第78話 ステータスボード
訓練場から帰ってきた一同。
話し合ってみると、次郎の特殊性が判明!?
大樹の森の屋敷の執務室に戻ってきた面々。
僕と前鬼、後鬼、正義にマフティ、リントだ。
リントは早速お茶を淹れている。
「それで、あなたの加護とはいったいなんなの?」
後鬼が厳しい顔で詰め寄る。
「え?……いや、よくわかんない。
……いやいや、ホントだから!
いつの間にか、スキルに生えていたんだから!」
後鬼が耳に手を伸ばして来るから、精一杯ブロックした。
「まあ、待て。後鬼」
今度は前鬼が手で遮ってくれた。
暴力反対。反抗期になるよ。
「次郎、おまえ、自分の能力が見れるのか?」
前鬼が聞いてくる。
異世界ファンタジーの定番じゃない。
「そんな当たり前のこと、今さら聞かれても……。
ね!?」
正義に振る。
「いや……ねって言われましても……。
我々にはそのようなことは出来ませんが」
ええっ!? 衝撃の事実。
少なくとも、地球人の正義はステータスボードが表示されてると思ったのに。
「自分の能力を客観的に見られるとは羨ましいです」
マフティも無いらしい。
「みんな、自分のステータスボードを見れないの?」
みんなの顔を伺うが、首を横に振っている。
前鬼と後鬼は頭を抱えてらっしゃる。
ええ~、僕はこの世界に来て最初にステータスボードを確認して、異世界ファンタジーを実感したんだけど。
「あなた、もしかして自分以外の他人のステータスボードも見れるの?」
「え? 見れるけど」
スパンッと良い音が響き、僕の頭が叩かれた。
後鬼の電光石火の技だ。
「痛いでしょ、もう!」
「もうじゃありません!
何度言えばわかるのかしら、この子ったら」
「いや、ステータスボードはこの世界に来て最初に発動したものだから、当たり前だと思ってたの!」
「両者落ち着け。
後鬼も抑えろ。話が前に進まん」
ナイス審判だ、前鬼。
僕の耳と頭に平和が訪れる。
「それで、私のステータスボードも見れるのだな?」
黙って頷く。
「それを私も確認したいのだが、出来るか?」
「やってみないとなんとも言えない。
当然やったことないし……」
「構わん。そう思うだけで良い。
やってみてくれ」
「わかった」
前鬼のステータスボードを見てみる。
名前:前鬼
年齢:7,534歳
種族:鬼神
HP:猛烈
MP:大量
SP:富士山より高い
スキル:身体強化 身体回復 総合格闘術 気術 陰陽術 浮遊術 役行者の加護 大樹の加護
「これがそうか……なんとも不思議なものよな」
前鬼は見れたらしい。
「私は見えないわ」
「同じく見えません」
後鬼や正義達は一斉に首を横に振る。
そうなんだ。個人情報だからか、僕と本人以外は見えないと。
「それにしても、表現が曖昧なのだな」
そうなのよ。
管理者様がお茶目なせいでそうなってる。
「しかし、役行者様のご加護を戴いているとは、嬉しい限りだ」
ちょっとメラっと来たので、僕の加護も付与した。
「むっ、次郎の加護か。
もっと嬉しいぞ」
前鬼が満面の笑顔で見つめてくる。
ちょっと照れる。
名前:前鬼
年齢:7,534歳
種族:上位鬼神
HP:爆裂
MP:唸るほど多い
SP:成層圏突破
スキル:身体強化 身体回復 総合格闘術 気術 陰陽術 飛行術 役行者の加護 大樹の加護 現人神の加護・親愛
「はいはい。次は私ね」
後鬼が手を上げる。
名前:後鬼
年齢:8,534歳
種族:鬼神
HP:猛烈
MP:多量
SP:湖の如し
スキル:身体強化 身体回復 気術 精密操作 陰陽術 浮遊術 役行者の加護 大樹の加護
おおぅ、姉さん女房だったんだ。前鬼とちょうど千歳違う。
後鬼も精密操作持ってるね。
「ほら、早く加護を」
はいはい。わかりました。
名前:後鬼
年齢:8,534歳
種族:鬼子母神
HP:爆裂
MP:溢れんばかり
SP:深海より深い
スキル:身体強化 身体回復 気術 精密操作 陰陽術 飛行術 役行者の加護 大樹の加護 現人神の加護・親愛
種族名も変わった!
前鬼と後鬼には親愛まで付記されてる。
親子の証明かな?
色々驚かされることばかりが起こる。
「ふうん、曖昧なところはあなたの性格のせいかしらね」
後鬼は満足そうに笑う。
違うから。曖昧なのは管理者様の方なの。
ついでだから正義にもステータスボードの表示と加護も与えておく。
これでここにいる全員に加護を付与したことになる。
「そんなに加護を与えて大丈夫なの?
体長に変化は無いの?」
うーん、どうだろう?
「あ、ちょっと妖召還の時みたいな感覚があるかな?」
何かが抜けた感覚がある。
「ダメじゃない。
これはしばらく使ってはいけないわ」
後鬼は、欲しがった割には一転して僕を心配してくる。
「うむ。
妖召還のように回復してくると良いが、様子を見た方が良いな」
前鬼も心配してくれる。
「そんな貴重なものを我らが戴いてよろしかったのでしょうか」
正義の言葉にマフティも頷いている。
「とは言うものの、もう付与しちゃったし。
戻せるものでもないから良いんじゃない?」
そう言ったが、ウソをついた。
たぶん、付与した加護を剥がすことは出来そうだと、本能が訴えて来ている。
正義とマフティは、軍の要なので、加護はあった方が良い。
「まあ、結果は悪くはなかったけど、そうポンポン与える訳にもいかないのがネックだね」
自ら話を元に戻す。
「そういえばそうだったな。
軍の質を上げる話だった」
前鬼が気づいて話し合う姿勢に戻る。
「この子が破天荒なのがいけないのよ」
一言多いです、後鬼ママ。
「確かに、これで鈴木様の気力が回復為されるようなら、軍の質上げは出来ますね」
正義も元の話に帰着してくれる。
「とはいえ、鈴木様には数日休んでいただかないと、話が先に進めませんね」
あ、そっちに行っちゃったか。
仕方ないな。
また後日にこの件は協議しよう。
そうなったが、次の協議までは今日の出来事は口外禁止となった。
「正義にマフティ、ご苦労様。
もう良いわ。退室なさい。
リントも退室してね」
後鬼に促され、三人とも一礼してから執務室を退室して行く。
「さて、お楽しみの家族の時間ね」
ナニソレ、ナンカコワヒ……。
と思っていたら、後鬼が緑茶を淹れてくれた。
「はい。次郎、これ好きでしょ」
ぼた餅を出してくれる後鬼。
三人でぼた餅食べながら、お茶を啜る。
おいしい♪
「家族なんだから、少しずつでも話をしていきましょう」
「うん。なんか、ごめん……」
「謝らなくていいの。
私も、次郎は盟主たれ、と押し付けてしまっていたかもしれないわ」
「それは我らの反省点だな」
前鬼は二つ目のぼた餅に手を伸ばす。
「私も反省しています。
でも安心して。
少々行き過ぎな時は、前鬼が止めてくれます」
「わ、私がか!?」
「この人、こう見えて、暴走した私を止めたことのある勇者なんだから」
おおぅ、勇者とな。
それと、後鬼は暴走したことあるんだ?
いつも冷静で物事をこなす今の姿からは想像出来ないけど。
いつか、その話も聞いてみたいな。
……地雷が設置してなければ良いけど。
大樹の森の拠点では頂点は僕ということになってるけど、家族内では後鬼>前鬼>僕の図式は確定している模様。
まあ、どこの家庭でもそんなもんでしょ。
ぼた餅、おいしかった。
ごちそうさまでした。
加護付与もむやみやたらと使えません。
痛し痒しも仕方ありませんね。
それでも、光明の一つには違いありません。




