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第82話 “戦工”最後の造形

読みに来てくださる皆さま、本当にありがとうございます。

アマト一行が新たな武器を入手します。

泉の畔の地面に、5つのアイテムが置かれていた。


いずれも"戦工"のグラント作である。


「あんたらの希望通りのものを作ってみた。それぞれ触ってみてくれ」


アマトたちを前に、グラントが笑みをこぼす。


「うおぉーっ。オレ、こんな槍が欲しかったんだよ」

「うーむ、完璧な棍棒だな」


ルノアとエメルダが真っ先に飛びついてはしゃぐ。


「ここにあるアイテムは普段は姿を見せぬが、持ち主が望んだ時だけ姿を現す。そういう仕組みにしておる」


「へぇ、すげぇなぁ!」

「べ、便利じゃねぇか!」


グラントの説明に二人が思わず驚いた。


二人はそれぞれのアイテムを軽く振り回している。


ルノアの槍は、まるで雷を束ねて鍛え上げたような一振りである。


柄は黒鉄色で滑らかだが、握った瞬間に手の内へ吸い付くように馴染む。


穂先は三つ又に分かれ、青白い光が薄く走っている。


その隣でエメルダが振るう棍棒は、一見ただの丸太にしか見えないが、振った瞬間に本性を露わにする。


表面は古木の皮のように荒々しい手触りなのに、中身は鍛え抜かれた鋼が脈動しているような重圧を秘めている。


エメルダが振るたびに、芯に刻まれた赤い紋様が淡く光る。


そして、ミィナは杖を手に持っていた。


その杖は、泉の水面を閉じ込めて固めたような透明感を持つ一本だった。


細身で軽く、握ればほんのりと温かい。


まるで持ち主の心音に合わせて呼吸しているかのようだ。


先端には小さな水晶球が浮かぶように嵌め込まれており、ミィナの魔力に反応して柔らかな緑色の光が漏れる。


「私にうまく扱えるかしら……」


少し心配そうなミィナにグラントが付け足す。


「ここにあるアイテムは、持つものの能力を勝手に最大限引き出してくれるようになっている。わしが”戦工”と呼ばれる所以じゃが、こうしたアイテムはなかなか手に入らんのじゃ」


ミィナが安心したように微笑んだ。


ルダルは、ナックルクロー(爪武器)を手に取った。


刃は鎌のように湾曲し、オオカミの牙を思わせる形状だ。


光を反射せず、まるで闇そのものを削り出したような黒。


指を通した瞬間、自分の手に同化するような感覚に陥る。


「いい出来だ。昔を思い出すぞ」


その言葉に、グラントが頭に手を当てながら言った。


「いやいや、正直、あの頃の出来とは程遠いのぉ。じゃが……」


一瞬、言い淀むと――。


「これがわしの最後の作品じゃ。それをあんた達に渡せるのはこの上なく嬉しく思う」


どこか誇らしげでやり切った感のグラントが穏やかな笑みを浮かべていた。


「「……」」


リーファとルダルが少し寂しげな表情を浮かべた。


『引退宣言だな。これまでご苦労であった』


アマトの精神空間でゼルヴァスが呟くように言った。


「最後……か。ありがたく使わせてもらう」


アマトは、黒銀の外套と手甲、脚部まで連なる装束を身につけていた。


外套は薄いのに異様なほど丈夫で、陽光を受けてもギラつかず、静かな光だけを返す。


手甲と脚部の装甲は黒銀の金属が滑らかに連結し、力を込めるほど七色の紋様が浮かび上がる。


グラントはアマトの方へ振り向き、


「いやーぁ。アマト殿の要求には正直驚いた」


と、目を丸くした。


しかし次の瞬間、深く頷き、朗らかな笑みを浮かべる。


「なにせ、自分の力を押さえるアイテムと来たからのう。普通なら“もっと強い力をくれ”と頼むもんじゃが……最後の最後でこんな注文が来るとは思わなんだ。わしも腕が鳴ったわ」


「確かに、そんなアイテム普通は望まないと思うが……俺の場合、戦いのときにはありがたいアイテムだ。これで俺も戦える」


アマトは苦笑しつつも、その装束の重みを確かめるように手甲に目を落とした。


『これはすごいぞ。お前が、素の力を躊躇なく出せる優れものだ。今の世で、こんな代物を作れるのはグラントだけだな』


ゼルヴァスがアマトの精神空間で唸る。


『でも、アマトちゃんの力って異常じゃない?だから、いくらグラントちゃんが作ったアイテムだからと言ってどこまで効くのかしらね?』


残念系女神のティアマトにしては非常に的を射た疑問だった。


すると、偶然にも現実世界でグラントが言った。


「アマト殿の力は尋常ではないと聞いておる。ゆえに正直、このアイテムがどこまで耐えられるかは分からん。戦工の腕でも、未知のアイテムとなれば限界があるでのう。……だから、使いながら性能を確かめてほしいのじゃ」


「あぁ、そのつもりだ」


アマトは手甲を見つめながら答えた。


そんな話をしていると、それぞれのアイテムが突如消えた。


「おっ!本当に消えた」

「き、消えちまったぞ!使うにはどうすりゃいいんだ?」


驚きまくるルノアとエメルダにグラントが言った。


「頭の中にイメージすると出てくるとは思うんじゃが、ちょっと難しいかもしれん。だから、アイテムに名前を付けて必要な時にその名前を叫ぶという方が楽かもしれんのぉ」


グラントの言葉にルノアが叫んだ。


「なにそれ!叫ぶだけで出るとか。かっこよすぎるだろ!」


同じようにエメルダも絶叫する。


「うぉぉぉーっ。よし、俺は絶対、”厨二病”っぽい名前を付けてやるっ!」


そんなエメルダに対して――


(“厨二病”って……どこで覚えたその言葉?俺、口走ったことあるのか?確かにスキルの名前が淡白だったからな……)


静かにツッコんでいたのはアマトであった。





しばらくアイテムの感触を確かめていた一行であったが、そのわずかの間に厚い雲が天空を覆い、あたりに重い空気が漂い始めていた。


そんな中、新たなアイテムを得た一同は、いよいよ二手に分かれることとなった。


エルシアの森とドルムの里へ行く、リーファ、グラント、そしてミィナ。


一方、泉の畔に残るのは、アマト、ルダル、ルノア、エメルダ、そしてエアデラン。


お互い向き合う二つのグループ。


「じゃあ、行くわ」


リーファがアマトたちに向けて言った。


その顔は確固たる覚悟をにじませる。


「あぁ、俺たちはエアデランから何か情報を掴んだらすぐに駆け付ける」


アマトがリーファを見つめて返した。


一同が頷きあうと、リーファ、グラント、そしてミィナが、それぞれ魔物の姿に変身した。


次の瞬間、リーファとミィナがエルシアの森とドルムの里の方角へ走り出し、それをグラントが追う。


その様子を残るアマトたちが見守っていたが、


「グラントの奴……あの走りで大丈夫かなぁ?二人に置いて行かれそうだけど……」


と、ルノアが気遣った。


「大丈夫だろう。アマト様から魔素も十分吸収させてもらっている。ゼルヴァス十傑は伊達じゃない」


そう言ってルダルが苦笑した。


「じゃぁ、こっちはこっちでエアデランを吐かせるか」

「おうよ。やっぱ、頭を一、二発ぶん殴れば思い出すんじゃねぇか?」


相変わらず発想が物騒な二人に、


「ろ、老人虐待は反対じゃ」


と小声で震えるエアデランであった。




『こいつら……発想が本当に悪役だな』


アマトも思わず精神空間で声を発していた。


『だが、実際問題どうする?』


ゼルヴァスが問いかける。


『確かに刺激を与えるというのは一つの方法ではあるのだぞ』


『……』


正論に対してアマトは言葉を持ち合わせなかった。


そこへ――


『えっへん♪私、いいことを思いついちゃったわ!』


ティアマトが両手を上げてキャッキャッと喜ぶ。


『な、なに?、一応、聞いてやろうではないか』


ティアマトの自信ありげな行動にややビビりながらも上から目線で応えるゼルヴァス。


『あのね、エアデランちゃんってエロ爺さんでしょ?だからぁ、ナイスバディのルノアちゃんとエメルダちゃんが色仕掛けすれば、脳みその血流がドバーッて回って思い出すと思うの!どう?ね、すごくない?』


『『……』』


二人の絶句が精神空間の時間を止めた。


(こいつ……本当に原初の女神で万物を創造した女神なのか?)


アマトの心の疑問が炸裂した。




そんな精神空間でのバカ話の最中、ふいにルダルがアマトの耳元で低く囁いた。


「アマト様……何者かの気配がやって来ます」


「!?」


アマトが我に返ると、ルダルが静かにその方角を指し示す。


しばらくすると、その方角から鎧を纏った複数の男たちがゆっくりと現れ、一定の距離まで来ると立ち止まった。


そして、その男たちのうち、身体がひときわ大きい男が声を張った。


「ここにいたか!探したぞ、牙咆のルダル。そして、異世界人!」


魔素を放出して威嚇するバナムがそこにいた。


その威圧に、泉の水面が波紋を広げ、樹々がざわめきに包まれた――。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


第82話にして、ようやく主人公一派に武器が与えられるという・・・。

でも、このパーティは尋常ではない強さになっているので(特にアマト)、そこらへんの武器を与えるのはあまり意味がないと思っておりました。そのため、ここまで来てしましました。


さて、次回ですが、久々のバトルです。

お楽しみに。

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