第70話 救出作戦その2
数的不利を有利に覆す。
その策は次郎と雲外鏡の采配次第。
お楽しみください。
ーーー雲外鏡の視点ですーーー
「雲外鏡様。
鈴木次郎様が王城に辿り着いたようです」
なんと! 鈴木様はもう王城まで。
転移能力に目覚めたばかりと云うに。
「そのまま南下して、こちらに合流されるおつもりのようです」
「あいわかった。ワシらも急がねばならんの」
通りを見渡し、そこにオーガがおれば転移させるが、屋内におる者達はまず探さねばならんので、少々厄介じゃ。
ほれ、今も一階に一匹おったと思ったら、二階にもおるではないか。
まあ、それでも、潜んでいる訳でもないから、探しやすいのが幸いじゃな。
オーガはたいてい荒らしておるか、暴れておるからの。
むっ。二階には五体もおるのか。
こ、こやつら、まだ幼き子供を喰らっておるのか!
疾く去ね!
五体のオーガと共に、戦場に跳ぶ。
ここで往生を知るが良い。
オーガを残して直ぐ様戻る。
オーガ達は転移させたが、幼児の亡骸が残った。
なんと酷いことを。
久方ぶりに頭に来たわ。
「隠形鬼。すまぬがこの子を弔ってやってくれんかの」
「わかりました。
こんな現場を我らが神にお見せする訳にはいきません」
「あの方は烈火の如く、お怒りになるじゃろうな」
「間違いなく。
聞いた話では、遠見の術で500kmもの先の豚の魔物共が、人をなぶり殺しにしているのをご覧になって、その場にいた大妖達全員を弾き飛ばし、救出しようとされたとか」
「ご、500km……」
「その場はなんとか取り押さえたものの、前鬼様が身体中にアザを作り、後鬼様も血の涙を流されたと」
「げに恐ろしきは現人神の怒りよ。
して、その豚共は……」
「大妖達と共に殲滅された由にございます。
ただし、その豚共はすぐには殺されず、苦しみ抜いたのを確認してから始末されたらしいです」
「さすがは、妖の王よの」
「「「しかり」」」
いつまでも、こうしてはおれんの。
次へ参ろうか。
複数のオーガがおった時に、何度か危ない目にあったが、全て隠形鬼達が排除してくれた。
やはり、この隠形鬼チームなるもの、優秀な集団よの。
隠れ潜むばかりでなく、オーガの首を一閃出来る程の剛の者達でもあったのだ。
オーガは生き死に関係なく、草原に転移させといた。
くっくっくっ。向こうの皆は驚くかもしれんのぉ。
首無しオーガも転移させとるからの。
しかし、オーガと共に転移しても、ちっとも驚く様子が無いが、はて?
「雲外鏡、無事か?」
おお、鈴木様と合流叶った。
「なんとか。
隠形鬼達もよく働いてくれましたわい」
「うん。みんなもご苦労様」
姿は見えぬが、誇らしげに整列しとる隠形鬼達がおるに違いない。
「さて、これで城下町はだいたい処理出来たはずだ」
鈴木様がワシに振り向く。
「雲外鏡、これからが本番だ。
城壁外のオーガは、いくら固まっていようが、一度に大量に跳ばすなよ」
「心得ましてございます」
「頼む。
おまえの采配で勝敗が決まるぞ」
「戦況を鑑みて行動せよ、とのことですな。
お任せくだされ。
必ず勝利を鈴木様にお届け致しまする」
「うん。任せた」
そう言うと、鈴木様は王城へ足を向けられた。
ワシも今までになく奮えておるわ。
これが武者震いというものか。
ーーーここから三人称ですーーー
草原の南端。
最初の転移が為された。
大樹の森の軍に緊張が走るが、転移されたのは首の無いオーガばかり。
「むっ。死体か?」
「あの子ったら、もう」
前鬼と後鬼は、緊張することなく、オーガの死体を検分している。
次の転移も首無しオーガだった。
そしてその次も同じ状態で送られてきた。
「なんだぁ?
オーガの死体ばっかかよ」
ハヤテの声がやや落胆したように響く。
「だ、旦那様。
わ、我らの神がお怒りになっています」
ハヤテの妻、橋姫が震える声で言う。
「ん? ジロー様がか?」
「はい。
オーガの首元、切り口に憤怒の気がこびりついております」
「かあぁ~。オーガ共もバカか!?
この世で一番怒らしちゃいけねえお人に火をつけやがって」
とばっちり食らいたくねえぞ、と嘆くハヤテ。
「ジロー様がお怒りに……」
ナターシャは弓を握りしめる。
「オーガが向こうで酷いことでもしてたんでしょ。
気にしたらダメよ」
「私はオーガを殲滅するのみ」
弁天の宣いにユキが冷静に返す。
「キュオ」
それが正解だと言いたげなキキも頷いている。
「でもぉ、いつまで続くんでしょう?
この死体の山は……」
エリシャンテが呟いた瞬間、三体の生存しているオーガが転送されてきた。
ナターシャの矢がオーガ三体の額に同時に突き刺さり、その内一体がマフティの地中からの土槍で突き上げられ、一体がマーリンの蹴りで10mほど跳ばされたと思えば、背後から河童が槍で胸を一突き。
そのまま踠くオーガに風魔法が切り裂いていく。
残る一体の全身が水球に包まれた次の瞬間に氷漬けされていた。
その氷ごと鬼が大刀で叩き割る。
あっという間の出来事だ。
「旦那様、このままでは出遅れてしまいます」
「大丈夫だ。
ジロー様は根っからのイタズラ好きでよぉ……ホラよっ!」
ハヤテが振り向き様に、自分の背丈と変わらぬ剛剣を大上段で振り抜く。
ゴンッと鳴り響くそこには、頭蓋骨を凹ませているオーガがふらついていた。
橋姫の目が妖しく光ると、そのオーガの全身が燃え上がり、そこにハヤテの胴切りが決まり、上下に解れたオーガの身体が転がった。
「ほらな。
ジロー様なら絶対やると思ったよ」
ハヤテがニカッと笑う。
「その言いよう。
少し焼けますわ」
橋姫も笑い返す。
「もう、二人でアッチッチして~。
見せつけるんじゃにゃいわよ」
「単にうらやましいんでしょ?
あちき達はいつも通りに振る舞えば良いでありんす。
堂々としているべきよ」
「そうにゃんだけどさ~。
あたしも次郎様のそばが良かったにゃ」
「この戦の後でたっぷり甘えましょう。
それに、次郎様をお慰めしないとでありんす」
「そうだったにゃ。
今の次郎様はお怒りモードにゃ。
終わったら甘えて……あれ? そんな時にあたし達が甘えても良いのかにゃ?」
「それがお慰めになるわよ」
「タマモがそう言うにゃら、そうにゃんだね!」
アヤメ、タマモ、ヒルコの最強チームはまだ控えに回っていた。
大妖達はまだ動かない。
いずれ来るであろうその時まで。
次郎とハヤテは、本人達は認めませんが、男の友情で結ばれています。
『ハヤテならこうするだろう』『ジロー様はきっとこうやる』と以心伝心の如くわかり合っています。
橋姫がヤキモチ焼くのも無理ありませんね(笑)。
しばらく戦闘シーンが続きます。
お付き合いくださいませ。




