第89話 アヤメとタマモの番
ほのぼの~♪
翌朝、アヤメとタマモが執務室にやって来た。
昨日の昼食後からサトリとも話し合い、アヤメとタマモのステータスボードに同じ文言が記載されるのなら、二人同時の方が良いのではないか、という結論に至った。
僕の精神上の健康のために。
前鬼と後鬼には、最初に正直に話し、二人同時に加護付与することになった。
前鬼と後鬼は、額に手をやりながら呆れていたが、了承してくれた。
最初に五人同時に付与しても、多少気だるさが残った程度で済んだことも添えて。
さて、お二人さんに加護を付与しようか。
その前にステータスボードを閲覧する。
名前:最硬の菖蒲
年齢:見ちゃダメ
種族:妖猫
HP:結構高い
MP:上限を仰げば首が疲れる
SP:底は深い
スキル:身体強化 身体回復 探索 空蝉の術 結界術 浮遊術 変化 結界強化 大樹の加護
名前:陽炎の玉藻
年齢:乙女の秘密
種族:九尾狐
HP:結構高い
MP:莫大
SP:底が見えない
スキル:身体強化 身体回復 火炎術 風術 土遁術 水術 雷術 鬼火 浮遊術 変化 火力強化 大樹の加護
大妖って、某かの二つ名を持ってるんだね。
最強の盾と矛らしいスキルだ。
それでは、行ってみよ~。
名前:最硬の菖蒲
年齢:教えない
種族:妖猫神
HP:高すぎてめちゃくちゃ
MP:仰げば尊し
SP:底は無くなったね
スキル:身体強化 身体回復 速度向上 探索強化 空蝉の術 大結界術 飛行術 変化 威力強化 大樹の加護 現人神の愛
名前:陽炎の玉藻
年齢:乙女なのです
種族:妖狐神
HP:元から高かったけど上限見えないね
MP:太陽系突破
SP:マントルを突き抜ける
スキル:身体強化 身体回復 火炎術 風術 土遁術 水術 雷術 大鬼火 飛行術 変化 威力強化 大樹の加護 現人神の愛
…………やっぱり出たか。
それはそうと、二人とも威力強化になってる。
全ての能力に影響あるのかな?
「「次郎様!」」
二人も気付いたか。
二人に目を合わせられないので、天井を仰ぎ見る。
「愛って……愛にゃ!?」
「あちきも、あちきの方こそ愛を捧げておりんす!」
ええい、今の僕は天井の木目を数えるのに忙しいのだ。邪魔するでない。
『あなた達にも出ましたか』
「サトリもにゃ?」
『ええ。おかげさまで』
「身体も無しにゃら、それは純愛にゃ。
ちょっとうらやましいにゃ」
「あら、あちき達だって、イタしておりませんもの。
それは純愛ではなくて?」
止めてー。もうそれ以上は聞くに堪えない。
後鬼がパンパンと手を鳴らす。
「はいはい。
そこまでにしておきなさい。
本来の目的は、あなた達の能力向上です。
それはどうなの?」
「そうだったにゃ」
「あちきも見直すでありんす」
しばらくの沈黙が続いた後、二人揃って首を傾げている。
『どうしました?
向上しなかったのですか?』
サトリが心配そうに確認する。
「にゃあ~……たぶん能力は軒並み上がってるにゃ。
でも、あたしの妖力値が卒業式の歌にゃの…………」
「あちきの方は、わからない言葉が含まれているでありんす。
太陽系とかマントルってなんなの?」
「「『???』」」
管理者様のおふざけが度を超していて、本人の知識外になってるじゃないか。
あれ? もしかして、僕の知識に基づいてるの?
タマモには、小学校の理科の範囲で太陽系とマントルを教えてあげた。
アヤメの方は…………どうしよう?
たぶん、管理者様が「仰ぐ」という言葉にインスピレーションを受けて、おふざけモードで記述したんだろうけど……、僕も説明に苦労するのはおかしいですよ、管理者様。
(……ごめん)
今、何か聞こえた気がした。
気を取り直して、妖力の上限を仰ぎ見ることが出来ないほど、尊く高い位置にあるんだよ、って苦し紛れの説明にも関わらず、アヤメは満面の笑顔を返してくれた。
なんて良い娘。
「それで、次郎の方はどうなの?
体調は大丈夫なの?」
後鬼の言葉に、アヤメとタマモが両腕を掴んでくる。
「そうにゃ。しっかり支えてるから力を抜いても大丈夫にゃよ、次郎様」
「お熱はありんせんか?」
タマモが昨日同様に手のひらを額に当てて心配してくる。
「大丈夫。ちょっとダルいけど、身体は問題無いみたい」
「どれどれ」
アヤメが額と額を合わせてくる!
アヤメの唇がすぐそこに……!?
「にゃんか、熱があるような……?」
なんか甘い匂いもしてきて、ヤバそうな気分になってきたので、慌ててアヤメを引き剥がす。
「ほ、ほら。大丈夫さ!」
ヒンズースクワットをして見せる。
「ダルさを感じているんだな。
最初の付与の日に比べてどうだ?」
前鬼が真面目に聞いてくるので、こちらも正直に伝えることにする。
「僕の想いが入っているからか、どうもこの二人……いや、この三人は別格らしい。
結構、気力を吸われた感じがする」
実は、昨日のサトリの時から感じてはいたんだよね。
後鬼が扉をまっすぐ指差す。
「あなたはすぐに自室で休みなさい。
大人しくしていなさいよ」
「あ、では付き添うでありんすよ」
「いいえ、あなた達はここに残りなさい」
後鬼は卓上にあるベルを鳴らす。
すると即座にリントが現れる。
「リント。
次郎は体調が優れません。
自室で休ませるように。
また、毎食後にこの薬を飲ませるように。
お願いね」
「かしこまりました。お任せください」
リントが僕に付き添ってくれるようだ。
執務室の扉が閉まる間際、後鬼の「あなた達には、今からお話があります」と威圧感あるお言葉が聞こえてきた。
僕の足は、早々に自室へと向かって行った。
余談
「さて、あなた達には、今からお話があります。
まずはソファーに掛けなさい」
後鬼はそう言うと、お茶の用意をする。
ただならぬ雰囲気に、二人はおずおずとソファーに座る。
そして、前鬼も向かい側のソファーに座る。
お茶とお茶菓子を用意した後鬼も座り、一人一人に出していく。
「サトリもいるわね?」
『はい』
「あなたにも本当は出してあげたいけど、ごめんなさいね」
『いえ、お気持ちだけで十分』
しばらく、皆でお茶を啜る。
「皆も知っている通り、前鬼と私はあの子の希望もあり、義理とは言え親子の契りを結びました。
そして、あなた達は次郎の嫁候補」
「「『!?』」」
「あら、違うの?」
「はいはい!次郎様のお嫁さんになりたいにゃ」
「あちきの全身全霊を持って努めるでありんす!」
『………………』
「サトリは違うの?」
『私は肉体を持ちません。
そんなものが嫁などと……』
「構わないわ。
あの子をちゃんと愛してくれるなら」
『それは誓います』
「宜しい。
それにその件は次郎に任せておきなさい。
その内、あの子がなんとかするでしょう」
『はい。たとえ身体が手に入らなくとも、次郎様への愛は変わりません』
「うむ。次郎は愛されて幸せだな」
前鬼はさっきからポリポリと、あられに伸ばす手が止まらない。
「しかし」
後鬼が皆を見渡す。
前鬼も思わず、あられに伸ばした手を引っ込める。
「あなた達は嫁となるには不足ね」
「「『!?…………それは……?』」」
「アヤメ。お洗濯の手順を言いなさい」
「え、えっと、洗濯機のスイッチをポチッと……」
「不合格」
「ふにゃあ~……」
(あちきは一通りのことは出来るでありんすよ)
タマモが身構える。
後鬼はあられの入った皿を前鬼に渡し、それぞれの湯飲みを端に寄せる。
次に後鬼が手を振ると、そこに衣類が現れる。
「タマモ。これが次郎の服です。
様々な年齢に変化するので、サイズも色々です。
これを今から丁寧に畳みなさい」
「は、はいっ!」
後鬼がタイマーを手にしているのが見え、焦るタマモ。
それでもタマモは、全ての衣類を畳み終えた。
「終わりました」
「こことここ。それにここも。
そして長袖の畳み方はまるで違います」
後鬼は衣類の様々な箇所を指差してシワを指摘し、中にはひっくり返しての指摘もあった。
「長袖はこうするのよ」
長袖の服を一旦手元で広げ、シワのある箇所はパンッと空中で広げて伸ばし、それでも足りない箇所は手のひらで優しく伸ばしていく。
そして鮮やかに折り畳んでいき、最後に服をフワッと持ち上げて整える。
「ふわあ、鮮やかにゃ」
「これぐらい誰にでも出来ます。
タマモ。あなたは宮殿や御殿の暮らしが長い割には最低限のことが出来るようね。
でもそれは最低限であって、嫁としては不足です。
不合格」
「あうぅ……」
「サトリ。肉じゃがの作り方を仰いなさい」
『は、はい。
じゃがいも、玉ねぎ、ニンジン、牛肉または豚肉、醤油に酒、みりん、砂糖……といったところでしょうか』
「それは材料を並べているだけね。
私は作り方を聞いてるの。
食材の切り方は? 調理器具は何使うの? どうやって火を通すの? 火加減は?」
『あ、あの、その……よく知りません』
「ただ眺めていただけで、作ろうという気概が無かったんでしょ?
いずれ必ずあの子があなたの身体を用意してくれるわ。
その時、あなたは料理の一つも出来ない嫁で良いの?」
『そんなのダメです!
私も次郎様に美味しいごはんを作って差し上げたい』
「意気込みはわかったわ。
でも、これで全員不合格ね」
「「『…………』」」
「このままでは、到底次郎の嫁と認める訳にはいきません。
あなた達全員、今日から花嫁修行しなさい。
家事全般及び嫁としての振る舞いや心掛けがある程度出来れば認めてあげます。
以上、精進なさい。
私達の娘達よ」
「「『はい!』」」
なにやら、ここにも家族の結束が生まれたようだ。
サトリ、アヤメ、タマモは一味違う!?
この三人娘は、次郎の気力の吸い方が激しいようですね。
次回から、また新しい展開に突入します。
……と言うか、最初期の疑問が紐解かれて行きます。
お楽しみに。




