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第85話 ドラドリア市街戦その3

リントの初陣。

修行の成果をとくとご覧あれ!

ーーーリントの視点ですーーー


マフティ隊長の号令が響き、ドラドリアへの侵攻が始まりました。

ものすごい地響きです。

百人近い人が一斉に走り出したのだから、それは凄いものです。

空中には天狗の人達が舞い上がっています。

彼らがボクら地上部隊を支援してくれるので、万全です。

ボクも空から支援しましょうか?とマフティ隊長に提案しましたが、「君には重要な任務を任せたい」と仰って、今、マフティ隊長の隣にいます。

ものすごく緊張します。


「大丈夫。

あなたはわたしが守るわ」

ユキさんがまた頭を撫でてくれました。

「ボクの方こそ、ユキさんを守ってみせます!」

甘い香りと共に、ユキさんが微笑んでくださいました。

絶対にユキさんだけは、どんなことをしても守ってみせます。


「あら、私は守ってくれないの?」

弁才天様が笑ってそう仰いますが、必要ありませんよね。

聞きましたよ。湖のヌシよりも大きな大蛇を討伐したって。

(ユキもそう睨まないでよ。

焼きもち妬くなんて、あなたも可愛いところがあるのね。

……って、ちょっと!

指先が冷たくて痛いんですけど!)

(凍傷って、指先や足先から為るものよ。

そして、腐り落ちるの)

(ちょっとからかっただけじゃない。

もう止めて!)


ユキさんと弁才天様が唐突にスッ転びました。

「どうされました?

お二人とも?」

心配して駆け寄り、ユキさんを助け起こします。

弁才天様の方には、キキ様が寄り添って……指をなめて?います。

ケガでもされたんでしょうか?

「キュキュ!キュイ!キューーイ!!」

あ、なんかキキ様が怒っていらっしゃるようです。

「「ごめんなさい」」

なぜか、キキ様にお二方が謝っています。

大妖と呼ばれている方々の行動は、未だよくわかりません。

もっと精進しないといけませんね。

ジロー様に顔向け出来ません。



そうこうしている内に、ドラドリアの街門をくぐりました。

うっ……話には聞いていましたが、臭いが酷いです。

ですが、周りを見渡しても誰一人として顔色一つ変えていません。

自分の未熟さを痛感するばかりです。

マフティ隊長は前をしっかり見て揺るぎなく、弁才天様もキキ様もどこ吹く風と言わんばかりに涼しげな顔をしていらっしゃる。

ユキさんはただただ美しいばかり。


そうなんです。

ボクはこの方達に混じって主力部隊に編成されたのです。

コボルト戦では防壁の上から弓魔法で支援しましたが、敵地に乗り込むのは、これが初めてなのです。

その緊張感が伝わったのか、さっきからユキさんがボクと手を繋いでいてくれるのです。

ユキさんの優しさが身に沁みます。

それにユキさんの手は柔らかくて温かい。

ずっとこうしていたくなりますが、いつまでもそんなではいけません。

名残惜しいですが、本当に惜しいのですが、弓魔法は両手が必要となります。

その旨をユキさんにお伝えして、手を放してしまいました。

放す間際に、勇気を振り絞ってユキさんの手に口づけしました。

やっぱり恥ずかしくなって、ずんずん先へ進み、マフティ隊長の隣に来てしまいました。


(ユキ?大丈夫?)

(わたし……リントに接吻された……。

リント……リント……。

もう祝言挙げても良いわよね?)

(ユキが少女化してる!?

落ち着きなさい。

あの子は初陣で気分が高まっているのよ。

どっちみち、このいくさが終わらないとどうにも出来ないでしょ。

キキも首を振ってないでなんとか言ってあげなさいよ)

(キュオォ……)



ボク達の目的地の屋敷に到着しました。

敵部隊の人数が多いです。

百体は居そうです。

対するこちらは、二十数名ほどしかいません。

戦力差が四倍ほどありますが、実際の戦闘では拮抗しているようです。

いえ、むしろ押しています。

河童さん達が前衛で、敵の刃物や爪攻撃をものともしていません。

逆に槍で突き返しています。

さらに、その間を縫ってドラド族の戦闘員の人達が剣や魔法で敵を潰していきます。

一番凄いと思ったのが、天狗さん達です。

風魔法で敵を怯ませたり、弓も持ってないのに矢羽根を突き刺したり、仲間が危ないと見た箇所には斬り込んだりと、八面六臂の活躍とはこういうものなんだと知りました。

勉強になります。


ピシッピシャンッ! ドドドッ!!

え!? 今、雷が落ちるのを見ました。

「ウチの眷属達よ。

……でも、合わせるのがまだまだね。

もっと修練させないと」

驚くボクに弁才天様が教えてくれました。

でも、ボクには一つの巨大な雷にしか見えませんでしたよ?

ほら、敵が一気に二十体は倒れてます。

「十二人揃ってるんだから、この辺りの雑魚を一掃しなきゃ」


え? いやいや、仲間の防御しながら、槍を突きながら、雷魔法も全員で合わせるって、一体どんな修行を積めば出来るんですか?

思わず、弓に手が伸びます。

「リント、手出ししたらダメ。

あの子達の連携を崩す切っ掛けになってしまうかもしれない。

それに、私達の目標はあくまでも五体のオーガよ」

ユキさんが、弓を持つボクの手にそっと優しく手を添えて諭してくれます。

「そうだ。

我々の目標は百人長と呼ばれる強力なオーガだ。

彼らがきっと引きずり出してくれる。

それまでは力を温存しておくんだ」

マフティ隊長からも声が掛かりました。

そうでした。

落ち着いて戦況を見極めないと。



敵の数が半分を切った頃、ようやくオーガが屋敷から現れました。

道中で見掛けたオーガよりも大きく強そうです。

……でも四体しか出てきませんね。


そんな時、一体のオーガが突然走り出し、河童さん達にぶち当たりました。

魔猪デビルボアの突進よりも激しい体当たりでした。

河童さん達は大丈夫でしょうか?

三人の河童さん達は三メートルほど引き摺られましたが、しっかり防御出来たようです。

さらに左右から他の河童さん達がタックルして、オーガを後ろへ少しずらすことに成功しました。

いえ、それだけでなく、体当たりされた三人の河童さん達も加わり、元の場所に押し返して行きます。


「凄い……!」

思わず呟いていました。

「あら、ありがとう。

ああいう力押しはあの子達の得意分野なのよ」

河童さん達は、個の強さよりも集団の強さを極めて行ってるんですね。

ボクもナターシャ様に弓矢での連携を教わらなきゃ。


「ギャハハハッ!

あいつ、押し返されてやんの」

「情けない。それでも百人長か?」

オーガが仲間にヤジを飛ばしています。


「うるせえ!見てろよ!」

最初のオーガが、今度は五人の河童さん達を押し込んで止まりません。

どんどん押されて行ってます。

十メートル、二十メートル……まだ止まりません。

これは危ないかも?


「あ~ら、一名様ごあんな~い♪」

弁才天様が笑ってオーガを迎えています。

「あなた達ももう良いわ。

ご苦労様」

引き摺られた河童さん達が弁才天様に一礼して最前線に戻って行きます。


「ヒーヒー……もう辛抱たまらん!

今度はまんまとワナにはまってやんの」

「敵ながら、上手い手だ」

二体のオーガが腹を抱えて笑い転げているのに、一体が冷静です。

コイツ、厄介なヤツかもしれません。


「仕方あるまい。我らも向かうぞ」

冷静なヤツが仲間に声を掛けた拍子に、笑い転げていたオーガを天狗さん達が二人一組で宙に持ち上げ、こちらへ放り投げました。

ぜ、絶妙な連携!


「むぐっ!」

「グヘッ!」

一体は受け身を取りましたが、一体は顔から地面に当たっていました。

もしかして、オーガって、あんまり頭は良くないのかもしれません。


「よくもやってくれたな!」

投げられた方じゃなく、一番冷静だったオーガが逆上してこちらに向かって来ます。

「リント、ヤツは君に任せる」

え? あの一番厄介なヤツをですか!?

いや、隊長の命令だ。従います。


「ボクはリント。

未だ修行中の身ですが、あなたを倒します!」

「なぁにぃ!

初陣の坊やが俺と当たるだとぉ!

八つ裂きにしてくれるわ」

(あっはっは。リントも煽る煽る。

あいつも逆上しまくりね。

これで少しはやり易くなるでしょ)

(リントの口上。

なんて素敵でしょう)

(はいはい、ご馳走さま。

ユキも担当のオーガを忘れないでね。

キキは……もうやり合ってるわね。

わたしもさっさと片付けて、リントの応援でもするか)


敵の真正面から弓を引き絞ります。

射っ。

「ふん。弓矢か」

オーガが片手で払い除けます。

でも、見事に胸に突き刺さりました。

二射三射と矢継ぎ早に矢を放ちます。


「うぐぉっ!

なんなんだ、この矢は」

全て命中していますね。

この矢は影矢です。

エルフならこれくらい出来ないと笑われてしまいます。

表の矢に影の矢が寄り添って敵に刺さるように、幼少の頃から仕込まれます。

ただ、ボクの影矢はもう一本余分にありますが。

熟練してくると、表の矢はまっすぐ飛びますが、影矢は目標の直前にやや軌道を変えるので、なかなか払い除けることが難しくなっています。

ボクはさらに影矢に緩急をつけるので、読まれにくくしてあります。

引き出しは多い方が良いとは、ナターシャ様の師匠のミレイユさんのお言葉です。


「ぐおっ!

矢がどうしても刺さって来る」

そろそろ実際の矢に慣れてくるかもしれないので、ここで弓魔法も使います。

本邦初公開のシャワーアロウです。

言葉通り、シャワーの如くボクの全面から大量弓魔法の矢が、弧を描きながら敵に降り注ぎます。

矢の嵐は止まりません。

敵がハリネズミ状態になり、膝をつきました。

そう、そこにいてください。


「ぐはっ!」

いかがですか?

背後からのボクの弓魔法の矢の味は。

タマモ様からご教授頂いた土中を走る矢です。

ここで弛めたら、タマモ様に叱られてしまいます。

背後に気を取られている僅かの間に溜めを作り、本命を放ちます。

あ、喉に穴が開きました。

オーガの身体は強靭なので、心臓を射貫くのは難しいだろうな、と思って喉を狙いました。


「お~、やるじゃん。リント」

振り返ると、弁才天様やユキさん、キキ様、マフティ隊長までもが拍手してくださっています。

え? 皆さん、もう終わってるんですか!?

ボクが最初に戦闘に入ったはずなのに、終わらせるのに一番遅かったなんて……。

まだまだ修行が足りませんでした。

ユキさんがにこやかに近寄って来ます。


「でもね、リント。

こういうヤカラはしぶといから、ちゃんととどめを指しましょう」

ユキさんが右手をオーガに差し出すと、キラキラと指先から星の瞬きのように煌めく何かが溢れて行きます。

その煌めきがオーガに到達すると、一瞬にして凍りつきました。

あまりの美しさに茫然としたボクの肩にユキさんの手が置かれました。

「さあ、私の勇者様。

とどめを」

ユキさんに促され、弓を構えます。

狙い定めて、一射。


その矢がオーガの額に命中すると、パアッっとオーガが砕け散り、不届きにも『キレイだな』と思ってしまいました。

ハッ! 申し訳ありません。ジロー様、管理者様、大樹様。

もっともっと精進致します。

……でも、ユキさんをキレイと思うことは正しいことですよね?



いかがでした?

戦闘執事(見習い)の活躍は。

リントが絡むとユキが壊れる壊れる(笑)。

でも、大妖達はみんな純粋なんです。


戦闘シーンはまだまだ続きます。

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