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第80話 八岐大蛇の牙

第6章の始まりです。

この章では、次郎以外にスポットが当たります。

皆様の推しが活躍すると良いですね。

こっそり食べたはずが、アヤメ、タマモ、真神まがみの鼻が良い三人にバレ、その日の夜に大量のオムライスを作らされた翌日。

(ケチャップの匂いはバレやすいよなぁ)

新たな情報がもたらされた。

実は、ダイクン王国救出作戦後に、エリシャンテからドラド族の街がどうなっているのか知りたい、という要望を受け、偵察部隊を派遣していた。

その偵察部隊からの報告が上がって来たのだ。


「では、その街に生き残りがいると言うんだね」

「生き残りかどうかは面通ししてもらわにゃ、わかりません。

が、オーガ共と戦闘している集団を確認しました」

隠形鬼おんぎょうき一朗太いちろうたからの報告だ。

「派手にやっとりましたから、ワシも確認出来ました。」

雲外鏡うんがいきょうも口添えしてくる。

「どれくらいの規模が居る?」

「オーガは四百体、その部下が二千体ってところでしょうな。

それと戦闘していた集団はだいたい五十人ほど。

皆、うまく森に散ってオーガ共を削っているようでした。」


そのオーガがクリムト帝国軍であれば、ドラド族の証言から、初期に千人隊で攻め込まれたはず。

街が陥落した時点で半数が引き上げたか?

それでも、ドラド族の残存部隊がオーガを百体近く討伐した計算になる。


「助けに行くか?」

前鬼ぜんきが確認してくる。

「それがドラド族の生き残りなら助けなきゃ。

ドラド族はもう家族だから」

「あなたらしいわ。

早速救援部隊を編成しないとね」

後鬼ごきも理解してくれている。

軍の正義まさよしとマフティ、それにドラド族のエリシャンテを呼ぶことにする。


三人を待つ間に会議室に移動し、一朗太にドラド族の街周辺の簡易地図をボードに書き込んでもらっていると、いち早くエリシャンテがやって来た。

「エリシャンテ、参りましたぁ。

あら? それはドラドリアでしょうか?」

ドラドリアと言うのがドラド族の街の名称だ。

「下手くそな絵ですんませんなぁ」

そう言う割には、周辺の森の様子などの特徴も捉えた良い仕上がりだ。

「街の形もそうですが、周辺の池や丘の位置も分かりやすく描かれています。

とてもお上手ですよぉ」

「そいつぁ、どうも」


エリシャンテに遅れること数分後には、正義まさよしとマフティもやって来た。

「ドラドリアの偵察に行っていた部隊が帰着した。

今から報告してもらう。

いっさん、頼む」

一朗太がボードの前に立ち、詳細を説明していく。


「では、ドラド族の仲間がまだ戦っているのですね?」

エリシャンテの声が震えている。

「ワシではドラド族なのか判断がつきませんが……まあ、状況から見て、そうだろうと思えますが、さて?

あ、そうそう、一人元気な爺さんが活躍しているのを見ました。

単身でオーガを一体、取り巻きを十体ほど屠っておりましたな」

「おう、あの爺さんな。

戦い方が派手じゃったの。

まるで注目してくれとでも言わんばかりの振る舞いでしたのぅ」

エリシャンテはハッとした仕草でマフティと目を合わせる。

一つ頷いたマフティが挙手をする。

こちらも頷いて許可する。

「それはおそらくオルテガ様と思われます。

私の師匠であり、エリシャンテ様のお祖父様に当たります。

今やドラド族最強はエリシャンテ様ですが、それまではオルテガ様が半世紀以上もの間君臨していました」

「戦い方の違いと言うんでしょうかぁ、私ぃ、お祖父様に勝てたことがありません」

あるよね、相性ってのが。

「それは仕方ないことかと。

師匠とエリシャンテ様では戦闘スタイルが違います」

「そんなこと言ってぇ。

あなたはお祖父ちゃんに勝ったことあるじゃない」

「いえ、それこそ、戦闘スタイルの違いでしょう。

私も大きく負け越していますよ」

マフティは相手を分析しながら戦い方を構築するタイプだから、連戦を重ねれば重ねるほど勝率を上げていくんだな。

「その戦い方は、師匠が囮役で周辺の者が敵を削っているものと推察されます」

囮役なのに、自らがオーガを討伐出来るのか。

すごい人らしいね。

「出来得るならば、その人達をこちらに引き込みたい。

エリシャンテ、頼めるか?」

エリシャンテを見て、話をする。

「喜んで拝命致しますわ。

元々私がお願いしたことですしぃ。

ドラド族を連れて行っても?」

「許可しよう。

ただし、マフティの指揮下に入ってもらうのが条件だ。

いくら君がドラド族のお姫様でも、マフティの指示に従うこと」

「はい、構いません。

マフティ副将軍、宜しくお願い致しますねぇ」

エリシャンテはわざわざ立ち上がり、マフティに頭を下げる。

マフティも立ち上がって敬礼する。


「いっさん、悪いけど……」

「了解でありますよ。

三日休みをくださいな。

それで皆回復するはずです」

「では、隠形鬼おんぎょうきチームは明日より三日間の休日を与える。

その間にエリシャンテはドラド族から戦闘出来る者を選抜し、作戦内容を伝えることとする。

そして、今からドラド族の残存部隊救援作戦を、ここにいる者で立案する。

一朗太は悪いが、今日は作戦会議に入ってくれ」

「へい。

その代わり、今から客室で待っている鈴蘭すずらんに休みのことを仲間達に伝えてもらいたいのですが、宜しいか?」

「わかった。

会議は一時休憩とする。

一時間後に作戦会議を再開するから、その間に伝えておいて。

ついでに、鈴蘭とお昼ごはん食べられるように、客室に差し入れするようにしておくよ」

「ありがとうございます。

ちょっと行ってきますわ」

一朗太が一礼して、会議室を出ていく。

「リント、厨房へ行って、客室へ二人のお昼ごはんを差し入れるように言ってきて。

僕らは食堂に行くから、僕らの分の手配も頼む」

「かしこまりました。

すぐに手配致します」

リントも一礼して、一朗太のあとを追う。


「さて、ちょっと早いけど、お昼ごはんを済ませよう」

立ち上がって、エリシャンテの元へ向かう。

「居ても立っても居られないだろうけど、我慢してね。

こういう時、一番役に立つのが隠形鬼おんぎょうきチームだから、彼らの回復は大事なんだ」

エリシャンテの肩に手をやると、そっと握り返してくる。

「わかっております。

ただ、この半年もの間、仲間が戦い続けたというのに、私はここでぬくぬくと幸せな生活を送ってしまいました。

それが許せなくて……」

「君らだって、過酷な避難生活をこなして来たんでしょ?

こちらに来てからも戦いが無かった訳じゃない。

同じことだよ。

各々が各々の状況や環境でやれることをやって来たからこそ、次に繋がるんだ。

エリシャンテはよくやってる」

エリシャンテが抱きついてくる。

あれ? この姿(五歳児)だと、僕が抱き抱えられてる感じなのかな?

座ってるエリシャンテと立っている僕が同じ目線になってるから、抱きやすいのかな? まあいいや。


お昼ごはんを済ませてから、作戦を立てた僕達が解散したのは夕方になってからだった。

オブザーバーとして僕もついていくはずだったのが、僕の頭がスパンッと良い音が鳴り響くと同時に砕かれた。

おのれぇ、後鬼ごきママめ。

無茶はしないと言ってるのに、一朗太が「またあの百人斬りが見れる」と囃し立てたのが悪い。

説明を求められた一朗太がわざわざボードの前に立ち、身振り手振りも加えてダイクン王城内での僕の活躍振りを話した。

その話振りは、咄家もかくやと言う素晴らしいものだった。

一朗太も一端の格闘家だからか、戦闘のキモをよく理解した内容に、僕も感心したものだ。

「よくやった」と前鬼ぜんきは褒めてくれたのに、後鬼ごきが「ダメです」の一言。

僕が「無茶はしないよ」と言った途端に、僕の頭が鳴った。

「闘い方を言ってるんじゃ、ありません。

そもそも、あなたは休養中だということを忘れていませんか?」

あ、そうでした。

すっかり忘れていました。

一人事情を知らないエリシャンテが「お加減が優れないのですか?」と心配してくれたけど、話す訳にもいかないので、黙って頷いておいた。

それで、僕はついていくことを禁じられてしまったんだ。

一朗太も事情を知らないはずなのに、前鬼ぜんき後鬼ごきの様子から何かを察したのか、何も口を挟まなかった。

そして、ドラド族救援部隊が編成されたのだった。

僕を除いて。ちぇっ。



余談

「して、何用か?

ドラドの娘よ」

人並みサイズにしている八岐大蛇やまたのおろちが八つ首全てでエリシャンテを睨み付ける。

八岐大蛇やまたのおろち様におかれましては、ご機嫌麗しゅう」

エリシャンテは両膝をつき、三度頭を地につける独特の礼拝を八岐大蛇やまたのおろちに向かって行う。


「本日はお願いの儀があり、ドラド族の族長エリシャンテ、参りました」

いつものぽわぽわした雰囲気がそこには無い。

「……聞こう」

「実は先ほど、我らドラド族の生き残りがいることが判明致しました。

半年以上戦い続けて、尚生き残っておるのです」

ドラド族救援作戦会議が終わってすぐに八岐大蛇やまたのおろちの下に来たエリシャンテだった。


「ほう?

朗報ではないか」

八岐大蛇やまたのおろちが朗らかに笑う。

「はい。

四日後に救援に向かいます。

それに当たり、厚顔無恥で蒙昧なこの私めに、あなた様のご加護を戴けないものかとお願い奉ります」

「ふん。

貴様には竜神とやらの加護がついておろうに」

「竜神様とあなた様では、格が存在が大いに違います」

「我を値踏みするか」

一転して、八岐大蛇やまたのおろちが牙剥いて見せる。

「そんな……畏れ多い。

私は、世界の頂点に立つ龍神様である八岐大蛇やまたのおろち様におすがりしたいのです!

何卒、何卒……」

エリシャンテが手と頭を地に着けたまま、懇願する。

それが偶然にも土下座そのものの姿勢になっていた。

(人は今も昔も変わらんな。

ひどく弱く儚い。

だが、それ故愛おしい)


「自分の加護を手にしてどうする?」

エリシャンテが顔を上げ、正座の姿勢になる。

「ドラド族の生き残りを助け上げた後は、この大樹の森の拠点を守っていきたいと願っております」

エリシャンテは決意の眼差しで八岐大蛇やまたのおろちに視線を注ぐ。

(これだ。

泣き言を吐いたかと思うと、同じ心持ちで強くあらんとする。

ほっほっ、凛としたものではないか)

「では、その救援で力を示せ。

貴様の振る舞いを見て判断するとしよう」

「あ、ありがとうございます」

エリシャンテは再度土下座する。

「勘違いするな。

貴様の姿勢を見るだけだ」

「ですが、八岐大蛇やまたのおろち様も救援作戦にご参戦頂けるのですね?」

エリシャンテがニッコリと笑う。

(あ、そう言うことになるのか。

これは一本取られたか)

「仕方あるまい。

自分も赴こうではないか」

「これで救援作戦も成功したものも同然ですね」

エリシャンテは手を合わせて喜ぶ。

「これが目的だったか」

「いえ、これでも八岐大蛇やまたのおろち様のご加護を戴けるように、日々精進しておりますの」

(知っておる。

戦闘訓練のみならず、病院で数多の患者を診ていることもな。

……自分の巫女も悪くないかもしれんな)

エリシャンテが退室する前に、黙って自分の牙を渡すと、そこでエリシャンテが放心状態に。

続けてわんわんと泣き出してしまい、八岐大蛇やまたのおろちはおろおろするしかなかった。




如何に水神と言えど、涙に弱いのは人と変わらないんですね。


ドラド族を救援するべく、部隊が編成される。

お楽しみに。

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