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プロローグ




千明(ちあき)、たいへんだ!」

「……うん?」


諸々の行事を終え、高校生活最後の教室で黒板アートをぼんやり眺めていると、クラスメイトの智也(ともや)が血相を変えて飛び込んできた。


「どうしたの、そんなに慌てて。お父さんにでもなった?」

「ばかっ、違えって! あの藤原さんが告白して振られたらしいぞ!」

「へえ」

「へえ。って、おまっ、あの藤原さんだぞ!?」

「それはさっき聞いたよ」


藤原彩音(ふじわらあやね)。僕らの後輩であり、現・生徒会長。

そして彼女の父親は、日本有数の老舗商社・藤原商事の社長だ。


『ペン先からロケットまで』を扱うといわれる藤原商事は、この東京都に本拠をかまえ、社員をあらゆる事業に展開してこの国の経済の根底に根付いている。


先輩にも関わらず智也が藤原さんを『さん』付けで呼んでいるように、学業優秀、スポーツ万能。そして類稀な容姿に恵まれた彼女は、学生でいながら藤原グループの広告塔を務め、その名は今や全国に知られている。


――要は、高嶺の花。


「いやだからなんでそんなに冷静なんだよ!?」

「逆にどんなコメントを僕に求めてるのか知りたいんだけど」

「気にならないのか? 今まで百を下らない告白を即答で断ってきた藤原さんを振った相手について」

「僕らが気にしたってしょうがないでしょ」

「……ったく、相変わらず達観してるというか。だから、感受性サイコパスなんて言われちまうんだぞ?」

「ははは」

「口だけ動いてぜんぜん笑ってないし」


智也は半分諦めたような呆れ顔。


僕は昔から感情というものに乏しい存在で、喜怒哀楽が精神の山谷であるとすれば、それがどこまでも平坦である。だから、怒るときも笑うときも足下を探りながらというか、人が笑っているから僕も笑おうかな、とか。怒っているなら僕も怒ってみようかな、というやり方しか出来ない。


智也のように一部の友人から『感受性サイコパス』というあだ名を頂戴していることからそれは最早周知の事実であり、逆に彼のお望み通りの反応をしようものなら、それこそ僕の正気を疑われるだろう。


「そういえば……」


智也は何かを思い出したかのように手を叩いた。

嫌な予感がする。


「千明って藤原さんと仲良いよな?」

「生徒会で一緒だったし、悪くはないと思うよ」

「ふーん。悪くはない、ねえ……」

「何か言いたいことでもあるの?」

「ぶっちゃけ俺、藤原さんが千明以外の男とまともに会話したところを見たこと無いんだけど?」

「……へぇ」


なるほどね。消去法で考えたわけだ。

彩音ちゃんが誰かに告白して振られた、ということは事実として広まってはいるけれど、具体的に彼女が相手の名前を挙げていない以上、僕の口から話せることはない。

お節介で済むならまだ好ましいけれど、それも度が過ぎれば、ただただ鬱陶しいのは余人も同じ思いだろう。


「智也くん。君とは三年間同じクラスだったし、僕の数少ない友人の一人だ。信用しているし、傷つけようなんて考えたこともない。でもね――」


僕はゆっくりと椅子から立ち上がり、そっと智也の肩に手を置いた。


「あまり余計なことに首を突っ込みすぎると僕が将来偉くなったとき、真っ先に()()()()()頭に浮かぶかもしれない」

「ちょっ、目のハイライト消えてるって! もうこれ以上詮索しないから勘弁してください!」


僕の脅迫にあっさりと屈した智也だった。


「感情はロジックじゃないからね。誰しも上手くいことばかりじゃないよ」

「は、はい……」


ううむ。さすがにちょっと脅かし過ぎたみたいだ。智也はダンゴムシのように畏縮してしまう。

このままだと今後、成人式や同窓会で目を合わせられなくなりそう。


「じゃ、僕はもう帰るよ。智也も卒業おめでとう。お互い進路は違うけど、何か困ったことがあったら気軽に相談してよ。出来る限り力になるからさ」

「ち、千明……いや、心の友よぉぉぉぉぉ――!」

「キモいよ」


智也が泣きながら熱烈なハグをかましてきそうだったので、アイアンクロ―で温かく受け止めて、僕は教室を後にする。


「…………」


下駄箱に向かう道中、僕の目に留まったのは、一年の後期から三年の前期まで――約二年間を共にした生徒会室だった。


想い出は色々とあるけれど――


「彩音ちゃん、か……」



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