第69話 救出作戦
救出作戦が始まった。
大樹の森の軍は勝てるのか!?
お楽しみください。
救出作戦会議から一週間後。
僕達は、草原の南端に部隊を揃えた。
敵はダイクン王国の首都に駐留するオーガ千五百体とその部下三千体。
対するこちらは、住民の半数以上の約三百人。
残る二百人は大樹の拠点の防衛に残ってもらった。
実は、住民全員が参戦希望したが、「みんなの生活を守る為にも拠点の防衛は大事」と説得し、納得してもらった経緯がある。
ただし、ドラド族の全員参加は認めた。オーガに恨みを抱えてるからね。
それに、八岐大蛇がフォローすると言うので許可した。
また、敵を転移させる順番も決めてある。
まずは、首都内にいるオーガから始める。
雲外鏡と二手に別れて半数近くを転移させれば、雲外鏡が城壁外のオーガを転移させに行く。
もちろん、隠形鬼チームが僕らの護衛に張り付く。
そして、オーガの部下達は最後。
奴隷として強制的に従わざるを得ない者達の可能性があるからだ。
部隊には、草原に転移してきた者は全て敵であると伝えてある。
僕と雲外鏡は、彼我戦力差がつきすぎて、圧倒されないように気をつけなければならない。
オーガはとかく強いのだ。
先日のコボルト戦でも、一体のオーガに対し、こちらは7~8人で戦っても多くの者が負傷し、手足を捥がれた者までいる。
鎌鼬と回復スライムの医療チームの奔走で、死者が出なかったことは幸いだったが。
「やっぱり、あたしも護衛についた方が良くにゃい?」
「そうですよ。
こんな娘でも、この娘の結界を破れる者などおりんせん」
「ん? 褒められてるのか貶されてるのかわかんにゃいにゃ」
「褒めてるのよ。
とにかく、オーガの群れの中に飛び込む次郎様が心配で心配でたまらないでありんす」
タマモが僕の手を握りながら言ってくる。
「ワシも飛び込むんじゃがのう」
「あんたは逃げるのが得意じゃない」
タマモが雲外鏡を睨む。
「ひょっ!」
(あの妲己が……いや、今は玉藻か……タマモが乙女になっておる)
「大丈夫だよ。
必ず君達のもとに帰ってくるから。
それに護衛なら、頼もしい隠形鬼チームがいるからね」
「鈴木次郎様は、必ずお守り致す」
一朗太の言葉に隠形鬼チームも頷く。
アヤメとタマモを安心させる為に身体強化を施す。
「ほら。これなら安心出来るかな?」
22歳当時の感覚が全身に巡ってくる。
今回はうまくいったようだ。
アヤメが抱きついてくる。
「心配なのは変わらないにゃ!
絶対に、絶~対に帰って来てにゃ」
「わかった。約束する」
ひとしきり二人を抱きしめ返し、離れる。
「前鬼、後鬼。
あとはよろしく頼む」
「はっ! あとのことは我らにお任せください」
「次郎。気をつけてね」
二人に頷く。
振り向いて、本来のサイズの八岐大蛇の頭に飛び乗る。
「みんな、これからオーガ戦が始まる。
ここに転移してきた者は全て敵だ。
どのような姿をしていても必ず殲滅せよ」
「「「おおーっ!」」」
「オーガは強い。
だが、我々はもっと強い。
強者は命を大事にするものだ。
自分の命を、隣にいる者の命を大事にしろ。
合言葉は「命を大事に」だ!」
ここで一度皆を見渡す。
「合言葉は……」
「「「命を大事に!」」」
満足して、八岐大蛇から飛び降りる。
「八岐大蛇、ありがとうね」
「なんの。自分の頭は次郎殿の指定席ゆえに」
八岐大蛇が朗らかに笑う。
「では、行ってきます」
「「「行ってらっしゃい」」」
みんなの声が聞こえたと思ったら、もう転移してた。
雲外鏡もすごいところに転移させたな。
王城の屋根の上じゃん。
「ほっほっほ。
見晴らしが良かろうと思いましてな」
確かに。
首都が一望出来る。
「では、打ち合わせ通り、北は僕が、南を雲外鏡に任せる」
二手に別れて跳ぶ。
僕は首都の最北端に転移した。
護衛の隠形鬼チームの6人と一緒だ。
一朗太と鈴蘭もこちらにいる。
城壁外も受け持つ雲外鏡の方につけ、と言ったのに、「それではワシらが大妖達に殺されかねん」と必死に懇願された。
仕方なく同行を許可した。
その隠形鬼チームはすでに気配を消している。
「右手50メートル先の角を曲がったところにオーガ三体おります」
鈴蘭がそっと耳打ちしてくる。
黙って頷き、そちらへ向かう。
角を曲がると確かにオーガが三体いた。
婦女暴行の真っ最中だ。
見た瞬間、縮地を発動させ、女性に股がったオーガの首を落とす。
返す刀で右のオーガの胸を割き、振り向き様に左のオーガの心臓に突きを入れた。
さらに一応二体のオーガも首を切り落としておいた。
「鈴蘭。女性の面倒を」
「は、はい! ただいま!」
鈴蘭が慌てて駆け寄る。
「鈴木次郎様、転移させるはずではなかったかいのぅ?」
一朗太の声だけが聞こえた。
「あ、すまん。つい……」
「落ち着いてくだされよぉ。
あんたは大事な人じゃからなぁ」
一朗太の間延びする声に落ち着きを取り戻す。
「鈴木次郎様。女性はもう亡くなっていました」
「そうか……。鈴蘭もすまない」
「いえ、気を取り直して次に参りましょう」
一応隠す意味もあって、オーガの死体を転移させる。
亡くなった女性に手を合わせ、次に向かう。
隠形鬼の案内で次々とオーガ達を転移させる。
僕の転移……アスポートも雲外鏡と同じく触れることなく、発動出来る。
認識すれば発動出来るのだ。
オーガ達は、たまに独りで屋内を荒らしている者もいたが、たいていは三~五体がたむろっていたので、最大三体までを転移させていった。
果たしてオーガが連携を取るのかわからないが、転移先のウチの部隊のリスクを極力減らす為だ。
順調に北側のオーガ達を減らし、王城に辿り着いた。
辺りを探るが、雲外鏡は見当たらない。
隠形鬼チームによると、雲外鏡の方はまだ半分くらいの地点らしい。
これはある程度仕方がないことだ。
オーガ達と共に自分達まで転移させているからな。
このまま王城を南下していくことにする。
どうせ、王城内はオーガで溢れかえっているに違いない。
そこは最後に回すとしよう。
余談
(あんた、今の見えたかい?)
(見えるもんかい。
鈴木次郎様の本気の一撃だでな。
二撃目も三撃目も見えなんだ。
辛うじて、最後の首を跳ねるところが見えただけじゃ)
(あたしはそれすら見えんかった。
本来の姿の現人神ってすごいのね)
(ほんにおっとろしいもんだなぁ)
次郎の現人神たる力量を目の当たりにする隠形鬼達。
あの強敵のはずのオーガが次々と討伐されていく。
驚愕すると同時に憧憬の念も沸き上がる。
さすがは我らの神、と。
次回以降も戦闘シーンが続きます。
ご期待ください。




