第2話 原初の女神ティアマト……残念系!?
この物語に目をとめていただき、本当にありがとうございます。
今回は、本作品のヒロイン?の一人である女神ティアマトの登場です。天然です。2025/05/03
【更新履歴】
2025/06/08 語りの視点をアマトに統一
2025/05/20 本話のタイトル変更
(……誰だ?)
呼びかける声――あまりにも優しくて、温かくて――だが、その奥に底知れない力を俺は感じた。
そして――現れた。
銀色に輝く長い髪。
夜空をすくったような、深い紺碧の瞳。
幻想的で、どう見てもこの世の存在とは思えないほど、美しい女だった。
「ふふっ、やっと……会えた……!」
まるで旧友にでも再会したかのように、嬉しそうに微笑む。
「あなた、本当にすごいわ……こんなに魔素を纏った人、滅多にいないの!」
キラキラした目で俺を見つめてくる。
(魔素……?)
よくわからなかったが、とりあえず聞いてみた。
「……お前、誰だ?……ん?声、出たな」
女はぱちんと指を鳴らし、満面の笑みを浮かべて言い放つ。
「私はティアマト!このカオスの管理者であり、万物の原初の女神なのよ!すごいでしょー!」
胸を張って、子どもみたいに得意げに語る。
(ティアマト、ね)
名前を聞いて、少しだけ気持ちが落ち着いた。
俺は続けて尋ねる。
「カオス、ってのは?」
「うんとね、簡単に言うと……万物の始まりの地よ!
あなたのいた世界も、神々のオリンポスも、ぜーんぶ、ここから生まれたの!」
ティアマトは誇らしげに両手を広げた。
「つまり、ここがすべての原点……ってことか」
「そうそう! よくわかってるじゃない!」
ぱちぱちと手を叩いて喜ぶティアマト。
(……いやいや、女神ってもっとこう、神秘的で近寄りがたい存在じゃないのか?)
「……まぁ、よろしくな、ティアマト」
「あ、あの……そんな、ため口で……」
ティアマトの肩がピクピクと震えるのが見える。
でも俺は、
「いや、別に神様とか興味ねぇから普通にしゃべるぞ」
と言い切った。
「うぅ……」
女神、半泣きである。
その様子に、さすがに苦笑するしかなかった。
「で?俺に何の用だ?」
ティアマトは、少しだけ真剣な顔になった。
「あなた、なんでここにいるか、わかる?」
「……なんとなく、死んだからだろ?」
「それもあるけど……今のあなた、普通じゃないの。
魔素量が尋常ではないくらい膨大なのよ!」
ティアマトが身を乗り出すようにして続ける。
「このままあなたがオリンポスに転生したら、
間違いなくチート級の能力者になるわ。
もう、無敵よ!」
そして突然、ティアマトは両手を合わせ、ぺこりと頭を下げた。
「だから、お願い!”特異点”として、オリンポスに行って魔素を回収してきて!」
「……話が見えねぇ。なんで俺なんだよ」
俺が眉をひそめると、ティアマトはぷるぷる震えながら説明を続けた。
「いま、この世界はとんでもないことになっているの。
魔素がどんどんオリンポスに流れていっちゃって……
このままだとカオスの魔素がスカスカになって、
オリンポスも、カオスも、そして、あなたの元の世界さえも、
全部、崩壊しちゃうのよ!」
「……面倒くせぇ」
俺は、即答した。
「ええええええええええええっ!!」
ティアマトは顔を真っ赤にして絶叫し、そのまま泣き出した。
「だって……
原初の女神のお願いなのに……
全世界の命運がかかってるのに……
カオス、飽きたのに……
オリンポス、ちょっと見たかったのに……!」
完全に駄々っ子モードだ。
「はぁ……」
ため息しか出ない。
「……そもそも、お前、自分じゃ行けないから俺に押しつけたんだろ?」
そう尋ねると、ティアマトはあっさり頷いた。
「うん。私はカオスの管理者だから、物理的に直接オリンポスへは行けないの」
(……つまり、面倒ごとを押しつけられたってことか)
またしても、ため息が出る。
正直、世界のバランスなんてどうでもよかった。
それより――
「……赫夜って娘、知ってるか?」
その名を口にした瞬間、ティアマトの涙がぴたりと止まった。
そして、さっきとは打って変わった冷静な顔で、俺を見つめてくる。
「自己中ね、あなた。友達少なかったでしょ?」
「うるせぇ、ほっとけ」
思わず口を尖らせる。
ティアマトは、ふっと笑った。
「でも、赫夜ちゃんならオリンポスにいるわよ」
「……本当か!?」
思わず身を乗り出すと、ティアマトはコクンと頷いた。
「赫夜ちゃん、すごく優秀な子だったの。
素直で、礼儀正しくて……あぁ、本当にいい子だったわ……」
語るその顔には、どこか親しみが滲んでいた。
「オリンポスの様子を見るために、私の目になってもらったの。視覚の回廊を通してね」
ティアマトの声色が、少し沈む。
「でもね、途中で情報がぷつんと途絶えちゃったの」
「……死んだのか?」
俺の声も、自然と低くなる。
ティアマトは、そっと首を横に振った。
「たぶん違う。でも、活動を停止してるみたい」
(……)
胸が締めつけられる。
(もし、赫夜がまだ生きてるなら……)
「わかった。俺が、オリンポスに行く」
俺は迷わなかった。
「赫夜を探す。そのついでに、魔素も回収してやる」
「……ついで?」
ティアマトが頬をぷくっと膨らませたが、すぐに笑顔に戻った。
「いいわ! オリンポス、きっと楽しいところよ!」
無邪気に付け加える。
「きれいな景色とか、美味しいものとか、素敵なお土産とか、いっぱいあるといいなぁ〜!」
(……この女神、残念系だな。
いや、視覚や聴覚はわかる。味覚は……まぁ、ギリいけるか?
つーか、お土産ってどうやって渡すつもりだよ。
お前、物理的にオリンポス行けねぇんだろ?)
ティアマトが手をぴょこんと上げる。
「では、あなたに新たな名前を授けましょう!」
続けて言った。
「……その前に。あなたの本当の名前、教えて?」
少しだけ迷ったが、正直に名乗った。
「暁神天翔だ」
その瞬間、ティアマトの動きがぴたりと止まった。
まるで、何かを思い出したような顔をして――
「アカツキガミ……アマト……ね……」
小さく呟き、なぜか納得したように微笑む。
(……なんだ、今の反応は)
不思議に思ったが、ティアマトはすぐに明るい笑顔で言った。
「うん! じゃあ、“アマト”でいきましょう!」
その声には、かすかに何か秘めたものが混じっていた。
ティアマトがふわりと手を振る。
「じゃあ、行ってらっしゃい!」
その言葉とともに、俺は光に包まれていった。
「あなたとカオスの回廊をつないでおいたからねー!
観光情報もよろしくねー!
お土産よろしくねー!!」
――最後まで残念な女神の声を聞きながら、俺の意識は闇に沈んでいった――。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
天然で、ちょっと残念さがありそうなティアマト、いかがでしたでしょうか?
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次回は、アマトの転生、初戦闘?のお話になります!
彼のチートさの片鱗が垣間見える回なので、ぜひお楽しみに!