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第91話 北山の中腹

北山は恐竜達が生息していた!

それは、あやかし達にとっても未知の世界。

それでも調査を進める一行。

真神まがみが先頭になって進んで行くが、ラプトルとの戦闘が無くなった訳ではない。

狡猾にも木の上に潜むヤツラもいた。

ただ、臭いを覚えた真神まがみが先導しているため、奇襲にならずに、逆にこちらから仕掛けていって、終始有利な状況で戦闘して行った。


ここはホントにシダ類や裸子植物が多いな。

被子植物もあるにはあるが、半分以上が裸子植物だ。

ん?

地面が微かに揺れている。

みんなに足を止めるように指示をする。

足音もする。

かなり大きそうだ。


烏天狗からすてんぐ

「はっ。様子を窺って参ります」

「頼む」

烏天狗からすてんぐはすぐさま、木々の間を縫って飛んでいく。

「おいおい、おいおい。

今度は何じゃ?

普通の足音ではないぞ」

雲外鏡うんがいきょうの言う通り、ズシンッズシンッと腹に響く音が段々と近づいて来る。


「ただいま戻りました」

烏天狗からすてんぐが舞い降りる。

「巨大な竜が八頭、山頂方面からこちらに向かって来ております」

「どんな姿だった?」

「四つ足にて、巨象も赤子と見紛うばかりの大きさで御座った。

さらに、首がろくろ首の如き伸びており、まるで八岐大蛇やまたのおろち殿が一つ首になったかのような姿でした。」

「なぬ? 自分と似ているだと?」

巨大な竜、四足歩行、首が長い……そうなると、ブラキオサウルスっぽいな。


「では、自分が粉砕してくれん」

今はヒト並みサイズの八岐大蛇やまたのおろちが山頂方向に首を向ける。

「ストップ!」

八岐大蛇やまたのおろちの八つ首全てがこちらに向き直す。

「おそらく、草食恐竜だ。

こちらから手を出す必要はない。

烏天狗からすてんぐ、こちらにまっすぐ向かってきているのか?」

「あ、いえ、ここの左脇を通り過ぎるかと思われまする」


烏天狗からすてんぐの言葉通り、さほど待つこともなく、僕らの左脇を通っていく。

象の数倍はあろうかという巨大な足が大地を踏みしめる。

一歩踏む度に、全身が震えるほど響く。

見上げてみれば、かなり高い位置に頭がある。

ビル五階建てくらいはあるんじゃないか?

首を前に出し、かなり前傾姿勢で歩行していく。

四つ足が通り過ぎても、また長い尾が続いてる。

さすがは地上最大の草食恐竜と言われているだけはある。

それが八頭も続く。

本当にまるで恐竜ワールドの世界そのものに飛び込んだようだ。


ようやく、ブラキオサウルスの行進が通り過ぎ、みんなで背伸びしたり、屈伸したりして身体をほぐす。

僕だけでなく、みんな緊張していた様子。

草食動物は基本的には大人しいものだが、何が気に障るかわからない。

一度火が着くと、あの巨体だ。

どうなるか、わかったものではない。

現代の地球でも、ただ渡河していたライオンが視界に入ったという理由だけで、カバが激怒し、そのライオンが血祭りにあげられたドキュメンタリーを観たことがある。

触らぬ神に祟り無し、だ。


ブラキオサウルスとの邂逅から間も無く、足元を兎くらいのサイズのラプトルがネズミか何かを追いかけて、通り過ぎる。

かなり鳥の特徴が出ていた。

まるでスタイリッシュな鶏だ。

ただ、走り方はラプトル系の独特なものだけど。

小型のラプトルの仲間には、飛行するものもいたはず。

そういう目で木々を見ていると、ムササビのようなものが木から木へと飛び移っていた。

また、木々の間から、飛竜が飛んでいる姿も見えた。

その姿は、もろ翼竜だ。

翼竜と言えばプテラノドンが有名だが、魚が主食のはずだから、こっちのとは違うと思う。

そして、よく恐竜と思われガチだが、翼竜は爬虫類だ。

だからなんだ、と思うこと無かれ。

翼竜は羽毛を持っていないはず。

つまり、ヤツラは皮膜で空を滑空しているのだ。

皮膜を破ってやれば、再び飛翔することは出来なくなる。

もしもの際には、風術が活躍することだろう。

ただし、地上に降りても、四足歩行出来るはずだから、油断出来ないけど。

道中で、みんなにそういった恐竜講義をしていった。


「次郎様は博識なんですね。

椿つばきはとても素敵だと思います」

椿つばきがニッコリとそんなことを言ってくれる。

思わずほっこりするが、男の子はみんな恐竜好きだからね。

そう言えば、小学生低学年の時は、恐竜の絵ばっかり描いてたなぁ。


「ぎゃあ!」

雲外鏡うんがいきょうが悲鳴を上げ、そちらを向く。

「うわっぷ……た、助けてぇ」

何事かと思ったら、ミクロラプトルが雲外鏡うんがいきょうにへばり着いていた。

おおっ、ホントに四枚羽だ。

両前足と両後足にそれぞれ羽毛つきの羽がある。

「それもラプトルだよ。

もうほぼ鳥類に近いね。

肉食恐竜だけど、小型の獲物しか狙わないから害はないよ」

「ひっ!肉食!?」

「お爺にお肉なんてあるの?」

「あ…………無かった」

「やっぱり、お爺はただただうるさいだけ」

「な、何を言う…………あ、取ってくれてありがとう」

言葉はキツイこと言うが、椿つばきはちゃんとミクロラプトルを雲外鏡うんがいきょうから剥がしてあげている。

やっぱり良い娘。


「グオオオオッ」

また例の唸り声が聞こえた。

山頂が近いか。

木々が途切れがちだが、なんとか山頂間近までは続いてくれているようだ。

翼竜から身を隠せるな。

途中で岩塩も発見出来たが、今は塩田があるから、場所の記載だけにしておく。

確か、岩塩はそのままでは人体に悪影響のある物質が含まれていることもあるという話だ。

今は塩田から採れる塩だけでこと足りる。

また、結構大きな洞窟もあったが、後回しにした。

山頂の調査を優先したいからだ。

例の唸り声の正体も気になるしね。


さあ、もう少しで山頂だ。

気を引き締めて行こう。


冷静に分析を進める次郎ですが、内心はウキウキが止まりません!

まあ、男子あるあるですね。

まだまだ北山調査は続きますよ。

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