第88話 サトリのステータスボード
ドラドリア市街戦も終息し、一時の平穏に包まれる大樹の森の拠点。
今日はのんびり過ごしましょう。
皆さん、おはようございます。
今朝も寒いですね。
ひゃっこくてしばれるし、かんじる上にひーさんで、こわいさぶいちゃっぷいですわ。
なんのこっちゃ。
とにかく冬の真っ最中で、布団からなかなか抜け出せずにいます。
今も激戦の最中です。
ぬおおおっ、負けはせん!負けはせんぞぉ!
ビーム放射が僕から出ることはなく、のそのそと布団から這い出るだけでした……。
自室の扉を開け、眠い目を擦りながら洗面所に向かう。
洗面所には、前鬼とアヤメとタマモがいた。
「おあよ……」
前鬼は歯を磨きながら手を挙げ、タマモは歯磨き途中にも関わらず、急いで口を濯いで吐き出す。
「おはようございます、次郎様」
満面の笑顔で朝から気分をよくしてくれる。
アヤメは……「にゃにゃにゃん」……よくわからん。
僕も横に並んで、まずは蛇口を捻って水を出す。
恐る恐る手を出すが、ちべたい!
朝の水はものすごく冷たい。
勇気を振り絞って、冷水を両手で掬って顔を洗う。
一瞬後悔に苛まれるが、構わず二度三度繰り返す。
ふぅー。スッキリした。
それから歯ブラシと歯みがき粉を手に取り、シャコシャコ開始。
しっかり磨いた後、水を含んで吐き出す。
最後の方はうがいまで行う。
僕は子供の頃からのクセで、うがいの際は「あ~」って声に出してしまう。
うがいは声まで出さなくても出来るって知ったのは、いつだったっけ?
最後はタオルで拭いておしまい。
タオルで拭き終わった瞬間、隣のアヤメから冷水の飛沫攻撃が。
「アヤメ、あなた顔洗った後の顔振りやめなさいって言ってるじゃない。
まったくも~」
タマモもそう言いながら、アヤメの顔をタオルで拭いてあげている。
「んにゃ!? 次郎様、おはようさんにゃ」
今気付いたんかい。
アヤメ節は、今日も絶好調だね。
前鬼は笑いを噛み殺し、タマモはヤレヤレと首を振っている。
ドラド族残存部隊救援作戦から一ヶ月が過ぎた今、その残存部隊の人達もダイクン王国から来た人達も、ここの生活に少しは慣れてきたと思う。
それぞれ職を手にし、自分たちで生活も出来ている。
もちろん、救援作戦の論功行賞も実施した。
隊長のマフティやオブザーバーの八岐大蛇の進言により、公正に出来たはずだ。
隠形鬼チームがまたも報奨授与されるのは想定内だったが、討伐数筆頭でも一朗太がダブルで報奨に預かるとは。
一朗太は戦争成金になったはずだが、派手な暮らしをしている風でもない。
聞くところによると、隠形鬼は皆、大飯食らいらしい。
報償金のほとんどが食費に消えるとのこと。
でも、本人達はそれで幸せだと言う。
うんうん、食は偉大だ。
この街の食堂は儲かることだろう。
エリシャンテにも報償金が渡るはずだったが、「もうすでに尊きものを戴いておりますので」と辞退して来た。
お祖父さんと会えたことがよほど嬉しかったのだろうか。
また、リントや弁才天、ユキ、キキにも八岐大蛇とマフティの進言があったのに、みんな辞退して来た。
「あの状況を見て、それを貰うほど厚顔無恥ではないわ」とみんな異口同音に口を揃えてきた。
あれ? 証言の事実には含まれない何かがあったのかしら。
翌日からの辞退者の訓練の激しさが物語っていた。
まあ、参戦手当は無理矢理握らせたから良いけど。
そういえば、報奨に何を望むか聞いた時に、ユキが「しゅうげ……」と何やら呟き、弁才天にチョップを食らってから黙ってしまったけど。
何処かを襲撃したかったのかな?
まあ、それもいずれ言ってくるでしょ。
どうやら、気力が十分に回復したようで、前鬼と後鬼に相談してみた。
次の加護付与についてだ。
僕に近い者から順に一人ずつ行えとのお達しだった。
僕はサトリ、アヤメ、タマモの三人の名をまず挙げた。
前鬼と後鬼が頷き、三人を呼ぶことになった。
僕の執務室に三人が揃った。
「おまえ達に言っておくことがある。
良いか、今から話すことは決して誰にも伝えるでないぞ」
前鬼が重々しく述べる。
「機密事項というものでありんすね」
「たとえ同じ大妖達であっても同様です」
後鬼が被せてくる。
『それほどのこととは……』
「にゃあ……にゃんかちょっと怖い気がするにゃあ」
「前鬼も後鬼も、そんなに怖がらせてどうするのさ」
アヤメとタマモの肩に手を置いてやりたいけど……と、届かない。
もういいや。身体強化!
22歳のベストな姿なら余裕で届く。
「なんのことはないよ。
僕が加護を与えることが出来るようになったというだけ」
二人の肩に手をやり、ついでに安心するように頭をポンポンする。
「「『えっ!次郎様が!?』」」
サトリが驚き過ぎて、いつもの主様呼びじゃないのはちょっと笑えた。
『あ、こほん。
神々が与えるという加護を主様もお出来になると?』
言い直すサトリもまた可愛い。
「あ、八岐大蛇が正義にそんにゃもの与えてたにゃ」
「ああ、あれで正義はずいぶんとこっち寄りになったでありんすね」
三人が口を動かす。
「まあ、似て非なるものだな。
神格を持った者がヒトに与えるものも加護であるが、我ら妖や同じ神格を持った者には付与出来ぬ。
それは日の本の歴史を紐解いてもあった試しは無い」
前鬼は厳格に言いのける。
「それを次郎は、私達にも出来るのよ」
後鬼は反面、優しく語り掛けるように言う。
『それでは、二人もすでに?』
前鬼と後鬼は黙って頷く。
前鬼は重々しく、後鬼は微笑みのまま。
二人のコンビプレイに感心した。
二人の語りは聞く者を引きずり込んでいく何かがある。
僕も思わず聞き入っていたくらいだ。
「にゃんかわかんにゃいけど、普通じゃにゃいってことはわかったにゃ」
「あなたってば……いえ、あなたらしいわ」
今日二度目のアヤメ節に、前鬼も思わず笑ってしまった。
「くっくっく……いや、すまん。
だが、加護を与えるごとに次郎が消耗するのが問題なのだ」
「ああ、だから休養なさっていたでありんすね」
「そうよ。
でも今は回復したみたいだから、あなた達を呼んだの。
でも、付与するのは一人ずつとします。
次郎にもしもがあったら、あなた達も嫌でしょ?」
「ヒーちゃん時みたいに倒れるにゃ?
そんにゃんにゃら、あたしはいらにゃいにゃ。
次郎様の方がよっぽど大事にゃ!」
「あちきもいらないでありんす。
あんな次郎様をもう見たくないでありんす」
『二人とも落ち着きなさい。
主様は回復なされたと言っていました。
でも、慎重を期する為に一人ずつ付与するとのことですよ。
……ですよね?』
サトリがなんとも可愛げある発言になってる。
『主様、主様?
私、何か変なことを言ったでしょうか?』
「いや、今日のサトちゃん、可愛いなと思って」
『まあ…………そんな……』
後鬼が両手を合わせてパンと鳴らす。
「ということで、あなた達三人に順番に次郎が加護を付与するとのことです」
そして、加護を受けた感想やステータスボードのことも説明も合わせて前鬼と後鬼が行った。
付与する順番は、召還順にサトリ→アヤメ→タマモの順で行うことを僕から説明した。
まずはサトリのステータスボードを喚び出す。
名前:不知火の覚
年齢:ここはあえて伏せる
種族:朧
HP:身体が見つかると良いね
MP:唸るほど
SP:唸るほど
スキル:身体強化 身体回復 以心伝心 読心術 暗示 大樹の加護
これはサトリにも見えているはずだ。
年齢不詳とは管理者様も粋なことをしなさる。
乙女の秘密は大事。
そして、ちょっとどころか、大いに興味がそそられる項目が。
サトリは身体がある。肉体があるということが証明された。
あとはなんとしてでも探し出すぞ。
話を元に戻そう。
姿の見えないサトリに意識を集中する。
ん?…………何か朧気に見える。
なんだ? 人影?
白い靄に包まれて、よく見えない。
その人影らしき者が両手をこちらに向けて差し出してくる。
くっ……届かない。
もう少し、もう少し待ってて。
必ず君を迎えに行くから。
いつの間にか、サトリへの加護付与が終わっていた。
サトリのステータスボードを再び見てみる。
名前:不知火の覚
年齢:内緒
種族:朧神
HP:見つかるかどうかはあなた次第
MP:底なしか!?
SP:天井はどこ?
スキル:身体強化 身体回復 以心伝心 読心術 心身操作 大樹の加護 現人神の愛
管理者様のコメント力にもの申したくなる。
まあ、いいや。
そして、暗示が心身操作に上書きされてる!?
僕も思うがまま操られちゃうのか。
(そんなことはしません!)
あ、念話でサトちゃんに怒られちゃった。
あ……………………。
待て待て待て待てぇい!
現人神の愛ってなんじゃ!
そこは加護じゃにゃあの?
ハッ!思わず地元の言葉が。
恥ずかしさのあまり、サトリのステータスボードを消す。
「次郎様、どうしたにゃ?
失敗したにゃ?」
「お熱でも出たでありんすか?」
アヤメが心配そうに見つめて来て、タマモは僕の額に手のひらを当ててくる。
「い、いや、何でもないよ。
無事に加護も付与出来たよ」
『…………はい。
能力も軒並み向上したようです』
「そうか、良かったな。
次郎は自室で休め。
おまえ達も今日は好きに過ごせ。
アヤメとタマモは明日も朝から執務室に来るように」
前鬼の言葉に素直に従い、僕らは執務室を出る。
「ホントに大丈夫にゃの、次郎様?」
「無理はダメでありんすよ」
アヤメとタマモが腕を組んでくる。
どうやら心配で自室まで寄り添ってくれるみたいだ。
「お昼ごはん、お部屋まで持って来ようか?」
「それが良いでありんす。
あちき達も様子を伺うことが出来るでありんす」
「ありがとう。頼むよ」
「はいにゃ」「喜んで」
二人に自室まで見送られ、手を振ってから自室に入る。
コタツに座って一呼吸。
「サトちゃん」
『はい。ここに』
「明日どうしよう?」
『愛、ですか?』
それを聞いて、コタツ布団に顔を埋める。
「!?……恥ずかしすぎる」
『私はとても嬉しいですが』
その後もサトリが愛の尊さについて語り、僕が悶え苦しむのが続いた。
午前中いっぱいその地獄が続き、やがて解放の女神が二柱降臨され、一息つくことが出来た。
お昼ごはんとお茶を持って。
実体なく愛を覚える。
それは紛れもなくプラトニックラブでは?




