第71話 救出作戦その3
雲外鏡の転移により、首都外に居るオーガ共を数的有利のまま、討伐して行く大樹の森の軍。
雲外鏡も敵に囲まれながら、必死の転移を繰り返す……。
ーーーここから三人称ですーーー
「こ、これは……」
偵察中の一朗太に助けられ、次郎に治療を施された男、ヤクト・ダイクンが思わず呻き声を漏らす。
「あのオーガ達がいとも簡単に……」
「これが大樹の森の軍隊の力です」
ダリル近衛隊長が言葉を据える。
ヤクトは名前からわかる通り、王族の一員である。
アルメリア姫の従兄弟にあたる。
「スズキ様はいずこだ?」
「盟主様は、魔道具の鏡と共に首都に潜入し、これらのオーガ共をこちらに送っておいでです。
危険を省みず」
「なんということだ。
命の恩人が夢の国の王であるばかりか、生命を賭して我らの国民を救い出そうと言うのか!?」
「左様でございます。
返しきれぬ恩ばかり募ります」
「私も行くぞ。
助けにならねば、末代までの恥となってしまう」
「お止めくだされ。
我らの出番はもう少し後でございますれば」
重傷だったヤクトは病院に入院しており、作戦内容を知らぬまま、ここにいた。
「ヤクトお兄様。
もう少し、もう少し我慢してくださいませ」
アルメリアもヤクトを押し止める。
「しかし、アル……あまりにも……あまりにも我が力の無さが情けなく、我が身を呪うぞ。
私はスズキ様に顔向けが出来ない」
「私も同じ思いです。
私は我が身を盟主様に捧げるつもりです。
それでも足りない分は、ヤクトお兄様にもその身と心を盟主様に捧げて欲しいのです」
「アル……いや、アルメリア姫よ。
それはご命令でしょうか?」
ヤクトは居ずまいを正し、アルメリア姫に正対する。
「そうです。
あなたも王族。
私の命に従いなさい」
アルメリア姫がまっすぐヤクトを見つめる。
ヤクトはフッと笑い、アルメリア姫に臣下の礼を取る。
「このヤクト・ダイクン。
ご命令通り、スズキ・ジロー様に心身共に捧げることを誓います」
「姫様。わ、私も盟主様に捧げます!」
侍女のエミリアも前のめりに発言する。
「エミリア。
あなたは王族ではありません。
その必要はないのですよ」
「い、いえ。
姫様が捧げるなら、私もそばにいなくてはなりません」
「姫様」「姫様っ」「姫様、我らも!」
「姫様。
母国が亡国となり、我ら近衛隊も忠誠の捧げ先を見失いつつあります。
我らも盟主様に忠誠を捧げたく、どうかお許しを」
ダリル近衛隊長が皆を代表して上奏する。
「私も先日偵察任務に同行させていただき、盟主様の為人をそばで拝見致しましたが、ダイクン王に劣らぬ方とお見受け致しました。
我が身を捧げたく」
謹慎の解けたマウアー副隊長も熱烈に進言する。
「まあ。
あなた達もスズキ・ジロー様に惚れ込んだのね。
うふふ。これでは止めようがありません。
私達全員でスズキ・ジロー様に忠誠を捧げましょう」
アルメリアがニッコリと笑いながら、宣言する。
こちらは草原の南端。
すでにオーガが10体ごと転送されて来るようになってきた。
中には一度に50体ほど転送されて来るのもあった。
「雲外鏡の小心者め。
恐れて大量に送り出してきおったでありんす」
「ワ、ワシじゃって必死なんじゃぞ!」
文句を言うタマモの前に、雲外鏡が転移してきた。
「小者が何を言う」
「やーい、小者、小者にゃ」
「くっ。小娘が!」
「大量に送るんなら、せめてあちき達の前にしなしゃんせ。
本当に使えない古鏡ね」
「こ、このぉ……言うたな!
おぬしらの真ん前に送ってみせるでな!」
言ったそばから、雲外鏡が消え、再び現れる。
100体は優に超えるオーガを引き連れて。
「そうそう。これぐらいいないと楽しめないでありんす」
タマモの笑みに一層の妖艶さが増す。
しかし、ヒルコが触手をいくつも伸ばし、空中で網状に変化させ、オーガ達を捕らえていく。
「にゃ、ヒーちゃん!?」
「あ、ヒーちゃん、少しは残して!」
(ダメ~。もうボクの分♪)
ヒルコの触手の網は、タマモに抱えられている本体以上の容積で展開され、捕らえた100体以上のオーガを急速に溶解していく。
「あ、あ、あ……ヒーちゃんに全部持っていかれちゃったじゃない。
雲外鏡。
おかわりを早くおし!」
雲外鏡を叱責するタマモ。
(な、なんということじゃ。
戦況が圧倒しとるとはいえ、皆が苦労するオーガがこうも脆く……。
いや、基準をこやつらに置いてはいかん。
ワシが鈴木様に叱られてしまうわ)
「ほれ、早く!」
「トホホ……ワシ、お使い鏡じゃないんじゃがのう」
それでも、律儀に先ほどと同数くらいのオーガを再度転送する雲外鏡。
これもタマモの鬼火が瞬く間に焼き尽くしていく。
「ほれほれ、次のおかわりにゃ」
「おぬしまで……知らんぞ」
そう言いながらも消えいく雲外鏡。
「あら、あなたに対多数の術式はあったかしら?」
タマモが首を捻る。
「フッフッフッ。
何を隠そう、次郎様に秘伝を教えてもらったにゃ」
「秘伝?」
「まあ、黙って見ていれば良いにゃ」
雲外鏡がまたも大量のオーガを転送させてきた。
「来た来た。
まずは結界に閉じ込めるにゃ。
なにをも通さぬ結界を。
そして……」
アヤメが火術を結界内に展開する。
「あなたの火術程度では燃やし尽くせないのでは?」
「あとは、イメージ……イメージにゃ。
しーおーが増えるイメージ……CO、COにゃ」
「しーおー?」
タマモが不思議に思っていると、突然オーガ達がバタバタと倒れていく。
「え!?」
タマモが不思議に見ている最中、次々倒れ伏していくオーガ。
まだ立っているオーガも大きくふらついている。
中には嘔吐に苦しむ者も。
やがて、オーガ全員が倒れ伏す。
「これの面倒にゃのは、イチイチとどめを刺さなきゃいけにゃい点にゃ。
ヒーちゃん、アレ溶かして」
ヒルコはアヤメの言うままに、触手を伸ばして、倒れたオーガ達を溶かしていく。
「なに?なんなの?」
タマモが混乱している。
「空気って、窒素がえーと、78%で、酸素が21%にゃの。
で、しーおーがホンのちょびっとしかにゃいにゃ。
これがわずか0.02%以上になると、ああなるにゃ」
「???」
ますます混乱するタマモ。
「ま、これでも高校の授業をちゃんと受けてたにゃ」
実際は、忘れていた化学を次郎に再度叩き込まれ、覚え直したのだが。
その際、次郎に頭を五度叩かれていたことは黙っているアヤメ。
「次郎様も恐ろしいことを教えるでありんすね」
「にゃ。ホントはもっと強力なのがあるけど、次郎様の許可無しには使っちゃダメなヤツにゃ。
それならとどめもいらないにゃ」
ゾッとするタマモ。
今のが自分に向けられても、なんとかなりそうと思うが、次郎の許可が必要な術は自分でも危ういと本能が訴えてきた。
「あちきにも秘伝とやらを教えて欲しいでありんす」
「タマモは鬼火があるじゃにゃいか。
贅沢言わにゃいの」
(こやつら、これ以上強くなってどうするんじゃ)
妖としてのやるせなさを振り切って、次の転移に跳ぶ雲外鏡だった。
アヤメの秘術は後にも解説されます。
妖軍団の最強の盾が矛を持ち始めた?
最強の矛であるタマモを脅かす?
次回以降もお楽しみください。




