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第95話 拠点の位置

第一次北山調査も完了。

北山への関心が高まる。

そして…………新章の始まり。

次回の調査団の編成を模索している真っ最中に、ちょっと変わった報告が届いていた。


防壁の見張り要員からだった。

彼らの日報を流し見ていた中に、二人が違和感を覚えて監視を強化した、と記述されていた。

結局、何に違和感を感じたのか本人もわからず終いだったとあるが……はて?

気のせいなら良いが、たぶん日報を書いた本人も悩んで記述することにしたのは、想像に固くない。

僕が気になったのは、それが二人重なったことだ。

同一人物ではない。記載された名前も違う。


前鬼ぜんき、見張り要員のここ最近の日報を持ってきて」

取り越し苦労に終わるなら、それはそれで良い。

「ご主人様、持って参りました」

前鬼ぜんきパパはこういう時、TPOを考え、堅っ苦しくなる。

僕も似たようなものだからね。

「ありがとう」

早速、ざっと流し見る。

一度読んでいるので、斜め読みで速読して行く。

大量の日報と二時間ほど格闘した後、リントを呼び、一朗太いちろうた鈴蘭すずらんを南の防壁の上に集合させるように伝達。


「ご主人様、何事でしょうか?」

前鬼ぜんきが確認してくるが、まだよくわからないんだよなぁ。

「いや、見張り要員の日報のこことここが気になってさ。

かといって、何かあるわけでも無いし……。

まあ、何でもないことの確認をしようかな、ってところ」

前鬼ぜんきも日報を見直すが、どうしたら良いかわからない様子。

「あなたのその行動力は良いことよ。

好きなように振る舞いなさい」

後鬼ごきが後押ししてくれたので、足も軽くなる。

「じゃあ、行ってくるね」

「「行ってらっしゃい」」

執務室を出て、南の防壁を目指す。



南の防壁の上に行くと、一朗太いちろうた鈴蘭すずらんはもう来ていた。

ぬえもいた。

「やあ、ぬぅ。ちょっと久しぶりか」

「ミャアオウ」

ぬえの頭を撫でてやると、ぬえも頭を擦り付けてくる。

全身の筋肉に張りが見られ、身体全体が一回り大きくなったように見える。

「ごはんはいっぱい食べてるかい」

「ミャオウ」

「いっぱいどころじゃありませんよ。

ぬぅちゃんたら、いつもウチの旦那と争うように掻き込むもんだから、毎食がいくさみたいなもんですよ」

「ハハハ、鈴蘭すずらんが一番大変だね」

「たまには外食でもって提案するんだけど、旦那がなかなか、うんって言ってくれないのよ~」

「外食よりも鈴蘭すずらんのメシの方がうまい」

「ミャミャミャオウ」

「あんた達は調子良いんだから」

それはご馳走さまです。


三人に見張り要員の日報の件を話し、何かおかしいのか、おかしくないのかすらわからないことを正直に伝える。

「そりゃ、なんとも言いようがありませんね。

とりあえずは、見張り要員時代を思い出して、歩いてみますか」

一朗太いちろうたは先頭を行き、みんなで巡回してみることに。


「特に変わった風景も見られないし、何なんだろうね」

鈴蘭すずらんも辺りを伺いながら、一朗太いちろうたの後についていく。

ぬえもふんふんと鼻を鳴らしながら、進んで行く。

そうして、もうすぐで西側の防壁に着く時になって、一朗太いちろうたの足が止まる。


「こりゃあ、確かにおかしいですわい」

「本当だね。

って言うか、その見張り役は、よく気付いたもんさ。

久しぶりに巡回したあたしらならでは気付ける…………最初におかしいって言われなきゃ、あたしらでも気付けたかどうか、わかんないね」

僕とぬえと二人して首を傾げる。

「鈴木次郎様。

ワシが今立っているここが、南の防壁の西端じゃなきゃおかしいのですわ」

一朗太いちろうたがこちらを振り返って言う。

え? だって、まだ端までは五メートルくらいあるよ。

鈴蘭すずらんを伺うが、頷いている。


「ちょっと待てよ。

それなら……」

言いながら、防壁のガードに寄り掛かって下の水路を見下ろす。

湖方面から海方面を何度も見返す。

わずかに水路が曲がっているのか?

水路は後鬼ごき土遁どとんの術でほぼ真っ直ぐに作られたはず。


「すまない。

いっさん達は、念のため、西や北、東の防壁も調べてくれ。

僕は水路を調べてくる」

「お任せください」

一朗太いちろうたの返事を待たず、身体強化して身体を大人にし、防壁から飛び降りる。

落下して行く途中、ゴウッと風の音が耳にうるさい。

膝を柔らかくして五点着地法で地面に降り、立ち上がってすぐに南門に向かう。



南門近くの船上にいた河童を捕まえ、弁才天はどこに居るか聞く。

今日は湖の水揚げ場にいるらしい。

真神まがみぃー!!

居るかぁー!!」

腹に気力を乗せ、大声を出す。

周りの者達が驚いているが、この際気にしていられない。

すると、真神まがみが拠点内ではなく、東の森からやって来た。


「申し訳ありません。

お待たせしました。

真神まがみ、これに」

「急がせてすまない。

だが、急用だ。

湖の水揚げ場まで僕を乗せて行ってくれ」

「かしこまりました」

真神まがみに跨がり、インベントリから取り出したゴーグルを装着する。

「お急ぎとのことならば、しっかりお掴まりください」

「頼む」

言うが早いか、真神まがみは僕を乗せ、水路脇の通路を弾丸の如く駆け出す。

音速の壁を破ったのか、耳が少しキーンとなる。

次からは耳栓も必要か。

そんなことを考えていたら、もう水揚げ場が見えた。


そこで真神まがみから飛び降りるが、両足にかかる制動力が半端なく来る。

防壁からの飛び降りなんて目じゃない。

水揚げ場を少し通過したところでようやく止まり、水揚げ場に向かう。

真神まがみは水揚げ場の正面で僕を待っている。

これからは、真神まがみの乗り方と降り方の訓練を僕がしなきゃダメかも?



水揚げ場に入る前に、一つ深呼吸をする。

さっきは慌てていて、周りの人を驚かせちゃったからね。

「弁才天はいるか?」

ザザザッと一斉に皆がその場に跪いていく。

あ、覇気を出しちゃってたか。

さっき、声に気力を乗せた際に、覇気も乗っけちゃってたか。

焦ってたんだな。


「弁才天はいるか?」

今度は、覇気を乗せずに再度聞く。

「は、ははっ。

……ここに」

弁才天はこうべを垂れ、跪いたままだ。

「立て。

楽にして良い」

そう言うと、弁才天は恐る恐る頭を上げ、僕の顔をじっと眺めた後、ようやく立ち上がる。

「な、何用でしょうか?」

「突然、すまない。

水路で変わったことはないか?

水揚げ量でも良い」

弁才天は顎に人差し指をやり、しばらく考えていた。


「ここ最近は、水温が少しずつ上がって来たためか、水揚げ量が上がり始めの兆しが見えた、というところでしょうか」

「そうか。

他に何かないか?

何でも良い。

水揚げ場が少し揺れたとか、流れる水量が変わったとか、何かないか?」

「そう言われましても……」

弁才天は、答えようが見当たらなくて、本当に困っている様子だ。


「あ、あの……」

声の方を向くと、一人の河童が跪いたままで恐る恐る手を挙げていた。

喜一郎きいちろうっ」

弁才天が咎めるように呼び掛ける。

喜一郎きいちろうと言うのか。

何かおかしなことあったか?」

「おかしいということもありませんが、水揚げ場がやや南にずれているような気が致します」

「それはあなたの気のせいと言ってるでしょ。

他の皆も言ってたじゃない」

喜一郎きいちろうの言葉に弁才天が被せてくる。

それを聞いて、僕は喜一郎きいちろうのところへ行く。

そして、喜一郎きいちろうの両肩に手をやり、持ち上げる。


「!?」

喜一郎きいちろう、詳しく!」

喜一郎きいちろうは目をぱちくりさせながらも、湖の方を向いて指を指す。

「水揚げ場の南端から湖を眺めると、直線上にあの岬が重なることはありません」

喜一郎きいちろうが水揚げ場の南端まで歩いて行くので、後をついていく。


「ですが、今ご覧になっていかがですか?」

「岬の方が突き出ているように見える」

「そうなんです。

それが気になって、水路を見直してみると、水路全体が歪んでいるんじゃないかと……。

この水揚げ場はほんの五cmほど南へ、下流に向かっていくにつれ、水路はもっと南へずれているように思えます」

喜一郎きいちろう、よくやった。

この水揚げ場は、南へ五cmずれているんだな?」

そして、水路は拠点に向かっていくほどさらに南へずれていると。


「拠点が地滑りしている可能性があるか……」

でも、それだけなら、防壁が延びている説明がつかない。

「ほお、弁才天がその情報を握り潰していたとはな」

真神まがみがニヤリと笑って言う。

「け、決してそうのようなことは……!」

弁才天の顔が真っ青になっていく。

「弁才天様はそのようなことはされません!」

「常日頃、大樹の森全体の発展を願って努力されておりまするぞ!」

河童達が一斉に弁才天を擁護している。

今はそれを抑えている暇は無い。


喜一郎きいちろう、これから水路を泳いで行き、歪みが酷くなっているのか、それとも緩やかになっているのか、おまえの感覚で良いので検証してくれ」

「かしこまりました。

ですが一つ。

弁才天様に二心はありません」

喜一郎きいちろうが僕の顔を真っ直ぐ見てくる。

わかっているさ、そんなことは。

「弁才天、良い部下を持ってるな。

今回は喜一郎に免じてお咎め無しとする。

以後、働きで返せ。

また、喜一郎きいちろうは借りるぞ」

弁才天が平伏し、喜一郎きいちろうが水路に飛び込む。


「弁才天。

至急、水路を点検しろ。

歪みや割れている箇所があれば記録し、報告するように」

「はっ、ただちに!」

弁才天も立ち上がり、河童達に次々に指示を出し、海側の水揚げ場に同様の指示出しの為に、自らも水路に飛び込む。

僕も真神まがみに再度跨がり、拠点へと向かう。



余談


やらかした!

また、やってしまった!

今日の現人神あらひとがみはまずい。

最初っから本来の姿で登場していたし、私のことを「弁天」と呼ばず、始終「弁才天」と呼んでいた。

最近、現人神あらひとがみとは上手く付き合えていたと、気が緩んでいた。

何故もっと、喜一郎きいちろうの話を真剣に聞かなかったのか。

我ながら情けない。


現人神あらひとがみのあの様子では大事に違いない。

当たり前だ。

彼は三千人以上の人命を握っているのだ。

しかも、拠点が地滑りしているかもしれないだと?

喜一郎きいちろうの話を即座に報告していれば、こちらが逆にアドバンテージを取れていたかもしれないのに。

弁才天の大馬鹿者。


…………反省はいつでも出来る。

今は指示されたことを全力でやるのみ。

あ、海側の水揚げ場が見えて来た。

まずは、やれることをやろう。



弁天お姉さん、頑張れ!

でも、そんなに心配しなくても、次郎からの信頼は厚いよ。

だって、いの一番に弁天お姉さんに確認しに行ってるものね。


次話も次郎は奔走します。

お楽しみに。

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