合、本当に残り一個の場合、そしてもっと装置を持っている場合……)
意外な反応にしばし思考するセイラスタン。
一方、ジルクはこの間に蔓へもう一歩というところまで来ていた。
そう、ジルクはセイラスタンに考えさせることで、しばしの猶予を稼いだのだった。
(ただ、もし私を一撃で仕留めるつもりならさっきやっていたはずだ。だとすると、決定打はないと考えるのが正しい。であれば、装置を仮に複数持っていたとしても問題ない。むしろ装置がなかった場合、警戒をして前に出ないのが愚策。それに、このスピードで走り続けたらあの角を曲がりきれないはず。ならば……)
そう思い至った瞬間――セイラスタンは、さらに速度を上げた。
(速度を上げてきた。けど、あと少し。このままいくぞ!)
セイラスタンが予想通りの動きを見せ、ジルクの気が少し緩んだ時であった――
ガツッ!
「あっ!?」
先の角の方に気を回しすぎて視界が追いついていなかった。
地面を見る余裕すらないまま、剥き出しの木の根に足を取られ、ジルクの体が大きく前へと傾いた。
そしてちょうどその時、
「今度こそ終わりだ!小僧ぉぉーっ!」
と、セイラスタンがジルクに追いつき、剣を振り上げていた。
(やるしかない!)
想定より少し早かった――だがジルクに躊躇している暇はなかった。
彼の手に握りしめていた装置が発動した。
それと同時に、ジルクの姿がセイラスタンの視界から消えたのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




