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第72話 救出作戦その4

王城へと足を向ける次郎。

そこはオーガの巣窟。

次郎と隠形鬼おんぎょうき達が乱舞する。

僕の担当では、残すは王城内のオーガのみ。

城壁外は雲外鏡うんがいきょうがうまくやることだろう。

少々転送が多くても、大妖達がなんとかしてくれる信頼感がある。

だから、こっちはこっちで全力で行く。


「王城内に突入するよ。

ここからは殲滅戦でいい」

「や、鈴木次郎様は最初っからそんな感じでしたがのぅ」

「いっさん、仕方ないじゃない。

危ないめに遭ってる人がいるんだもん。

それにいっさんだって、討伐したオーガは多いよ」

「や、あれは……仕方なく……」

「あんた達は主従で似た者同士だよ。全く」

周りからクスクスと笑う声だけが聞こえる。

「とにかく殲滅。

オーガの死体だけ転送するから」


仲間は優秀な隠形鬼おんぎょうきばかりなので、堂々と正門から王城内に進む。

「おおん? 何のようだぁ?」

正門にいたオーガは六体。

全員が僕しか見えていない。

「やあ、君達を迎えに来たよ。

地獄への道案内だけど」

納刀したまま、スタスタと歩み寄る。

オーガ達は僕に触れることなく、一人また一人と首無しとなっていく。

最後の一体も唐竹割りで真っ二つになりながら、崩れ落ちる。

最後のは一朗太いちろうただな。

一体も残してくれなかった。

少しくらいこっちに回してくれれば良いのに。

六体ものオーガが倒れたというのに、誰も気づいた様子が無い。

占領して気が弛んでいるな。

まあ、こっちにはありがたいが。

そのまま城内に入る。


「誰かいませんかー!

侵入者ですよー!」

面倒臭いので、こちらから呼び掛ける。

「あ~あ……やっぱり、こうなりましたか」

鈴蘭すずらんの声と共に、周りから隠形鬼おんぎょうき達のため息と圧し殺した笑いも聞こえた。


ようやく地響きと共に大勢のオーガが姿を現した。

「侵入者だと!?」「何者か」「なんだ?たった一人か?」「とにかく殺せば良いだろ!?」

来た来た。二十体、三十体……まだまだ増える。

さすがに小太刀を抜き放ち、左手で脇差を抜いて、二刀で構える。

刀は拳の延長として、格闘戦と捉える。


初手の縮地でオーガの喉を突く。

すぐさま抜きつつ、向かって左側のオーガには脇差の一振で首を飛ばす。

そのまま左回りにオーガを次々に切り伏せていく。

刀にこびりつく血や脂は風術と気術で吹き飛ばす。

敵の大振りの剣は見切ってしゃがみ込んで躱しつつ、その状態のまま刀に風術を乗せて切り飛ばす。

直線上にいたオーガの五、六体の足を切断した。

そこから軽く跳躍し、オーガの肩を踏み台代わりに駆けていくついでに目を切っていく。

端まで到達したら、壁を蹴って向きを変え、最後列の集団の首を刈る。

適宜に進む方向を変えて、フェイントも混ぜながら、一時も同じ場所にいないように細心の注意を払う。

刀が届かぬ位置にいる者には、風術に炸裂の気を混ぜて、オーガの顔を弾けさせる。

続けていくと感覚が研ぎ澄まされて行くのがわかる。

オーガ達の動きがスローモーションに感じる。

それだけでなく、このホールにいる者全ての動きがわかる。

今、一朗太いちろうたがオーガの背後から切り伏せたのがわかった。

その一朗太いちろうたの肩を踏み台にして、鈴蘭すずらんが別のオーガを唐竹割りしたのも感知出来た。

この感覚のまま、全てのオーガを切り伏せていく。

しばらくの後にキンッと納刀の音を響かせると、そこはオーガの死体だらけだった。


「やれやれ。

ワシらはとどめ役ばかりが仕事になっておるのぅ」

一朗太の声が正面から聞こえる。

「ウソつけ。

いっさんはピンピンしてるオーガを五体切り伏せてたじゃないか」

「ほぅ、見えておりましたか」

「わからいでか」

「数える気もありませぬが、いずれにしろ、百では済まぬ戦果ではありますな」

「戦果と言うには小さいがな。

ウチの大妖達なら欠伸しながら、この倍の死体の山を築くよ」

「それもまたしかり」

一朗太が頷いたような気がした。

「続けよう」

オーガの死体を転送し、さらに奥へと踏み入れる。



ーーーここから三人称ですーーー


(いかんなぁ。王城ここは凄惨な場面が多すぎる)

(鈴木次郎様の心が保たないわ)

鬼夫婦の以心伝心の会話通り、王城内では、オーガが好きに振る舞い過ぎていた。

今も、婦女暴行しながらその女性のはらわたを喰らっていたオーガの首を、次郎が撥ね飛ばしたところだ。

先ほどの厨房では、四肢を捥がれた子供の顔を眺めながら笑っていたオーガ五体の手足を切り捨てていた。

次郎は、このオーガ達に少し時間を費やし、一体一体の腹から内臓を取り出していた。

オーガ達が出血多量ですぐ死ぬことのないように、切断した手足の治癒まで行いながら。

その次郎の表情は、愉悦に満たされている訳でもなければ、憤怒の影も見当たらなかった。

ただただ、哀しげに泣きながら、凄惨な光景を広げていた。

その姿に隠形鬼おんぎょうきの誰も近寄れなかった。

鬼の本能で、触れてはならないモノであると認識しているからだ。


(鬼ならば、嫉妬に狂い、恨みに狂気をあてがい、このような行為も楽に行えように……現人神あらひとがみ故の苦しみか)

一朗太いちろうたは、己が鬼となったことになんの後悔もなかったが、鬼で良かったと思うとはついぞ考えたことがなかった。


「次に行くぞ」

溢れる涙を拭いもせず、次郎は足を進める。

現人神あらひとがみめいに遅れずについていく隠形鬼おんぎょうき達。

それでも、この神に信奉していることを自覚しながら。



(それにしても、あの王妃は惜しいことをした……)

占領したダイクン王国の玉座に座り、一際ひときわ体格が大きなオーガが想いに更ける。

周りには、蹂躙した女性の屍体が散らばっている。

クリムト帝国の帝都に報告に戻った第3師団長グラガの代わりに、留守を預かっている千人長のドウガだ。

ドウガが目をつけたダイクン王国の王妃は、グラガに取り上げられたのだ。

(あの胸、あの尻、あの身体つき……特に怯えたあの顔が堪らん!

オレが目をつけたというに、グラガのヤツ、人の獲物に手をつけよって)


クリムト帝国は実力主義である。

千人長にまでなったドウガよりも、師団長であるグラガの方が実力が上ということに他ならない。

ドウガはこれまでに、グラガに三度戦いを挑み、敗戦を喫していた。

ドウガは、自分と同じ体格をしたグラガに負けたことが悔しくて堪らないのだ。

逆にグラガは、何度も自分に挑戦してきておきながら、五体満足でいるドウガを気に入っているのだが。


「今に見ておれよ。

いつかグラガを叩き殺して、オレが師団長になってやる!」

「なんだ。

おまえは使い走りなのか。残念だ」

目に怒りの炎を溜めていたドウガの耳に、聞き覚えのない声が聞こえた。

「何奴だ!」

ドウガが玉座から立ち上がる。

いつの間にか、玉座の間に一人の男が立っていた。


「ずいぶんとまあ、食い散らかして……。

育ちが悪い証拠だ」

その男は表情を変えず、玉座に歩み寄ってくる。

「こ、このぉ……ふん!」

ドウガは気合いと共に男に飛び掛かる。

ドガッと鈍い音が響き、ドウガは腹に蹴りを受けていた。

その蹴りで、勢い良く飛び出した己の身体が後退させられたのに驚くドウガ。

キレイなサイドキックを受けたのだが、本人には見えなかったようだ。


「個の戦いで、飛翔術も無しで飛び上がるとは、愚の骨頂。

頭悪いのか?」

「うおおぉっ!」

ドウガは両腕を振り回し、なんとか男を掴もうとするが、右へ左へ前へ後ろへと一瞬たりとも同じ場所にいることのないその男に振り回されっぱなしだ。

「ああ、今までパワープレイだけで来たんだな。

憐れなヤツ」

振り回していた腕を捕られ、ふわりと身体が浮く感覚になるドウガ。

続いて脳天から地面に叩きつけられた衝撃に呻くが、身体が地面に到着する前に顔面を踏み抜かれていた。

「ぶふぉあ!」

ドウガは、牙が折れ、鼻骨をひしゃげられていた。

男はそれだけにとどまらず、顔面に正拳突きを喰らわす。

ドウガの片目が衝撃で飛び出す。

男は構わず、正拳突きを続ける。

ドウガはもうこれ以上喰らいたくないと両手で顔を覆うが、男はその手の甲ごと叩きつける。

ドウガの手の甲の骨が折れ続ける最中、ドウガはなんとか身体をゴロゴロと回転させながら、避難に成功する。

なんとか立ち上がったドウガの姿は悲惨なもの。

手の甲はひしゃげ、片目が飛び出し、鼻骨も中央部が凹んでいる。

牙を含めた上顎の前歯が全滅している。


「ぎ、ぎざま……ごんなごとして、ただでむとおぼうな」

「この程度では、まだ元気だよな」

男がそう言ったと思った時には、ドウガの目の前から消えていた。

「この辺か」

今度は背後から聞こえる。

ドウガが振り向くより前に、ボクンッという音が身体の中から聞こえ、ドウガは正座のような、女の子座りをしていた。

ドウガは腰に手をあてがわれた感覚は残っているが、今は下半身全体に力が入らないことに驚きを隠せない。

(なんだ?なんなんだ、こいつは!?

何がどうなっている?)

「いっさん、こいつの両肩を抜けるかい?」

すると、ドウガと変わらぬ体格の鬼が目の前に唐突に現れる。

「お、おまえ。ご、ごいづを殺せ!」

「おやぁ。

オーガと鬼の見分けがつかんらしいなぁ」

「失礼なヤツだな。

鬼はオーガと同じく角も牙もあるが、貴様らのように濁っても腐ってもいないぞ。

知性もあり、所作も美しく、そもそも品格が違う!」

それまで至極冷静だった男が一転、捲し立てるように持論を展開する。

「まあ、そこまで褒められると悪い気はせんけどぉ……こいつの肩を抜くんでしたっけ?

脱臼で良いのなら……」

大柄な鬼がドウガの首もとと腕を捻って、ボクンッボクンッと鈍い音が響く。

「ギャあああ!」

「脱臼はいてえからなぁ」

「よし。

まず、貴様の所属は?」

「…………」

「あ~、やめとけ。

下手な抵抗すると、このお方が……」

「ギャアアア!」

男は、どこから取り出したのか、長い針をドウガの人差し指に刺してグリグリと押し込んでいた。

「ほら、言わんこっちゃない」

肩を竦める鬼。

「貴様の所属だ」

「……ク、クリムト帝国、第3師団、千人長のドウガだ」

「グラガとは?」

「その第3師団長だ」

「そいつが王妃を連れていった?」

「そうだ……だが、もう生きてはいまい。

女はオレ達の手に掛かると、もって一月が良いところだ」

「軍の構成は?」

「第1師団から第6師団まである」

ドウガは素直に細かく話す。

「大樹の森に入ったのは?」

「偵察部隊の第6師団のはずだ。

あそこは遠いから、まだ帰っていない」

男はそれだけ聞くと立ち上がる。


鬼がドウガの肩をポンポンと軽く叩く。

「良かったな。

おまえさんが素直に喋ってくれたから、これであのお方からは許されたようだぞ」

ドウガがホッと息を吐く。

鈴蘭すずらん、切れ」

ドウガの首が宙を舞う。

「ワシは許さんがな」

鬼は怒りの目で床に転がるドウガの首を見つめる。


「あ、忘れてた」

出口に向かっていた足をUターンさせる男。

急いでドウガの首と胴体を草原へ転送する。

「最後は締まらんなぁ」

「そこがあのお方の良いところじゃない」

「違いない」

二人だけでなく、数人の笑い声が玉座の間に響き渡っていた。




この闘いに次郎の性格が詰まっています。

最強を目指さない主人公を描きたかったんですが、思いの外、強くなっていますね。

でも、次郎本人は強さを求めていません。

仲間の安全が最優先で、みんなと楽しく暮らせるのが彼の目指す目標です。

そんな次郎を今後も宜しくお願い致します。

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