第90話 いざ北山調査へ
諸々の事情も落ち着き、忙しくなるであろう春を前に、ようやく次郎の目が北山へと向いた。
北山。
そこには何が待ち受ける?
春が待ち遠しい今日この頃。
まだまだ寒いやね~。
先日、大樹の森に雪は降ったけど、ここの拠点には大樹さんの天然の傘があり、雪による障害は全く無かった。
大樹さん、ありがとう。
三日だけ猛吹雪になったけど、どこも損傷なく無事に過ごせた。
「なんなら、吹雪止めましょうか?」
って、椿が言ってくれたけど、自然に任せることにした。
わざわざ進言してくれた椿をお茶に誘い、ココアをご馳走した。
ずいぶん喜んでくれたけど、好きなのかな、ココア。
それとも、一緒に添えたポテトチップスをパクパク食べてたから、そっちかも?
雪が止んだ日に北門の防壁の上に昇ってみた。
そこから見る森の様子は、この季節ならではの絶景が広がっていた。
森の木々の上に真っ白な帽子を被っている様は、壮観の一言に尽きる。
隣のリントは、さっきから口を開けっ放しだ。
冬は乾燥するから、あまり長く口を開けてるとカラカラになっちゃうよ。
リントの屋敷での振る舞いは、優雅でありながら要所要所でピシッとしているが、時たまこんな子供らしい仕草もあったりする。
ユキがぞっこんになる訳だ。
「グオオォーッ」
あ、今日も北山の竜は元気みたいだ。
春を迎える前に北山の調査もしておくか。
春になれば、またぞろ忙しくなるしね。
一度北山の手前までは行ってるから、僕のアスポートですぐに行けるし。
後で前鬼と後鬼に相談してみよう。
前鬼と後鬼に北山調査を相談すると、GOサインが出た。
約束通り隊長は前鬼。
他のメンバーは僕、真神、八岐大蛇、ヒルコ、牛頭、馬頭、烏天狗、椿となった。
以上の九名のみの調査隊である。
後鬼は三人娘の教育があるとかで居残りだ。
大妖達だけのメンバーになったが、何故か椿もひょっこり現れ、「行きたいです」と懇願され、ユキの許可もあり、同行を許した。
椿はユキの眷属の筆頭であるし、大丈夫だと思う。
そして、一応場所をポイントするために雲外鏡も追加で同行することになった。
「ワシ、本当に行きだけで良いのですな?
着いたらすぐに帰っても良いのですな?」
「いいよ。北山の頂上に着いたらね」
「そ、それはほぼ終わりまでと同じなのでは……」
もう有無を言わさず、強制的にアスポートする。
「ぬおっ!……転移してもうた」
「これだけのメンバーが揃っているんだよ。
心配することは無いさ」
以前の調査最北端の地から、北山へ向かって、みんなで走る。
といっても、走っているのは、僕、前鬼、真神、牛頭、馬頭の五人だけだけど。
半数は浮遊術で飛行してついてきている。
あ、ヒルコは定位置の僕の頭の上にいるけど。
「い、いやあ、遠征するのはこちらの世界でも、き、気分が良いですなあ」
「こうやって駆けるのは気持ち良いでありますですはい」
牛頭と馬頭は調子が良いようだ。
「魔牛や魔馬の調子はどう?
病気とかしてない?」
「び、病気はしとらんですが、さ、寒さには弱いらしくて、身を寄せあっております」
「魔馬はこの間、馬小屋から出せー出せーとうるさくてかなわなかったので、入り口を開け放ってやると、いそいそと外に出たまでは良かったでありますが……十も数えん内に戻って来て、今度は入り口をはよ閉めろーと言ってくる始末。
本当に一発殴ってやろうかと思いましたでありますですはい」
「ハハハ、魔馬らしい」
もうすぐ麓に到着する頃、椿がそばに寄って来た。
「次郎様。
このお爺、さっきからブツブツうるさいから、壊して良い?」
「娘ぇー。おのれはなんちゅうことを言うんじゃ!
いたいけなワシを捕まえて」
「いたいけな鏡は黙ってそこにあるだけ。
お爺とは真逆。
よって処分を進言するの」
「まあまあ、椿ちゃん。
帰ったら一緒にココア飲もう。
ね、だから機嫌直して」
「わかりました。
次郎様とご一緒出来るなら、壊さないでおきます。
あ、ポテトチップスも所望致します」
「了解」
麓に到着し、一度足を止めて北山を見上げる。
山頂の手前付近で、何か飛んでるな。
鳥にしては大きいから、飛竜かな?
ザ・ファンタジーで良いね。
ぜひとも見てみたい。
北山には当然のことながら、登山道などなく、茂みを切り払いながら進むことになる。
僕、前鬼、牛頭、馬頭、烏天狗が鉈を手に、進んで行く。
「クルルオァッ」
「むんっ」
茂みの先から牛頭に飛び掛かって来たモノがいた。
いや、鉈を手にした前方にいた僕らにも次々飛び掛かって来た。
体長二メートルほどの何かが牙を剥いて、僕にも襲いかかって来る。
僕も一瞬で22歳の身体に変化して、前蹴りで勢いを止める。
前蹴りで出した足をそのまま前方の地面に降ろし、その勢いで鉈を振る。
ソイツの牙や爪が僕にかすることなく、鉈が頭部に当たる。
頭蓋骨で深くは刺さらなかったが、傷を負わせることは出来たようだ。
「クルルゥ」
ソイツは頭から血を流しながらも、すぐには攻撃して来ない。
首を傾けたり戻したりして、慎重に値踏みでもしているかのようだ。
コイツ、ラプトルだ。
映画の恐竜ワールドで観たことあるぞ。
二足歩行なのに敏捷性に優れ、頭が良くて、群れで狩りを行う肉食恐竜だ。
異世界では恐竜は絶滅しないで、人類の発生まで生き抜いているのか。
水竜の例もある。
きっとそういうことなんだろう。
「ひょええー」
雲外鏡が上空に避難していく。
「あ、バカ!
上に行くな。飛竜に襲われるぞ」
すぐ隣に雲外鏡が転移して来た。
「……もう襲われました。
慌てて転移しましたわ。
……ここはなんちゅう恐ろしいところじゃ」
「お爺、邪魔」
雲外鏡のすぐそばを椿の氷の息吹が通過する。
「ぐおおっ。今度は味方からも!」
「チッ、外した……」
「娘ぇー!
今、チッって言うたな、チッって」
「邪魔なところにいるお爺が悪い」
椿ちゃん、外したって割には、ちゃんと冷気が僕の前のラプトルを氷漬けにしてるよ。
背後を振り返ると、真神がラプトルを咥えて木に投げつけ、次のラプトルに牙を剥いているのが見えた。
僕はまず、木から落下して来るラプトルの下へ先回りして鉈を振るう。
ラプトルの首が飛んだ。
頭蓋骨じゃなきゃ、鉈の刃でもイケルな。
周りを見回して、戦況を確認する。
牛頭が最初のラプトルの首を力任せに引きちぎっていた。
馬頭と対峙しているラプトルの頭が血で真っ赤だ。
ラプトルの頭部を鉈で二度三度叩いたんだな。
で、爪の排除に切り替え、ラプトルの両腕が失くなっていると。
烏天狗は飛翔して、素早くヒットアンドアウェイを繰り返している。
前鬼は、ラプトルの頭部を鉈で一刀両断していた。
相変わらず非常識なお人だ。
もう二匹目を片付けている。
あれ?
ヒルコが僕の頭の上にいない。
上方を見ると、ヒルコが伸ばした触手で木にぶら下がっている。
そしてさらに五本の触手がドーム状に広がり、それぞれ五匹のラプトルに刺さり、溶解液で溶かしていた。
もうそれで最後のラプトルだったようだ。
「ヒルコもご苦労様。
こっちにおいで」
呼ぶとすぐに僕の腕に飛び込んで来るヒルコをキャッチし、最初に椿が氷漬けにしたラプトルの前に足を向ける。
「こ、こやつらはいったいなんなんでしょうな」
「鳥とも竜とも判別つきにくい姿をしているでありますですはい」
牛頭と馬頭も気になるよね。
ヒルコを抱いたまま、氷漬けのラプトルをしげしげと眺める。
「たぶん、白亜紀に存在したデイノニクスだと思う」
ラプトル系だけど身体が大きい。
体高が二メートル近くあり、長い尾を含めると体長は三メートル以上になる。
羽毛があり、鉤爪も長い。
確か、この鉤爪も可動域が広いはずだ。
羽毛に包まれているが、顔は恐竜そのもの。
次に、前鬼が一刀両断した頭を検分する。
やっぱり。
頭蓋骨の中の脳の体積が大きい。
厄介なやつらが生息しているな。
思わずため息が溢れる。
みんなの下へ行き、検分した上での僕の考察を話す。
「撤退、撤退ですか? 撤退ですな?
いやぁ、残念無念ではありますが、致し方ありますまい。
いやぁ~残念、非常に残念じゃのぅ」
雲外鏡は相変わらず調子の良い。
「そこまで残念に思うこと無かれ。
我が払拭してくれようぞ」
真神は眷属狼を次々喚び出す。
「こやつらは賢く俊敏。
要は奇襲に注意せよ、ということですな」
「真神が正解だね。
ラプトルは群れる習性があるはずだから、眷属狼の鼻に引っ掛かり易いはず。
そこを避けて進めば、時間短縮になるね」
「お褒めいただき、恐悦至極。
ここから先は我が先導致します」
真神が先頭を買って出てくれ、進行速度も維持出来た。
前方を塞ぐ茂みも、真神が一睨みするだけで弾け飛んでいき、みんなを進み易くしてくれている。
「あれ?…………撤退は?」
「お爺、邪魔。
残りたかったら、独りで残りゃんせ」
「自分も置いてくぞ」
みんな、スタスタ登っていく。
「ま、待ってぇー。置いてくの無し!」
雲外鏡の声が聞こえて来て、みんなで笑った。
まだ麓に過ぎない。
次は何が待ってるかな~。
やっと初期プロットのストーリー展開が出来ます(笑)。
お待たせした分、深掘りしていきます。
お楽しみください。




