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第84話 深層の域へ沈む者と十傑の域へ届く者たち

読みに来てくださる皆さま、本当にありがとうございます。

前回から引き続き、戦闘回です。

泉の洞窟の入り口――


「……ん?なんの音じゃ?」


金属が弾け飛ぶような甲高い音が洞窟の入り口まで届き、エアデランの瞼がぴくりと震えた。


エアデランは、ゆっくりと目を開け、寝ぼけた目をこすりながら顔を上げる。


その視線の先にはルノアとエメルダ。


二人の向こう側には、武装した男たちがずらりと並び、殺気を剥き出しにしている。


「おお……なんじゃ、あれは。揉め事か?」


エアデランは首をかしげると、のんびりした調子のまま立ち上がった。


「仕方ないのぅ。わしが行って仲裁でもしてやるか。なにせわしは長老じゃからの。うぉーほっ、ほっ」


と自信満々に言って、彼はヨタヨタと二人のほうへ歩き出した。


少なくとも本人の中では、状況はすでに解決へ向かっているつもりだった。




「今のって、攻撃だったのか?」

「いや、さすがに違うだろ。弱すぎる。準備運動だよな?」


ルノアとエメルダが、バナムの全力の一撃を“軽く笑い飛ばす”。


「なっ……なんだと!?」


バナムは目を見開いたまま固まっている。


「しかし、このアイテム、すげぇな!」

「あぁ、無敵感が半端ねぇ!」


二人はアイテムを掲げ、まるで戦闘後の記念撮影のように喜び合っていた。


バナムのこめかみに青筋が浮かぶ。


「な、舐めるなよ!!小娘が!!」


怒鳴り声が裏返るほど、怒りで顔が真っ赤になっている。


「おっ、いよいよボルテージマックスか」

「やっと本気で来る気になったか。こっちは色々試したいことがあるんだよ」


二人はにやりと笑い、アイテムを構える。


「後悔するなよ……全力でぶっ潰す!お前たち!アルティマナを使え!!」


バナムの怒号とともに、背後の部下たちがいっせいに動いた。


彼らは注射器のようなものを胸元から取り出すと、そのまま心臓へ突き立てる。


次の瞬間、淡い青の光が部下たちの全身を包み込み、筋肉が盛り上がり始めた。


ルノアとエメルダはほくそ笑んで、目の前の屈強な異世界人たちに向き直る。


一触即発――時が止まる。


時を動かしたのはバナムであった。


バナムは、ニヤッとほくそ笑むと、前にではなく横に飛び出た。


すると、その背後にいた男がスキルを放っていた。


そのスキルは至近距離にいる二人を捉える。


しかし、ルノアが槍で軽く弾き返す。


その間に、バナムをはじめ他の異世界人たちがルノアとエメルダを中心に置き円状に取り囲んでいた。


「いまだ!やれ!」


バナムが叫び、他の者たちが一斉に構えてそれぞれのスキルを唱えるや、一斉攻撃がルノアとエメルダを襲う。


しかし、二人は上空へ飛び上がると再び二手に分かれる。


その様子を見るとバナムがほくそ笑む。


次の瞬間、異世界人たちが放ったスキルも分裂し、二手に分かれてルノアとエメルダを追う。


「へぇ、追従してくるのか」

「おもしれぇ。どれくらいの威力なんだ?」


二人は上空で止まると、それぞれのアイテムを構える。




ガキィィーーン!


ドカーン!




異世界人たちのスキルが二人のアイテムではじかれると、あたりの岩々にぶつかり小石が飛び散った。


そして、その一部の小石がエアデランの方まで飛んでいき、彼の頭をかすめた。


「おっ、おう。危ない、危ない……。ぶつかったらどうするんじゃい」


驚きながら、かすめて行った小石の方に目をやった。


次に、上空のルノアとエメルダを見上げると、


「こりゃぁ、早いところ戦いを止めんと、この辺りがめちゃくちゃになってしまうの」


と言って、バナムたちの方へ再び歩き出すエアデランであった。




一方――。


「な、なんだと……」


上空を見上げ絶句するバナムとその部下たち。


ルノアとエメルダは眼下にいる異世界人たちを見てニヤリと笑う。


「じゃぁ、今度はこっちの番だね」

「おぅ、せっかくだからアイテムの力を試すぞ!」


「まずは接近戦からいくか」

「あんまり力出すなよ。簡単に終わっちまいそうだ」


「あぁ、わかってる。実験台がいなくなったら困るからな」

「まずは雑魚共からいくぞ!」


二人が上空から地上の異世界人たちへ目掛けて突進したかと思うと、突如、異世界人たちの前に現れた。


「うっ!?」


驚く異世界人たちは慌てて後方へ飛びのいた。


すかさずルノアとエメルダが間合いを詰めながらアイテムで攻撃を始めた。


ルノアは目にもとまらぬ速さの槍で連撃。


「あははっ。めちゃ早く槍を打てるし、扱いやすいし!」


喜んで逃げ惑う異世界人たちに致命傷を与えないように追いかけまわす。


エメルダというと、棍棒を片手で振り回し、


「軽いっ!軽いぞぉ、この棍棒はっ!」


と、こちらも大喜びで異世界人たちをいたぶっている。


一人取り残され、部下たちの逃げ惑う姿を見て戸惑いと焦りを隠せないバナム。


「お、お前たち!何をやっている。相手は二人だけだぞ。早いところ反撃しろ!!」


声を張り上げて部下たちを叱責するのが精いっぱいであった。


「どうだ。うちの二人は?」


「ひっ!?」


突然のアマトの声に驚いて腰を抜かすバナム。


「あれでも実力の半分も出してないと思うぞ」


腰をついているバナムの目の前にしゃがみ込んでアマトが彼を見つめた。


その威圧に、ガクガクと震えだすバナムは、アマトを直視できず思わず顔を横に背ける。


するとその先には、ヨタヨタと歩いてくるエアデランの姿があった。


バナムは、ごくりと唾をのむとニヤリとほくそ笑む。


「た、確かにあいつらは強い。だが強いだけだ」


そう言ったかと思うとバナムは横へ飛び跳ね、エアデランの後ろから首元に腕を回して拘束した。


「戦いは、その戦況においてあらゆるものを利用できる者が勝つのだ!」


バナムが大声を発し、高笑いする。


その声に気づいたルノアとエメルダ。


「あのくそジジィ。あんなところで何やってんだ」

「放っておいていいんじゃねぇか」


異世界人をあらかた片付けていた二人は、エアデランを見てあきれ声を出す。


それでも、二人は顔を見合わせて頷くと、次の瞬間にはバナムの前に立っていた。


突如現れた二人に動揺するバナムが、短剣をエアデランに突き付けて言った。


「こ、こいつがどうなってもいいのか!?」


エアデランを拘束する腕に力が入る。


「これ!放さんか!老人虐待反対っ!!」


首に腕を嵌められジタバタするエアデラン。


「「……」」


言葉を発しないルノアとエメルダを見てバナムがほくそ笑む。


「どうだ。手も足も出るまい。さぁ、武器をこっちによこせ」


そう言ってバナムはエアデランをさらに締め上げる。


「正直……そんなエロジジィどうでもいいんだけど」

「そもそも仲間でも何でもねぇしな」


ルノアとエメルダがニヤリと笑う。


「馬鹿な。はったりだ!」


バナムが怒鳴るも焦りの色は隠せない。


「はったりかどうか……」

「見せてやるぜ」


と言い放った瞬間、二人はバナムの懐に入り込んでいた。


バナムは、反射的にエアデランを放り出す。


すると、


「ぎゃぁぁーーっ!」


エアデランはよろけ、そのまま仰向けに後ろへ倒れ込んでいった。


そして――


ゴチィィーン!


哀れエアデラン。そこにあった大きな石に頭をぶつけ、その意識は深層の域へと沈んでいった。


一方バナムは、防御しようと腕を上げた瞬間にはもう遅かった。


ルノアの拳が顔面を、エメルダの拳がボディを同時に撃ち抜く。


ドゴォォーーン!!


バナムの身体は後方へ吹き飛び、岸壁に派手にめり込んだ。


そしてバナムは、それきり微動だにすることなく、完全に沈黙した。


ルノアとエメルダはそれを確認すると、互いに身体を向け合い、肘をぶつけてニヤリと笑った。


「さて……このめんどくせぇジジィ、どうする?」

「放っておけばいずれ目覚ますんじゃねぇか?」


ルノアとエメルダは、地面に倒れているエアデランを見下ろし、ため息をつく。


「洞窟の入り口まで運んでやれ」


ルダルがいつの間にか近くまで歩いてきていた。


「えぇーーっ。面倒くさいし」

「水ぶっかければ目覚ますかもしれねぇぜ」


露骨に嫌がる二人であった。


「そもそも、お前らの詰めが甘すぎたからエアデランが巻き添えを食ったんだ。連帯責任だ」


ギロリと二人を睨みつけるルダル。


「「うっ……」」


その威圧に押され首をうなだれる二人は、


「「はい……」」


と言ってエアデランの腕と足を持ってしぶしぶと洞窟の入り口の方へ歩いて行った。




その様子をほくそ笑んで見守るアマトの精神空間では――




『あいつら……魔素供給もスキルもなしでアレを倒したぞ』


再び感心するゼルヴァス。


『すごいわよねっ!ルノアちゃんとエメルダちゃんっ!」


ピョンピョンと跳ねて喜ぶティアマト。


『あぁ、本当に強くなったな』


アマトも頷く。


『かつてのゼルヴァス十傑の域に、届きつつあるかもしれん』


『そうなの!じゃぁ、ルダルちゃんと同じくらいになったってこと?』


『いや。ルダルはそれ以上に強くなっている気配を感じる……』


一呼吸置くとゼルヴァスが続けた。


『これは俺様の推測だが、アマトと一緒に長い間行動を共にしたことによる結果なんじゃないかと思ってる』


『ふむふむ、なるほどぉ……』


目が点になっているティアマトは、あまり理解してなさそうではあるが、とりあえず大きく頷く。


『どういうことだ?』


アマトが問いかけた。


『つまりだ……長い間、無意識のうちにお前から魔素を吸収し続けて、あいつらの身体に何か変化が起きたのではないかと思っている』


『ということは、ミィナちゃんも強くなっているってこと!?』


ティアマトが目を丸くして言った。


『あぁ、そうだ。事実、ミィナのオーラの千里眼は尋常ではない。三人娘、いや、ルダルを含めてこの四人は今後すごいことになりそうだ』


ゼルヴァスが関心のため息をついた。


『いいじゃないっ!要するに、もう向かうところ敵なしになっていくってことね!』


ティアマトがはしゃぐ。


「あぁ、そうだな」


アマトは、ルノアとエメルダの姿を目で追うと、嬉しそうに一人呟いたのであった――。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

三人娘の到達域がゼルヴァスから語られましたね。しかも、そうなった要因も想像してましたが、それは正解です。

バナムは・・・。はい、単なるモブでした。

そして、エアデランが深層の域に落ちていきました。

ここが重要です。


さて、次回はリーファ、ミィナ、グラントの森と里の場面で、いよいよ本章の終盤へ突入します。


お楽しみに。



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