第75話 救出作戦終了
これにて作戦終了。
しかし、次郎にはお仕事が残っています。
ちょっと駄々をこねる自由人でもあります。
自力で動けない避難民の移送に多少手間取ったが、避難民全てを草原に転送させることが出来た。
戦闘時間よりもこちらの方が時間を費やしたくらいだ。
草原では、アルメリア姫とヤクトが説明して、ひとまず全員を避難民として大樹の森の拠点に収容することになった。
落ち着いてから、その後の方針を決めれば良い。
ダイクン王国に戻るも良し、新たな地を開拓するも良しだ。
希望者は、そのまま大樹の森の拠点の住民として居ても良い。
なんとか日が暮れる前に、大樹の森の拠点に戻ることが出来た。
広場で大樹の森の拠点名物のトン汁の宴が催された後、僕は前鬼と後鬼に屋敷まで連行されていった。
なんでも、今回の戦闘は戦争行為になるので、論功行賞しなければならない、とのこと。
今日はさすがに疲れたんですけどー。
頭働かないんですけどー。
もう幼児に戻ってるから、眠いんですけどー。
「わかりました。
論功行賞については明日話し合いましょう」
おお、駄々は捏ねてみるもんだ。
「では、ここからは家族の時間です」
おおぉ?
「最近、アヤメとタマモと距離が近いわね。
なにかあったのかしら?」
な、なにもありませんが。
……二人のパンツは持ってるけど。
助けを求めて前鬼を見るが、顎に手をやり、ニヤニヤと笑っているだけ。
「どちらとお付き合いするの?」
突っ込んで来る後鬼ママ。
「……まだそういう段階じゃないというか……」
「じゃあ、遊びなの?」
「もうそういうことする年齢じゃないし……」
そういうことは前世でやったので、もう結構です。
「じゃあ候補なのね。
他にも居たりするんじゃないの?」
今日は後鬼ママの突っ込みが激しい。
「あ~、候補って言うか……サトちゃんの実体化を目指してる……かな」
「なぬっ!サトリだと!?」
前鬼パパも驚いてる。
だって、最初から憑いていて、お互いよくわかり合ってると思ってる。
お茶目だし、可愛いところもいっぱいあるんだよ。
「あなたの嗜好にはついていけない部分もあるけど、まあ、わかりました」
後鬼ママが頭を抱えてため息をつく。
「彼女達は未熟な部分が多いので、これから教育します」
「え、十分良くやってくれてるけど……」
「女性として、未熟な点を言ってるのです!」
おおぅ……それはなんとも言いようが無い。
とにかく、お手柔らかにお願いします。
前鬼パパと二人、首を振るしかない。
やれやれ。
翌日の早朝から、僕と前鬼、後鬼の三人で執務室に籠り、論功行賞の話し合いが行われた。
住民全員にお昼に発表すると宣言してあるので、のんびり出来ない。
途中で煮詰まり気味だったので、サトリにも協議に入ってもらった。
彼女は客観的視点があるからね。
ようやくまとまった頃に、時計を見てみると、もう11時を過ぎていた。
慌てて書類をまとめる。
清書は後鬼が行うが、ここにいる全員で一つ一つ丁寧に確認していく。
よし、こんなところだろう。
急ぎ足で広場に向かうと、もうみんな集まっているようだった。
壇上に上がる。
両脇やや後方に前鬼と後鬼が控える。
その隣はナターシャとリント、そしてミレイユが立っている。
「あーあ~、テステス。
本日は晴天なり」
うん、音魔法も良いようだね。
「皆さん、昨日は大変ご苦労様でした。
ダイクン王国救出作戦も無事完了し、オーガ戦においても完勝しました」
「「「おおぉーっ!」」」
大きな歓声が沸き起こる。
「これもひとえに皆さんの力によるものです。
そこで、今回の作戦に多大なる貢献をした者を称え、ここに表彰したいと思います」
ピューピューと指笛の音も聞こえる。
異世界でもその辺は同じだね。
「まず、この作戦で一番貢献した者を表します」
広場がシンと静まり返る。
「雲外鏡と隠形鬼チーム全員。
壇上へ」
拍手が巻き起こる。
「ほら、あんた。さっさと行くよ」
「だどもワシが……」
「良いから、鈴木次郎様をお待たせするんじゃないわよ。
ほら、行け!」
鈴蘭に背中を叩かれ、前へ出てくる一朗太と鈴蘭。それに続く隠形鬼の面々。
壇上に上がった時には、もう威風堂々としたものだ。
表情はわかりにくいが、雲外鏡も誇らしげなのかな?
「雲外鏡は常に敵に己を晒し、幾度も戦場を行き来する過酷な状況で、全ての作戦をやりこなした。
そして、避難民全ての移送にも奮闘し、全員無事に収容することが出来た」
一度区切る。
「また、隠形鬼チームは、危険を省みず、敵地へ事前の偵察を徹底して行い、我々に正確な情報をもたらした。
また、当日も再度潜入し、少人数で多数のオーガを討伐した。
この作戦が成功したのも、隠形鬼チームがもたらした情報があったからである。
雲外鏡と隠形鬼チーム全員に勲三等を授ける」
ミレイユが僕にトレイに乗った大樹の彫り物の入ったメダルを差し出してくる。
実は今朝にドワーフ工房に発注して作ってもらったメダルである。
なので、僕達も忙しかったが、小道具職人達はもっと忙しかったに違いない。
隠形鬼チーム分だけでも12個必要だったし。
隠形鬼チームの全員の首にメダルを掛けていく。
雲外鏡にはどうしたものかと悩んでいたら、鏡面に入れてくれと言う。
メダルを鏡面に宛てると、するすると吸い込まれていき、鏡面の一部にメダルが浮かび上がった。
器用なことするなぁ。
「また、別途に雲外鏡に白金貨1枚、隠形鬼チームに白金貨1枚を贈る」
原住民達がざわめいている。
(白金貨だって!?)
(んなもん見たことねえよ)
(バカ、金貨すら見たことないから、当たり前だろ)
(そんなもの、存在するんだぁ)
白金貨を現代価値に換算すると、だいたい1億円くらいだろうか。
隠形鬼チーム12人で割っても一人辺り800万円くらいにはなる。
戦争ボーナスとしては、良いのか悪いのか、判断しにくいところだけど。
普段の手当もあるから、大丈夫だと思う。
「次、医療チーム。
代表者、キキ、壇上へ」
またも歓声が上がる。
医療チームにお世話になっている者が多い証拠だ。
「医療チームの奔走により、死者が一人も出なかったのは大変喜ばしい。
医療チームにも白金貨1枚を贈る」
「キュオ」
目録を渡そうとすると、キキが二足で立ち上がったので、渡すついでに握手もする。
キキは振り返って、医療チームが固まっている方へ誇らしげに目録を翳す。
ちなみに、エリシャンテは戦闘に参戦していた為、医療チームには入っていない。
「次、八咫烏と天狗達。
八咫烏と烏天狗、壇上へ」
拍手は贈られるが、首を傾げている者もいる。
八咫烏は一度軽く舞い上がり、壇上にふわりと降りる。
烏天狗はそれを見て、少々急ぎ足で壇上に昇ってきた。
慌てなくて良いからね。
「君達は空軍として、上空から戦場を見渡し、必要な場所に的確に戦力を送り、一度ならず二度三度と矢継ぎ早に皆を助けた」
(そういえば、私のところに来てくれた)
(俺んとこにも来てくれたな)
(私は本当に危ないところを助けられた)
(……なるほど)
「よって、君達には金貨10枚を贈る」
目録は、八咫烏に促された烏天狗が受け取った。
烏天狗は、受け取った目録より自分の頭を下げ、きっちりと礼をする。
律儀なところは感心する。
「続いて、今回の戦闘において、最も戦果を上げた者を表する」
(前鬼様じゃねえか)
(いや、俺の見たところ、後鬼様だと思うぜ)
(タマモ様だろう?美人だし)
(美人って関係ないでしょ!)
(ヒルコ様よ、きっと。プルプルしてて可愛いらしいし)
(可愛いとか関係ねえし)
「アヤメ。壇上へ」
「にゃ!にゃ、にゃ、にゃんで!?」
「良いから、さっさとお上がりなさい。ほら。
次郎様をお待たせするんじゃないでありんす」
タマモに背中を押されて壇上へ向かってくるアヤメ。
壇上に上がる階段でとち狂ったのか、壇上では右手と右足を同時に前に出し、左手と左足も同時に出す器用な歩き方になっていた。
おかげで内心笑いを堪えるのに必死になってしまった。
ホント、アヤメはいつも楽しい娘だ
「アヤメは今回の戦闘において、単身で三千体以上の敵を討伐した」
(なにっ!)
(たった一人でかっ!?)
(三千体以上……)
(いやはや、すごいお人がいたもんだ)
「や……アレはあたし一人じゃ……」
ゴニョゴニョ言うアヤメの言葉を、僕の宣言が被せ気味に封殺する。
「よって、勲八等を表し、金貨10枚を贈る」
アヤメにもメダルを首に掛けてやり、小声で囁く。
「勲章低くてごめんね。
オーガも百体以上討伐してるのに」
「そんにゃ……そもそも次郎様のお力がにゃいと出来ないもの……」
「今は誇らしげに振る舞って。
アヤメにはそうして欲しい」
「わかったにゃ」
アヤメは、壇上で振り返ってメダルを高く掲げ、皆に笑顔で手を振る。
「また、戦闘に参加した者に特別手当を支給する。
各リーダーや長から受け取るように。
また、各リーダーや長は先んじて将軍から指示をもらって分配するように。
以上、論功行賞を終わる。
解散」
ふぅ~。やっと終わった~。
壇上から降りると正義が待っていた。
「お疲れ様です。
非常に良い論功行賞でした。
過分に地球の現代評価を盛り込みましたね」
正義はよく理解しているだろうけど、妖達や原住民達はどうなんだろう?
「伝わると良いけどね」
そこへ、ヤクトがやってきた。
「お疲れ様でございました、我が君よ」
もう我が君になってるぅ!?
「今の論功行賞は、大変面白うございました。
一番に正確な情報が大切であると言うメッセージでしたね。
また、「合言葉は命を大事に」でしたが、それに沿った評価でした。
まさに、大樹の森の盟主様らしい論功行賞。感服致しました」
ヤクトは理解出来ているようだ。
なかなか柔軟な思考の持ち主だ。
文官向きかな?
いずれ、官僚も組織したいと思っていたし、彼を据えるのも有りだな。
「伝わって来ていますよ」
正義が笑いながら言う。
「ヤクト。
済まないが、今から佐藤将軍を手伝ってもらえないか?
副将軍と二人だけじゃ大変だろうから」
「ははっ。ご命令とあらば」
「そうでした!
マフティ!すぐに官舎に戻るぞ!
ヤクトさんもついてきてくれ」
正義とマフティは自衛隊式敬礼を、ヤクトは優雅にボウ・アンド・スクレープ(貴族の男性用のお辞儀)を行ってから、官舎に向かっていく。
マフティは自衛隊形式に染まってきたのかな?
「三人とも、お昼ごはんはしっかり取るように!
これは命令です」
駆け出しながらも、はいって聞こえたから大丈夫かな。
余談
金銭価値の解説。
鉄貨1枚=10円。鉄貨10枚=銅貨1枚。
銅貨1枚=100円。銅貨10枚=大銅貨1枚。
大銅貨1枚=1,000円。大銅貨10枚=銀貨1枚。
銀貨1枚=1万円。銀貨10枚=大銀貨1枚。
大銀貨1枚=10万円。大銀貨10枚=金貨1枚。
金貨1枚=100万円。金貨100枚=白金貨1枚。
白金貨1枚=1億円。
大銅貨と大銀貨は大樹の森の拠点オリジナル。この二種類は形状が長方形。
次郎が10枚ごとに刻むよう画策。
金銭価値も一応添付しました。
価値観設定するのは楽しいです。
『トマト1個の値段は……』とか考えながら設定してました。
……あれ? 理系あるあるなんですかね?




