第1話 世界の終焉、そして俺はカオスを漂流していた……
はじめまして。
この物語に目をとめていただき、本当にありがとうございます。
第1話は、少し静か、かつ、短い始まりですが、
この先には、笑いや涙が交差していきます。
ということで、もしよろしければ、少しだけ読み進めていただけると嬉しいです。
【更新履歴】
2025/09/02 前半を書き直し
2025/06/12 文章のブラッシュアップ
2025/06/08 さらに一人称視点に変更
2025/05/26 以前の文章は、ちょっと幻想的すぎ、かつ、冗長だったので、見直して全般的に修正
2025/05/20 本話のタイトル変更
俺の名前は、暁神天翔。
生前は、22歳で普通の大学生といえばその通りだった。
ただ俺には、病弱で入退院を繰り返している妹、赫夜がいた。
俺たち兄妹は、親がなく、幼い頃から施設に預けられた。
そんな俺たちに世間の目は冷たかった。
だから俺は、赫夜さえ幸せになってくれれば、それでいいと願って赫夜を守ってひたすら生きてきた。
それなのに、まさかこんな世界の終焉が来るとは……
確かに、世の中は不安定だった。
経済は停滞し、各国が自国ファーストを唱え、戦争の火種が各地に燻っていた。
核の脅威も、遠い話ではなくなっていたのかもしれない。
それでも、無意識に信じていた。
「明日」は、当たり前に来るものだと……
そしてその日は、赫夜の18歳の誕生日だった。
俺は、プレゼントを持って体調を崩して短期入院をしている赫夜のところへ寄った。
「赫夜、体調はどうだ?」
と病室に入るなり、赫夜に声をかけた。
「天翔!何度言えばわかるの。ここは女子の病室なんだから、入るときはノックくらいしなさい!」
ムッとした顔で俺を睨んできたのは、幼馴染の夕璃だった。
世間から見放された俺たち兄妹にとって、数少ない理解者で、口うるさくも優しく、芯のあるやつだ。
「まぁ、天翔だからな。いまさら何を言っても無駄だと思うぞ」
そう言って笑っていたのは、3歳年上で従兄の雷牙だ。
誰よりも頼もしく、苦しい時には必ず助けてくれる存在だった。
「……なんだよ。二人とも、もう来ていたのか」
「もぅ、お兄ちゃんったら……二人とも私のためにわざわざやってきてくれたのよ」
赫夜は小さく息を吐きながら、申し訳なさそうに言った。
「いいのよ。赫夜ちゃん。いつものことだからね」
「そう。そういうことだ」
夕璃と雷牙が微笑みながら赫夜に返した。
俺にとって、こうした他愛もない会話がいつもいとおしかった。
「……これを届けに来たんだ」
と言って、ポッケからゴソゴソとプレゼントを取り出し、赫夜に渡した。
そのプレゼントを見て夕璃の顔が明らかに引きつった。
「ちょっとぉ。箱がつぶれてるじゃない!」
「いや、中身はつぶれないもんだから大丈夫だろ」
「それは、さすがに、ちょっとアレだぞ」
雷牙もあきれた様子だった。
「ふふっ。お兄ちゃんらしいよ」
赫夜が、その壊れた箱を優しく抱きしめるようにして笑った。
「開けてもいい?」
「あぁ」
そう俺が答えると、赫夜が丁寧に箱の包装をはがして中身を開けた。
「わぁ。ステキ」
箱の中は、ピンクサファイアが優しく輝くネックレスだ。
それは、赫夜が中学生のころ、唯一欲しがったものだった。
「お兄ちゃん……覚えててくれたんだ。……ありがとう」
そう言って、ネックレスを大事に胸に当てた赫夜の目には、涙があふれていた。
少し照れくさい気持ちになった俺は、
「じ、じゃあバイト行ってくる。二人とも、あとは任せた!」
と言って、病室を飛び出した。
その扉の向こうから夕璃のわめき声と、雷牙がそれをなだめているような声、そしてかすかに赫夜の笑い声が聞こえた……
それが、俺にとって三人との最後の時間だった。
俺は、病院を出て、ちょうどやって来た駅行のバスに飛び乗った。
そして、ここのところアルバイトを入れすぎたせいか、強烈な眠気が襲ってきて、立ちながらうとうとし始めたその時だった……
「ミサイル発射。ミサイル発射。ミサイルが発射されたものとみられます。建物の中、又は地下に避難してください」
バスの中でいくつもの携帯電話からJ-ALERTがこだまする。
俺は目を開け、あたりを見回すと、警報に対して不安な顔をする人、うるさそうな顔をする人、まったくそれに気づかず寝ている人など様々な様子であった。
(またか……?)
俺が、そんなことを思った刹那……
突如、強烈な閃光がすべてを呑み込んだ。
音も、熱も、衝撃もない。
ただ、無慈悲で無機質な「終わり」の光が、俺の視界を満たした。
(本当にミサイルだったのか!? これが、死か……このまま無に還るのか)
――
だが、次に意識を取り戻したとき、そこは「無」ではなかった。
無数の光が漂う、音もなく、暖かさも感じない空間。
まるで夜空に瞬く星々のようで、深海の底に揺れる微光のようでもあった。
強く脈打つもの、儚く消えそうなもの……どれひとつとして、同じ光はない。
(ここは……どこだ?)
思考する中で、気づいた。
俺には、まだ「意識」がある。
死んだはずの俺が、なぜ……
(死後の世界?魂の海?それとも夢の続きか?)
そして、漂う光の一つひとつが、“命の残滓”だと、なぜか思えて仕方なかった。
まるで何かを伝えようとしているように、ただそこに在った。
そのとき、不意に浮かんだ名前があった。
赫夜……
そして、夕璃と雷牙。
みんな、あの閃光に呑まれたのか?
この光の海のどこかに、あいつらもいるのか?
そして、胸の奥に、じわりと怒りが滲む。
(いつだって、戦争を始めるのは……戦場へも行かず、自分ファーストで無責任なお偉い連中だ……)
――
どれほどの時間が経ったのか、わからない。
光たちは少しずつ、確実に減っていった。
けれど、消えることを拒むように、なおも抗う光がいくつか残っていた。
強く、切実に瞬く命の輝き……
その中に、自分もいる。なぜか、そう確信できた。
そして……
耳元に、かすかな気配が揺れた。
風のようで、光のきらめきのようで……それは、声のようでもあった。
(……アナタ…ワタ…ノコエガ…キコ…マスカ……)
遠く掠れた、夢の中の囁きのような声。
(……誰だ……?)
問いかけようとするが、声にはならない。
ただ意識の奥底が震え、何かに引き寄せられていく……
(…タシノナマエ…ティア…ト…カオス…ゲンショ…メガミ)
断片的な音が胸の奥で反響し、やがて消えていく。
誰の声かも、何を伝えたいのかも、まだわからない。
しかし……
その声は、確かに俺を呼んでいた。
名も知らぬ誰かの声が、俺の“終わり”に手を伸ばしていた……
そう、感じたんだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
今回の話は、ちょっとおとなしめでしたが、次回から本小説の本領が発揮されていきます。
次回は、本作のヒロイン(?)の一人、そして(残念系!?)原初の女神ティアマトがいよいよ登場します。今後、彼女がどんな活躍(やらかし?)をするのか、ぜひお楽しみに!
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