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第73話 救出作戦その5

千人長のドウガを討伐した次郎。

最後の戦いへと赴く。

城壁外にはまだ多数の敵が居る。

どう戦うのであろうか。

王城から出て、真っ直ぐ城壁門へ向かう。

城下町を歩いていくが、酷いもんだ。

いくつも家屋が倒壊し、オーガの食べ残しが腐乱していて臭いも酷い。

首都内の攻防戦は無かったようなので、終戦してからの有り様の方が酷いんじゃないか?

城壁門をくぐると、雲外鏡うんがいきょうとばったり出会った。

いや、隠形鬼おんぎょうきの以心伝心のおかげか。


「どう? うまくやってる?」

「ワシなりにうまく采配したつもりですがのう、大妖達はこぞって百体以上を望むもんで、ちと困っておりまする」

ああ~なんとなく想像出来る。

戦闘狂集団め。ホントにもう。


前鬼ぜんき後鬼ごきはうまくコントロールしてくれてるんじゃないの?」

「仰る通り、大妖以外のあやかし達や原住民達をうまく指揮して、誰も死者が出ておりませんわい。

しかし……」

「しかし?」

前鬼ぜんき殿は「たまには身体を動かさんといかん」と申され、先ほど百体以上のオーガを転送させられたばかりでして」

前鬼ぜんきパパが一番の戦闘狂だった。

「他にも、九尾狐、化け猫、蛭子ひるこ神、犬神、八岐大蛇やまたのおろち殿…………そういえば、弁才天殿と雪女殿は一緒に連携しての討伐じゃったから、他の半分くらいかの」

弁天とユキは仲良いよね。

二人でよくつるんでいるし。

あれ……待って。もうほとんど済んでない?


八咫烏やたがらす殿と烏天狗からすてんぐ殿は、空中の利を活かし、全軍の支援に奔走されておりましたぞ。

あとで褒めてやっていただくと良いと思われまする」

うんうん。

ヤタと烏天狗からすてんぐはいつもみんなの縁の下の力持ちだよね。

あとでしっかり褒めておかないと。


「ああ、そうそう。

おそらく、一番の戦果を上げられておるのは後鬼ごき殿でしょうな」

後鬼ごきママ!

「全員の支援に、前鬼ぜんき殿が手の回らない箇所の指揮まで行い、集団戦でも自ら討伐しており……大妖達にまで助言されておりました。

そこで、後鬼ごき殿が望むならば大量転送しても良いと持ちかけたら……」

思わずゴクリとつばを飲む。

「残り全部寄越しなさい、と仰られましたので、今届けたばかりですじゃ」

後鬼ごきママの場合は、残りの数を計算した上での指示だろうな。

「いやはや、鈴木様の父君と母君はすごいお方ですなぁ」

「自慢の父と母だからね!」

もう今は僕らが親子であることはオープンにしている。

前鬼ぜんきがまだぎこちないけどね。


「じゃあ、オーガはもう終わり?」

「はい。あとはその部下達をどうするか、という段階ですな」

雲外鏡うんがいきょうは指示待ちの様子で、その場にふわんふわんと浮いている。

雲外鏡うんがいきょうは、烏天狗からすてんぐと……そうだな、アヤメ、タマモ、ヒルコを呼んできて」

「ははぁっ」

すぐに雲外鏡うんがいきょうの姿が消える。


「僕に付いてきた隠形鬼おんぎょうきは隠形を解除。

雲外鏡うんがいきょうに付いていたチームはそのまま隠形術を解かないでいて」

そう言うと、隠形鬼六人が姿を現す。

「何かお考えが?」

一朗太いちろうたが聞いてくる。

「一応、説得を試みる。

が、あまり期待はしていない」


さほど待たされず、雲外鏡うんがいきょうが戻って来た。

「次郎様にゃ」

「ご無事でありんすか?」

アヤメが抱きついて来るわ、タマモがペタペタと顔を撫で回して来るわ、ヒルコは頭の上に乗っかって来るわ……いつも通りの三人に少し安心する。

「鈴木殿、お召しにより、烏天狗からすてんぐ参上致しました」

烏天狗からすてんぐもご苦労様。

聞いてるよ。大活躍だったんだってね」

「はて、戦果ならば他の方々の方が上げられているような気が致しまするが」

「ヤタと君達天狗が縁の下の力持ちってことさ。

地味だけど、一番大事なところだよ。

感謝している」

烏天狗からすてんぐが口を開けたまま固まってる。

「あれ、きっと感動に包まれてるにゃ」

「ふふふ。可愛いこと」

アヤメとタマモがニッコリと微笑む。

「は、ははぁっ。

我らのことを理解していただけるとは……感無量でございます」

「話は変わるけど、烏天狗からすてんぐはダイダラボッチの状態で姿形を変化へんげ出来る?」

「ワシならば容易きことなれど……何に変化へんげ致しますか?」

「鬼に。それで……」

烏天狗からすてんぐと簡単に打ち合わせる。


烏天狗からすてんぐ変化へんげが始まる。

胸が膨らみ、それにつられるように腰周りも巨大化していく。

続いて腿、脹ら脛、足先の順で大きくなって行く。

腕はその後だ。

こちらも足と同じように、身体に近い部分から巨大化していく。

最後は頭だ。

巨大化は止まったが、変化へんげはまだ続く。

角と牙がギリギリと生え、目も吊り上がり、手足に鋭い爪が伸びる。

筋骨隆々の巨大な赤鬼がそこに立っていた。

城壁よりも高い。

その巨大赤鬼が息を思いっきり吸い込む。

「者共よ、聞けぇ!」

巨大さに見合う雷のような大声が響き渡る。

「第3師団の者共は、直ちに城壁門前に集まれい!」

赤鬼の声はよく通る声だ。

反対側まで届いただろう。

一応、姿を隠したままの隠形鬼おんぎょうきチームを送って、様子を探ってもらう。

しばらくは、赤鬼にそのまま辺りを睥睨してもらう。


城壁に沿って、東西の両サイドから第3師団の残存部隊が現れる。

見れば、ゴブリンやオーク、ゴブリン、獣人、ヒトと他種族混合部隊のようだ。

ん?初めて見る種族がいるな。

トカゲが擬人化したような姿は、リザードマンかな?

「裏の城壁を確認致しました。

全てこちらに移動したようです」

隠形鬼おんぎょうきからの耳打ちが入った。


赤鬼を見上げ、合図を送る。

「ここにいたオーガ共は、我らが殲滅をした!

ここには一匹たりとも残っておらん」

残存部隊のざわめきが大きくなる。

「ダイクン王国の国民はそのままにしておる。

どうだ?

略奪し放題、凌辱し放題だぞ?」

赤鬼がニヤリと笑う。

烏天狗からすてんぐは演技派だ。彼にこんな才能があったなんて。

「略奪したい者、凌辱したい者はこちら側に来ると良い」

赤鬼が両腕を大きく広げて誘う。

「……逆に、それらをしたく無い者、戦いはもう御免だという者は、背を向け、城壁に手をつけ!」

グワッハッハッという笑い声までつける烏天狗からすてんぐの演技に舌を巻いた。


残存部隊が動き出す。

ほぼこちらに来るな。

中には「美人だ」「美女がいるぞ」という声も聞こえてくる。

アヤメとタマモにつられてきている者もいるようだ。

彼女達は一見にこやかな笑顔に見えるが、あれは男を見下した時のモノだ。

あの笑顔に近づく男はバカだ。

数千人の者がこちらに集まり、城壁に手を付いて背を向ける者は数える程度。

これが答えだね。


雲外鏡うんがいきょう

一言で、僕らだけ城壁に転移する。

烏天狗からすてんぐ、もう良いぞ」

烏天狗からすてんぐ変化へんげを解き、こちらに舞い降りる。


「アヤメ、おいで」

「あい」

アヤメを背後から軽く抱きしめ、囁く。

「酸素は覚えてるね」

「あい。

オーツーは21%、エヌツーは78%」

「そうそう。偉いね」

アヤメの頭を撫でる。

「じゃあ、アヤメの結界で彼らを包んで」

アヤメが前方に軽く手を翳す。

「全員包んだにゃ」

「結界の外側はO²だけ中に通して、内側はN²だけ外に通す。

僕も手伝う」


僕は風術でアヤメの結界に風を送り込む。

本当は、空気の構成割合にはこの他にも水蒸気や二酸化炭素、アルゴン等があるが、アヤメはまだこの術を取得したばかりなので、混乱させたくなくて、それらは除外して良いとした。


僕は純粋な酸素だけを送るイメージを風術に乗せて、結界に送り込む。

少ししただけで、目眩でふらつく者、頭を抱える者が出始めた。

「ぐああっ」「うぅおえっ」「ぐぶっ」

嘔吐も始まり、倒れる者も出始めた。

僕の風術が竜巻のように、アヤメの結界の周りを渦巻いて、結界内の酸素濃度が急激に上がる。

もう全員が倒れている。


「もう着火していいよ」

「にゃ」

タマモの鬼火に比べてしまうと可愛い炎が結界に飛び込む。

ドンッと凄まじい轟音が鳴り響き、結界内だけに激しい炎が僕の風術の向きに合わせて渦を巻く。

「わ、わたしの鬼火でもここまでは燃えない!」

タマモの口調が普通に戻ってしまうほど焦っているようだ。

結界内は猛焔に包まれ続けている。

そろそろ良いか。

風術を解除する。

結界内の炎がおさまっていく。

やがて自然に鎮火する。

結界内の酸素が燃え尽きたのだ。


「アヤメ、もう良いよ。

疲れたかい?」

「んーん。これ、頭使うけど妖力はあまり使わにゃいから大丈夫にゃ」

アヤメを一度キュッと抱きしめ、頭を撫でる。


そこに残っているのは、人の形をした炭でしかない。

草原の肥やしになるかもしれないので、一応転送しておく。

さて、残る問題は城壁に手をついてる残存部隊のさらに残りの者達だな。

しかし、少ないな。

何千人もいて、たった数人しか残らないなんて。

仕方ないか。

戦争は人を狂わせると言うし。

特にあのオーガ達の部下にさせられてたんなら、狂気に身を任せるしかないのかもな。

「彼らは戦争捕虜とする。

隠形鬼おんぎょうきチーム、連行しろ」

ステータスボードのインベントリからロープを取り出して、隠形鬼おんぎょうきチームに渡していく。

一度、草原にいる部隊と合流することにしよう。



余談

「な、な、何なのよ、アレは!」

タマモが普通の口調から戻らない。

(アヤメママ、カッコいい)

「にゃ、にゃ、にゃ」

アヤメは照れているらしい。

「アレがさっき言ってたヤツにゃ」

どや顔が残念と次郎に言われてから我慢しているが、頬がプルプルして余計に残念な顔になっていることに気づかないアヤメ。

「わたしの鬼火よりも火力が強いじゃない!」

「これが妖術と科学の融合にゃ」

次郎の言っていたセリフをそのまま言うアヤメ。

「これのメリットは威力に反して、たいした妖力を必要としない点にゃ。

でもデメリットもあるにゃ。

あたし一人じゃ、あそこまで威力が出ないのにゃ。

次郎様がそばにいにゃいといけないにゃ」

「本当に、わたしも次郎様から秘伝を授けてもらわないといけないわ!」

「でも、タマモ。

あんた、現代教育受けたことあるにゃ?」

「うっ……」

ガックリ肩を落とすタマモだった。



余談

焦げくさい臭いが辺りを充満しているが、すぐに風術の風でその臭いを吹き飛ばされていた。


これだ……。

これが現人神あらひとがみが恐れられる要因の一つでもある。

先ほどの多数のオーガへの二刀乱舞も見事だったが、それは力の一端に過ぎない。


元々絶大な力を持つ大妖の能力を押し上げ、妖力もさほど使わぬのに威力だけを向上させる。

あの大妖は妃候補のようなので、特別なのかもしれないが、それでもだ。

長年生きてきたが、こんなことは今まで一度も見たことないし、聞いたこともない。

今までは九尾狐が一番の強者と思っていた。

しかし、たった今、それが塗り替えられた。

いや、これから、まだまだ変化するかもしれない。

自分にもまだ強くなれる機会が来るのかもしれない。

そう思うと思わず、武者震いが起こる。


「あんたぁ。何難しい顔してんだい」

「いやぁ。これからどうなるのかと思うてなぁ」

「そんなの、これからも楽しく生きていけば良いに決まってるさぁ。

わたし達はわたし達なりにね」

「うむ。ワシもおまえと一緒にいられるのが一番じゃなぁ」

来ましたね! アヤメの必殺技。

最強の盾が矛も装備する。

すでに強かった大妖達が進化していく……。


戦闘シーンは終わりに近づいています。

ほのぼのシーンをお待ちの読者様、もう少しの辛抱ですよ♪

これからの「異世界~妖怪」をお楽しみに。

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