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第80話 精霊伝説――ティル・ナ・ノーグ

読みに来てくださる皆さま、本当にありがとうございます。

なぜか、ケルト神話がタイトルです。

リーファの母ミオルネ失踪の真実を探るため、一同が団結した直後――顎髭を撫でながら、グラントが口を開いた。


「で、これからどうするかのぉ?」


「二手に分かれるというのはどうだ?」


ルダルが言った。


「あくまで仮説だが、エアデランとミオルネをこの地に幽閉した奴がまだ生きている可能性も否定できない」


「確かにそうじゃ」


「であれば、エアデランを森と里へ連れて帰るのはまずいだろう。そこで、エアデランとしばらくここに残る者と森と里へ行って様子を探る者にわかれるという話だ」


「なるほど」


グラントが頷くと、ルダルが続けた。


「まず、森と里へ戻るのはリーファとグラントだ。二人で戻らなければ、どう考えても不自然だ」


誰も異論はない。


「そしてもう一人、誰かを同行させる」


ルダルが一同の顔を見渡す。


「ここからは消去法だ。まず、アマト様だが、異世界人であることから同行者としてはあり得ない。それにアマト様こちらにいれば、”幻扉”でいつでもリーファたちの所へ行ける」


アマトが頷く。


「次に私だが……私もゼルヴァス十傑の名を持っている。そのため、あまり目立った行動がしづらくなるだろう。従って私もダメだ」


三人娘の方へ顔を向けるルダル。


「そこで、残る三娘のうち誰にするか……だが」


ルノアとエメルダが固唾を飲み込むと、ルダルはミィナに視線を移した。


「ミィナ、お前がいいだろう」


ミィナがハッとした表情を浮かべると、ルノアとエメルダがミィナを覗き込む。


ルダルが口元を吊り上げる。


「正直、ミィナ以外は安心できん」


「ちょ、ちょぉぉーーっと待った。ルダル!どういうこと!?」

「そ、そうだ。今の話だと、俺たちじゃぁ、心配だとでもいいたげじゃないか!」


ルノアとエメルダが異議を唱えた。


ルダルが二人をチラッと見るも顔を背けて言い放つ。


「その通りだが。お前たちは短絡的行動が目に見えている。これは非常にセンシティブな行動が必要だ」


「なっ、なんだっ……」

「こ、このやろ……」


と二人が言いかけたが、


「わかりました。私が同行します!」


と、ミィナが真顔で遮ってしまった。


言葉を飲み込むルノアとエメルダがミィナの方へゆっくりと顔向けると、


「あと、ルクちゃんも連れて行きますね」


満面の笑みでミィナが答えた。


ルダルは微笑んで応じた。


「アマト様、いかがでしょうか」


「あぁ、問題ないだろう」


アマトが全てを承諾した。


哀れ、ルノアとエメルダ――二人が固まったままの横で話がどんどん進んでいき、いつの間にか残留・同行メンバーが確定してしまったのだった。


そしてその後、


「でも、ちょっと待って」


リーファが割り込む。


「私、魔石を持ち帰らないとダメなんだけど……」


「そ、そうじゃった……」


グラントも額に手を当てて呻いた。


「ならば、作ればいい」


ルダルが平然と言い放つ。


「作るって……どうやって?」


リーファが眉をひそめた瞬間、ルダルが口元を吊り上げた。


「グラント。お前がいるじゃないか」


皆の視線がグラントへ集中する。


「ま、待て待て。いくら何でも魔素がなければ……」


と言いかけて、グラントの表情が変わった。


「そうか。アマト殿から魔素を分けてもらえれば作れる」


そこに立っていたのは、かつてゼルヴァス十傑のひとり、“戦工”として名を轟かせた男――グラントその人だった。


「あぁ、いくらでもくれてやるぞ」


アマトも微笑んで答えると、ルノアとエメルダが叫んだ。


「よっしゃーっ。じゃあ、そういうことで魔石づくりを始めようぜ!」

「おぅ、俺も手伝うぞ!」


にぎやかな声が洞窟に響き、先ほどまでの重苦しい空気はうそのように和らいだ。


リーファはそんな仲間たちの姿を見渡し、小さく息をつくと、目の前にある白い遺骨に目を止めた。


(……お母さん。私はもう一人じゃない)


胸の奥に宿ったその思いを確かめるように、リーファはそっと目を閉じた。


静かに息を吐き、再び目を開く――その決意は、もう揺らがない。




洞窟から泉の畔へ移動した一行――




「おりゃぁぁーーーっ!」


ドカ――ンッ!


池の畔、グラントが戦斧で大きな岩を砕いている。


魔石を作るのにちょうど良い原石を探しているのだ。


「うーん、なかなかいいのがないのぉ」


そう言って、腰に手をかけて背中を伸ばすグラントはどこか嬉しそうだった。


そんなグラントを何気なく眺めているルノアがリーファに語り掛けた。


「なぁ、リーファ。200年前に生きていた奴って、ある程度絞れるのか?」


ため息をつくリーファ。


「それが問題よ……私、200歳近いけどエルフでは若いうちなの。まぁ、ドワーフなら中年ってところだけど」


「あぁ、やっぱりそうか……そうだよなぁ。エルフだからなぁ」


青く澄み渡る空を仰ぐルノア。


「まぁ、悩んでも仕方ねぇだろ。出たとこ勝負ってやつだ」


楽天家のエメルダを見て、肩を落とす二人だった。


確かに悩んでも仕方ないか、そんな思いに駆られるルノアが、ふと話題を変えてきた。


「そういえばさ。精霊って何者なんだ?」


「精霊はエルシアの森とドルムの里の守り神よ」


そう言って微笑むとリーファが続けた。


「何万年も前からずっと私たちを守ってくれていたの。ただ、大戦後、魔素が人間界に偏り始めてからちょっとずつその力が弱まってきてしまって……」


「そうか……さすがにアマト様でも精霊の魔素を満たせるほどの魔素はもってないだろうなぁ」


「それはそうよ。そんなことができるのは神ぐらいよ。それに、これ以上、あなた達に迷惑をかけるわけにはいかないし……」


リーファのトーンが少し下がる。


ルノアは、そんなリーファを見て明るく話を切り替えた。


「精霊ってさ。なんか、こう、伝説的な話ってないの?」


ミィナも同調してきた。


「私たちの村には、"フィリアの森の伝説"というのがあるんですけどね」


少し笑顔になってリーファが答えた。


「あるわ。”常若の国(ティル・ナ・ノーグ)”。精霊にまつわるお話なんだけど……」


「なんだなんだ?それ。面白そうじゃないか」


エメルダが体を前に出してきた。


すると、


「これは不老のお話なんだけどね。ある男が不老の石を探してエルシアの森を彷徨い続けていたら……」


と、リーファが語り始めた。


「ある一人の女の姿をした精霊が現れて男に言ったの。"あなた、このままここにいると時のはざまに囚われて永遠に戻れなくなるから早くかえりなさい"って。でもね、その男は"不老の石を見つけて永遠の若さを手に入れる"って言って聞かなかったの。そうしたら、その精霊が"愚か者"と言った瞬間、男は異世界に飛ばされたの。そこは"常若の国"と言って、まさに理想郷。不老不死の世界で、美しい自然や美味しい食べ物などが山ほどあった。男は、そこに何百、何千年も住んでいたんだけど、あるとき、急に元の世界に戻りたいって思うようになって。理由は、いろいろ語られているけど、もともと人間である彼はその永遠に近い空間に馴染めなかったというのが有力な説よ。それで男は、以前会った精霊を見つけて、元の世界へ戻すよう迫った。すると、精霊は"わかりました"と言って、その男を元の世界に戻したんだけど……」


リーファが少し間を置く。


ルノアとエメルダが生唾を飲み込んだ。


「男はね、元の世界の元の時間に戻れたんだけど……戻った途端、みるみる身体が年老いていったの。何百年もの時が一気に押し寄せたみたいに。そして最後は、朽ち果てて消えてしまった――とさ」


リーファが静かに笑う。


「うっ、うぉぉーっ、さぶっ!」

「こ、怖いじゃねぇか……!」


ルノアとエメルダは完全に青ざめていた。


この手の話も苦手らしい。


そんな二人を横目に、ミィナが首をかしげた。


「このお話って、結局、何を伝えたかったんでしょう?」


「諸説あるんだけどね。森では“精霊を怒らせるな”ってことで落ち着いているわ」


リーファが小さく肩をすくめて答えた。


「わ、わかった!オレ、森じゃおとなしくしてる!」

「お、俺もだ……精霊に会ったら絶対怒らせねぇ……!」


完全にビビり散らしている二人。


そのとき、ミィナの腕の中で丸くなって寝ていたルクピーが、片目だけそっと開け、ルノアとエメルダをチラッと見た。


――もちろん、誰もその視線に気づかなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

いかがでしたでしょうか。


本小説をはじめから読んできてくださった方は、もしかするとおわかりかもしれませんが、この物語は以下のような様々な神話が登場してきます。

・ラグナロク=>北欧神話

・オリンポス=>ギリシア神話

・ティアマト=>メソポタミア神話

・ル・ナ・ノーグ=>ケルト神話

これは伏線でして、この世界観がいずれわかる時が来ますが、もう少し先の話になるかと思います。


もし、今後が気になるという方は、下のアイコンをクリックしていただけたらと思います。


さて、次回ですが、ついに主人公たちが特別なアイテムを持つことになります。


どうぞお楽しみに。


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