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第87話 ドラドリア市街戦その5

ハヤテと橋姫はしひめも戦場に立っている。

また、千人長のオーガとマフティの戦いも佳境に。

ーーー橋姫はしひめの視点ですーーー


旦那様はいくさとなると、血気がお盛んに為られて、到底お一人に出来ません。

いえ、そこも素敵なのですが。

それにしても、旦那様はよくお避けになる。

敵が十居ようが、構わず飛び込まれ、全ての攻撃を鮮やかに避けて行かれる。

ほら、今も完全に死角のはずの槍の突き上げを、身体を捻って躱されただけでなく、そのまま大剣を振り、二体を同時に潰しました。

さすがでございます。

…………ハッ、見惚れているばかりではいけません。

わたくしも支援せねば。

腕だけを伸ばせば届きます。

それで旦那様の周囲の者共を一体一体払い除けて行きます。

旦那様の後ろを十歩離れてついていくのは、良妻の証のはずです。

……三歩だったかしら?

もう少し近づくことにします。



旦那様が敵を潰した後、後方にいた女オーガに大上段から斬りかかりましたが、両腕で防御されました。

「良い大剣使いだな、あんた。

少しあたしが遊んであげよう」

あの女オーガ、よりにもよってウチの旦那様に色目を使いやがって!


「旦那様、ここはわらわにお譲りくださいませ」

旦那様にお願いしました。

「おう、良いぜぇ。

おまえの強さと美しさを見せつけてやれ」

まあ、旦那様ったら。

ここは女の見せ所。

旦那様と居場所を代わり、遠慮なく鬼化します。

身体が大きくなり、牙と角が伸びていくのが自覚出来ます。

「お、おまえ、オーガなのか!」

わたくしのことをオーガなどと呼びおって。穢らわしい。

「おお! 鬼の橋姫はしひめもキレイだ!」

旦那様の声が聞こえてきて、身体がむずむず致しますが、今は無理矢理抑えます。

「貴様が旦那様に近づくことは許さん」

「なんだい。おまえの良い男なのかえ?

クックックッ。

では、おまえの目の前でまぐわってみせようかね」

一瞬で頭がカッとなりました。

女オーガに掴みかかったことは覚えているのですが、途中の記憶が途切れ途切れです。


今は両腕を失くした女オーガの髪を掴み上げ、見下ろしています。

「もう……ゆ、許して……」

泣きながら女オーガが懇願しています。

ふん。今度は泣き落としですか。

お優しい旦那様が心動かされてはいけません。

女オーガの首元に噛みつき、引き剥がします。

少し咀嚼してみましたが、あまりの不味さに思わずペッと吐き出しました。

こんな不味い女は旦那様に触れてはならない。

不味いのを我慢して、再度首元に噛みつき、女オーガの首を胴体から引き千切ります。

女オーガの頭と胴体をその場に捨てて、背後を振り返ります。

そこには愛しの旦那様が満面の笑顔でわらわを迎えてくださいます。

わらわも思わず旦那様に抱きつきますが、今は鬼化しているので、ややわらわよりも低い位置に旦那様を感じます。

「あの女オーガね」

「うん」

「ものすっごい不味いの」

「それは災難だったな」

「でね、お口直しをしたいと思ったの」

「うんうん」

そこまで言ったわたくしの唇に旦那様の唇が!

ああ、なんて幸せ。



ーーー三人称ですーーー


あれから三十体以上のオーガと三百以上の取り巻きを殲滅して来たハヤテと橋姫はしひめは、中央部にたどり着く。

「やっと街の中心か。

少し遅くなったか?」

ハヤテと橋姫はしひめが一同に合流する。

「もう来たの?

早いわね…………ああ、橋姫はしひめが一緒だもんね」

弁才天がハヤテの早い到着に驚き、三歩後ろに付き従う橋姫はしひめを見て、納得する。


「こっちでも、ドンパチやってるな。

それにしても、マフティの戦いは久しぶりに見るなあ。

……あれ、押してるのか? 押されてるのか?」

ハヤテが言うように、マフティの土槍が当たっても構わず突き進むオーガ。

オーガがマフティを捉えたと思った時には目の前に土壁が現れ、視界を塞ぐ。

オーガがその土壁を粉砕する頃には、マフティはそこにはいない。

さっきからその繰り返しだ。

「でも、旦那様。

先日の戦では、あの隊長さんの土の槍でいくつものオーガを貫いていたはず。

あのオーガの力量が桁外れなのでしょう」

ダイクン王国救出作戦の戦場で、橋姫はしひめはマフティの戦いぶりを見たようだ。

「そうなのよ。

私達が片付けたオーガも百人長とやらで、桁違いに強かったけど……アレはもう一桁上ね」

一朗太いちろうたも負傷するほどよ」

弁才天とユキが揃って口添えする。

「なぬっ!?

イっさんがか!?」

ハヤテが一朗太いちろうたの方を向くと、鈴蘭すずらんが手にしているタオルが血で真っ赤だ。

「イっさん、大丈夫なのか?」

「ハハハ、面目無い」

一朗太いちろうたは頭を掻く。

「これ、あんた。

今は頭を掻くな。

また血が滲むだろ」

鈴蘭すずらん一朗太いちろうたの頭を叩く。

「あ痛っ。ワシ、負傷者なんだけども」

ブーブー文句を言いながらも、あれはあれで夫婦仲が良いのだろう。


「そっか……イっさんでも負傷するほどの相手か」

「それならば、ここにこれだけの大妖が揃っているのですから、皆で押せば宜しいのでは?」

橋姫はしひめが正論を唱える。

「そうなのですが……イチロウタ様がお止めになられまして」

リントはそう言いながらも、少し悔しげだ。

「臨時で組んだ者がそうそう上手く連携を組めるとも思えん。

ヤツは小狡こずるいからな。

必ず連携の穴をつくだろうさ。

それに、隊長さんの戦い方はあれで正解なのさ」

一朗太いちろうたはどこ吹く風と、気にせず言いのける。


「ところでイっさん。

あんた、ここに来るまで何体のオーガを討伐した?」

「オーガ?

……覚えとらん」

「五十三よ」

鈴蘭すずらんが口添えする。

「かあぁ~。オレらよりも上かよ。

よし、オレも見学組に回るわ。

百戦錬磨のイっさんの言うことは正しいに決まってらあ」

ハヤテはそう言うと、橋姫はしひめを抱き抱えて、どっかりと座り込む。


マフティは何度目かの土槍をオーガにぶつける。

その土槍を砕いて進むオーガ。

マフティに手が届きそうなタイミングで土壁がそそり立つ。

これまた粉砕し、マフティの次の移動先を探すオーガが思わずたたらを踏む。

オーガのわずか一メートル先の左前にマフティが立っていた。

そのマフティが剣を構えて突き刺してくる。

思わず左の手の平で防御し、剣が手の平を貫いてそのまま左胸を突く。

「グ、グオッ……。

何処かで仕掛けてくるとは思っておったが、やはり心の臓を狙うか。

だが、威力が足らんな。

これで貴様を捕まえたぞ」

オーガは貫かれた左手はそのままに、右手でマフティの首を掴み上げる。

オーガに掴まれた瞬間から、マフティの魔力が抜けていくのが自身で感じられた。

(魔力を抜くだと!

これがヤツの妙な技の正体か!?

しかし、リスクはあったが、これでヤツの能力がわかった)

マフティは首を絞められながらもニヤリと笑う。

「貴様、何を笑う?」

オーガが言葉を発したと同時に、オーガの背後から土槍が刺さり、胸を突き破っていた。

それは一本では足らず、何本も貫いて来た。

その内の一本がオーガの右肩辺りを貫くと、マフティは解放され、地面に降りることが出来た。


「な、なぜ、今になって土槍如きがオレを貫くのだ……?」

マフティは首を押さえつつ呼吸を整えると、オーガに歩み寄る。

「ドリルと言うそうだ」

「どりる……?」

「これでも苦労したんだ。

おまえの技の前に発動せねばいけないし、その間はどうしても単調な攻撃のやり取りになってしまう。

小狡いおまえの目を欺くのが一番しんどかった」


マフティは、次郎から貫通力を上げるには回転が最適と教わっていた。

次郎の言う「どりるぷれっしゃあぱんち」とやらは理解出来なかったが、根本は実践で理解出来た。

それからしばらくは、ドリルの修練に明け暮れる日々を過ごした経緯がある。


「それに、最初からドリルを出していたら、おまえは警戒して近寄ろうともしなかっただろう?」

オーガからの返事はなく、その目は宙を睨んだままだった。

「もう逝ったか」

マフティはきびすを帰し、一同の下へ合流する。

「マフティ隊長、やりましたね!」

「さすがマフティだぜ」

「まあ、ヒトにしてはやった方かしら」

一同は歓迎するが、マフティはまっすぐ一朗太いちろうたの下へ向かう。

一朗太いちろうたさん、人質はどうなりました?」

「仲間が全員連れ出しましたよ。

安心なさいな」

マフティがほうっと息を吐き出し、一朗太いちろうたと同じように座り込む。

「あなた方隠形鬼おんぎょうきチームの戦功は計り知れない。

将軍にも報告しておきます。

それに、あのオーガの左肘と左膝……あなたですよね?」

「ハハ、よくお気づきで」

「本当はあなたお一人で討伐出来たでしょうに」

「いやいや、ワシゃぁ疲れるのはとんと苦手で」

「ホントだよ。

お役目以外のことに首突っ込んでさ」

鈴蘭すずらんはお冠らしい。

「奥方もそれくらいで。

一朗太いちろうたさんの報奨を弾んでいただけるよう進言致しますから」

「ホントかい?

それならウチの人に腹一杯食わせてやれるね」

「ミャオウ」

いつの間にか、ぬえが喉をゴロゴロ鳴らして、マフティに頭を擦り付けていた。

「この子の名前は?」

「ぬぅ」「ぬぅちゃんだよ」

「ぬぅ、君も活躍してくれたんだね。

ありがとう」

「ミャウ」


ぬえの突然の登場に、弁才天とユキにキキが一歩後ずさるが、リントと手を繋いだままのユキはそのまま引きずられていく。

「わあっ、なんて大きくて立派でキレイな猫。

ぬぅちゃんって言うのですか。

ぬぅちゃん、ボクも撫でて良いですか?」

「ミャオウ」

ぬえあやかし以外には人気があるようだ。


その後、彼らとエリシャンテ達が無事合流し、作戦は成功に終わったのだった。



余談

「あの……どりる、だっけ?

アレ、対策出来る?」

「事前に察知出来れば避けることは出来そうだけれど……あのマフティが読ませると思う?」

「そこなんだよね~。

あの優男、めったに表情動かさないし、何考えてるかよくわかんないんだよね~。

私達の召還前に闘技大会があったって言うじゃない?

今は冬で農業も閑散期だから、ありそうなんだけど……ああいうのも相手しなきゃなんだよね」

「闘技大会はどうでも良いけど、ドリルは触ったらダメよ。

土槍そのものが回転してるし、触れただけで巻き込まれそう」

「アンタッチャブルってやつね。

……って、闘技大会はどうでも良いの?」

「ハウス栽培には季節関係ないもの。

年中それなりに忙しいわ」

「せっかく良い男に自分の良いところをアピール出来るチャンスなのに」

「ハッ!…………リントに……」

やっと戦闘シーンが終わった~♪

これでほのぼのに行ける!


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