第92話 北山の山頂
ラプトル各種にブラキオサウルス、翼竜等々太古の恐竜達が跋扈する北山。
山頂には何が居る?
とうとう山頂まであと一息というところまで来た。
ステータスボードの時計を確認すると、もうお昼を過ぎていた。
ここの恐竜ワールドに夢中になり過ぎていた僕の失敗だった。
「ぜんた~い、止まれ!
お昼休憩にします」
そう言うと、インベントリから全員分のお昼ごはんを取り出す。
後鬼やアヤメ、タマモが夜が明ける前から作ってくれたお弁当だ。
前鬼が広げてくれたブルーシートに座ってお茶も取り出す。
椿がお茶と弁当を配るのを手伝ってくれた。
みんな大食い野郎ばかりだから、弁当箱がでかい。
「では、皆さん。
手を合わせてください」
パンッという気持ち良い音が響き渡る。
ヒルコも触手を出して合わせている。
雲外鏡も……おまえ、手が出せるんかい!
雲外鏡の鏡面からヒトの手が伸びて、手を合わせている。
まあ、いいか。
「いただきます」
「「「いただきます」」」
右手に箸を構え、弁当箱を覗き込む。
ドカ弁の半分を白飯が占めている。
その真ん中には梅干し。
おかずの枠を眺めてみる。
おお、シャケの塩焼きもあるじゃん。
まずはそこに手を伸ばす。
一口シャケを口に入れると、その塩気がバクバクと白飯を進める。
次にタコさんウィンナーだ。
ちょっと形がいびつだが、味は変わらない。
箸休め的にほうれん草のおひたしにも箸を伸ばす。
ん? 薄めのダシ醤油に浸して絞ったか。これもありだな。
牛肉のしぐれ煮は濃いめの味付けがされている。
これはいかん。白飯が進んじゃうじゃんか。
さあ、いよいよだし巻き玉子の登場だ。
僕、これ好きなんだ。
柔らかい感触を噛み締めると、ジュワッとダシの旨味が口の中に広がっていく。
今日は甘くないだし巻き玉子だね。
これもまた良し。
「ああ、足りない人は言ってね。
おにぎりがあるから」
一斉に全員の手が挙がる。
真神まで前足を挙げてるよ。
「弁当箱の隣に蓋を置いて。
そこに出すから」
インベントリから、みんなそれぞれの蓋を目掛けておにぎりを放出する。
ナイスコントロール。
我ながら上手く操作出来た。
大妖はみんなよく食べるよね。
椿ちゃんも小さい身体によく入るもんだ。
はぐはぐとおにぎりを頬張る姿を見ていると、ほっこりする。
その内、大妖になっちゃうかもね。
僕はドカ弁を平らげ、おにぎりも二個腹に収めた後、お茶をすすって、しばしゆったりする。
時計を見てみると、十分ほどしか経っていない。
早食いは良くないけど、防大でクセがついちゃったから仕方ないんだよね。
元防大生の奥様方の不満の一つに「一緒に食事が楽しめない」ってのがある。
きっと今でも変わらないんだろうなぁ。
みんな食べ終わって、片付けをしてから、一つ深呼吸する。
「よし、出発しよう」
山頂にたどり着くと、そこは広い盆地が広がっていた。
山頂の縁から盆地を見下ろすとよくわかる。
北山は火山だったらしい。
今も活火山なのか、それとも休眠状態なのかは、その風景からは判別出来ないけれど、中央部がやや抉れていることから、噴火したことがあるのだろう。
今はすっかり緑に覆われているけど。
中心部は木々がなく、草原が広がっている。
そこを一頭の大きな恐竜が歩いている。
遠目にもわかる。
あの特徴を有した姿を見間違えるはずもない。
身体に比して大きな頭、大きな顎、強靭な後ろ足。
代わりのように小さな前足。
そして、二足歩行。
最強の肉食恐竜、ティラノサウルスだ。
最新の研究では、移動速度はあまり速くないとのこと。
ぜひ、近くで見てみたい。
そのティラノサウルスの頭上を飛竜がたかっている。
おかしいな?
翼竜も大きいけど、その体長はティラノサウルスの半分ほどしかない。
体重に至っては十分の一もないだろうに。
自分より大きい獲物に攻撃するのは、かなり珍しいのじゃないか?
五頭の翼竜が代わる代わるヒットアンドアウェイで鉤爪を立てているが、ティラノサウルスは気にした様子もない。
その内一頭がティラノサウルスの顎に捕まった。
辺りに血飛沫が舞う。
これだ。
この圧倒的な暴力で恐竜世界で君臨してきた暴君ぶり。
「グオオオッ」
腹に響く唸り声だ。
あ、例の唸り声の正体は、ティラノサウルスのものだったか。
一頭、翼竜が地上に落ちた。
地上で蠢いている。
猛然とティラノサウルスが突進し、その顋の餌食に。
そして、ティラノサウルスが吠える度に翼竜が地上に落ちていく。
なんだ?
何が起きている?
さらに、二頭の翼竜が地上に落ちた時、その戦場に新たな影が登場した。
それは翼竜同様に宙を舞い、ティラノサウルスに猛スピードで接近していく。
ティラノサウルスの頭に一閃。
速い!
反転して、もう一閃。
ティラノサウルスの頭から血が流れている。
翼竜の半分ほどの大きさしかないのに、攻撃力は高いようだ。
ティラノサウルスがまた咆哮するが、何かを避けるかのように、変幻自在に宙を舞う。
どうやら、ソイツは四枚羽を持ち、方向転換も自由自在に空中を舞っている。
待てよ……ミクロラプトルは四枚羽を持っているが、あのサイズで四枚羽を持っている恐竜は知らないぞ。
「少し近づこう」
みんなの了承を得て、山頂の縁から盆地へ下りていく。
「わざわざ危険地帯に足を踏み入れんでも……」
「お爺、何言ってる。
椿達は調査に来てる。
この盆地の中心部に行かないでどうするの。
お爺はバカね」
「馬鹿と言うヤツが馬鹿なんじゃ」
「ベぇーっ」
「いぃーっ」
本当は仲良いのかな?
盆地の林を駆け抜け、戦場のよく見える位置まで近づく。
林と草原の境い目で止まり、中心部を窺う。
さらに翼竜が集って来ている。
十頭ほどの翼竜も代わる代わる攻撃していく。
多勢に無勢のはずが、ティラノサウルスの暴力がやや上回っているように見える。
ティラノサウルスが咆哮する度、次々と翼竜が地上に落下して行く。
そう言えば、東の湖の大蛇も雷を発していたな。
ここ異世界では、地球の常識が通じないことを再認識せざるを得ない。
「主殿、あの巨竜の頭部が見えますか?」
頭部?
真神に言われるがまま、ティラノサウルスの頭部を凝視する。
「角が二本生えている?」
「かつての大蛇の如く、一段上に進化しておるようですな」
八岐大蛇が説明した通り、この異世界では稀に個体の進化が生じるようだ。
すると、あの四枚羽も……素早い動きでなかなか捉えることが難しかったが、ティラノサウルスへの攻撃直後ならスピードが緩まり、目にすることが出来た。
顔はラプトル系だが、頭部にこちらも二本の角が生えている。
その四枚羽が少し高く上昇すると、ティラノサウルスにたかっていた翼竜が一斉に離れて行く。
四枚羽が特攻のように、ティラノサウルスの頭目掛けて直進していくが、全身が徐々に燃え出し、火ダルマと化した。
衝突間際に、四枚羽はティラノサウルスの頭上をパスしていくが、火炎だけがそのまま頭部にぶち当たる。
シャイ○スパークだ!
「これはなかなか見ごたえのある戦いだな」
前鬼が嬉しそうに笑ってる。
怪獣大戦争そのものだよね。
恐竜同士の肉弾戦のみならず、超音波?を発するティラノサウルスVSファイアバードと化す四枚羽。
これは升席で観たいくらいだ。
どうも、四枚羽は翼竜を指揮しているようにも見受けられる。
シャ○ンスパークを受けたティラノサウルスも少したたらを踏んだが、まだ健在だ。
右目周りが多少焼けただれているが、目も大丈夫なようだ。
咆哮攻撃も衰えていない。
翼竜が一頭、また一頭と地上に落下して行く。
ただ、ティラノサウルスの方も、落下した翼竜にとどめを刺す暇はないようだ。
四枚羽の火炎攻撃を避けられず、どんどん身体に被弾していっている。
「こやつらがこの北山のヌシなんでしょうな」
「それで、真のヌシとなるべく、争っておるのであろう」
真神の言に八岐大蛇が言葉を添える。
「強烈な個と集団連携の対決か」
「どちらが正しいんでしょうか?」
僕の呟きに椿が問いかけてくる。
「どちらも正しいさ。
僕らは両方を兼ね備えているから、強いんだ。
それは間違いない。
椿ちゃんは独りであそこに乱入しても、勝てるでしょ?」
「巨竜はさほどではありませんが、飛竜共の連携には少し苦労するかもしれません。
ここら一帯を氷漬けにすれば別ですが……あまり広域だと制御がうまく出来ないので」
「でも、そんな椿ちゃんに雲外鏡が加わるだけで、もっと簡単に終わらせることが出来るよ」
「お爺が!?」「え? ワシ?」
「敵が少数なら椿ちゃんは楽勝なんでしょ?
なら、それ以外の敵は雲外鏡が転移で引っ張って行って、また戻って来れば良い。
ダイクン王国救出作戦でやったよね」
「「なるほど」」
「まあ、ここにいる他のメンバーなら、独りで苦労せず、終わらせちゃうけどね」
少し呆れ気味に言う。
「次郎、私はいつでも良いぞ」
「我もいかようにでも」
「ああ、この二人ならそうなっちゃうけど……八岐大蛇なら、違う結末もあるかもね」
「八岐大蛇様だと違うのですか?」
椿が興味があるようだ。
「椿ちゃんが勉強したいそうだ。
八岐大蛇、やってみるか?」
「次郎殿がご所望ならば」
そう言うと、八岐大蛇は巨大化していく。
が、本来のサイズより抑え目にしているようだ。
ティラノサウルスに合わせたか。
「では、行って参ります」
八岐大蛇が飛翔して行く。
いや、八岐大蛇、北山に降臨す、だな。
いよいよ妖対恐竜に。
八岐大蛇が北山のヌシ達に向かっていく。
次回「八岐大蛇の参戦」にご期待ください。




