第77話 加護
おや?
タイトルが「加護」ですって。
何がどうなる?
屋敷の執務室に正義とマフティを呼び出した。
同席するのは、前鬼と後鬼だ。
「常備軍の拡充ですか。
必要でしょうね」
正義も同意見のようだ。
「先日の戦いにおいて、敵四千五百に対し我が軍は三百で完勝しましたが、これは妖達の働きによるものがほとんど。
特に大妖達の存在が大きい」
マフティも発言する。
「それ以外は、複数で敵単体を取り囲まなければ危うい状況でした。
それほどにオーガは強い」
「貴様は単身でオーガを討伐していたが」
前鬼も戦場をよく見ていたのだろう。
「それが出来る者が少ないのです」
マフティが言いたいことは、敵の数倍の戦力が必要ということなのだろう。
だが、現実にはそれは無理だ。
クリムト帝国には、オーガだけでも一万体近くいるらしいから、数の論理ではあちらの方が圧倒している。
少々の増員くらいでは話にならないということなのだろう。
「質を上げるしかないか……」
「鈴木様は、アポートで銃火器類を取り寄せることは出来ないのでしょうか?」
そんな正義の問いに即座に答える。
「たとえ出来たとしても、この世界には地球の現代兵器を持ち込むつもりはない」
文化は導入しても、凶器になるものは手にしたくない。
変に文明をねじ曲げたくないからだ。
「一つ試したいことがある」
「何か良い方法でもあるの?」
後鬼から突っ込みが入るが、よくわからないんだよなぁ。
「いやぁ、なんとも言えない……。
けど、試すだけやってみようかな」
「「「???」」」
そうだよね。言ってる自分がわからないもの。
「とりあえず……えーと、演習場に行こうか」
「物は試しというやつだな」
前鬼に続いて、皆立ち上がる。
「リントも来るかい?」
お茶を片付けているリントにも声を掛ける。
「は、はい!
すぐに片付けます!」
慌てなくて良いよ。
どうせ、みんなが僕の歩調に合わせてくれるはずだから。
今はデフォルトの五歳児だし。
演習場に着くと、常備軍や警察官で手の空いた者達が格闘訓練をやっている姿がちらほら見える。
僕らを見つけた者が挙手の敬礼をする。
無帽でも挙手の敬礼にすることに、正義が修正したからだ。
原住民に日本人らしさを求めても仕方ないということと、着帽でも無帽でも統一感が出るので、浸透しやすいから。
また、敬礼は相手を敬う気持ちの現れと共に、自分を引き締める効果があるから、悪くはない選択だと思う。
敬礼してくれた者には答礼をする。
何度か答礼した後、演習場の奥に到着した。
ここでステータスボードを表示する。
名前:鈴木次郎
年齢:5歳
種族:現人神
HP:たっぷり
MP:溢れんばかり
SP:うなぎ登り
スキル:身体強化 気力回復 治癒 妖召還 管理者の加護
大樹の加護 超能力 ステータス確認 加護付与
相変わらず、年齢以外は数字表記がない。
言葉遣いにも色々と突っ込みたいけど、新たなスキルが増えている。
まあ、いいや。
今は最後の項目に注目して欲しい。
【加護付与】なるものがスキルとして生まれている。
八岐大蛇のように加護を与えることが出来るようになった、ということっぽいけど、果たして?
とりあえず、マフティのステータスを確認してみる。
名前:マフティ・エリクアラン
年齢:24歳
種族:ヒト族
HP:まあまあ
MP:多い方だね
SP:あるかもしれない
スキル:基礎魔法 土魔法 精密操作 竜神の加護
HP・MP・SPは相変わらずアバウトだこと。
マフティはスキルとして【精密操作】なるものがある。
これが彼の強さの秘訣かも?
「マフティ、あの辺りで土槍を出してみてくれない?
ちょっと強めで」
「はい。了解であります」
マフティが呪文を唱えるとすぐさま土槍が出る。
高さ5mくらいの土槍が十数本出ていた。
なるほど、これだけの威力あれば、オーガを単体で屠れる訳だ。
では、マフティに僕の加護を与えることする。
むんっと唸ってみたが、特に僕にもマフティにも目に見えての変化は見当たらない。
「マフティ、もう一度さっきと同じ魔力量で土槍を出してみて」
マフティは疑問に思わず、土魔法を実行に移してくれる。
素直なところは彼の美徳なのかもね。
「こ、これは!」
冷静沈着なマフティらしからず、本人が一番驚いている。
そこには20m以上の土槍が、先ほどの数倍の太さで聳え立っていた。
土槍の本数も数えることを放棄したいくらい多い。
「全く同じ魔力量で発動したはずです!
……あり得ない」
【精密操作】を持つ彼ならではの感想だろう。
しかし、僕も予想していたとは言え、ちょっとビビった。
再度、マフティのステータスを確認してみよう。
名前:マフティ・エリクアラン
年齢:24歳
種族:ヒト族
HP:なかなか
MP:誇れるほど多い
SP:多いよ
スキル:基礎魔法 土魔法 精密操作 竜神の加護 現人神の加護
コメントが変わってる!
加護が増えたかどうかを確認したいだけだったのに、突っ込みどころの主旨が変わっちゃったじゃないか。
基礎ステータスを一回りどころか、幾重にも押し上げたっぽいコメントだけど……どうなんだろ?
「マフティも格闘訓練積んでるよね?」
「は、はい。一応」
「少し立ち合おうか。素手で良いよ」
身体強化で22歳の姿になる。
(これは……いきなり本番ですか)
「前鬼、審判を頼む」
前鬼が前に出てくる。
「両者、向かい合って、礼!」
お互いに礼をしてから、構える。
「始め!」
オーソドックススタイルから、軽く左ジャブを連発する。
威力よりも速さを主体にするジャブだ。
相手の周りを時計回りにしつこく連打する。
以前のマフティならほぼ全弾当たっていたが、半分くらいはパリィやブロック出来てる。
一歩踏み込んで左ストレートからの右ボディ。
あ、ボディ入っちゃった。
強めの左ストレートがうまくパリィされたもんだから、コンビネーションでタイムラグ無しの右ボディをつい入れてしまった。
しかし、顔は苦痛に歪んだが、沈まない。
なるほど。成果はあるんだな。
マフティに耐久力がついている。
「もういいよ。ご苦労様」
そう言うと、腹を押さえて、盛大に息をするマフティ。
「ハアハア……防戦するだけで精一杯でした」
「バカ言え。
短いとはいえ、本来の姿の鈴木様を前にして、倒れずに済んだことがすごいんだよ」
正義が励ます。
「次郎、どういうことだ?」
前鬼は気になっているようだ。
前鬼の目から見ても、マフティの身体能力が向上しているのがわかったんだろう。
「マフティに僕の加護を授けた」
「「「えっ!」」」
場が一瞬固まった。
「今見たところ、魔法だけでなく、身体能力も軒並みアップしたと思う」
出来るだけ客観的に判断したかったから、妖でもなく、地球人でもない原住民で試したかったんだ。
「あいたたたっ!」
後鬼が僕の耳を引っ張った。
「あなたはもう!
どうしてそういうことを前もって話さないのかしら。
他の何人かに見られたじゃない」
「え、いや、何やってるか、遠目じゃわかんないよ」
「マフティの魔法だけで、何かすごいことが起きたってことくらい、わかるわよ」
後鬼ママが耳を放してくれない。
ホントに痛いんですけど。
「後鬼様。
今から情報統制を掛けます。ご安心ください。
ここが軍事施設で良かった。
マフティは警察官の方を頼む」
正義はそう言うと、マフティと訓練中の者達に向かって走っていく。
「後鬼ママ、もう勘弁して。
耳がちぎれちゃう!」
「私は、大事なことは事前に相談しなさいって言ってるの!」
「は、はい~。ごめんなさい~ぃ。
これからは相談しますぅ」
「わかったのなら、よろしい」
やっと放してくれた。
前鬼パパも、「あれは痛いよな」ってうんうん頷いてるだけじゃなくて、少しは止めてよ。
耳をさすさすしている内に、正義とマフティが戻ってきた。
「完了しました。
第一級軍事機密として統制を掛けました。
ここにいるのは軍人と警察官のみです。
ひとまず安心出来るかと」
「正義、マフティ。ご苦労だった。
こんな盟主で済まんな。苦労を掛ける」
前鬼が痛い子扱いしてくる。
昔からこんなんですよ。いいーっだ。
そんなこんなで、再度屋敷の執務室に戻ることにする。
道すがら、リントが話しかけてくる。
「ジロー様のご加護、すごいですね。
いずれボクも戴けるように精進致しますね」
なんて健気な子。
でもね、もう君には付与しちゃってるんだ。
君の検証する前に、すったもんだがあったから、なし崩しになっちゃったけど。
ま、面白いから、黙っとこ。
余談
後日、訓練を欠かさぬリントの鮮烈振りが人目を惹くことになった。
当然、皆が詰め寄ることになる。
賢いリントはすぐに次郎の加護に思い至るが、彼が口を割ることはない。
ただ、彼が敬愛する次郎が行っている大樹の祭壇への礼拝を、彼も毎日やっていることは、屋敷の者から聞ける。
皆は加護を得たのかもしれぬと思い至り、大樹の祭壇への礼拝する者が増加したのも事実。
理由はともあれ、参拝者の増加を嬉しく思う管理者と大樹だった。
現人神も神の一柱ですよね。
予想していた読者様も多いのでは?
次郎の加護付与は一騒動有りそうな予感!?




